また君と、今度はずっと   作:スターク(元:はぎほぎ)

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《前回のあらすじ》
もうなんか色々拗れ果てた宮崎雄馬。疲れからか、彼は黒塗りの元妻と正面衝突してしまう
ヨリを戻したい雄馬に対し、元妻・梓が言い渡した復縁の条件とは、クロスクロウの凱旋門勝利だった!


【Ep.85】決定

「断固反対やぞ!!」

 

思わず言った。言った上で、宮崎の手にあるポスターを引っ掴んだ。

 

「常識的に考えぇ。クロスが出国したんがいつか、帰国したんがいつやったか!」

「3ヶ月弱ほど前だった、な」

「分かっとるなら……!」

 

そのまま奪い取ろうとし、しかし宮崎は離さない。俺ら2人の険しい視線が、空にぶつかり火花を散らす。

 

「金の問題はお前の事や、そらどうとでもなるやろな!だが遠征が馬にどれほどの負担をかけると思うとんねん、前に懇切丁寧に説明したやろ!!」

「……承知の上だ」

「だったら!」

「それでも望んでしまうんだ!」

 

その瞬間、思わず気圧されてしもた。今まで雄馬が感情を見せてきたんはごく稀にやけど目撃してきた、本当に僅かながらに。

けど、今回ぶつけてきたのは()()。怒りにも似たそれに俺は、激しく押し除けられたんや。

………だが、それでも退かれへんのや。

 

「調教師として、クロスの再遠征はさせへんぞ」

「帰国を最初に提案した貴方がそれを言うか」

「ああ、恥を飲み込んでな」

 

クロスの所有権を持ってるのは確かにお前や。そこを否定するつもりは無い。

けどな宮崎雄馬。そのお前から、俺はクロスクロウを預けられとんのやぞ?

 

「まだ調子も戻り切ってない、加えて落調した原因すら未解明の状態や。俺には馬を守る“義務”がある」

 

馬主と調教師が揉めると碌な事が無い、そんな事は承知の上や。その最たるもの、最悪のケースを、日本競馬界はよりによって至宝たるシンボリルドルフで学ばされとる。俺もまたそう。

だが、馬を無闇矢鱈に削って結果が伴わない未来が見え透いてるのに、止められへんで何が調教師や?

 

「断言したるわ、お前の思惑が何やろうとそれは失敗するで。俺自身の命を賭けたってええ」

「貴方の命が私にとって何になると言うんだ?」

「それぐらいの確信って事や。そんな分の悪い博打に出るのが、敏腕と名高い宮崎商事社長の姿か?」

「宮崎商事の話はしていない。私個人の希望だ」

 

チッ、宮崎商事の話題ではダメか。となると他にどんな手があるんや?斗馬さんか?それとも?

 

『……』

「!」

 

ふと、目が合った。宮崎の背後、馬房からじっとこちらを見つめる瞳。馬らしからぬ理性の輝き。

お前は今何を思うとるんや。俺たちは道化に見えとるか?ああそうや、お前はそうやって俺たちを眺めときゃええんや。

それを守る為にも、俺はコイツを止めにゃならん。

 

「……お父さん、約束したよね」

 

その時、美鶴が声を上げた。2人して振り向く。

 

「覚えてる?私が、馬主契約を受け入れた時の」

「…ああ」

「お父さんが初めてくれたプレゼント。私は、覚えてるよ」

「俺もだ。忘れる筈が無い」

 

彼女の声は凛と澄んで、俺が付け入る隙を与えへん。なんてこった、ここにきて蚊帳の外か。

けどそんな危機感を押し除けるほどに、自分の声へ相手の耳を傾けさせるその姿は──あの人の孫娘だと再認識させるには、充分過ぎた。

きっと、雄馬の奴にとってもそうやったんやろ。だからこそ……

 

「“クロスクロウを()()()()()()()()()()()”って」

「!!!」

 

その言葉に衝撃を受けたのは、手に取るように分かった。瞠目という言葉そのまま、見開かれた(まなこ)がそれを物語っとった。

美鶴は、決して怒っとらん。怒鳴ってもおらへん。ただただ、問いかけ続けとる。

 

