また君と、今度はずっと   作:スターク(元:はぎほぎ)

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【Ep.82】答案!

『ふんだ!ぼくが先に生まれてたら、ぼくが“兄さま”だったのにー!』

 

忘れるものか。忘れられるものか。

生産牧場、俺達の故郷を。ほんの数分違いで共に生まれた、お前との日々を。

 

あの頃の俺は、何一つ分かっちゃいなかった。前世すら曖昧で、薄ら「昔人間だったっけな」程度。大まかな知識だけで、知識の種類的に結構歳行ってから死んだかなぐらいで、でもそれ以上は殆ど何も分かってなかった。

それ故に幸せだった。何も考えずに、馬として日々を謳歌出来た。

母さんと触れ合い、お前と戯れる毎日が楽しくて仕方がなかった。離乳だって、母さんとの別れだってなんとかなった。

お前が一緒だったから、頑張れたんだ。

遠く離れても、お前も頑張ってるって信じられたからなんだ。

なあ、ライス。

 

そう、信じてた。

信じて、頼り切ってた。だから目を逸らして、見ないフリをした。迫るXデーから逃避し続けた。

ずっとこんな日々が続くと、恐怖を無視して信じ込んだ。

 

そうして、何も出来ないまま。

俺は総てを喪った。

 

 

だからだろう。

あの日、お前と出会ったのは運命だったんだ。

()()()()()お前。間に合わなかった俺。

()()()()お前。気付けなかった俺。

まだ選択の余地あるタイミングで。道を選べるタイミングで、俺という悪例をお前に見せる為に。

 

お前に俺と同じ道を進ませない為に、俺はきっとここまで生きてきたんだ。

 

 

 


 

 

『久しぶりだな』

 

湯煙の向こうに立つ影には見覚えがあった。(もや)越しに響く声には聞き覚えがあった。

 

『あー……いつぞやの、えぇと』

『ラストアンサーだ。名乗るのは今回が初めてだな』

『それはどーも。また温泉で会うなんて奇遇ですね』

 

嘶きを交わしながら、隣の浴槽にジャプジャプと入ってくるラストアンサー先輩。確かブルボン世代だった筈なのに、その足運びからは全く老いを感じさせない。

 

『そんな事は無い。寄る年並みには抗えないからこそ、こうやって温泉に頻繁に来て癒す他無いんだ。あちこちガタが来てるんでな』

『さりげなく心読まないで下さいよ……』

『相手の考えてる事の概要くらい、雰囲気でなんとなく読めるさ』

 

それを皮切りに、湯気の中で暫し、会話が止まる。ポタポタと汗が、顎を伝って湯船に消える。

再び口を開いたのは、先輩の方から。

 

『窶れたな』

『……いやぁ、減量って大変で』

『目の窪みは。声のしゃがれは。誤魔化せると思うものじゃない、こっちが何年生きてきたと思ってるんだ』

 

何年かって、そりゃ先輩はブルボン世代だから……えっと、えっと。

 

『1989年ぐらいの生まれで……9年っすね。成る程、そう考えると確かn』

『40年以上だ』

『i簡単に隠せるものでも……んん?』

 

いやいやいや、待って下さいよ。そりゃおかしいでしょ、年代が合わない。

だって40年前って正直戦後とかに片足突っ込んでね?流石にその辺の競馬事情なんか把握してないし、下手したらマルゼンおばさんより年上に……

 

 

 

 

 

いや。

可能性なら、一つだけ。

 

「そうか、そういう事だったのか」

 

初めて会った時の事。

なんで先輩は、馬が知る筈のない西暦を言い当てたのか。

人間しか知らない筈のCMフレーズを合わせてきたのか。

たった二つの、確証と呼ぶにはおぼつかない状況証拠でも、生年以上の年齢自称もこれなら説明がつく。

()()()()だと、そう宣うのなら。

 

『ラスト先輩、まさか』

『……お前の想像通り、だろうな』

 

