また君と、今度はずっと   作:スターク(元:はぎほぎ)

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《前回までのあらすじ》
拓勇鷹となんとか領域開花までこぎつけ、彼を介して夢の中でスぺと再会したクロス。成長した義兄弟に元気付けられ、彼は再び舞い戻る──の、だが?


競走馬編-踏み外してでも掴みたかった【フォア賞】
【Ep.90】合流!


『アーッ、エル!ミテキタゾ!!』

 

馬房(へや)に舞い降りる小さな羽根。やっと帰って来タ、今となってはここでの唯一の親友。

 

『おかえりなさい、マンボ!どうでしたカ?』

『ン~トネ、ツヨイウマ、ソコソコイタ!デモエルホド()ジャナイ!エルガサイキョー!!』

『おお、それは朗報デス!このまま鍛え続ければエル、敵無し!』

『ユーショー、カイショー、エルアッショー!!!』

 

他のレースへ偵察に行ってきたマンボと一緒にはしゃぎマス。エルもマンボもこの土地にも空気にも慣れきって絶好調、えーとグラスから聞いた言葉によれば確か…|ジュンプーマンボ《順風満帆、正しい読みは“じゅんぷうまんぱん”》、でしたッケ?

 

『ワハハ、オーシュウ(欧州)はスゴイって聞いてたんデスけどね!手ごたえゼロデスねー!!』

 

無敵の快進撃デェス!ワハハハハ!!!

 

『アーッ!コノママ()ツヅ()ケテ、カエッテ、クロストケッチャコ(決着)!ケッチャコ!』

 

ワハハハハhぐぅおはァ?!

 

『エルー!?!!?ドシタ、ドシタ?!』

 

勝手に()()して崩れ落ちるエルに、駆け寄る…羽ばたき寄る?ともかく、急いで寄り添ってくれるマンボの心が逆に痛いデス。

いやだって、その…デスよねぇ、クロデスよねぇ。待ってるんデスよねぇ彼、一足先に帰って。

うぅ……うぅぅ~~~~!!!

 

『モシカシテ、クロスニオコ()ッタコト、マタコーカイ(後悔)シテル…?』

 

『……うん』

 

あの日のレース後、項垂れるクロス‐サンに敢えて怒ったエル。それでまた立ち上がってくれると思って、願って、でもそうはならなかった。

エルが折っちゃった。クロス‐サンを無闇に追い込んで、日本に帰らせちゃったんデス……。

 

『ン~…ショーガナイトオモ()ウゾ。アノママ()()ンデタラ、クロスハ、オソ()カレハヤ()カレカエ()ッテタダロウシ』

『それでも、押し付けてトドメを刺したのはエルじゃないデスか!死体蹴りしちゃった!うわーん!!』

『……イッカイ(一回)ハナ()レテ()()クノハ、()ハンダン(判断)ダトマンボハオモ()ッタケドナー……』

 

クォーッ!誰が慰めてくれようと、マンボが励ましてくれようと悔やみたいデェス!クロス‐サァン、1回で良いカラ謝らせてくださいよぉ!

 

『何でもしマスからァ……』

『ん?今何でもするって言ったよな?』

 

ええ、ええ言いましたトモ。仲直りできるなら、クロス‐サンを元気付けられるなら何でもやってやりマァス。グラスの事以外なら!

 

『そりゃ何よりだ。俺に気兼ねして譲るなんて真似してたら逆にブチギレるわ」

『そもそもグラスに失礼デェス』

『だなだな』

『ア…エ、ナンデ……⁉︎』

 

どうしたんデスかマンボ、急にキョドっちゃって。シーラちゃんでも見マシタか?

 

『マンボー?』

『そっとしておいてやってくれ。死ぬほどビックリしてる』

『みたいデスn……ケ?』

 

あれ?エル、今誰と———

 

『———恥ずかしながら、帰って参りましたってところかね』

『あ、Ah……?!』

 

思わず見上げた馬房の外、ニンゲンに連れられそこにいたのは憎っくきアイツ。大好きな、最強のライバル!

