また君と、今度はずっと   作:スターク(元:はぎほぎ)

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《あらすじ》
昔々、あるフランスにエルが遠征してました。
するとそこに、日本から大きなクロスクロウが流れて来たではありませんか。これ幸いと、エルはまたクロと走れる事を喜びましたとさ。
ついでに臼井調教師も地味に脳を焼かれてましたとさ。めでたくないめでたくない


【Ep.91】見栄!

うーーーーーん……上手くいかん。

こっち(フランス)に来てから、なんつーかな。身体が心について来ないのよな。体調が悪いかと言われるとそーでもなく、しかし結果として意気ばかりが空回りしてる印象。実際、調教タイムは芳しくない。

天才勇鷹が乗ってくれているにも関わらず、だ。

 

「そこまで馬場が合わないのか」

『すんまそん……』

 

いやホント。“すみません以外の言葉が思いつかないよ”状態ですわ、LESSON5忘れた感じ?そういやアレも人馬の物語だったね、俺達も黄金の回転とか出来ねぇかなぁ。

……生沿君とだったら、出来たかなぁ。

 

(て、何考えてんだ俺!!)

 

忘れるな!今俺に乗ってくれてるのは勇鷹さんだぞ!彼が貴重な時間を割いて俺みたいな駄馬へ跨ってくれているのに、他の騎手と比べるとか失礼過ぎんだろ!?

例えその相手が生沿君だとしても、奥分さんだったとしても。他の人の事を考えてる余裕なんて無い筈だ、クロスクロウ……!

 

(そもそも漫画の真似事なんて無理に決まってる。落ち着いて、現状を見直そう)

 

そう思いながら見つめたのは下。項垂れた訳じゃない、ただ地面を見た。俺が上手く動けない、その原因を。

 

(エルは適応したんだ。理論上は俺にだって不可能じゃない筈)

 

俺に才能は無い。だから俺に出来る事はエルにも出来るし、しかしエルに出来る事が俺にも可能とは限らない。

それでも、同じサラブレッドである以上は骨格と筋肉配置は同じ。ならそれをトレースするぐらいは出来る筈、“理論上”と言ったのはそういう所だ。

 

(んーと、あの時エルの爪先は……)

 

その一念で、記憶をひっくり返して総浚い。ふむふむ、あの時はあーでこの時はこーで……む、この動きは馬関連の創作で稀によく聞く“蹄で地面を掴み泳ぐような動き”って奴か?あの話マジだったんだ、ダートでの走り方って。後は俺にそれが出来るかどうか、エルがロンシャン芝で力を発揮出来るのは本当にこの走法が(かなめ)なのか否か。

 

「……もう一度頼めるか、クロス」

『おけ、ちょうど一回検証したかったとこだし』

 

時間は限られてんだ、その中にトライアンドエラーをパンッパンに詰め込む他ありゃしない。例えるならそう、天井まで行けないジュエル数でサポカ完凸を目指す気分……!

 

と、そう意気揚々と踏み出そうとしたその時の事。

 

「ああそうだ、勇鷹さん。ついさっき連絡が入ったんですけど、明後日の調教は見学者一名が来ます」

『宮崎氏かい?』

「いえ……ああ宮崎さんではあるんですが、馬主の方じゃありません」

 

何だい助手君、ただでさえ予定カッツカツなんだから連絡事項は手早く……と思ったのも束の間。

宮崎氏じゃない方の宮崎が一名って、おっさんじゃない方の宮崎って、それってつまり……

 

「宮崎美鶴さん。宮崎雄馬氏の娘さんですね」

 

美鶴ちゃん、まさか1人で来仏したん!?

