また君と、今度はずっと   作:スターク(元:はぎほぎ)

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《前回のあらすじ》
すったもんだあって決まっちゃったフランス再遠征。(クロだけ)意気揚々と臨むもののアラ大変、ここに来てikziが参っちゃった!
お願い、立ち上がってikzi!アナタがここで挫けちゃったら、将来の癖馬騎乗はどうなっちゃうの?
時間はまだある。ここを乗り切れば、オルフェーヴルに振り落とされる未来が待ってるんだから!


競走馬編-別れ道
【Ep.86】勇鷹!


何が間違っていたのか。

何がアイツの気に障ったのか。

何が俺達を引き裂いたのか。

あの日からずっと考え続けて、その上で。

 

「俺、無理っす」

 

冷静に考え出した結論だった。今の俺は、クロに乗るに値しない。

馬に叱責されるような騎手は、馬に乗っちゃいけない。

 

「「『…………』」」

 

呼び出しに馳せ参じた俺の、そんな情けない宣言を聞いて、宮崎さんと臼井さんはポカン顔。一瞬後、お互いに顔を見合わせる。

奥から見てくるクロも、また。

 

「ど……どうしよう」

「どうしようも何も……他の鞍上探す他無いやろ、今から」

『いや……え?マ、ジ………?』

「お、奥分」

「ルドルフのJCでの苦い思い出がある彼が大手を振って戻って来てくれると思うとんのか?」

「じゃあどうするんだ!」

「こっちが聞きたいわボケェ!!」

『お前以外に、お前以外に誰が俺を乗りこなしてくれるんだよ。そんな、ウッソだろオイ』

 

喧嘩ぁ!?ちょ、待ってくださいよ、そこまで大事になるだなんて思ってなかったというか、クロならなんだかんだで俺なんか居なくても上手くやっていけるでしょってか、ともかく今は2人を止めなきゃ!

 

「やめて下さいっす!俺の為に争わないで!!」

「「部外者は黙ってろ!!!」」

「バリッバリの当事者っすけどォ!?」

 

 

変な方向に蚊帳の外にされそうになって、思わず突っ込んだ。でも、空元気が続いたのはそこまでで。

俯くのを止められない。幸いだったのは、お二人が慮って落ち着いてくれた事。

 

「……聞かせてくれや。あんなにクロスと通じ合ってたお前が、どうして……俺達の体制に不満でもあったか?宮崎の無茶振りにとうとう堪忍袋の尾がきれてしもたか?」

「いえ、何も不満は無かったっすよ。俺はただ、俺が許せないだけなんです」

「自分が許せない?」

「はい」

 

あの日の自分が。

何も分かってなかった、自分が。

 

「クロに怒鳴らせた生沿健司が、腹立たしくて仕方ないんです」

「ちょちょちょ待待待て!アレは俺の癇癪が問題であってお前に非は……」

「クロ、良いんすよ。お前が怒ったのは何も間違いじゃないんだから」

 

そう言って撫でた。あれから幾日も経ったというのに、未だ微かに窶れを残し以前の艶を失った芦毛を。

悔しい、悔しい、悔しい。お前をそこまで追い詰めてしまったんだな、あの敗北は。

 

「当日、思い返せばクロの様子がおかしかったのに楽観から度外視した。誤った判断をして、息を合わせなかった」

 

出来ない事なんて無いという俺の夢想を、お前に否定された。そして、その通りだった。

掛かるなという俺の甘い見通しを、お前は拒絶した。そして、ロンシャンの重馬場を考えればまさしくその通りだった。

歪みに目を向けず、間違い続けた俺。当然じゃないっすか、叱責されたって。

 

「そんな自分から、まだ変われてないって。そう思ってる内は、クロには乗れないんすよ」

「いや仕方が無いだろう……初めての海外レースだぞ、今思えば慣れてなくて当然だ」

「それで順位を繰り上げて貰えるんすか?1着を譲ってもらえると?」

 

そんなの、実現したって御免だ。騎手の矜持の為に、そしてクロの格を守る為に。

兎にも、角にも。

 

「なんにせよ、俺には圧倒的に経験が足りません。また遠征したって、同じ事を繰り返してしまいます」

「……それも経験や。次に活かせばえぇ」

「クロに()がある保証は?」

「「!!」」

 

