また君と、今度はずっと   作:スターク(元:はぎほぎ)

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ニシノデイジーおめでとう!西山さん主人公の馬主物語、小説でも漫画でも良いからはよ

《あらすじ》
スカイ「嫌いな奴に対する惚気話を聞かせられるこっちの身にもなって欲しい」
スペ「好きな仔の、他の好きな仔に対する惚気話を聞かせられるのもキッツイよ」
キング「お前達一回横になれ。休め」


【Ep.94】誰為?

【戦士出陣 凱旋へ向けていざ】

 

一面を飾った写真、その見出しを撫でる。あの日の彼は今、考えもしなかった頂へ挑もうとしていた。

それを確かめるように、指で。何度も、何度も。

 

「フランスへ飛ぶかい?臼井君」

「緒方さん」

「クロスクロウに会いたいんだろう、久し振りに」

 

そう告げながら、上司が差し出して来たのはコーヒーカップ。こうも言い当てられちゃ、苦笑しながら受け取る他無いなぁ。

 

「行きませんよ。仕事があるじゃないですか」

例の三頭(クログラスペ)のぬいぐるみで事務所の一室を占拠しておいてよく言うよ」

 

そこを突かれると痛い。その上で、俺なら話をつけられるぞ、と緒方さん(理解ある上司)は言う。けど、それでも俺は行く気は無かった。

 

「今向こうに顔出したら、親父にドヤされちまいます。舐めとんのか、ヒヨッコの手を借りる程落ちぶれとらんわ……って具合に」

「想像に容易いな。だが、父親に叱られることだけが理由か?」

「そんな訳無いですよ」

 

父さんは怖いけど、それだけが理由じゃない。その程度の事だったらとっくの昔に飛行機に乗ってる。

俺が大事なのは、クロだ。

 

『知ってますか、緒方さん?クロって見栄っ張りなんです』

『そんな報告は受けてないが』

『してないですからね』

『君というヤツは……』

 

良いじゃないですか、ちょっとぐらい許して下さいよ。

他の人が知らない、俺だけが知ってる一面。どうしてもそれが欲しかった。

アイツが名を馳せた事で、その判断が正解だったとどれ程思い知ったか。

でも、もう良いだろう。

 

『弱みを見せたがらない、相手が望むままの姿を表そうとする。“いじらしい”って言葉はアイツの為にあります』

『いや、体調管理でめちゃくちゃ重要な要素なんだがその気質』

『大丈夫ですよ。嘘ド下手ですもん、クロ』

 

痛い所や疲れた所を庇う仕草、それを無理に隠そうとするから逆に目立つ。隠すという行為自体は器用なのに、それを日常に馴染ませられない不器用さが可愛いんだ。

まぁ、要するに。親父なら、そんなクロの不調を見抜くなんて楽勝だろうって事。

んで、ここからが本題。

 

「ただでさえ大一番を前にしてるのに、そこに俺が行ったらどうなりますか」

「……ああ、なるほど」

 

ここで緒方さんも察してくれる。やっぱり頼りになるなぁ、この人は。

 

「気を使わせてしまう訳か、クロスに」

「そういう事です」

 

ここ(NF空港牧場)を経ってもう2年弱。その現役生活で、クロなら自分の不器用さに気付いてるだろう。慣れない海外でテンヤワンヤなのに、そこで過去を知ってる俺が行ったら……アイツに“無理に隠す”という労力を課してしまう。そんな心労は掛けたくない。

 

「アイツの重荷になるぐらいなら、俺は俺の職務を全うしながらこの地で応援するまでです」

「……成長したなぁ、臼井君」

 

感心した様子の緒方に「でしょぉ〜〜??」と調子に乗りそうになり、寸前で我慢に成功。危ない、また怒られる所だった。

 

「そもそも、クロに俺はもう必要ない」

 

あの背中に初めて跨ったのが、その真価に最初に気付いたのが誰だと思ってるんですか。

それは奥分騎手でも、生沿君でも、勇鷹さんでもない。この俺だ。

 

「アイツの強さは誰よりも分かってる」

 

今、クロスクロウが何を必要としているかも。

それは、アイツを癒す役割ではなく。支えて引っ張り上げる存在だろう。つまりはそれこそ、生沿君や勇鷹さんのような。

 

「アイツが、築き上げた物も」

「……そうだな」

 

そう言って新聞へと目を戻した。どの面を見ても必ず書いてあるクロスクロウへの言及、それは彼がこれまで培って来た人気の証左。

クロスクロウが引き起こした第三次競馬ブームは、スペシャルに引き継がれ。イスパーンの悲劇とその後の沈黙、それによる一種のフラストレーション蓄積を経た結果──復活の報で再爆発を巻き起こしている。

「もう一度伝説を」、「今一度奇跡を」と。彼を後押しし支える、確かな地盤となっている……!