やっぱり、そうなんだ。

惜しいな。やっぱりハイテンションなんて碌でも無い、こんな重大な事をずっと見落としてたんだから。

 

『転生したんですね。人間から、馬に』

『お互いにな。()()()()()()黄金世代』

 

決まりだ。“クロスクロウ”のいない世界、正史の時空から彼は来た。俺と同じ所から、俺よりも早く。

 

『灯台下暗し……たぁ、よく言ったモンですな』

『お前の方は分かり易かったがな。レース名を詳細に把握してて、ブルボンをサイボーグと呼んだ時点でもうこっちは察したよ』

『お恥ずかしい限りで』

 

あーあーあー、当時の……いや現在進行形の自分の無防備さが刺さる。こんなんで他の馬に兄貴ヅラしてたとかマ?死んだ方がええんとちゃう?カス野郎がほんま……

 

(……あっ)

 

マジか。いや、これに関しては言わない方が良い。俺としても会いたくない()()させたくない、

聞いてしまったら、それが俺の中で事実になってしまう。信じたくない、それは嫌だ。せめて俺とは関わりの無い事ぐらい、気に病まさせないでくれ。

──と思いながらも、聞き出したいという思いを否定できなかった。あの事件もまた人間の業で、元人間である俺と無関係な話じゃないから。だが、それでラスト先輩の古傷を抉るのも本意じゃないし……

 

『聞きたいか?』

『!!』

『良いぞ。俺は構わない』

 

バカ。俺のバカ。バカ馬。

もたついてる間に察せられた。優柔不断がまた事態を転がした、こうなったらもう聞くしか無い。実質的に促されてしまった以上は。

 

『ライスシャワーは、もう』

『ダメだったよ』

 

………やはり、か。

前に会った時、先輩がライスシャワーの名前を出された瞬間に押し黙ったのも。あの時のセリフも、そういう事なら頷ける。

 

『“後悔を残すような選択はするな”。覚えてるか』

『今思い出しましたよ。そういう事だったんですね』

 

きっと、彼は救えなかったんだ。目の前で逝かれたんだ。

彼にとって、ライスシャワーがどんな存在だったかは知らない。でもその瞳の──慈しみ、嘆き、想う色から、察する事はできた。その光景を目撃した彼の、痛みも。

だからこそ彼は、俺に後悔を残すなと。ああ、くそっ。

 

『すみません。やらかしました』

 

後悔ばかりだ。あの言葉を、俺は無意味にした。

 

『フレアを、オースミキャンディを、みすみす死なせました……っ』

 

視界がぼやける。泣くな。その資格は俺には無い。これは湯気だ、汗だ。そうに決まってる、そうでなければならない。

 

『バカみてぇに忘れて、目を逸らして!見殺しにしました!!』

『お前……』

 

怒って欲しい。詰って欲しい。改めて口にしたら、湧き出た罪悪感でどうにかなっちまいそうだ。

頼む、頼む、頼む……!

 

 

()()()()()()()()?』

 

 

違った。

先輩の口から出てきた言葉は、そうじゃなかった。

 

『いやお前……“忘れた”と“目を逸らした”じゃまるで話が違うだろう。かたや過失、かたや未必の故意だぞ』

『結果が同じなら、変わらないでしょう!?』

『ぬかせ。だとしたら、俺はどうなる』

『……え』

 

俺は、って、どういう事?そう問うまでもなく彼自身が告げる。

 

『忘れて死なせた()()のお前に罪があるというのなら、そんなに悔やんでるのなら……分かっててまんまと死なせた俺は、どうなるっていうんだ』

『それは──』

『お前の理論だと、俺は死すら生ぬるい罪人じゃないのか?』

 

……いや、いやいやいや!それは違うでしょ、流石に!

 

『死なせたくて死なせたわけじゃないだろ、アンタ!』

『それはお前もだ』

『違う!俺は出来損ないだッ!!!』

『なら何故()()()()()()!?』

 

一喝。それを食らった瞬間、息が止まった。

そうだよ。なんで出来損ないなら、自分を無価値だと思ったなら──どうして俺はもっと早く、自死という手段を選ばなかった?