俺は騎手さえ続ければ、機会さえあれば何度でも挑める。その機会自体が無いかもしれないけれど、それでもチャンスは複数ある。人間だから。

でも、馬であるクロはそうじゃないんだ。

 

「俺じゃ駄目なんです。最近成績が落ちてるの、聞いてるでしょう?」

「生沿君……」

「お願いです。クロを俺へ縛り付けないでやって下さい。俺以外の可能性で、今度こそ勝たせてやって下さい」

 

そう言って、90°直角に腰を折った。これが、今の俺に出来るベスト。

だってほら、さっきからクロの声が。

 

『……ごめんな、本当に』

 

聞き取れない。今までハッキリと聞こえたそれが、朧げでも意味を着実に拾えたそれが、今では全てにおいて靄が掛かる有様だ。こんな状態でクロに乗っても……無理だろ。

もうお前に、臼井さんに、宮崎さんに迷惑掛けたくないんだよ。

ああ、怖い。顔を上げられない、お前の視線に耐えられない。合わせる顔が、どこにも無い。

 

「………分かった。が、条件がある」

 

そんな中で口を開いたのは、宮崎さんだった。

 

「君の信じるクロスクロウを、躊躇無く預けられる男を。生沿君の考える範疇で最高の騎手を連れて来てくれ」

 

 

 

 

 

 

「それで、まず最初に私の所に来たのか」

 

前に座すのは伝説。俺の()()()

あまりにも偉大で、本来俺なんかが気軽に会って良い人じゃない。なのにこうやって会えるのも、やっぱりクロが縁を繋いでくれたから。

 

「はい、奥分さん」

 

本題は、ただ一つ。

 

「クロの主戦騎手に、返り咲いてくれませんか」

「断るよ」

 

二の句を続ける隙も無かった。即答の拒否。

顔の強張りは、隠せなかっただろうな。

 

「ど……どうしてっすか?貴方なら、奥分さんになら、クロを」

「任せられる、と?」

「当たり前じゃないっすか!」

 

俺なんかとは比べ物にならない経験を積んで、俺よりも遥かに海外を知ってて、何より俺より先にクロに跨ってる!他に選択肢があるんすか?

何より、貴方は……!

 

「シンボリとハクセツの件を踏まえて、私がクロスクロウに執着してるとでも?」

「っ!!」

「もしそうなら……言っちゃなんだが、舐めないでくれないか生沿君。クロスクロウは確かに名馬で、私の思い出が詰まった血統で、前主戦で。だが言ってしまえば()()()()だ」

「それ、だけ……?」

「“怖気付いた騎手”に譲られる程、耄碌したように見えるかっ!?」

 

部屋全体が震えたようだった。いや、震えたのは俺?

でも───言い返せない。

 

「分かってるんだろう、自分でも」

「……は、い」

「なら、もっと自分を見つめ直しなさい。だが忘れるな、陣営が騎手を募集せず君に一任しているのは──つまり実質的に、君以外が跨るのを拒否しているという事に」

 

落ち着いて考えてみれば、そうだ。じゃないと、部外者になりたがってる俺にそんな無茶振り地味た重大な責任を負わせたりしない。

でも。それでも、俺は。

 

 


 

 

「───やれやれ」

 

生沿君を見送った後、一人溜息を吐いた。そうでもしないとやってられない。

 

「この歳にもなって、強がるのも楽じゃなくなってきたな……」

 

それだけ?否、それだけである筈が無い。

ハクセツから受け継いだ芦毛の輝きの記憶が。

トウさんの理想を体現したようなあの馬への憧憬が、一瞬たりとも色褪せた事は無い。

 

「飛び付けるものなら飛び付いたさ……!」

 

だが、その道はあり得ない。今更クロスクロウと生沿君を引き離すなんて、その間に割って入るなんて、あのジャパンカップを見た有識者ならまず最初に外す選択肢だろう。

何より、私が乗ればどうしてもルドルフの賢さを彼に重ねてしまう。押し付けてしまう。そうでなくとも、“邪魔しない走り”しか出来ない──力を合わせられない。

 

「私だけは特に、有り得ないんだよ」

 

以前思った。トウさんの所有馬だったなら乗り続けたのに、と。

今はこう思う。トウさんの馬だったら躊躇無く飛び付き、()()()にしていたと。そうじゃなくて良かった、と。

 

(君しかいないんだ、生沿君)

 