「クロスを……遠征させて、それは果たせるの?この仔は無事でいられるの?」

「美鶴、」

「忘れられないの、イスパーン賞の…クロの、苦しそうな走りが。見てられないよ……!」

 

いつからか震えを湛える声に、さしもの雄馬も堪えたようだった。瞠目から瞑目へ、それを見た俺は心変わりを期待する。

───だが。

 

「……美鶴」

 

再び開かれた瞼の奥には、一層強まった覚悟の色があって。

 

「正確には、お前が私に言ったのは“怪我させない事”、“クロスのやりたいようにやらせる事”……この二つだ」

「そうだったね。でも、何が違うの?」

「私は強制はしない。あくまで選ぶのは、クロスだ」

「待てや!」

 

オイ待てぇ。それは幾ら何でも通らんやろ、オイ!

流石に耐えられへん、声が少し出てもうた。けど悔いてる暇も今は惜しい!!

 

「そんなに片方に期待が寄っとるのが、傍目から見ても丸分かりのツラで!そんな顔の奴から2択突きつけられて、クロスが秋天選べると思うとるんか!?コイツの聡さは俺たちが一番分かっとるはずやろが!!」

「勘違いしないでくれ。クロスの前で宣言させてもらうが、実を言えばどちらでも良いんだ。凱旋門ならば嬉しい、天皇賞ならば()()()()()から」

「何の事かは知らんが、自分の踏ん切りくらい自分でつけぇや!?」

 

もうアカン。これまでの問答で大体分かった、コイツどうあってもクロスに“自分”自体を一任するつもりや。

なんだか分からんが、今の宮崎にとって凱旋門とは、宮崎の今後を左右する重大な物らしい。だったらなんで、その責任をクロスに背負わせんねん……!

 

(させへんぞッ)

 

その一念で、掴んでいたポスターをそのまま引っ張った、当然、返ってくるのは抵抗と敵視。

 

「何のつもりだ…?」

「こんな馬鹿げた2択をやめさせるつもりや」

「このっ……」

 

今の俺のこの行動にどれ程の意味があるのか、自分でも疑わしい所やとは自覚しとる。けどな、ここで「ハイそーでっか」と引き下がったら、その瞬間に俺は馬と関わる資格を失ってまうんや。

馬の権利は全て馬主に帰属する?知っとるわ。

調教師に許されるのはアドバイスであって決定権は無い?承知の上や。

 

「そんでも見逃せる事と見逃せない事くらい、あるんや───!」

「ッッッ……!」

 

クロスが2択を受け入れ、片方を選んでしまった時。それは“クロスの意向”という事実として固定されてしまう。そうなったら俺らは勿論、例え宮崎がこの後心変わりしたとしても逆らえへん。

そんな重大な分岐点を、こんな歪な形で叶えてええ筈が無い。

 

「お前──もっと他に無かったんか!?」

「無かったさ。他にあるなら選ばなかった……!」

「後悔するのはお前やぞ!!」

「それでも、俺は!」

 

本当なら、この問答自体をクロスに聞かせたらあかへんねん。生沿とのやりとりを鑑みれば、人語が分かる可能性があるアイツが、この会話を聞いてて何を思うか。今何を思うとるのか。それを思えばこそ、早く決着付けへんと。

美鶴にだって。

 

「分かんない……分かんないよぉ……!」

 

こんなくっだらへん大人の喧嘩を前に、萎縮してもうてる。

ああ、くそっ。それでも父親か、宮崎雄馬ァ…!!

 

「させるかぁ……──!!」

「!!!」

 

一際力を込めた、その瞬間。

びりっ、という音。

 

「ッ」

「ぐ?!」

 

勢い余ってぶっ倒れる俺達。4片になってちぎれ舞う、元2枚のポスター。

 

それらは、ヒラヒラと翻って。

落ちた。

 

「あっ……!!」

 

最悪の場所に。馬房から首を出して此方を眺めていた、クロスクロウの前に。

アカン。アカンて、それは。

 

「………ブルルッ」

 

首が下げられる。せめて()()()を、という俺の願いは。

届かへん。

 

「ヒヒン」

 

咥えられ、突き付けられた結果。それを前に、俺は項垂れた。

 

「クロス」

 

宮崎が問う。

 

「良い、のか?」

「ブフ」

 

頷き。人間が行うそれと同じく、肯定の意味を込めて。

もう、変えられない。

 

 

 

 


 

 

 

 

いやー。「やめて!俺の為に争わないで!」の一言や二言でも言えたら良かったんだけどね。

何やら俺を管理する御三方がゾロゾロ来なすったと思ったら、その内2人が目の前で喧嘩おっ始めてオラびっくりしたゾ!んでもって耳澄ましてみりゃ、俺がまた凱旋門行くかどうかで争ってんだと。

いや……実質一択じゃん。行くしか無くね?このビッグウェーブに乗るしか無くね?

