また君と、今度はずっと   作:スターク(元:はぎほぎ)

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《前回のあらすじ》
オッス、オラ勇鷹!傷心の生沿君に代わり、クロスクロウの海外遠征騎手を引き受けたゾ!


【Ep.87】研磨!

「クロ、ごめん!突き放すような態度とって!!」

 

と、生沿が開口一番に土下座してきた。俺の頭ん中はもーテンヤワンヤ。

えっいや、んん!?何これ!頭上げて欲しいし、そもそも何でそんな態度を取ってきたのか分からん事には俺が改善出来ないから再発しかねんし、いや凡そ「イスパーンで反抗的だったからやろなぁ」程度の察しはついてるんだけども。それにしたって俺のせいだからむしろこっちが土下座したいし、ウマだからやり方分からんし。

とりま友好を表す為に顔舐めよ*1

 

「あっぶぶぶぼふぅ」

「やめてあげてくれ、生沿君が唾液で溺れてる」

『あっごめん』

 

隣にいた勇鷹さんの声で我に返る。うーんこの情緒不安定っぷり、我ながらなんとかしてぇなぁ。でぇじょうぶか生沿!

……ところで、なんで勇鷹さんがここに?後ろに控えてる臼井さん&宮崎さんの凹凸コンビは複雑そうな顔してるしさぁ。

 

「ぅーふ……許してくれた、のか?」

『こっちが許されたいくらいじゃバカモン!』

「もっふぅ」

「今度は鬣に生き埋めにされとる」

「ま、まぁ仲直り出来たなら良い……のか?」

「って!クロ、今日は他に本題があって来たんす!」

 

あっ、脱出された!まぁいいや、んでもってなになに?凱旋門賞の件?なってくれるってんなら大歓迎だぜいつでもな!!

 

「……ごめん!やっぱりまだ、お前に乗れるだけの勇気が出ないんだ」

 

あっそっかぁ(諦念)。俺はそれでも生沿が良いんだけど。でも恐怖させてまで乗れとは言えないしそれこそ本心じゃない。

とはいえ、どうすっかなぁ。どーしよっかなぁ。

生沿が乗ってくれないとなると、奥分さんすら匙投げた俺の鞍に一体誰が乗ってくれるってんだ。なぁ勇鷹さん?

 

「だから、俺がまた乗れる日まで……俺が一番信頼できる()()()に託す」

「という訳で、よろしく頼むよ。クロスクロウ」

 

あーなるほど。そう来ましたか、すんげぇ納得ですわ。良い判断だと思うよ生沿。

 

 

って。

 

 

ゑっ?

 

 

 

 


 

 

 

「どうや?」

「そうですね……」

 

臼井さんの問いに対し、返答を迷う。たった今、クロスクロウに跨ってお試しに駆けた3ハロンの感想を。

 

「まず第一に、私との相性は悪くなさそうです。近くを馬が通った時に多少ソラを使いやすい(集中力散漫)かなという印象はありますが、充分制御可能です」

「……生沿。贔屓目抜きで」

「は、はい。えーと何というか……勇鷹さんはクロスの行動に即応出来てますし、クロスも勇鷹さんの指示に無理無く従えてます。流石です」

「最後のは今は要らん」

「ハイ」

 

そうかい。チグハグな部分も少なく、スムーズに騎乗できていたようで何よりではある。乗り替わり直後で、それも初めて乗り合うコンビでこれなら上出来だ

普通なら。

 

「………ダメだな」

「えっ」

 

あくまで“普通なら”の話。普遍の悉くを超えてきたクロスクロウと生沿健司のコンビには、遠く及ばない。

 

(“即応”する必要は無い。“従う”必要すら無い)

 

本来の彼らはそんな比翼連理だった。彼らに比べれば、今の僕の対応は後手後手もいい所だ。“後”から対処している以上、“同時”にはどう足掻いたって敵いはしない。

 

「……適応期間は、長く見積もっても1ヶ月や。それでどこまで行けそうや?」

「人馬一体の一歩手前までは」

「一応言っとくが、1ヶ月って言うのはお前のスケジュールも全部()()に付きっきりにするのを前提とした上やぞ。他の馬への騎乗は、サイレンススズカのリハビリはどないすんねん」