 

「期待された分、しっかり応えて返す。いつか言ってたでしょ、宮崎社長さんが」

「ああ。“鏡”だったか」

 

望みに栄光を。祈りに救済を。願いに勝利を。

そうやって、クロは駆けてきたんだ。朝日杯でグラスを超え、天皇賞秋でサイレンススズカを救い、AJCCでスペに伝説を託して。まるで鏡写のように、掛けられた物に返しながら。

ならば、今度だって。

 

 

「勝ちますよ、クロスクロウは!」

 

 

だって、アイツは立ち上がったんだから。

 

俺たちの希望を受けて、立ち上がってくれたんですから!!

 

 

 


 

 

 

ここで、時を少しだけ飛ばす。

 

花の15期生は、年に一度同窓会を催す。それ程に、彼ら同期は仲が良い。

一年ごとに東で、西で。今年はもうやった。

 

「だが、年に2回目をやるのは初めてだな」

「厳密には同窓会じゃない」

「けど実質そうだろ」

 

その言葉に一同は首を揃って縦に振る。それは、この集まりを企画した人からして意外中の意外であったが故に。

 

「何だ。不満か」

「いや嬉しいけど……正直言うと。お前に次回あたりはボイコットされるまで覚悟してたよ、柴畑」

 

宮崎雄馬に最も反感を抱いていた男、柴畑奉一。

この集まりの名目。クロスクロウの凱旋門賞──の、生中継応援の会。

 

「どう言う風の吹き回しなんだ?お前もとうとう折れたのか」

「考え方を変えただけだ」

「そりゃどうして」

「……さあな」

 

主催者なのに不機嫌極まりなさそうな柴畑の姿に、一同は首を傾げる。()()を知る、伊藤聖徳以外は。

 

「宮崎氏が筋通しちまったもんなぁ」

「ちょ、伊藤おまっ」

「どういう事だ聖の字?」

「クロスクロウの海外遠征だけど、コイツが宮崎雄馬の背を押してんの。それに応えられてしまった以上、応援せざるを得ない訳だコイツは。ついでにその時同行してた俺も」

 

えぇ〜〜っ!?と湧き上がる驚嘆の声。苛立たしげに頭を掻く柴畑。

以前、街中でファンに囲まれ困っていた宮崎美鶴をたまたま助けた時、その流れで宮崎雄馬と遭遇した時。

柴畑は、海外に向かう雄馬とクロスクロウに告げたのだ。中途半端は許さない、と。

そして雄馬は、クロスクロウは───一度出戻りこそしたものの───今まさに、半端ではない結果を残そうと足掻いている訳で。

 

「ここで俺がチキンになったら、俺は二度とあの野郎に物を言う権利を失う。それが嫌なだけだ」

「またまたそう言って〜、ホントはちょっぴり見直したりしたんじゃないのかぁ?」

「やかましゃー!」

「ケプッ」

 

同期の内、元から宮崎雄馬に対して比較的好意的な派閥(と言っても、肯定と言うより静観の方向で)だった者がダル絡みして返り討ち。気の置けない物同士特有のスキンシップである。

……そうやって和やかになりつつある空気の中で、なおも肩身を狭そうにしている者もいるが。

 

「僕は………ここに来て良かったのか」

「招待されたんだろう?なら良いじゃないか」

「だが僕はなぁ…」

 

奥分幸蔵。クロスクロウの最初の主戦騎手。

花の15期生で一番最初に宮崎陣営に接触し、その件で柴畑とは疎遠になっていた……筈の男。

そんな彼と話すのは福延海弐、キングヘイロー主戦騎手である福延優斗の父親。かつ、この同期の中で最も才に秀でた騎手であった男。

 

「柴畑は、僕を裏切り者だと思っているとばかり……実際、そうだし」

「はぁ?」

 

その小声の呟きは、よりによって本人の耳に届いてしまう。慌てて口を塞ぐがもう遅い。柴畑はズカズカと、遠慮なく歩み寄り。

 

「誰が?裏切り者だと?」

「それは……僕だろ」

「ほざけアホ」

「アダッ」

 

額を小突く。奥分はよろめき、柴畑は嘆息。

 

「お前は騎手として馬を選んだ、それだけだろ。俺の癇癪なんか気にするな」

「癇癪ってそんな」

「まぁ俺は俺の怒りが間違いだとは今も思ってない、が……」

 

そう言って、柴畑はリモコンのスイッチを押す柴畑。会場のスクリーンが点灯、映し出されるは芦毛の夢。

全員が息を呑んだ。日本競馬の夢の果て、ロンシャン競馬場の光景に。

 

斗馬(トウさん)の願いを一番背負って、体現してるのは……お前だろう、奥分」

「……!!」

 