 

(ありがとうございます宮崎のおっさんんんんんん!!!)

 

という訳で飛び付きました。いやぁ、あんな無様晒した俺に再挑戦のチャンスくれるなんて有り難みしか無いですねぇ!期待されるって事がどれほど嬉しい事か、生きる上で大事な事が、心の底から再認識できましたとも。うん。

 

(美鶴ちゃんからも心配して貰えて、俺ってば幸せだなぁ)

 

でもご安心を。何故かって、これがあるから。

 

\パラララッパラ~♪/

\再生チート〜♫/
*1

 

ようやくだ。ようやく本来の使い方ができるぜ、なぁ神様。

これがありゃ、どんなに無理しようが足がへし折れようが体がグチャグチャになろうがヘッチャラって寸法よォ!

その代わり地上波のテレビ画面に一時とはいえ盛大なグロ映像を流しちまうかも知れんが、そこはまぁなんとかなるっしょ最終的に生きてれば。勝てばよかろうなのだ、ってヤーツ。

 

 

(そうだ、勝たなきゃ)

 

 

一に勝たなきゃ、二に勝たねば。それが大前提。

俺の、使命。

 

(それでやっと、犠牲者達(アイツら)に報いれる)

 

フレアカルマを筆頭とする、俺の勝利によって日向から日陰へ追いやられた奴ら。馬の身で、彼らにどうやって手向けられるか───その答えがやっと、ラスト先輩のおかげで見つかったんだ。

それは先述、単純明快。

 

 

(勝って勝って、勝ちまくる事)

 

 

強い馬は注目を浴びる。注目を浴びた馬は戦績を探られる。

勝ち鞍、過去のレース。そこで人々は目にするだろう。俺の名が入った枠順を。

そこに並ぶ、俺と競った馬達の名前を。

 

(俺の名が上がれば、アイツらの名前も競馬史に掘り起こされて、生き続ける)

 

それが償い、それが手向け。

ホントなんで気付かなかったんだろうな、こんな簡単な事に。今までと同じ事を、覚悟を込めてやれば良いだけの話だったんだ。

 

(もちろん、この答えも矛盾だらけだが)

 

だってコレ、要するに「これからも犠牲者を増やし続けます!」って事だし。俺がいればその分不幸を被る奴がいて、勝てば勝つ程にその無念を背負ってさらに勝たなきゃいけなくなる訳だ。うわぁい雪だるま式に増える借金みたいだね、笑い事じゃねぇよこのクソゴミ駄馬が。

ああそうだよ、俺が選んだのは修羅の道だ。いや違うな、最初から修羅の道だったのを今更再確認しただけだ。

 

(皆が期待してくれる、それに応える。押し除けた望みがある、それを背負う)

 

二つを両立するには、この手段しか思いつかなかったんだ。俺が勝った時のあの、皆の笑顔が忘れられないから。

その為なら、悪魔でも修羅でも、何にだってでもなってやるさ。

 

 

……さて、という訳で決まった凱旋門再挑戦。いやぁ腕、じゃなかった脚がなりますねぇ燃えますねぇ!待ってろエル、今度こそ生沿と一緒にすぐ追い付いてやっかんなー!橋○かーんな!!

 

 

 

 

 

「すみません宮崎さん、臼井さん。俺、無理っす」

 

ファッ────!?!!?

*1
秘密道具紹介風(CV.クロスクロウ)




更新の間が開くようになっちまったので、今回からあらすじを付ける事にしましたよいよい
ところで、シン・ウルトラマンがアマプラで無料公開されましたね。人生で初めて劇場で複数回観た映画なので、これからまた視聴します

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