 

『絶望し切れてないんだ、お前は』

 

先輩は言う。見透かしたように、実際見透かして言伝てる。

 

『言ってみろ。お前は何故息をする。そんなに自分が嫌いなのに、どうして未だ鼓動を続ける。なんでだ?』

『俺…は………』

 

何故か。何故死なないのか、何故希望を抱くのか。何をまだ望んでるのか。

俺は。俺は。

 

 

 

『──認めて欲しい』

 

 

その言葉は、驚く程すんなりと出てきた。

 

 

『ここにいても良いって、認めて欲しい』

 

 

居場所が無かった。どこにいても不安で、息苦しくて、怖くて。

迫る夕焼けが、暗がりが、恐ろしくて仕方なくて。

 

 

『生きてても良いって、言って欲しい…っ』

 

 

誰かに許して欲しい。

 

許されるだけの“価値”が欲しい。

 

その為に、俺は、色んな物を犠牲にしてまで。

 

『死にたくないよぉっ……!!』

 

 

これまで、走ってきたんだ。

 

最後にはもう、嗚咽だと自覚出来るレベルだった。ああ情けねぇ、なんて惨めな声だ。先輩に聞かせてるこの状況が酷くつまらねぇ。

それでも先輩は、受け止めてくれた。

 

『……死にたくて生きてる奴なんて、よほどの酔狂でもない限りあり得んからな』

『その結果、恥晒してちゃ……世話ない、ですよ』

『安心しろ。生き恥仲間だからよく分かる、生きたい気持ちも死ねないもどかしさも』

 

悔しいなぁ。本当に仲間だって感覚で分かっちまうから全部吐いちまう。

でもさ。だとしたらさ、先輩は()()

 

『ラストさんは、なんで平気そうなんだ』

 

嫌味とかじゃない。単純に、純粋に気になったんだ。

ライスシャワーを目の前で喪って5年近くになる。考えたくもないけど、俺がスペやグラスを目前で救えなかったら……月を経る度に気が狂って、1年を待たずに死んでる確信があった。何ならその場で舌を噛み切るかも知れない。

なのに、どうしてアンタはここまで耐えられた。生きて来れた?

 

『平気な訳がない。あの日の事を夢に見る度、正気を失いそうになる』

『そのまま狂気に身を委ねたって、おかしくないのに』

『おかしいさ。終わってもないのに』

 

何が終わってないのか。彼の中で何が続いているのか。

湯気の向こうで、据わった瞳が垣間見える。

 

『生きているんだ。俺達は、まだ』

『………』

『生きたがったにしても、死に損なったしても、生かされたにしても……命が続いてるなら、ダメだろう。何かしなきゃ』

 

死んでるように生きていては、いけない。それが彼の言い分。

なら俺は。俺にとって、死ぬ事とは。死に抗う(生きてる)事とは。

 

『決まってる』

 

無価値だと決められる事。価値を示さないまま終わる事だ。それが嫌だから、甘んじて受け入れる事は出来ないからこそここまで来た。

なら、貫かなきゃな。

 

『分かってる』

 

そうだと、分かってるんだ。少なくとも頭では。後は、誰も引き換えにしたくないと甘い事をほざく感情の問題。

 

『今更やめれば、これまで踏み付けにしてきた者達の死が無駄になる……というのは、俺が言うまでも無いか』

『ええ』

 

勝ってきた相手達への、負かしてきた馬達への失礼。生きたいが為に続けてきた走りを止める事は、即ち()()に直結する。その意味でも走らなければならない、失礼なんて働いてたらいよいよ以て俺の価値が底値待った無しだから。

その上で、だ。

 

『これまで、これから踏み付けにしていく存在達と、どう向き合うか』

 

よーし。やっと自分が対処するべき問題がハッキリしてきた、これが重要なんだ。俺にとって大切な、妥協しちゃいけない点。

フレアカルマ、オースミキャンディ。その他大勢の名も知らない、俺の所為で死んでいったであろう馬達。アイツらの死に、どうやったら意味を持たせられる?

