また君と、今度はずっと   作:スターク(元:はぎほぎ)

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展開がマンネリってんのはね、自覚してんですよ
つー訳でお口直しのウマ娘回&転生者回です。前話と呼べる物は特に無い(強いて言うならこちらの最後あたりを参照)のであらすじは無し!


夢か現か

「ううん……?」

 

瞼越しの光が網膜を焼く。突如破られた闇の帳に、私は思わず呻く。

 

「起きろースぺ。もう朝だぞー」

 

声。私の大好きな()()()()()の音。それに鼓膜を叩かれた瞬間、胸の中がポカポカして口元が緩む。

えへへ。お兄ちゃんだぁ。

あれ。枕が濡れてる。

 

「起きろ~…よっと!」

「わふぅ!?」

 

なんて思ってたら、急に襲い来る回転感。先程まで優しく自分を包んでいた布が、打って変わって大変なことに。

とは言っても、凄絶な体験は一瞬だけ。その後、瞼を日光が焼いたのが分かった。敢え無く、目を開けた。

やっぱり、お兄ちゃん。

 

「よう大将さん。このままだと朝飯抜きだぜ?」

「っ!?起きるっ!!」

「わぉ」

 

ご飯はダメ、ご飯は抜かせない!それだけはダメだよ何言ってるの、お母さんとお母ちゃんを止めてよぉ!

 

「だから起こしに来たんだっての、つーかそもそも時間的に遅刻ギリギrって待てや担ぐな降ろせ降ろせ」

 

飛び起きると同時に、パニックのあまり側にいたお兄ちゃんを担ぎ上げて部屋を飛び出す。飛び跳ねるように廊下を駆けて、開いた障子の向こう。

 

「おはよう、スペ。もうご飯出来てるわよ」

 

お母さん。私を産んでくれた人。

 

「休日明けだからって緩み過ぎだよ。ほら、早くしなって」

 

お母ちゃん。私を育ててくれた人。

 

「……降ろしてくんね?」

 

お兄ちゃん──クロスクロウ。私を導いてくれる人。

温かい食卓を囲む、温かい家族。これが僕の日常だった。

 

 

 

 

僕の名前はスペシャルウィーク。今年小学校を卒業したばかりの13歳男子中学生、5人家族だけど、お姉ちゃんが一人立ちしての4人暮らし。

父親はいなくてお母さんは体が弱いけど、お母さんの友達だったお母ちゃんが、お母さんを助けて私達を育ててくれた。だから彼女が、僕にとってのお父さんみたいなもので。

 

「うう……大きくなったのは嬉しいけど食費も比例しちまって……」

「「その分美味しくいただいてまーす!!」」

「ええい喜んじまう事言うな!この可愛い食べ盛りどもめ、たらふく食えー!」

「ティーヌったらもう、張り切っちゃって」

 

米、鮭、漬物、納豆、そしてにんじんステーキ!お兄ちゃんと並んで書き込めば、絶品の料理達はもう空っぽだ。ふう、食後の休憩を……

 

「おう置いてくぞ、学校忘れんなし」

「あわーっまた忘れてたー!!」

「幾ら何でも飯の満足感に浸り過ぎだろ!?」

 

急いで支度!学ランに着替え、鞄に教科書とノートを放り込んでいざ出発。お兄ちゃんと一緒に玄関を飛び出す。

 

「いってきまーす!」

「いってくるー!!」

「「いってらっしゃーい!!」」

 

駆け出す2人、見送る2人。その視線がむず痒い程に暖かくて、それを撫でる朝の風。

太陽の眩しさすら、祝福してくれてるみたいだった。

 

 

幸せ。

 

 

「今日の予定、忘れてねぇよな?」

「なんだっけ」

「オイオイオイ死ぬわお前」

「えー!?」

 

何!?そんなに重要な事あったっけ、と通学路を走りながら思案。その間にも僕とクロは駆ける、駆ける、駆ける、ウマ専用レーンで風になる。

風景は瞬間に、無数の線。

 

「……あーっ!選抜レース!!」

「俺ぁお前の将来が心配でならねぇよ」

 

うああ、トレセン学園に入ってある意味一番大事なイベントじゃん!そんな日に遅刻しかけるとか、僕のバカバカバカ!!

 

「そんなんじゃチーム選ぶのも一苦労だぜ」

「そういうお兄ちゃんは、どこか目星はつけてるの?」

「応!……と言えれば良かったんだが」

 

じゃ、お兄ちゃんも同じじゃん!何をー!?と言い合ってる内に見えてきた校門。って、もうたづなさんが閉めかけてる!!