 

『『クロス!!!!』』

『ようエル、んでマンボ。また走ろうや』

 

 

 


 

 

 

いやー!戻って来ちゃったねぇ恥知らずにも。

という訳で、四半年ぶりのフランスと相成りました俺ことクロスクロウ。ただいま、エルマンボ組とテクテク歩いております。

 

『クロス-サン!よく帰って来てくれた、本当によく帰って来てくれマシタ!』

『喜び過ぎィ!ちょっと落ち着いて、どうぞ』

『だってだって、だって……うわァァァァん!!』

「ひぇえエルコンが暴れ出した」

「どうどう」

 

えええ泣くレベルゥ!?エシディシよろしくそれで落ち着いてくれりゃ良いけど、そんなレベルで寂しい思いさせちゃった感じか!

そりゃあ、んー……マジで申し訳無いなぁ。俺が情けないばっかりに。

 

『エルガ、オチツクマエ()()クケド。ドウシテモド()ッテコヨウトオモ()ッタンダ?』

『そりゃあアレだよ、マンボ。さっき言った事そのまんまだ』

 

また走ろう、と。またお前(エル)と競う、その為に来た。そのつもりじゃなきゃ、わざわざこんな遠い距離を二往復もしないっての。

……と、伝えてみたところ。

 

『ク、クロス-サ……ウウン、クロ…!!!』

『お、おう。どした』

『良い奴過ぎマァァァス!!』

『エルストップー!!』

「ひぃぃぃ暴れるぅぅう?!」

「止めルルォぉおおぉ!!!」

 

うわー一層爆発した。感極まる通り越して俺に乗っかろうとして来たまである。あーヤベェヤベェこれは事故不可避ですね*1

とまぁ、そんな危難も帯同員の方々の尽力により回避し。エルが落ち着いたところで、仕切り直しと洒落込もうか。

 

『良いかエル、お前の為ってわけじゃない。俺が再挑戦の道を選んだのは、(ひとえ)に俺個馬の事情があっての事だから感謝すんなし』

『で、でも……あんな酷いこと言ったエルと、また仲良くしてくれてる事には変わりないデェス』

『酷い事?ああ、アレの事か』

 

効いたなぁ、ホント効いたよあの叱咤は。

あの時俺は、悔しがれなかった。いや悔しい気持ちはあったんだが、それ以上の複雑な気持ちがそれを許さなかった。

……そんな甘さが、あの情けない走りを生んだんだ。雑念がある時点で、レース(あの場)に立つ資格なんて無かったんだ。

 

『俺の落ち度を、お前が気付かせてくれたんじゃねぇか』

 

同じレースを走ってない。そんな奴とは、もう良い。

………マジで、効いたよ。あの言葉、俺の中であんなに深く刺さったままだったんだな。グラスに刻まれた裂傷を、お前にこじ開けられるだなんて思いもしなかった。

だからこそ、俺は今ここにいる。

 

()()()()……と。それを示す為に来てんだよ、俺は」

 

だからな、エル。俺が帰ったのは、無様にへし折れたのは、間違ってもお前の所為なんかじゃない。寧ろ逆、お前のお陰なんだよ。

 

「お前に叱って貰えたから、俺は強く立ち上がれたんだ」

 

覚悟を、決める為に。

俺を形作ってくれた総てに、今度こそ報いる為に。

 

 

『……………』

 

ん?今度はどうしたよ、エル。また黙り込んじまって。

でもさっきと違って半狂乱になる兆しは無いし……おいマンボ、どうしちまったんだエルは?

 

『タエテル』

『耐えてる?』

『5ビョー、マッテヤッテ』

 

5秒?それでなんとかなんのか?それなら良いんだが、帯同員さん方も混乱して……あっ、目に光が戻った。おはようエル。

 

『──プハーッ!危なかったデス、()()()トコでした』

『そりゃ()()()()寝てもいられねぇ話だな。なんつって』

『グラスを先に好きなっていて良かったデス……というかグラスがアナタを好きになった理由がよく分かりマシタ、ええ』

『スルーされたぁ……ん?ああそうだな、グラスは俺の大親友だかんな!』

『やっぱ蹴って良いデスか?』

『理不尽ッ!!』

『アーッ……マダキヅイテナイトハ……』

 

えっ、違うの?俺とグラスって(はた)から見たら親友でもなんでもないってマ?ちょ、それは……エルの叱咤より効くっつーか、うわ死にてぇ。心壊れそう。壊れる。

まぁ仕方がない、それも含めて1からやり直しだ。

さぁ着いた着いた練習コース、ここからが問題だぞ!