全員の顔が無言のまま一変した。ある者は嘆き、ある者は慈しみ、ある者は懐かしみ。

思い浮かんだ一つの顔。生きていれば、この場の中心にいたであろうその存在を。

 

「腹立たしいが、宮崎雄馬は──トウさんの意思を、継いでるのかも知れん」

 

柴畑は言う。自分に言い聞かせるように、画面を睨みつけながら。

そうでありながら、その視線に希望の色を乗せて。

 

「何故なら今、クロスクロウは。トウさんの夢を、叶えようとしている」

 

強く在れ、強くなれと。

宮崎斗馬が遺した日本競馬の夢、その最果てを走っているのがクロスクロウだから。

 

「……さぁ奥分、ここからはお前の出番だ」

「えっ急に僕かい!?」

「お前が一番クロスクロウを知ってるんだろ、実況しろ!その為に呼んだんだからな!!」

「急過ぎるよ、せめて話を事前に通してくれ!」

「恥ずかしくて出来るかそんな事!!」

「今さっきの告白は恥ずかしくなかったのかい?!」

「変わろうか?俺ならアドリブで有る事無い事言いまくってそれっぽく盛り上げれるぞ〜」

「「福延(おまえ)がやるとマジで無茶苦茶になりそうだから却下」」

「えぇ〜!!」

 

そうして、いつも通りの空気感を取り戻す同期達。クロスクロウのデビュー以来発生していた僅かな亀裂、それが瞬く間に埋まっていくように。

 

「トウさん」

 

それを敢えて少し離れた所から、伊藤は見ていた。

離れて見る事で、その輪の中心に、今は亡き旧友の姿を幻視したかったから。

 

「俺達が、見届けるよ」

 

幻が消える。次に見上げたスクリーンで、夢の果てを見る。

白銀の鬣が雲間に差す陽光に煌めき、彼の目を微かに灼いた。

 

 

 

 


 

 

 

1999年9月25日。

その日付を知ったのは、帯同員の人が持ってた新聞をねだって読んだから。

 

「読んでる……」

「読んでるな………」

「何度俺たちを驚かせれば気が済むんだコイツ」

『クロ-サンー!何読んでるんデスか、その変な模様がイッパイ書かれたヤツ』

『アーッ、エル。コレハ“シンブン”トイッテダナ』

 

外野がうるせぇな。どうせ立ってられねぇよ!もう夜だから近いうちに寝るって意味でな!!

にしても、おうおう。各著名人が俺とエルに関してコメント寄稿してて芝ァ!言っちゃなんだがドイツもコイツものめり込み過ぎだろ、誰の所為でどうしてこうなった?

 

『ところで確か、この新聞自体が日本での発行からこっちに届くまでに数日経ってるみたいだから……長く見積もっても1週間も無いな』

『何がデス?』

『決戦さね』

 

俺とお前の雌雄が決する日……なら、良いんだが。それぐらい単純な話だったら良かったんだけどなぁ。

 

『エル、先に言っとくが俺の相手はお前だけじゃない。お前の相手も、俺だけじゃない』

『分かってマァス!……と、言いたい所デスが。そこまで言うって事は、何かあるって事デス?』

 

流石に付き合いも長くなったお陰で、察しが早くて助かるよ。ああ、()()のさ。

 

『俺が日本総大将って呼ばれたのは覚えてる?』

『あー、ニンゲンさん達がクロ-サンを話題に出す時にそう言ってたような』

『あれってつまり、暫定的に日本で最強な奴を指して使われる言葉なんだけど』

『エーッ!くそー、今度はクロ-サンを差し置いてエルがその名で呼ばれてみせマァス!』

『その意気は良いんだけど……こっちにも、いるんだよ』

 

同じような存在が。フランスにおける最強、その名を冠する者が。

なぁ、マンボ。レースを見て回ってるお前なら、心当たりあるんじゃないか?

 

『……アーッ。モシカシテ……』

『何が知ってるんデスか、マンボ?』

『ゴメン、エル。コノマエ、エルダケガサイキョー(最強)ッテ()ッタケド……マンボガミテタノ、オトナノウマ(成熟馬)ノレース、ダケダッタノ』

 

問うてみれば、やはり。でも口調から見るに、後から知った感じか?