 

「待って下さい〜!」

「滑り込みぃぃぃっ!!」

「おはようございます♪……とはいえ、色々どうかと思いますよその登校は」

 

ズザーッと割り込む隙間、2人してギリギリの飛び込みセーフ!とはいえ怒られてしまうのも必然で、そこは2人揃って目線を彷徨わせるしか無いや。

でも……どうしようも無く、楽しい。お兄ちゃんとこうやってバカやれる事が、どうしても嬉しい。

 

「急ご、もうHR始まっちゃう!」

「おっそうだな。つーわけで、たづなさん乙っす」

「廊下は走らないで下さいね〜!」

「「はーい!!」」

 

さぁここからも正念場、なんたって担任がウスイ先生だもん。怒ったらおお怖い、一回お兄ちゃんと僕で揃って大目玉食らったから間違いない。

……今回はその原因が僕の寝坊。ってことにならないように、急いで急いで!

 

「遅れんなよスペ、ついて来れっか!?」

 

目の前で、束ねられた芦毛が揺れる。毛先の黒色が視界に揺れ、水墨画ような軌跡を描く。

それを追って、追って。

 

「──当たり前じゃん!」

 

その光だけを追いかけて、背中だけを追いかけて、ここまで来たんだから。

チャイムが鳴る寸前、駆け込んだドア。僕達の教室、学舎(まなびや)。ああ、皆がいる。僕たちを待っててくれている。

 

「あちゃ〜、また急いじゃって」

「全く、そんなんじゃ先が思いやられマァス!」

 

机に寝そべりながら揶揄ってくるスカイ。やれやれと肩を竦めるエル。

 

「いやスカイ、授業中に寝るお前が言えた口じゃないだろうお前……」

「アーッ!ハヤネハヤオキ、ダイジ!」

 

苦言を呈するキングと、彼の方に留まって追従するマンボ。

そして。

 

「……ふふっ。理由がどうであろうと、お寝坊はめっ…ですよ?」

 

グラス。

皆が、皆が揃ってる。ここにいる。

こんな幸せがあるか。

 

「たはー。ここまで論われるんじゃ、二度と遅れられねぇや」

 

そうボヤきながら、グラスの方に「なぁ」と返すお兄ちゃん。グラスは、一層深く温かい微笑みで応じる。

うん。お似合いだ。これがあるべき姿で、そしてだからこそ───

 

 

 

 

 

 

「───夢、なんだね」

 

 

分かってしまった。現実じゃないって。

途端、ひび割れる世界。そのまま壊れ、崩れ、暗闇の中に消えていく。

 

僕は“お母さん”なんて知らない。だから、お母ちゃんと一緒に僕を育てて欲しかった。

クロはお兄ちゃんじゃない、母親が違う。だから、今度は同じ家に生まれて共に育ちたかった。

僕達は男の子じゃない。今は、ウマ娘という女の子だから。

 

そんな願望が生んだ夢だって、分かってしまったんだ。

 

「でも、居心地良かったろ?」

 

消えていく夢の欠片を足元に、未だ崩れないクロ(お兄ちゃん)が、手を差し出してきた。もう一方の手で彼は今、同じく無事なままのグラスと手を繋いでいる。

 

「もう良いだろ。よく頑張ったよ、お前は」

 

あの日と同じように、三人で……三頭で居ようと。

誘ってくる。

 

「ここなら、俺もグラスも一頭(ひとり)だけを選んだりしない。お前だって選んで、愛せる」

「ずっと欲しかったんでしょう、ボクが?」

 

誘き寄せる。抗いがたい欲望を盾に、引き摺り込もうと。

 

「「得られなかった全てが、手に入るから」」

 

その、手を。

 

僕、は。

 

 

「行けないよ」

 

振り払った。幻影に過ぎない彼等を、その影を引き裂くように掻き消した。

 

「だって、まだ、終わってないもん」

 

現実で、皆が苦しんでる。クロが呻いて、グラスが泣いてる。

それが耐えられない。耐えられないまま、1人だけ逃げてられない。

 

「まだ、任されたままだもん」

 

日本を。グラスを。

クロから託されたそれは、意志は、僕の中でまだ生きてるから。退けないよ、今更。

クロとグラスが、幸せになるまでは。

 

「……終わらないぞ」

 

掻き消した破片が喋る。今度はクロでもグラスでもない、嘘偽りの無い自分自身の声で。

 

