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前回のアンケートについてですが、ストック分を既に予定投稿してあるので暫くは反映出来ません
隙ができれば掲示板回をねじ込んで頻度を増やそうと考えていますが、ご了承下さいませ
『今度こそダメだ…おしまいだ……』
何度やっても、何度試しても。
『グラスワンダーが倒せねぇよ〜!』
『あっ、いつものクロさんが戻って来ました!』
『えっ俺って常時こんなヘタレ晒してる?』
『いや感情を素直に出してくれたって意味で』
ああなるほど。いやゴメンなスペ、心配かけさせたみたいで。
いやしかし、今回の敗戦はマジで凹む。馬生初の重賞、GⅡ京成杯でのグラスとの二度目の激突。前よりも遥かに完成度を高めて臨んだ自負があって、その分の悔しさも凄まじかった。
何だあの末脚!?あんなの詰めれないって!どれだけリードを広めても尚、軽々と覆される!!
奥分さんのコース取りで不利押し付けたとしても、最終直線で千切られちゃったら無意味!
おまけにレースを経る度にスタートダッシュが上手くなってるっぽいしさぁ…。
『キッツイなぁ』
思い出されるのは、最後のグラスの瞳。一番辛かったのは、俺の脳細胞における満場一致でアレだろう。
何が気に障ったのか…いやこれこそ論じるまでも無い。俺が弱いせいで、完全に失望させてしまった。
『俺じゃライバルにはなれないのかなぁ』
所詮、俺如きが黄金世代相手に対等に立ち回ろうというのが土台無理な話だったんだろうか。親友として約束を守りたかったんだけどなぁ。
『諦めるのはまだ早いと思いますけど』
そんな俺の煮詰まった思考に、否を投げ掛けたのはスペだった。
『クロさん、まだ僕に勝ち越してるじゃないですか。なのに諦められたら、こっちは立つ瀬が無いですよ』
『とは言ってもなぁ…』
勝ち越してるとは言っても、初期のまだ未熟極まってるスペ相手に稼いだ貯金が残ってるだけであって。最近じゃもう、既に負け続きなんだよなぁお前にも。
『そりゃそうですよ!だって最近のクロさん、自分の走りしてないですもん!』
『自分の走りぃ?』
『はい!!』
そう言って、残像が出来るほどの高速で首を縦に振るスペ。と言われても、俺の走りって何だ…?
……え。まさかアレの事?
『追い込みか!?』
『それです!後ろからビューンってくるヤツ』
『却下』
『なしてー!?』
だってそれ奥分さんがやらない作戦だもん!
『それをしない為に、この二ヶ月間を先行策への慣らしに費やしたんだ。今更無駄に出来るか!』
『無駄にはなりませんよ!どんな苦労も、いつかは絶対為になるってお母ちゃん言ってましたもん!』
『でもな、追い込みをしたら俺は騎手さんや臼井さんを裏切る事になんだ!出来る出来ない以前にやっちゃいけねぇの!!』
『騎手さん達が間違ってる可能性は無いの?何で全部任せちゃうんですか!?』
コ、コイツ!知らん間に言うようになって…!
って、あれ?そういえば俺、なんで奥分さんの指示通りに先行策をやってたんだっけ。
いや落ち着け、勝つ為だろ。
いやでも、実際勝ててない。
じゃあ追い込みなら勝てたのか?
……分からない。
分からないなら、なんで可能性を捨てた?
………分から、ない。
『……我慢する必要なんて、無いじゃないですか』
先ほどまでと打って変わり、スペは淡々と俺に語りかける。
『クロ、考えるのをやめないで』
『……思考停止、してたか?』
『僕よりも、クロ自身が一番分かっていると思います』
ああ、クソッ。お前の言う通りだよ。
臼井氏の方針だから。
レジェンドの作戦だから。
それに従うのが最善なんだと、無条件に受け入れていた。
今も、俺自身が求めている事、俺が欠けていると自覚している事が正しいのかは自信が持てない。けれどそれは、奥分さん達にも同じ事が言えるんじゃないか?