 

 

 


 

 

 

1人で動くのには慣れていた。

壊れてしまった、壊されてしまったお母さんを守る為に。その為に、まず、自分だけで動けるよう意識して生きてきた。始まりはただの散歩、買い物、近所付き合い──と言っても元気に挨拶するだけ──とか、家事も練習して。それなりに自己管理の訓練を積んできたつもり。

今となっては、電車でちょっとした旅も出来る。山姥から解放されてからは、思うように動けなくなってしまったお母さんに代わってお爺ちゃん達が私の保護者になってからは、行動範囲が一層広くなって。1日で行ける範囲でなら、なんとかなるレベルに。

宮崎雄馬(クソ親父)についても、クロスクロウの活躍を追う上でも、そのスキルは役に立った。お爺ちゃん達に内緒で競馬場に足を運び、その活躍を追えた。悔しいけど──楽しかった。

 

そんな私でも、さすがに海外への一人旅は不安まみれの一言で。しかも今度ばかりはお母さんやお爺ちゃんに無断で行くわけにも行かず、かと言ってクソ親父は今回は頼れない。

頼るわけにはいかなかった。

もちろん、お爺ちゃんとお婆ちゃんには反対されたけれど……

 

「私に止める権利は無いわ」

「え……」

「梓!?」

「美鶴。よく聞いてね」

 

意外にも、一番反対してくると思ってたお母さんが、むしろ後押しするかのように。

 

「あなたがあの馬を追いかけるのなら、それは他の誰でもないあなた自身の意思で。暴走する(雄馬)でも、()()させた私の為でもなく、あなたの思いを最優先で動きなさい」

 

それを聞いた瞬間、分かってしまった。わたしの知らないところで、お父さんとお母さんは会ってしまったんだ。

会って、お母さんがお父さんを突き動かしてしまったんだって。

 

(どうしてこうなるの)

 

確かに、最終的に再遠征を選んだのはクロスだ。でもそれは、お父さんが“好きに走らせる”事と“無事に引退させる”事の2択で、前者を選びたいという意志をクロスの目の前で発露した上での事で。

そんな形振り構わない状態になるまでお父さんがなった原因が、お母さんにあるだなんて。信じたくなかった。

 

(これじゃ、私の両親のせいでクロが)

 

追い詰められる。追い立てられる。

もしこれで、クロが“選んだ”のではなく“選ばされた”のだったら。私達の望みに応えてきてくれた彼が、本当は遠征したくないのに父の圧に屈させられたのなら。

 

(私が、見定めなきゃ!)

 

クロを見に行く。彼が楽しそうに走れているか、そうでないなら引き戻す。お父さんを殴ってても帰らせる。

その為に、遠征が決まった日から動いた。お母さんが反対しなかった事でお爺ちゃん達も折れて、結果パスポートを取るのも渡航準備もすぐに出来た。変に事態を拗らせないよう、お父さんに勘付かれないようにするのが一番大変だった。

 

「こんな親で、ごめんね」

 

出立前夜、病床の母から告げられた言葉。込み上げた怒り、同情、その他諸々の複雑な情。

でも、何よりも。私はあなた達の一人娘だから。

 

「私なら大丈夫だよ」

 

親の不始末を付けれるほど、出来た子供じゃないけれど。

守りたい家族の為に動くのは、私にだって出来るから。

 

 

 

「で、来たと。旅費は母親持ちか?」

「いえ、私なんか年収5000万の宮崎商事ゴースト社員ですので。ほら、馬主引き継ぎ契約の時の*1。渡航費はそちらから工面しました」

「……真面目に働いてる市井のサラリーマンが聞いたら憤死しかねへんぞ、その家庭事情」

 

ぐうの音も出ない。でも使える物はなんでも使う、そのつもりでここに来た。外聞なんかに構ってられない。

そんな私の目を覗き込んで、臼井さんは。

 

「……やっぱ斗馬さんの血よなぁ、この鋭利っぷり」

「何でしょうか?」

「気にせんでくれ。ええわ、ついて()ぃ」

 

事前に許可を取ってあったとはいえ、何かしらを気に入ってもらえたらしく。促され連れられた先に見えたのは、広い広い練習コース。

そこに打ち立てられた柵の向こう側に私は、ようやく愛馬の姿を認めたのだった。

 

 

 


 

 

 

「はじめまして、拓勇鷹騎手。生沿さんから話は伺ってます」

「こんにちは、美鶴ちゃん。僕の方も生沿君から聞いてるよ」

 

はれま、御二方って初対面だったのね。にしても生沿も縁が増えたなぁ、何よりだぜウンウン*2

………って!それどころじゃねぇよ俺のバカ、このバカ馬が!!