 

『併走デェス!クロ-サン、(あし)は落ちてませんよね?』

 

ふっふっふっ。この後に及んで侮ってくれるなよエルコンドルパサー。

あれから4ヶ月弱。俺がどれほどの進化を経たか、俺にだって分かんねぇんだからよ!!

 

 

 

 

 

『ホボ()ワッテナカッタナ……』

『クロー!?!!?』

 

ダメでした!(テヘペロ

併せ馬の結果は大敗北。自分を磨き続けたエルと実質サボり期間を経た俺で差がついた……という訳でもなく、それ以上に。

 

『ゼェ…空気も、はぁ…地面も、ゲヘ……合わん』

 

やっぱりというか何というか、フランスの環境そのものが俺の身体に合わないらしい。慣れてないだけならまだ良いんだけど、でも前の遠征でいっかいしってるうえでこのザマなのがなぁ……どーしよ?

 

『や、やっぱり教えマスよ走り方。意地張ってる場合じゃないデスよ』

『……恥を忍んで頼もうかなぁ。手段選べる立場じゃねぇしなぁ』

『良いデスヨー!テキに砂糖を送るのも最強デェス!!』

『アッ(察し)』

 

こんな有様じゃ勝てない。勝てなきゃ価値が無い、示せない。それじゃあいけないんだ、俺は。そんな不義理は許されないんだから。

その為なら、エルにだって何だって縋り付いて───

 

『ズッて踏み込んでグバッて掻き分けてボーン、デェス!!』

『ダメだこりゃ』

『エルハカンカクハ(感覚派)ダカラ……』

 

 


 

 

『拓さんは明日に合流して調教に参加、宮崎氏も出張ついでに明々後日立ち寄る予定です』

『分かっとる』

 

クロスが(こっち)へ再訪してから早3日。やはり調子は芳しくなく、遠征の疲労も相まって適応は以前より遅い。

 

(勇鷹が早よ来るのは不幸中の幸いやが、なんやねん宮崎。ついででアイツが来るもんか、どうせクロスの様子を見る為に欧州での仕事を取り付けただけやろが)

 

次走の予定はフォア。最終目標を凱旋門にした以上、ロンシャン馬場に触れる機会は出来る限り多くしておきたかったが故に。

だが───足りない。

 

「時間も、根本の適性自体も」

 

ロンシャンでなければ大丈夫だったかも知れない。だがこれまでの傾向を見るに……クロスクロウは、ロンシャンの芝に対してだけはかなり相性が悪い。致命的、そう呼ばれる一歩手前の領域で。

 

「果たして()()までにどこまで伸ばせるか……やなぁ」

 

距離適正の延長ならまだしも、馬場適性の改正は未知数だ。なんせスタミナやペース配分の問題ではなく、馬自身の感覚や足運びという、人間の介入し辛い側面が大き過ぎる。クロスがいくら賢くても、その帳尻を合わせる難易度は計り知れない。

それを何とかしてこその調教師だ、と以前の臼井なら言えたのだろうが……如何せん以前の遠征を踏まえて、彼は微塵の楽観視も出来なくなっていた。

どうする。ここからどう修正すればエルコンドルパサーに、凱旋門賞に勝てる?

 

「あっ、テキ。速報です」

「今度は何や」

「いえその……美鶴ちゃんも、予定が空き次第いらっしゃるとの事で。雄馬氏には内密で」

「はぁ〜〜〜?」

 

だというのに、課題は山のように積み重なり。彼の心に、一時の休息も与えはしない。

馬と馬主の狭間で、臼井という名の調教師は揉まれるしか無いのだ。

 

 

だが。

 

「お前がやるって決めたんなら、俺のやる事は一つよな」

 

懸命に駆け抜ける芦毛の鬣に、夢を見る。微かな可能性に夢を懸ける。

小器用で、人懐っこくて、散々困らせてくれた愛馬。

 

「日本初の栄光を……獲らせたらな、なぁ」

 

その背にどうか、その頭上にどうか、かのトロフィーを掲げんことを。

ただ願い、尽くす。

*1
現実逃避




エルの可愛い絵を眺めながら書いたら筆が進みました
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