『それに…グラスが求めてるのって、単に強いクロなんですかね?』
『は?』
『僕が
──“
今度こそ、俺は息を飲まざるを得なかった。グラスを負かした俺、それに該当するのは一つしか無い。
山道での、最初で最後の併せ馬。そこで見せた、追い込み。
〜〜〜
『なんで、その走りなんデスか』
『“次”は本気で来て下さい』
『なんで、
〜〜〜
なんて事だ。辻褄が合う。
グラスは徹頭徹尾、俺の実力じゃなくて俺の在り方を糾弾していた。そうか、そういう事だったんだ。
『グラス…!』
俺の素直な走りを、アイツはずっと求めてくれてたんだ…!
『クロ、あなたは…』
『待ってくれ、スペ』
『!!』
でも、ダメだ。
まだ決められない。俺に命と時間を預けてくれた、奥分さんと臼井氏の顔が頭から離れない。
裏切れない。まだ、決死には至れない。
『……』
『情けないよな。でも、ゴメン』
『そうですか』
今度はスペにも見放されたか。そう思った、次の瞬間だった。
『じゃあ、僕の新馬戦を見てて下さい』
『……はぇ?』
なんでそうなる、と思った。同時に、何故か納得もしてしまった。
『僕は自由に走ります。僕なりの走りを貫いて、そして、勝ってみせます』
『お前、』
『問答無用、です!』
ピシャリ!と音が鳴りそうな勢いで会話を断ち切り、スペは馬房に引っ込んでしまった。取り残された俺はただただ呆然とするのみ。
……でもきっと、スペはやる。俺に見せたい物を、その身で体現してみせるだろう。そんな予感を胸に秘めてその日、俺は久々の熟睡を得た。
それから、また1ヶ月弱。グラスと俺の朝日杯が近づいて来た頃合いの事。
ある朝、スペが厩舎から出された。
新馬戦だと分かった。
スペの、メイクデビュー。
ここを逃したら……俺は、スペのライバルでは在れない。親友ですら、いられない。
俺は厩務員の隙を突いて、馬房から抜け出した。人間としての知識で、上手い事閂を外して。
……そこから最寄りの事務所まで辿り着けたのは、奇跡の類だったと思う。なんで道中、人目につかなかったのか不思議で仕方がない。転生直前に出会った神による介入を真剣に疑ったし、実際アイツが何かしたんじゃないかと思ってる。
兎にも角にも、俺は辿り着いたんだ。スペの勇姿が映る、テレビの近くに。
窓越しに覗いたその向こうで。ゲートに入る、スペの姿が見えた。
《収まりまして、態勢完了しました》
始まる。
《スタートしました!ちょっとバラついたスタート》
走り出した。14頭の駿馬が、最初の栄光を勝ち取る為に。
大外だったから、スペの姿がよく見える。悠々と、走っている。
《5番手の位置にスペシャルウィークが取り付いて、後は2馬身ぐらい差がついて中段グループですが──》
先行策。けど、俺だったら今頃ストレスまみれになってるそれを、スペは何の苦痛も無さそうにこなしていた。
俺には、出来ない事だ。
《第4コーナー、カーブに入って参りますが3番手の位置に控えているスペシャルウィークは先頭までは2馬身ぐらい!》
控えている。俺が苦悶に喘いでなんとかしているそれを、軽々と。
さぁ、直線だ。
《スペシャルウィークが突っ込んで来たスペシャルウィーク!》
来た。紫電の流星だ。
伸びる、伸びる。好きこそ物の上手なれと、伸びていく。
ああ──そりゃそうだ。
“向いてる”って、こういう事を言うんだな。
同じ作戦で、勝てる訳が無い。
《スペシャルウィーク、スペシャルウィークが一気に先頭に変わった!》
でも……負けたくない。
《拓勇鷹騎手、年間の最多勝大記録159勝達成で今ゴールインッ!!》
伝説の天才に対する福音が上がった。
俺のそれと同じ、でもまるで違う先行策。アレは、他ならない“スペシャルウィーク自身の走り”だ。俺とは違う。
…アレに勝つには、どうする?
決まっている。
焚べられちまった覚悟の炎。もう消せない、消させはしない。燃え尽きるまで、突っ走ってやる。
けど今は、それよりも。
「ヒヒィイイイインッ!!」
「は?…うわぁ!放馬しとるがなァ!?」
スペ。おめでとう。
その賛辞を、贈るべきだと思った。
この後めちゃくちゃ叱られた
物陰で人払いしていた宮崎はほくそ笑んだ
臼井氏はキレた
スペちゃん達の掲示板回で、競走馬クロの戦績は
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どんどんネタバレしていけ
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いや普通に隠して欲しいんじゃが…