「スズカに関しては大丈夫です。コンディションは万全、後は彼自身が踏み出せるかどうかなので……他の馬に関しても、生沿君を初めとする他の騎手に頼めましたから」

「……っ!!」

 

視界の外で、生沿君の顔が引き締まる気配。そうこなくっちゃ困るというもの。

して、どうするか。生沿君はクロスに凱旋門を勝たせる為僕に託した、だったら泣き言なんて言ってられない。

 

「大丈夫ですよ。アプローチ方法は幾らでもありますから」

「……なんとか、なりますか?」

「するさ。僕を誰だと思ってる?」

 

僕は。いや俺は。

 

「天才ジョッキー、拓勇鷹だぞ」

 

 

 

 

それからはハードな日々の始まりだ。

仕事以外の時間全てをクロスクロウに注いだ。毎日彼の馬房に通い、顔を合わせ、スキンシップを重ねた。彼はじっと俺の目を覗き込んで、お互いを見定めあった。

過去のレースを、調教風景を、記録されている限り追いまくった。勝ち鞍から負け戦までその全て、スペシャルやグラスワンダーと楽しそうに走る姿から独りきりで馬房に立ち竦む背中まで。

 

その時、クロスクロウはなぜそんな行動をしたのか。

どんな感情を持っていたのか。

出生まで踏まえ、脳内で彼の情動をシミュレーションした。かつて乗ってきた相棒達の、見届けてきたその感情を参照してひたすらに。

限界まで、クロスクロウに近付く。心理を同一に持っていく覚悟で、覗き込んだ深淵に落ちていくつもりで。

 

「……2週間でここまで来たか。見くびっとったわ」

「まだです。まだ、ダービー前のスペシャルにも及ばない」

『フゥルルルーーッ……!』

 

分かる。クロスクロウも必死で合わせに来てくれている、だって分かるんだ。

乗る度に、彼の走り方が違うんだ。

違うのに、全て()()()()()()

 

「クロスクロウ」

「どしたんですかい?」

「なんで君が……」

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

違う、マックイーンだけじゃない。

ある時は、クリーク。

ある時はイナリ。

ある時は、スペシャル。

しまいには、あろう事かスズカの大逃げまで。

 

会った事などある筈が無い、見た事などある筈が無い前者三頭の走法。見た事があっても容易く真似など出来ない筈の後者二頭の面影。

何より驚いたのは、全てにおいて僕の騎乗馬だった事だ。

 

「僕が乗り易いのを探してくれてるのか……?」

「……俺如きのポテンシャルよりも、アンタの手腕を引き出した方が“目”があるだろ」

 

返答の鳴き声はしかし、分からない。羨ましいよ生沿君。僕も、こんなに人間(僕達)を想ってくれる馬と真に心を通わしてみたかった。話をしたかった。

だが出来ない事を嘆いても仕方がない。今やれる事を、クロスは全力でやってくれている。僕もまた同じようにするまでだ。

 

7月も終わり8月へ。日が照り、クロスの芦毛を反射して僕の肌を焼いた。人馬で互いに、頭がおかしくなりそうな位にのめり込もうと汗だくになって、臼井さんに止められる程だった。そんな彼らの背後から、宮崎氏の冷たい目線が光っていたのを覚えている。

 

 

その果てに。漸く。

 

 

 

辿り着いた。

 

紫電深緑空色紅蓮。そして紺碧

 

出立が目前に近付いた、ある日の事だった。国内での最後の調教日だった。

これ以上無く息が合った、波長が合った確信。FMラジオのツマミを回し続け、目当てのチャンネルを探し当てたような感覚。

 

「『……ッ!!』」

 

 

瞬間、現れた七色の光。集い、束ねられ、そして。

 

 

『勇鷹さんっ!!!』

 

聞こえた。

確かに僕を、俺を、呼んでいるその声が!