クロスが求めているのは君だけだ。雄馬君が求めているのも君だけだ。

その願い達に応えられるのも、君だけなのだから。

 

 

 

……いや。

 

「1人、いたか」

 

もう1人。

クロスを託されても、文句の上がらない男が。

 

 


 

 

「もうダメら……」

「水飲む?」

「要らにゃい………」

「うーん重症」

 

酒を飲んでも酔い切れない。でも飲まずにはいられない。こうやって孝四郎先輩に介抱させてしまってる事も申し訳無い事極まりない。

でも、どうすりゃ良いんだ。

 

「奥分さん以外思いつかねぇっすよ〜!!」

「うーん……そもそも、なんでそんなにクロスクロウの背から降りたいんだ?嫌いになった?」

「んな訳無いじゃないっすかあんな神馬どう嫌いになれと」

「そのテンションを常時展開して開き直れれば良いんだけどねぇ……で、どうしてなの?」

「そりゃあ……」

 

まず一つ目に、俺の騎手としての完成度がクロのポテンシャルに追いついてない事で。

二つ目が、俺が乗っても凱旋門勝てないって確信で。

それで、それで、三つ目が………

 

「三つ目があるのか」

「あっすみません今の無しで」

「いやいや、吐いてよ。そこまで来たなら言った方が楽だよ」

 

良いのか?良いんすか?無茶苦茶情けない話っすけど、茶化さず聞いてくれるっすか?

ああもう、考えるのが面倒だ。今更酒が回ってきたのか。ええい言ってしまえ。

 

「怖いんすよ」

「何がだい?」

「あ、兄さん」

「シーッ」

「了解」

「何がって……怒られるのが、っすよぉ」

 

やっぱね、今も夢に出るんすよね。あの怒号が。

あの日から、それを聞くたびに飛び起きちまうんすよね。

 

「クロスの怒った声、嫌なんすぅ……」

「イスパーン賞で、人馬一体が途切れる前に聞こえたというアレか」

「そっすそっす」

 

単純に怖かったのと同時に……クロスにあそこまで怒らせてしまった自分が嫌で嫌で、あんな事を思わせてしまったのが余りにもすまなくて。

 

「反射的に“二度と味わいたくない”って思っちゃって、そうするとクロに跨る事自体が怖くなっちゃって」

「だから主戦を降りたいのか」

「降りたかぁ無いですよホントぁ!」

 

潤む視界を擦って叫んだ。バーの店主から視線が向くけど、もう知ったこっちゃ無かった。

 

「俺が一番クロの力を引き出せて、クロに負担無く乗れて、自分こそがクロの相方だって!分かってるし、今もそう思ってるっす!世間から否定されても、心の底ではそう思い続けるっす!!」

「でも、その想いを今は恐怖が上回ってしまっている訳だ」

「……ごめんなさい、やっぱ笑ってくらさい。っぱガキみたいで情けねぇっすわぁ……」

「いやいや、僕だって馬に直談判で怒られるような事があったら萎縮してしまうかも知れないよ?」

「少なくとも勇鷹さんだったらそんな無様晒しませんっす」

「困ったな、僕がそうなんだけど」

「兄さん、隠して隠して」

「おっとそうだった……兎も角だ、生沿君。君は未だ、クロに乗りたい気持ちはあるんだね?」

「当たり前じゃないっすか!勇鷹さんが教えてくれたんすよ、“騎手を成長させるのは出会いだ”って!」

「「!!!!」」

 

せっかく引き合わせてもらった、そして出会えた運命の相手なんだ。簡単に諦めたくはない、出来ればひと時たりとも離れたくない。

いや違う。例え、例え──

 

「離されたって……っ」

「離されたって、どうするんだい?」

()()()()ッ……!!!」

 

誰かに引き裂かれようと、自分から手放そうと、変わらない。クロの背中は、そこにあるべきは本来俺だ。その事実は変わらない。

そうだ、俺は“今”相応しくないだけなんだ。すぐに相応しくなれば、その瞬間舞い戻って、取り返してやる!

 

「はてさて、一度手放しといてその機会が巡ってくれば良いけど」

「ぐぬっ……そ、それでも引退レースでの鞍上は絶対に俺っす。それまでには絶対返り咲くっす」

「……ふむ」

 

みっともなくて、情け無くて、多方面に不義理で。それでもクロの隣を最後には掴み取ってみせる。そこだけは譲れない。

ええと、なんだっけ。「最後にこの羅号の隣にいればおk」とか、そんな感じの?やっべ思い出せね。つーか、そもそも。

今俺が話してるの、誰?