スペ、キング、スカイ、エル。そして、グラス。俺と向かい合ってくれるアイツらに、どう応える?

宮崎さん、美鶴ちゃん、臼井さん、生沿。俺を生かしてくれた人達に、どう報いる?

 

俺の願い。彼らの願い。

 

 

 

 

 

 

 

 

『そうか』

 

カチリと、嵌った音がした。

俺の中の、幾つもの歯車が。

 

『そっか、そっかそっかそっか!こんなに簡単な事だったんだ、何でわかんなかったんだろ……!』

『見つけたか?』

『はい、お陰でやっと!決まったら立ち止まってられねぇ、早く走って勘を取り戻さなきゃ』

 

温泉なんか楽しんでる場合じゃねぇ!元より無才の身、待ちぼうけしてたらそれだけ損なんだよ!くそぅ、今まで何寝ぼけてたんだ俺は!?

 

『そんなに焦らなくても』

『焦りますよ!』

『何故だ?』

『エルが!!』

 

エルコンドルパサーが!本来の、本当の日本最強馬が!!

 

『今も、走ってんですから!!!』

 

 

 


 

 

 

『エル!』

 

肩に重み。何デスか、マンボ。

 

『アーッ……マズハ、オメデトー。』

 

それはありがとうデェス。ええ、存分にやってやりましたよ。エルの本気を、全力を。

仮に()()()がいたとしても、何も変わり無いように。

 

『……ダイジョブ、カ?』

『問題ナーシ。エルは最強デス、相モ変ワラズ』

『ナラ…イイ』

 

アチャー、心配させちゃいマシタかね。帰ったらまた話しマショ、時間ならありますから。

っと、鬣を撫でるこの感触は……エビナ-サン?

 

『よく頑張ったな、エル』

『エヘヘ。エル達のコンビに勝とうなんざ、どんなヤツらだろうと100年早いって話デェス』

 

……あのコンビ、以外は。

 

『………彼らの分まで、かましてやろうな』

『いえ。それは違いマスよ、エビナ-サン』

『へ?』

 

明確な否定のニュアンスを心に込めて、エビナ-サンに伝えマス。だって、だって彼らは。

 

『クロスクロウは、絶対に帰って来マスから』

 

最強になったこのエルを、打ち倒しに。

 

 

《エルコンドルパサー楽勝!確かな手応えと共にクロスクロウの幻影を置き去り、サンクルー大賞を制しましたっ!!!欧州年度代表馬を鎧袖一触!!!》

 

 

 


 

 

 

エルは強い。多分既に俺の歴史よりも遥かに強い。だってイスパーン賞、今思えば本来負けてた筈なのに勝ってるし。

そんな奴が、俺より才あるアイツが努力を続けてるってのに、俺がこのままじゃ……置いてかれるばかりじゃないですか。

 

『ふんぬううう!!早く出してくれぇ、のぼせちまうって!!!』

「うわあ暴れんな待て待て待て!」

「どうします?出します?」

「お願いしますぅ!!」

 

いやぁごめんな、ホント抑えられないんだ!この気持ちを早く発散して、ずっと燃やし続けなきゃいけないんだ!それが俺の使命だから、やるべき事だから!!

 

『先輩、ありがとうございました!俺、やれるだけやってみますね!!』

『……ああ』

 

感謝してもし切れない。人としても馬としても先輩な彼が道を示してくれたお陰で、やっとこさ見つけたこの答えを貫かなければ合わせる顔が無い。

そんな心からの敬意を込めて、振り返り様に頭を下げた。伝わったかな。湯気で顔が見えない、それでも。

 

『クロスクロウ』

 

顔を上げる。彼の表情はやっぱり見えなくて、でも視線が交わった事だけは克明に分かって。

 