 

「………っ」

 

見てくる、めっちゃ見てくる!?美鶴ちゃんに何か恨まれるような事したっけ。えっヤベェ今度こそ心当たりゼロなんですけど!取り敢えず土下座しとこうかな、ああそっかもしや以前無様な成績をここで残してるから再遠征自体に懐疑的なのか!凱旋門と秋天を選んだ時も、最後まで迷ってたもんな美鶴ちゃん。

つー事は……ここに1人で来たのって、まさか「走れ。不甲斐ないザマ晒したら帰らせる」的な感じ?うわうわうわぁ……!(語彙喪失)

 

「ところでだけど、どうして雄馬氏に黙ってまでしてここに。本当にただ見学しに来ただけなのかい?」

「そうです───クロが楽しく走れていれば、ですが」

 

楽しくとは。それもう哲学の領域に片足踏み込んでない美鶴たん?俺が楽しいかどうかなんて俺にしか分からないし、なんなら俺自身把握出来てないまであるんじゃ。

いや待て、冷静に考えるとこれは……やっぱり俺の予想当たってんじゃねぇか!楽しく見えるぐらい良い走り出来てなきゃ帰国ルートだぁ、不味い不味い不味い………!!

 

(うおおおおお出戻りなんかしてられっかああああ!!!)

「……クロ」

『アッハイ』

 

脳内で堂々巡りしてた所為で、いつの間にか頬に添えられた手に気付く事も叶わず。ほうけた嘶きを漏らした俺に美鶴ちゃんは、微笑みながら告げる。

 

「辛かったら、言って」

 

………。

 

 

辛い事なんて、あるもんか。

 

 

 

あーもう。大丈夫でっせお嬢様、俺はまだまだやれる。俺はまだ使えるぞ。

それを見せてやっかんなぁ……!

 

『ま、そう思って簡単に見せれたらこんな酷い事態にそもそもなってないんだが』

「さぁ気合いを入れてくぞ。半端な所は見せられないもんな、クロス」

『全くだぜぇ』

 

今だって、勇鷹さんと通じ合えてるように見えて……実は全然。人馬一体はお互い極限状態まで突き詰めないと入門の兆しすら無く、結局そこまでいけたのは日本出国前のあの一回止まり。そんな状態で馬場の問題が立ち塞がってんだから、実情としては“詰み”に程近いんだよなぁ俺。

……アカン。冷静に考えるほど心折れるわコレ!

考えてる内にスタート地点。仕方が無ぇや、とりあえずでも急拵えでも今持ってるモン全ブッパだ!足掻き走法の有用性も検証し切れてないけどやるしか無ゾ!!

 

「3……2……1……」

 

カウントダウンがいやに早ぇや、ウケる。草。草じゃないが。

全力で体を動かすんだ、そうだ。かつてがむしゃらに走り込んだ生産牧場時代だ。腹が減っても、限界を超えても走り続けたあの時を思い出すんだ。

あの時のように、体を引き絞って、引き絞って、

捻って、

唸らせ、

()()()

 

溜め込んだ(ちから)を、

 

「0!」

 

『解放しろォォォ!!』

 

 

 

 

 \ ズ バ ァ ン ッ ッ ッ / 

 

  「はぇ?」  

  『んぁ?』  

 

 

 


 

 

 

──死んでなかった。

 

「嘘やろ、オイ」

 

死んでなんか、いなかった。

 

「やった……やった!!」

 

生きてた!

クロの元気は、生きてたんだ!!

 

「見て下さい臼井さん、アレ!あの走りは!!」

「分かっとる、けど頭が追いつかへん!どうして急に……」

 

そうだよね、そうですよね!だって私も頭がパンクしそう!

だって、あの走りは……

 

()沿()()()()()()()()と、おんなじ!!!」

 

全身を弾ませ、世界を揺らすようなあの踏み込み!野生の獣が地平を駆け抜けるような、張り詰めた弓を何度も何度も撃ち放つような一歩一歩!!

私を引き寄せた、私が魅せられ惹きつけられた、私の大好きな“弾ける命の迸り”!!!