「それじゃ、何も残らない。(おまえ)は何も得られない」

「だから、それで良いんだってば」

 

聞くに耐えない傲慢な理論。良い加減苛立ちが勝り、蹴り飛ばすと宙を描いて消えた。

何も残らない。それはそうだ、当たり前だ。

グラスの心はクロの物で、それが当然だから。

グラスだけじゃない皆が、()()よりも()()を待ってるなら。

そこに行き着く道こそ、皆がそこまで行けるよう守る事が、僕の。

 

 

 

「スペちゃん……スペちゃん?………スペちゃん!」

 

その声に瞼を開いた。ほら、やっぱり夢だった。

汗でびしょびしょになった布団が、背中の不快さが、それを証明している。

 

「大丈夫?だいぶ魘されてたから……」

「……スズカさん」

 

クロに次いで憧れる先輩。そんな私の同室相手に心配させてしまったようで、心苦しかった。

けど、許されるなら……甘えさせて、もらいます。

 

「ごめんなさい。ちょっと付き合ってもらって良いですか」

「ええ、構わないけれど。何すれば良いのかしら?」

「いえ、スズカさんはいつも通りにお願いします。僕はそれに勝手についていくだけなんで」

 

時計を見る。早朝の日の出前、朝練にしても早い時間帯。

でも、スズカ先輩がそれを待たずに自主練に行ってるのも知ってるから。

 

「併走、お願いします」

 

朝の空気で、頭を冷やそう。

流れる風で、頭のモヤモヤを吹き飛ばそう。

覚悟を決める為に。

 

(僕がやるんだ)

 

クロがいなけりゃ、僕がやる。

僕が、なんとかするんだから。

 

 

 

 


 

 

 

 

ウマ娘の世界は複数存在する。

それはテイオーが奇跡を起こした世界線だったり、はたまた無敗三冠を勝ち取った世界線だったり。

他にも、ゴールドシップが宝塚記念を三連覇している世界だってあるかも知れない。エアシャカールが、古馬になってからGⅠ勝利に返り咲いた世界だってきっとある。

そんな数あるウマ娘の世界の、とある一つにて。

 

トレセン学園は、中庭はその日。少々無視出来ない喧騒と注目にあった。

 

「キャロットマンX、参上!!」

「「「エックス〜!!!」」」

 

叫ぶはキャロットマン───のスーツを纏ったビコーペガサス。トレセン学園を卒業した後、俳優兼スーツアクターとなっていた彼女の動きはキレの塊と言っても過言ではない。

そんな彼女が演じる最新ヒーロー、キャロットマンXの突発的ヒーローショーに歓声が上がった。トレセン学園は中等部から、そして飛び級入学すら存在する以上、年齢的に特撮ファンは多く在籍してるのだ。

はてさて、そんなヒーロー推参に対し。相対するヴィラン役はといえば。

 

「ふっふっふっ……どんな攻撃も返してやろう!!」

「「「ギャァー!!?」」」

「………(´・ω・`)」

 

なんか、もう。

それはそれはキモい姿になったバルタンであった。オルフェノクに連れてこられた彼であった。

具体的に言うと、上半身だけ等身大の人型のまま、下半身はシロアリの女王みたいな形態になってた。中々キモいので検索は自己責任でお願いします。

もちろん、悲鳴が上がった。

 

「不味い張り切り過ぎたか」

「やっぱその姿ダメだぞ!対峙して改めて思うけど、そのデザインは日曜朝じゃなくて深夜とか限定公開作品じゃないといけない奴だ!具体的に言うとアマゾ○ズとかBL●CK SUNとか!!」*1

「……戻るわ(´;ω;`)」

 

従来の人型に戻ると、観客は安堵したような気配と共に再度応援の姿勢に戻る。なんだかんだ、皆キャロットマンの活躍が見たいのである。

 

「気を取り直して、いくぞ怪人バルタン!」

「良いよ来いよ!俺はキャロットバズーカ1発喰らったら死ぬぞぉぉぉ!」

「死なさない!生かして改心させるんだぞ!!」

「あっそういう方向のヒーローなのか」

 

再び歓声、盛況。今日もこの世界のトレセン学園は平和に、その時を刻む。

面接室の窓から見下ろしていたオルフェノクは、和やかに微笑んだ。そうして見遣った先には席に就いたルドルフと、そして。

 