 

「あ、気付いた」

「 や あ 」

「」

 

……ふぁっ。

 

「ファーーーッ!?!!?」

 

ゆゆゆゆ勇鷹さん!?孝四郎パイセンじゃなくて、えっなんで!何故に?いつから!!!

 

「奥分さんから話が来てね。頼ってくれないなんて寂しいじゃないか」

「アババババッそれはっそのえっと一度会ったら頼りっきりになっちゃいそうでだからえっとその自分で悔いの無い洗濯をしたくてえっとえっとえっと」

「兄さんも生沿君もステイステイ。誤字するぐらいテンパっちゃってるから」

「アッハイ」

 

孝四郎先輩の取りなしでなんとか持ち直す。こういう時こそ落ち着いて、落ち着いて。

 

「ケフ……勇鷹さんの事ですし、事情は説明するまでもなく把握されてると思いますが、俺は………」

「分かってるよ。生沿君が、愛馬から怒られるのが嫌なあまり愛馬から離れようとしてるっていう支離滅裂な行動をしてるって事は」

「ゴハァ」

「兄さん!」

 

うぐぐぐ、耳が痛いっす!何より先述の「騎手にとっての出会い」を説いて俺とクロを引き合わせてくれた張本人こそがこの勇鷹さんであって、その恩を無下にしようとしてるのが俺で、うがぁぁぁぁやっぱ罪悪感んんんん!!

 

「だが正直──今の君がクロスと共に海外に行っても、また弾き返されるのはその通りだと思う」

 

なんて内心で喚いてたら、その言葉に気が引き締まる。勇鷹さんも、やっぱりそう思うっすか?

 

「その上で、君が経験を重ねる意味で遠征して欲しいのが率直な本音な訳だけど……君はクロスにこそ勝って欲しいんだろう?」

「アイツの強さはあんな物じゃないんで」

「だが、そもそもロンシャン芝が合ってない。君の騎乗の問題を除いても、クロスが凱旋門で力を発揮出来る可能性は低いと言わざるを得ない……国内なら存分に猛威を振えるだろうけど」

「っ……」

 

そんな事は無い、と言いたかった。けれどあの日、走りづらそうに苦しむクロが脳裏を過ぎって口を閉ざす。

……でも、道はもう定まってしまったんだ。

 

「クロが望んだ凱旋門遠征らしいんです。だったら、勝ちに行かせてあげなきゃ」

「君の意思は変わらない、か」

「情けない話っすが」

 

ここで降りれば、次に乗れるのは何ヶ月後か、何年後か。下手すると引退までに間に合わないかも知れない、勿論そんな事には絶対させないが。

けど、今は、今だけは、俺が乗るべきじゃない。

 

「で、どうしようかなと」

 

そう、問題はそこだ。次の騎手が見つけられなければ何も始まらないんだ。

奥分さん以外思いつかなかった。だってクロとあれだけ縁のある人だもん、そりゃ任せられるよ。でも断られてしまった現状、他の選択肢なんて……

 

「分かった。僕がクロを預かろう」

 

ああそうか。この人なら存分に任せられるじゃないか。

良かった良かった、これで安心だ。これでクロは全力を発揮できる、なんなら多分俺が乗った時よりも力を出せる。きっと凱旋門賞にも勝てる、きっと……

 

 

ん?

 

 

「んぇ!?」

「兄さぁん?!」

「そもそも僕に話に来なかったのが不思議なんだけど。良い師弟関係築けたと思ってたんだけどなー」

 

いやいやいや!正直“だからこそ”というか!?下手に話したらそのままシームレスに甘えてしまいそうで、だからこそ今回ばかりは自分の力で探そうとしたというか、別に勇鷹さんに不信感があった訳ではなく!

えっ、いや!え!?

