無茶苦茶苦労しながらやっとこさ領域を取り戻したクロ&勇鷹、すると騎手ソウルを通じ、お先にikziと通じ合って領域を堪能していたスペと再邂逅!
何を以て彼らは交わり、そして互いに何を残し託すのか
気不味い。いや気不味いなんてレベルじゃねぇ、どーすんだこれ。
目の前には可愛い可愛い弟分。最後の会話は、「日本を任せる」という大口。まるで自分は勝ってるのが当然みたいに。
で、結果はと言えば。
(言えるかよ惨敗したとかよぉ……!)
「クロ?」
「ナンデモナイデス」
「嘘だぁ、なんか隠し事してるもん!」
ちくしょーやっぱりバレとる。他のヤツならともかく、長期間を共に過ごしたスペ相手じゃ何もかも筒抜けだ!
やばいやばい、このまま一緒にいたら洗いざらい聞き出されてゲロる羽目になるぞ!でもそれはそれとしてスペに会えたのは嬉しいし話すのどうしようも無く楽しいしウマ娘の姿になってるの驚きだし!けど向かい合ってたら他ならない俺自身がスペに甘えちまうんだ、それはダメだろああああもおおおおお*1……
……お?
「ク、クロ!?何ですか今の!」
「何って……」
「クロの姿が一瞬ボヤけました、激し目に!新しい技術ですが、技ですか、やっぱり凄いですねクロは!!」
「落ち着けェ!?」
勝手に興奮し出すスペを宥めながら、思いつく可能性は一つ。そう難解でもない話だ、要は……
「“ノイズ”だな」
「何ですかそれ」
「いちいち説明する事でもねぇさ、自分で勝手に想像してくれ──だがま、そっかぁ」
スペは“夢の世界”と言った。そして俺がここに入った瞬間、つまり勇鷹さんと領域に入り込んだ刹那こそが
「立ち話もなんだし、走ろうや」
「!……うん!!」
俺の領域の不完全性こそが原因。それが途切れかけてるからこそ、ノイズが走って夢から弾かれかけてるんだろうな。
それに対して何が出来るかは知らんが、気休めでも走っといた方が良い。現実の俺が走ってるなら、夢の中の俺も同じように走った方が集中状態も続く。かも知れんし。
何より……走りながら語り合う方が、俺達らしいだろ?
「なにっ春天逃げ切り勝ち」
「えっへん!褒めて褒めて」
「しゃあけど誰から教わったんや」
「んーとですね、まずこの夢の世界だとよく栗毛さんと会うんですけど、あっちなみに栗毛さんっていうのは勇鷹さんとコンビ組んでてサイレンススズカみたいな大逃げをする馬でして」
……勇鷹さんが乗る栗毛でサイレンススズカみたいな大逃げをするって、つまりもうサイレンススズカでは?*2
と言ってみたら、スペは「実はまだ肝心の名前を聞いてなくて……でもそう思い込んで呼んだ時、否定されなかったんですよねぇ」と返ってきた。ほなサイレンススズカやないか!
「でも最近走るのが怖くなっちゃったらしくて」
「ほなサイレンススズカとちゃうなぁ……いやエアグルーヴ先輩の証言的には逆にサイレンススズカで確定やんけ!」
「取り敢えず今度会った時、覚えてたら聞いときますね。ところでクロ、なんですかその変な口調は」
「分からん、変な電波を受信した」
「……まぁ、ともかくとして。僕の大逃げは、その栗毛さんから奪ったというか盗んだって感じなんです。大変でしたよ本当に」
そらそうだ、逃げのキツさは俺にも分かる。しっかしスペが技術盗みとはなぁ……目覚ましい飛躍にも程があるぜ、全く。
今こうやって併走してる訳だが、俺のこの走りもコピられちまうのか?キッツイ!(本音)見上げたモンだ!(こっちも本音)
「そういうクロこそどうなの?時期的にもう2回くらいレース出たんでしょ!」
「あー……」
どーすっかねぇ、説明。“世界を変える風になる”だのなんだの言った手前、まさかビリケツ大敗北しましたとか口が裂けても言えねえ。かと言ってスペに嘘吐きたく無いし、というかそもそもさっきみたいに嘘バレるだろうし。
……するか!話題逸らし!
「俺はまぁボチボチだ。それよりだな」
「ボチボチって何ですかボチボチって。僕は春の天皇賞について詳しく話したんだから、次はクロが詳しく教えてよ〜!」
「お前のターンはまだ終わってないぜッ」
「それ普通逆じゃない!?僕も普通を知らないけど」
ええい中途半端じゃ追尾されて終いだ。俺が俺の無様を隠すのはな、俺自身のつまらんプライドの為でもあるが、それ以上にスペに心配して欲しくねぇの!下手に話して気に病ませて調子崩してみろ、それこそ悔やんでも悔やみ切れんわ!!
考えろ考えろ、スペの気を逸らせる話題を!嘘だとバレないよう、俺自身も心から気になってる事!
………あったぁ!