「アイツ割とノリ良いなぁ」

「……大丈夫なのか。異星人なんだろう、こんな形で公に出て」

「その点に関しては心配無用だ。紆余曲折、様々な経緯を経てこの日本トレセン学園は不可侵地域に認定されている。国連から」

「何があったらそうなるんだ。無茶苦茶だ」

「ぐうの音も出んが、まぁ良いだろそんな事は」

 

ライスシャワー。だが今現在、その体の主導権を握っているのはライスではない。

 

「ライスの様子が変だと聞いて、連れ(バルタン)巻き込んで来てみれば……乗っ取られてるたぁなぁ」

「やめたまえ。本人としても不本意らしいのに人聞きが悪いじゃないか」

「それが嘘じゃなければ良いがね……さて」

 

対峙する両者。交わされた視線が火花を散らしたのは錯覚か、それとも。

 

「ラストアンサーとやら。尋問の形式になるが、お前がライスの身体へ入るに至った経緯を聞かせてもらおうか」

「分からない」

「何も?」

「何も、だ。気付くとこうなっていた」

 

オルフェノクの問いに対し、申し訳なさそうに首を横に振るライス、否ラスト。向かい合うルドルフはキリリと眉を尖らせ──次いで、フッと和らげる。

 

「ラスト君、ライス君は私達の大切な仲間だ。そして君にとってもきっとそうなのだろうと思う」

「……そうだ、な」

「だからこそ我々には情報が必要だ。我々にとって未知、そして君にとっても未知らしいこの状況を打破するには」

 

霊的な物は存在する。マンハッタンカフェに寄り添う“お友達”然り、マチカネフクキタルを導く“シラオキ様”然り。未だ解明されていないだけで、存在そのものは既にオルフェノクもルドルフも認知していた。

だが、現実問題として知り合いのウマ娘の精神が侵されてしまったともなればそうもいかない。早急な理論化と解決が急がれた。

 

「……俺が知っているのは、俺自身のプロフィールぐらいな物だ。まずはそれで良いか」

「助かるよ」

「俺の調べた限りじゃ、このウマ娘世界に“ラストアンサー”という日本ウマ娘は有史以来生まれた事が無いし、俺の生まれた世界でもそんな馬は存在してねえからな。自己紹介も貴重な情報源だ」

 

それを聞いてから、ラストアンサーは何かを咀嚼するように一旦口篭り。数拍置いてから、口を開く。

 

「まず、俺は前々世が人間だ」

「おう初手から中々ドデカいのをブッ込んできたな」

「馬としての前世の記憶もある」

「……ふむ」

 

じっとその瞳を覗き込み、ルドルフは真偽を探った。揺れ無し、惑い無し。鑑定結果、シロ。

オルフェノクを一瞥。首肯。彼もまた潔白判定を下したようだ。

 

「という事は、ウマソウルを自覚したまま転生したパターンか。我々の世界でも時たま報告事例がある……が、成長するにつれて薄れていくのが常だ。君のウマ娘としての年齢は何歳なんだ?」

「15歳の時に本格化して、デビュー5年目になる」

「トレセン在籍中にこっちに来たのかよ!?元いた世界は今頃大騒ぎなんじゃねぇか、お前がいなくなって」

「問題無い。俺は元来()()だから」

 

瞬間、ルドルフの目の色が変わる。面接室の空気が明らかに変わったのを、その場にいた誰もが感じ取った。

皇帝が、()()()のだと。

 

「っ……」

「ヒューッ……神威は衰え知らずってか」

「凱夏君、これより許可無しでの君の発言を許さない」

「……イエス、マイロード」

 

オルフェノクをその本名で以て制し、ルドルフは視線をラストの方向へ。焦土色の虹彩を射抜かれた彼女はといえば、先程から冷や汗が止まらない。

 

「ラスト君。君はウマ娘だ」

 

そんな中で、ルドルフが発した言葉は。

 

「前世なんて関係ない、今の君はウマ娘なんだ。そうである以上、異物である筈が無い」

「……で、でも」

「少なくとも、君の知るライスシャワーは絶対にそんな事を思う子ではない──違うか?」

 

思わず口を噤んだ。ラストアンサーはそうせざるを得なかった。

 

「君の事情は未だ知らない、だがこれだけは言える。もし君がライス君を想うのならば──彼女が想う君を貶す事など、君自身にすら許されない!