 

「い……良いんすか?」

「前々から興味はあったんだ。でも君は良いのかい?()()()は高くなると思うけど」

「ッ!!」

 

そうか。勇鷹さんが主戦になれば、俺が返り咲こうとした際に必然、彼と相対する事になる。俺の憧れた業界のトップに、ヒーローに、真正面から挑まなくてはなるなくなる。

クロとコンビで挑むのとは訳が違う、だってその時に評価基準になるのは騎手単独の腕だ。勇鷹さんがクロに跨るって事はつまり、俺がその背に戻る時には勇鷹さんを超えてなきゃいけないんだ。

 

(……出来るのか?俺に)

「出来るのかい、君に」

 

勇鷹さんの問い掛けと、俺の自問自答が重なる。思い浮かんだのは、クロの顔。

答えは、一つだ。

 

「当たり前じゃぁないっすか……!」

 

相手が憧れ?構うものか、それがどうした。

感謝と尊敬に敵愾心が加わり、グラグラと煮え立つ。

 

「アンタだって超える。いつか超えてみせる」

 

クロの為に、そして俺自身のために。

いつかって、いつだ?今だ。今から、本当の意味で始まるんだ。

その意思を込めて睨みつけるように見つめてたら、勇鷹さんはフッと微かに笑った。

 

「合格だよ。折れてなくて良かったよ」

「……折れてたら、クロを完全に諦めてたらどうなってたんすか」

「失望してたね。師弟関係解消で勘当してたんじゃないかなぁ」

「ヒェーッ」

「相も変わらず意地の悪い……」

 

そ、それは嫌だ!羨望してた“天才”から直々に見放されるとか死ねるとかそういうレベルの絶望じゃないっすか、あっぶねぇ……ってダメだダメだ、こんなんじゃ超えるなんて夢のまた夢だ。やっぱまずは本当の意味で自立しないと……!

 

「という訳で、次の海外レースからクロスは僕が()()()。早く取り返しに来なよ、じゃないと本格的に彼が僕のモノになっちゃうからね」

「冗談じゃないっすよぉ!うおおおお燃えてきた待ってろクロォォォォォォォォ!!」

「熱い熱い熱い暑苦しい」

「孝四郎パイセン言わないで下さい!やる気に満ち満ちてるんで今!」

「ただし幾つか条件がある」

 

えぇーまた条件っすかぁ!?と漏らしそうになるを喉元で阻止。危ない危ない、願いを聞いてもらったのにそんな事ほざいたら不義理もいいとこだった。

で、何すか勇鷹さん?

 

「まず一つ目。クロスに自分の口から話して、突き放した事をちゃんと謝る事」

「ぐ……う、うす。ちゃんとやります」

「そして二つ目。こちらが一番重要なんだが───」

 

 

 

 


 

 

 

 

その後。

「うぉー!癖馬だろうが怖かねぇ!勇鷹さんの望みとあらば野郎乗りこなしてやらァーー!!」とヤケグソ気味に飲みまくってブッ倒れた生沿君を彼の自室に運び込み、お開きとなった飲み会。血を分けた弟と、帰路にて久しぶりに2人きりで会話する機会を得る事となった。

 

「兄さん、責任感じてるんでしょ」

 

孝四郎が口を開く。僕は、複雑な笑みで以て返した。

 

「自分が海外遠征を後押ししたから、生沿君を追い詰めてしまったって」

「それだけじゃない、常日頃から期待をかけ過ぎた。そしてそうでありながら、海外に行ってる時は放任してた。無責任だったのさ、要は」

「気に病み過ぎだよ。クロスクロウの落調は予期出来る物じゃなかった」

「“なんとかする”と豪語したのは僕だ。責任は誰かが取らなきゃ意味が無い」

 

とは言っても、僕が海外に行く以上は結局また放任になるんだろうけど。でも今度は希望的観測に頼らず、確固たる確信と共に生沿君に日本を任せられる。

慣れ親しんだ日本の地で、()と生沿君なら、やっていける。そう信じている。

 

「さて、やることが山積みだ。折角クロスを託してもらえたんだし存分に乗りこなして、いつでも生沿君と奪い合えるよう、まずは無事に日本に帰さなきゃな!」

「……まぁ、兄さん達がそれで良いなら良いけどさぁ。その前に各方面に頭下げまくらなきゃいけないの分かってるよね?」

「…ごめん、俺も飲むけどもう一件付き合ってくれ」

「良いよ、でも手伝わないからね」

「ぐぅ………」

 

更けていく夜の街を2人、歩き続けた。いずれ来る夜明けに備えて、その先を見据える為。




今回、「生沿、主戦一旦降りるってよ」
デュエルスタンバイ!(終わった)

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