「グラスは最近どうしてる?」
「…あー」
えっ何?何かあったのまさか。こちとらほぼ隔離状態で全く知らないんだけど、えっ。
待って待って。パニックになりかけてる。落ち着け俺。いや俺の所為か?俺がバカみてぇに勝ちを求めたツケがとうとうアイツに来た?やめてくれよそんな冗談。マジでやめてくれ。やめろ。
あああ嫌だ、いやだ、いやだやだやだやだ───!
「落ち着いて聞いてね。僕が好きなの、クロじゃなくてグラスだったみたいなんだ……」
「ズコーッ」
「うわぁ一回転した!?」
いってぇ。
「深刻極まった顔するから何があったかと思えばそんな話か!結局グラスは最近どうなんだよ!?」
「そんな話って何だよぉ、僕にとっては一大事だもん!グラスは元気に走ってこの前僕に勝ったよ!!」
「グラスSUGEEE!!」
「僕のライバルSUGEEE!!」
それを聞いて安心した。んでもって嬉しくなった。そっかぁ、やったかぁグラス。時期的にあの宝塚かな?史実通りとはいえスペが負けたのは悔しいし成長を知ってる分意外まであるけど、グラスがその強さを示せたことが自分の事みてぇに誇らしいや。
あー良かった、本当に良かっ………
ん?
「待てスペ」
「なにクロ」
「誰が誰を好きっつった?」
聞き間違いでなければ、俺の出来損ないの耳が誤作動を起こしたのでなければ。ゴミみてぇな頭脳がバグ起こしたのでなければ。
「お前が、グラスを好きになった?」
「……うん」
数拍の後の、意を決した瞳での頷き。真剣そのもので、茶化すだなんて選択肢はとうに消え失せた。
そっか。スペが、グラスの事を。
「そっかぁ」
なんというか、なぁ。うん。
「
「えっ」
「えって何だよえって、えーっ」
「怒らないの?」
怒る?なんで……って、あーあの件か。ジャパンカップ。エルに挑戦された時の。
「そうだよ、あの時勝ったのはクロでしょ?だからグラスの視線を独占して良いのはクロだけで、でも僕は……」
「………」
やっべどこから説明しよ。俺とっくの昔にエルに負けてるから寧ろ権利的にはエルの方にあるというか、そう考えると今になって滅茶苦茶腹立ってきたというか。でも何よりも重要なのはスペの心の持ちようだ。俺に目が眩んで、重要な事を見失うなよ。兄弟。
「勝ちに来れば良いだろ」
俺たちの真理は、生まれた時からそれだけだ。
「俺にも、エルにも勝てば良い。それを諦めない気持ちを見せ続ければ良いじゃねぇか……つーかそも、権利自体が必要無ぇ」
「じゃあ、あの時なんでクロとエルは」
「簡単な話だよ。意地だ」
俺はグラスが欲しかった。エルもグラスが欲しいと言った。
同じモノを求める牡が二頭。そりゃ引き下がれる訳が無い、だからぶつかっただけの話。意地という名の矜持を賭けて、な。
「もちろん失う覚悟はお互いにあった。が、あの時負けたエルは諦めてたか?」
「……ううん」
「それだよ。エルに出来た事が、お前に出来ない筈が無ぇ」
お前だって条件は同じだろ、スペ。覚えてるぞ、あの時お前もまた賭けに首突っ込んで来た事。
お前の意地も、そんじょそこらでへし折れるほどヤワな訳が無い。違うか?
「嬉しいんだよ、スペ。初めてお前を、
「僕は……僕はっ」
こりゃあと一押しが必要かぁ?ったく手間のかかる弟分だよ、俺の方が手助けが欲しい現状だってのn……いや違う、それは正確じゃない。
この状況に、スペにリードさせて
(そうか、そうなんだよスペ)
俺はずっと、お前に支えられてきたんだ。
お前を導くフリして、お前に寄りかかってきた。後ろを着いて来るお前の笑顔に励まされ、そこに前世のあの幼い影を重ねてきたのかも知れない。
いずれにせよ、俺はスペに依存していた。
(だから、これは決別の言葉だ)
断絶じゃない。俺の独りよがりな幻視があっても、それでも俺たちの絆は確かだから。
仲違いではなく、独り立ちの為の。
「“調子乗んな”」
「っ……!!」
「──ってな!」
あの日、ジャパンカップでエルに突きつけた言葉。
ライバルに臆すなというスペへのエール、自分の罪に二の足を踏む俺への叱咤。二つの意味を、意気を込めて。
「負けんなよ、スペ。勝って、勝ち抜いて、帰ってきた俺と雌雄を決するまでさ」
「……うん、負けない。クロに勝つ為に、負けないよ」
それを聞いた瞬間、いつぶりかの自然な口角上昇。あははっ、そうだよそれだよスペ!スペシャルウィークはそうやって、上を見上げて目指さなきゃなぁ!?