『俺は、心からお前を尊敬しているんだ。俺に救えなかった生命を、救ったから』

『俺が?』

『サイレンススズカを助けたんだろう。噂だが、聞いたぞ』

 

いやアレはチートで、と反論しようとした。が、出来なかった。

ラスト先輩が聞きたいのは、そんな言い訳じゃないだろう。仮に言ったとして、余計な反論を呼ぶだけだろう。

 

『……まぁ、頑張りました』

『そうだ、お前は頑張った。頑張って成し遂げた、その事をもっと誇ってくれ』

 

それはエールだった。俺が進みやすいよう、一歩を踏み出せるよう背中を押してくれていた。

恩ばかりが、積み上がっていく。

 

『お前は、俺の希望なんだ。俺に出来なかった事を、俺の分までやってくれてるみたいに思えて……』

『俺は……俺がやりたいようにやってるだけですよ』

『それで良い。それでこそ良い、それが良い。俺が勝手に、期待するだけだ』

 

尚も顔は見えないけど、でもハッとした。

今、確かに笑ってた。

 

『お前なら出来る。どんな決意を抱いたかは知らない、けど沈黙の日曜日すら打ち破ったお前なら……何だって成し遂げられるさ』

『……!』

 

信じてくれるんだ。

応援してくれるんだ。

なんてこった、嬉しくて堪らない。どうしてそう、俺の欲しい言葉をくれるかなぁ!

だからせめて、万感の思いを込めて。

 

『ッ……はい!!

 

踵を返す。これで良い、もう頼ってられない。ここからは俺の選んだ、俺の道だ。

ラスト先輩。アンタが俺の決意を知らないように、俺もアンタが何を目指して生きてるかを知らない。何をもってして、ライスシャワーに報いようとしてるかを知る由も無い。

 

(けど、俺の生き様がその一助になれたなら)

 

それ以上の事は無い。アンタもまた、恩を返したい1頭だから。

俺が俺の決意を貫いたその果てで。アンタの願いも、叶うと良いな。

 

(だから見ててくれ)

 

 

やり遂げてみせるから。

 

 

俺の命を、懸けてでも。

 

 

 

 


 

 

 

 

『……は、は』

 

なんて素晴らしい姿だ。

なんて美しい魂だ。

 

『凄いよ、クロスクロウ……!!』

 

アレで俺と同郷だと?同種の転生者だと?

ふざけるのも良い加減にしてくれ!

 

『全てにおいて俺の上を行っといて、なに戯けた事を言ってるんだ!』

 

俺は救わなかった!お前は救った!!

俺は踏みつけて来た命から目を逸らした!お前は一つも取り零さず悔やんだ!!

俺は自分の身を惜しんだ!お前は、惜しまなかった!!

生きてるから正気を保ってるんじゃない、結局死にたくないから狂ってないだけなんだよ俺は!でもお前は、向き合った上で狂気に逃げてない!!

 

『そこに何の共通点もありはしないだろうが……!』

 

素晴らしい、素晴らしい、素晴らしい!あんなに命を大切にできる奴が生まれて良かった、生きてて良かった!それだけで、この世に救いがあると信じられるんだ!!

 

嗚呼──クロスクロウ!!!

 

 

『お前が、ライスの時代にいれば……ッ!!!』

 

その為なら、この命を差し出しても良いと思えた。俺の代わりに、あの時代にあの牧場に生まれて欲しかった。

でも、そうはならなかった。だから願いを託さずにはいられないんだ。

ステイゴールド、お前が今の俺を見たら笑うだろうな。失望するだろうな。だがすまない、これこそが俺だ。

 

『頼む……どうか、どうか!』

 

俺が行けなかった所まで。

俺が餞に出来なかった栄光を、どうか。

俺のその先を、走り抜いてくれ。

 

どこまでも、俺の分まで幸あれと。そう願った。滲む視界に目を瞑り、強く強く。

 

 

ライス。どうか、彼に加護を。永遠に輝く祝福を。




次回、人間側の最終分岐
宮崎雄馬の決断

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