「!!」

 

ハッとしたように目を見開くラスト、オルフェノクのもまた思う所があるのか、ピクリとだけだが反応を示した程。

 

「だから、ラスト君。悲しい事を言わないでくれ。私からすれば君もまた、“幸せにしたいウマ娘”なんだから」

「──は、い」

「……すまないな、萎縮させてしまった。今暫く休憩にするとしよう」

 

楽にしていてくれ、とだけ言ってルドルフは席を立つ。暫しの沈黙が部屋を包み込み、窓から聞こえる騒ぎだけが微かに空気を震わせる時間。

破ったのは、オルフェノクだった。

 

「おっかねぇよなぁ、ルドルフって」

「…会長には、敵う気がしない」

「おうおう、奥分ソウルいと恐ろしや」

「……転生者なのか?お前も」

 

オルフェノクはウインクで応答。道理でとばかりに、ラストはライスの姿で安堵の溜息を吐く。

 

「少し気が楽になった。同類がいるなら話しやすい」

「同類ってのは言い得て妙だ、かく言う俺も自分を異物だと思ってたクチだからなぁ。ルドルフの野郎、だから聞こえよがしに俺の前で説教しやがって」

「会長はどの世界でもやはり会長、という訳かな。生粋のやり手だ」

「全くだよ」

 

たはは、と笑い合う2人。お互いがお互いの胸襟を開けた、確かな感触。

故にこそ、立ち返る。こんな事態になった、そもそもの元凶と疑問に。

 

()()ライスは……今、どこにいる?」

「さぁてなぁ」

 

この世界のライスシャワーを取り戻す事、その魂に身体を返す事。だが肝心のライスの魂は、その自我は今何処に在るのか。ラストには、それが気掛かりで仕方なかったのだ。

対するオルフェノクの返答は、芳しくない。

 

「説その1、普通にお前(その体)の中にいる。だがお前が知覚出来ない以上は何らかの休眠状態にあるっぽいし、仮に目覚めさせたとして今度はお前がどうなるか分からん」

「俺は二の次で良い」

「そういう思考を今ルドルフに叱られたばっかだろうが。んで説その2、お前と入れ替わる形でお前の体に入ってる」

「えっ。俺の元の体での最後の記憶は頭蓋が凹む感触なんだが」

Holy cow! I'm talking to a dead man(なんて事だ、もう助からないゾ)……この後に第3、第4の説と並んでキリが無いんだな。現状としては、魂そのものが消えてない事を祈るしか無い訳だが」

「くそッ!!」

 

苛立ち紛れに机を叩く。ラストは自身がライスを危険に晒している可能性が我慢ならず、オルフェノクもそれを咎めない。

 

「……今、分析班としてタキオンとシャカールを呼んでる。それぞれアメリカとアイルランドにいるから時間は掛かるが、全てはアイツらが揃ってからだな……いや待て、もう一つあった。転生者掲示板には入れるか?」

「掲示板?何だそれは」

「知らんか。入り方は後で教えるよ、役に立つかどうかは知らんが“同類”どもが(たか)り合って情報共有してるから」

「言い方が蠅のそれなんだが」

「実際烏合の衆だから……まぁ無論俺もなんだけど」

 

八方塞がり、手詰まり。現状を言い表すその言葉に、ラストの脳が埋め尽くされる。

どうする。どうすれば良かった。せっかくライスを助けれたのに、今度は殺すなんて嫌だ。

 

「……っ」

 

その時、ふと思い浮かんだ銀の髪。彼なら、彼女なら。やはり彼が俺だったなら、こんな事にはならなかったんじゃ無いのか。

 

「助けてくれ、クロスクロウ……!」

 

自分に出来なかった事を全て成し遂げてみせた存在。例え後輩でも、縋り付きたくて仕方がなかった。彼はここにはいないというのに。

漏れ出た呟きは、虚しく消え───

 

 

 

「オイ待て」

 

 

───る事は無く。

オルフェノクの地獄耳が、それを拾い上げている。彼の力強い手が、ラストが司るライスの肩を鷲掴んでいる。

 

「お前、今何つった」

「何、を」

「誰の名を呼んだ……!?」

 

急変した相手の様子に、ラストは目を白黒させる事しか出来ない。だがそれでも、求められる答えは明白で。

 

「クロス、クロウ」

「!!!」

 

噴き出したのは怒気か、それとも狂喜か。

ラストには分からない。分かるのは、オルフェノク自身にのみ。

それでもこの瞬間。バラバラだった別のパズルのピースが、奇跡的に噛み合った。

そんな音が聞こえたのは、確かな事実だった。

*1
ネクサスなら通ってた(深夜31時半)




さぁ、ラストスパートだ
競走馬編の終幕へ
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