 

「ジャパンCで見せたんと同じ走り……やけど、鞍上が変わるだけで()()()()風になるんか!」

「どういう事ですか?!」

「馬の走りやない、どっちかと言うと()()()()()()()や。他者を乗せる事なんか丸っ切り想定してへん、どないしてアレを制御しとったんや生沿は──!?」

 

見れば確かに、低姿勢かつ畝りまくるクロの背で勇鷹さんは本当に大変そう。操るよりも、振り落とされないので精一杯にすら見えた。

……でも、()()()()。勇鷹さんには悪いけど、本当に。

 

「クロが…嬉しそうです」

「……やなぁ」

 

イスパーン賞の時とは全然違う。何かに囚われてたようなあの時と違い、彼は確かに今、彼自身の意思で走ってる。悔いなく、走り抜こうとしてる。

そっか。

 

「走りたいんだね」

 

この地で、あなたは。

 

「勝ちたいんだね、クロ」

 

轟音を響かせ、銀色の風が目の前を吹き抜ける。髪が靡き、私達を押し除ける。

なら私は、喜んでその背を見送ろう。

 

「行って、クロスクロウ!!」

 

あなたが目指した栄光を。どうか必ず、掴み取れますように。

どうかお父さんとお母さんへ、あなたのその光が降り注ぎますように。

 

 

 


 

 

 

ひっさしぶりに思い出したわ。生沿が乗ってた時の俺って、あんな走りしてたのね。自覚したのも初めてだぜ、なんたってアイツと組んでた時はホント自然に出てたからなアレ。

いやしかし、得た物が大きいなぁ。俺がやったのは大袈裟と言えるほどのストライド走法、単に体を縮こませてから蹴り出しただけ。(かなめ)と言えるのは精々、前者を体がスクラップ処理みたいに折り畳まれるレベルで、後者を風船が破裂するみたいに全力でやる事ぐらい。でもその分、効果は大きい。

 

(地面に力がつたわらないなら、それを補うくらい蹴とばしちゃえばよかったんだ)

 

つまりはゴリ押し。推進力が20%削られるなら、出力を30%上げたれ!の精神。飛行機で例えると、機首が下がってる所でエンジン加速させて無理やり上昇する的な?

ええい、例えは良いんだ例えは。兎にも角にも、欧州馬場の不利をなんとか出来る手段が見つかったのは事実なんだから。

 

『クロー!おかえりデェス』

『アーッ、オツカレサマ!』

 

……同時に、問題も発生したけど。

 

(勇鷹さん、たいへんそうだったなぁ)

 

騎手への負担。改めて考えると跳ねまくり飛びまくりの大暴走で、勇鷹さんにはマジで大迷惑だっただろう。

何より、今回の走りは……人馬一体の真逆。お互いがお互いの得意な走りを探り合ってギリ入れた領域なのに、俺は今回自分のやりたい事だけを突き通してしまった。そんなんじゃ、勇鷹さんばかりが負担を受けてしまう。コンビとしての力を発揮できない。

 

(どっちをえらぼうかなぁ)

 

「……聞こえてないデスか?」

「ンー?コノキョリデ?」

 

極められる予兆は無いけど至れれば最高な人馬一体か、馬場の不利を覆せるけどそれ以上は望めない身勝手の走りか。

はてさて、どっちが勝利に近付けるのやら……

 

 

あっ、耳鳴り治まったわ。

 

『クロ、クロー?どうしマシタかー?』

『悪い悪ぃ、聞こえてるよ』

『ホントカー?ナンカヘンダゾ、オマエ』

 

いやぁスマンね。なんつーかさ、アレなんだわ。

限界だ。

 

『もう寝るわ。おやすみ』

『チョットー!?少しぐらい話しマショー、ねー!!』

『安心、しろって。次のレースで、とっておき、見せてやっから……』

『むっ、秘密兵器を掴んだんデスか!楽しみデスねぇ、期待させてもらいマァス!』

『アーッ、ソレナラリョーカイ!オヤスミ、クロス!!』

 

ああ、本当にもう無理。また耳鳴りがして、視界が暗くなる。

こりゃ気絶って言った方が近いかな。ちゃんと普通の眠りに偽装できてたかな。隠して歩くの、大変すぎて。

でも。

 

(美鶴ちゃんに見栄張れて、よかった)

 

あの輝く笑顔が見れて良かった。

その光を引き出す為にこそ、俺は走ってるんだから。

*1
【Ep.26】人側!を参照

*2
何様




×死んでいた
△死んでなかった
○生きていた
◎これから死ぬ(念押しのネタバレ)
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