「そうだよ、僕は勝つ!エルを下して、クロに勝って、そしてグラスと戦うんだ!不屈のグラスを屈させて、僕のモノにするんだ!!」
「怖ぇなぁオイ!だが俺が通過点ってのが気に食わねぇ!!」
「そこはごめんね!……でも問題は、僕もグラスも同性なんだよなぁ」
「そこで正気に戻るなし。その条件は俺もエルもお前も*3皆同じなんだ、なんなら牝馬と違って引退後はずっと一緒にいれるんだぞ。まぁ実際、俺たちの誰も選ばずに他の牝馬に持ってかれるって可能性は存分にあるがなワハハ*4」
「クロがそれ言うのか……グラスに選ばせたら絶対に一人勝ちするクロがさぁ」
「俺が?無い無いwあり得んwwグラスは俺を友人として好きなだけだから絶対www選ばれんてwwww」
「ねぇ殴って良い?ホラ、今四足歩行じゃないしさ?」
「何が逆鱗に触れたのかコレが分からない」
走る、走る。馬でもウマ娘でも変わらない、俺とスペは隣で走る。今となってはそれが当然、たとえ俺が存在してはならない異物だとしても。
隣でスペと駆け抜けるこの瞬間が、あまりにも心地良すぎたから。暖かく愛おしい、新しい俺の原風景。
(スペ、お前がグラスを好きになってくれて良かった)
さっき言ったよな?安心した、って。
(お前に負けたら、悔しいけど)
本当に悔しいけど。多分そうなったら、悔し過ぎて一晩中叫びまくるけど。そうならないように命懸けるだろうけど、さ。
(お前になら、グラスを任せられるだろうから)
俺が触れ合った、俺のよく知るお前なら。誰よりも優しく、歩み寄れる、強いお前なら。
俺の愛したアイツを、俺よりも確かに愛してくれるだろうから。
「頼むぜ、スペシャルウィーク」
日本も、グラスも。
全てを背負って、輝いて。
クロの姿がまた
隣で、君のそばで、君の姿が消えていく。楽しい時間が終わりを告げる。
多分だけど、クロはユタカさんと一緒にいて。ユタカさんを通じて僕と繋がり、そして僕はイキゾイさんを通してクロと繋がったんだ。
お互いに初めてのタッグで、だからこそ完成しても脆くて。だから、こうやって崩壊する。
魂が、ここだよって、叫んでたのに。
「クロ!」
ああ、もう。超えたい相手なのに、恋敵なのに、背中を押してもらったのに。それでもどうしても、縋り付いてしまうんだ。
それだけ君は、いつだって格好良過ぎて頼もし過ぎた。
「僕、頑張るから!」
君に託された日本を、守り抜くから。
「イキゾイさんと一緒に、負けないから!」
誰にも、キングにもスカイにもエルにも、そしてきっとユタカさんと一緒にいるであろう君にも、グラスにも。
「でも、それでも……」
怖い時はある。
先輩の威嚇とか、レース前の緊張とか。後輩からの意識の視線だって。
そんな時、そんな時に。
「勇気を、ちょうだい!!」
一声で良い。そんな想いが届いたのか、体を解れさせながら振り向いて。
「La victoire est à moi!!」
鋭く輝く、笑顔の日輪。
「意味は
うん。充分だよ。
ありがとう、クロ。
帰ってきた君にきっと、その言葉を送り返すよ。
だから、どうか、元気で。
「いってらっしゃい!!」
「ああ!行って来るッ!!!」
揺れる芦毛、毛先に揺らめく黒の軌跡。
光の中に消えゆくそれを、僕は追いかけ続けるんだ。
『………雲』
夏、天高く登り荒れ狂う雲ではない
秋、流れる風に乾く浮き草の雲でもない。
ヒトが作った、一直線の雲。
『アナタは、そこにいるんでしょうか』
その先端を往く鉄の箱。前はみすみす見送って、今回も?
分からない、分からない。アナタが言い残した、あの謝罪の意味が。今も尚。
『知りたいんです』
アナタがそこにいるのか。
アナタが、何を思ってあの言葉を残したのか。
………アナタがこの
『クロ……っ』
名を呼ぶ。それだけで、温かい。そして痛い。
また、会いたい。
後から考えれば、きっとその飛行機雲に、確かに彼はいたのだろう。
エルに負け、一旦日本に帰っていたらしい彼。ボク達に合わせる顔が無くて、1人で抱え込んだ彼。
スペさんとの再会を機に奮起し、それでいて自身の痛みを隠し通して、再び旅立ってみせた彼。
………ボクも、送り出したかった。そう思ってしまうのは甘えで、だとしても。
「行ってらっしゃいと、
言えば良かった。
そう1人ごちて、私は曇天を見上げた。空は、太陽は、見えない。
前の世にて送り出せなかった痛みは、今や疼きを通り越して麻痺すら催していたのだった。
スペがクロを思う存分ゲロらせるには、積もり積もった話に対して些か時間が足りませんでしたとさ
クロと勇鷹の領域が不完全で暴発した所為です。あーあ