 

「ああ、見えたッ!」

 

きっと、生沿君にはこれでも及ばない。彼らを10とすれば僕達は所詮5、分かるのはまだニュアンス止まり。

それでも、()()()

 

蹄が裂く。集まった光の先、閉ざされた扉を。

垣間見えた新天地の、その先へ。

 

 

「これが君の領域(ゾーン)か、クロスクロウ──!!!」

 

CrossClaw CrossClaw CrossClaw CrossClaw CrossClaw CrossClaw CrossClaw CrossClaw CrossClaw CrossClaw CrossClaw CrossClaw CrossClaw CrossClaw CrossClaw

CrossClaw CrossClaw CrossClaw CrossClaw CrossClaw CrossClaw CrossClaw CrossClaw CrossClaw CrossClaw CrossClaw CrossClaw CrossClaw CrossClaw CrossClaw

EXTREME(エクストリーム)-()CLAWS(クローズ)

          Lv.1

CrossClaw CrossClaw CrossClaw CrossClaw CrossClaw CrossClaw CrossClaw CrossClaw CrossClaw CrossClaw CrossClaw CrossClaw CrossClaw CrossClaw CrossClaw

CrossClaw CrossClaw CrossClaw CrossClaw CrossClaw CrossClaw CrossClaw CrossClaw CrossClaw CrossClaw CrossClaw CrossClaw CrossClaw CrossClaw CrossClaw

 

 


 

 

 

本当に大変だった。

記憶の底から、勇鷹さんの騎乗経験馬を引っ張り出しまくった。お相手は日本最高のジョッキーやぞ、失礼あったらイカンやろ!

ええい、競馬ニワカがここに来て祟った!本当にメジャーどころの、それもウマ娘実装済みの馬の走りしか分からん!それもレース映像の記憶は朧げだし、追い込み馬殆ど該当しねぇし!エアシャカールよぉ、5年くらい早く生まれてくんね!?*2

 

んでもって次に、インタビュー映像やら何やらの勇鷹さんに関する記述とかをあさりまくってはトレース・オン!!なんて上等な真似は無理だけど、それでも勇鷹さんから贋作者(フェイカー)呼ばわりされるぐらいの勢い目指して気張った。死ぬ気でやった。マジで精神摩耗するかと思った、危ねぇ危ねぇ。

 

……だが、その甲斐あって。やっとこさ取り戻した領域へ、勇鷹さんと共に踏み入れたんだ。

 

(流石だなぁ、天才ユタカ)

 

最初の予定じゃ、国外出立に間に合うかどうかも危うかったのに。初めて乗っかる俺にここまで合わせてくれるだなんてさ。生沿が憧れる訳だよ、半端ねぇよ。

……感慨に耽るのも大概にすっか。領域と言ってもかなり不安定なんだ、気を抜いたら解けちまう。

集中して、集中して、()()()この赤茶けた乾いた大地を……

 

………ん?

 

・。・゜ ・。・。 ・。・゜・。・。 °・

 

 

            

          

 

あるぇ?俺の領域に星なんかあったっけ?

もっとこう、夜って暗くて寒くて風が強くて……んん?おかしいぞ、前まで入ってたのと違う。

どこだ、ここ。

 

「……クロ?」

「!」

 

その時、声が聞こえた。

忘れない。忘れられる筈が無い。

でも、どうして。

 

「──なんで、お前がここにいる」

「なんでって、クロこそどうして……」

 

なぜ。なんで、どうして。

 

「なんで()()が、()()()になってる……!?」

 

振り向けない。理解不能な事態に、脳が恐怖を発していたから。

そんな俺の引いた境界線(ボーダー)を、アイツは容易く踏み越えてきた。

 

「大丈夫、クロも同じだよ」

「っ?!」

 

握られた。()を。

自分の、体。馬じゃない。

人間の、身体。

 

思わず側頭部に、もう片方の手を当てた。無い。

頭頂部。そこにはある。

全てに納得した。理解は叶わなかったけど。

 

「アハハ、そうなるよねぇ。僕も初めて来た時、おんなじような事したもん」

「……ここじゃ、お前の方が先輩ってか」

「うん。ようこそ夢の世界へ、そして」

 

落ち着きを取り戻した頭で、漸く振り返れた。見えたのは、まだ会いたくなかった兄弟分。

それが今、“憧れの姿”でここに。

 

「久し振りだね、クロ!!」

「元気そうで何よりだよ……スペ」

*1
現実逃避

*2
姫殿下「私とラストランを共に出来なくなるのでダメです」




本文執筆中に後書きに書く事を思いついて、いざ投稿ってタイミングに至る頃には完全に忘れてる現象に名前を付けたい

【2022/11/27/17:20 追記】
思い出した
ヒーローに憧れたあの頃に戻りたい人はセイザーXのOPを聞け(ダイマ)
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