 

『チョットマエ、ホカ()ウマ()ウワサ()デ、スゴイワカウマ(若馬)、イルトキイタ。レースハヤッテナカッタケド、レンシュー、ミニイッタ』

『ちな、どんな噂だったんだ』

『ドロノバケモノ。マタハ、フランスダイショーグン

 

フランス大将軍。はっ、成程言い得て妙じゃん。

つまりは、アレだ。マジで世界最強に挑む訳だ、俺達は。相手のホームで。

 

『……なんで名前なんデス、ソイツは』

『アーッ、ソノナハ、ソノナハ』

 

 

ここから先は聞かない。聞く必要が無い、俺にとっては既知の話だから。

だがしかし、だからこそ。並以上に対策を立てれるし、立てなきゃいけないんだ。お前に勝つ為に。

 

 

(なぁ、モンジューさんよ)

 

 

お前がどんな奴か、俺はまだ知らない。同じようにお前も俺を知らない。

だから、叩きつけてやるのさ。

 

死力を尽くして、命を懸けて。

 

全身全霊の、本気の全力で……!!

 

 

 

 

 

「やぁ、クロス」

『んおっ』

 

気が付くと、周囲は静寂。エルとマンボはピッタリくっついて眠りに就き、帯同員さん達も去り、代わりにいたのはただ1人。

 

『こんばんは、勇鷹さん。何用で?』

「本番も近いんだ、早く寝てくれ。俺も様子見たらすぐ寝るから」

 

あちゃ、心配かけさせちまったかぁ。悪かったよ、すぐに寝るって。勇鷹さんこそお大事にな。

……本音は、そうでもなさそうだけど?

 

「まぁ、起きてるなら……子守唄代わりに、口で聞いてくれないかい」

『なるほどねーん』

 

俺なんかで良ければ是非と言った所なんですがそれら。生沿だったら多分泣いて飛びつくぞその提案。

んでもって何すか何すか、何でも洗いざらいブチ撒けて下さいな!俺全部受け止めますんで、まぁ口が利けないから聞いた所で碌な慰めも出来ねぇんだが!!

 

「君の事だから、最早言うまでも無く分かってるだろうけど……凱旋門がどれほど大切なレースか、改めて話しておこうと思う」

『おk、にわかな俺にご教授頼んます』

「まず、そもそも凱旋門賞は欧州最大級のレース。そして欧州は競馬そのものの本流本場と言って良い場所……つまり、文字通りの“頂点”だ」

 

ま、そうだよな。じゃなきゃ日本馬は血眼になってでも挑みやしない、それぐらい大切なレースって事だ。

そして同時に、その挑戦を跳ね除け続ける分厚き門って事も。

 

「二つ目。その凱旋門賞だが、今まで制した日本馬はいない。30年間、ただの一度として」

 

勇鷹さん、注釈です。俺もエルも勝てなかった場合、そこから更に30年プラスで勝てる馬は出て来ません!

いや考え直せば直すほどキッツイなマジで。というか今年で30年目なのか、初代挑戦者って誰なんだ?会長(ルドルフ)が挑戦しようとして出来なかった、ってのは聞いたことあるけど……。

 

「そして最後に一番大事な事。これらの過去を踏まえて、お前は──ううん、俺達はとんでもない期待を掛けられている。その自覚はあるかい?」

 

………当然。その期待が無ければ、ここに来れてないんだから。

重圧が無いとは言わない、むしろスゲェ感じてる。だがそれが何だってんだ?俺の背を後押ししてくれた恩、それに対する感謝の念の方が遥かに重い!

 

(死者だけじゃねぇ、希望に応えて初めて意味があるんだ)

 

俺の命を彩ってくれる光、それをより輝ける場所へ。その為ならプレッシャーなんて屁でも無ぇや!

アンタもそうだろ、勇鷹さん!?

 

「正直に言おう。僕は、キツイ」

『!?!!?!??!?』

 

えっ、と口から漏れる嘆声。いや余りにも予想外過ぎて、いや、えっマジで?勇鷹さん大丈夫か!?

 

「ああ、心配しないでくれ。やる気は溢れるぐらいだし勝つ気しか無い──けどね、これまでの経験が同時に理解させてくるんだ。想いだけで勝てるなら苦労なんて無い、って」

『っ……』

 

それは、ただ単純な真実。俺がダービーでスペに届かなかったように、スズカ先輩がゴールに辿り着けなかったように、グラスがレースに出られなかったように。

どれだけ望んでも、焦がれても、手に入れられない物は確かにあって。

 

(勇鷹さんは、どれほどそんな思いを味わってきたんだろ)

 

そこで気付いた。俺、天才としての勇鷹さんしか、スーパージョッキーとしての彼しか知らないんだ。

スペシャルウィークを乗りこなす拓勇鷹。

将来、ディープインパクトで栄華を極める拓勇鷹。

長年、日本競馬を牽引し続けた拓勇鷹。

 

なんだかんだで、長い付き合いになるのに……俺は前世の知識としての拓勇鷹しか、知らない。

 

(何度、経てきたんだろうな)

 

悔しさ、苦しさ、屈辱、痛み。輝かしい記録の裏に隠されたそれはどれほど強く重たいんだろうか。

 

「……だが。その難解さこそが、乗り越えた時の喜びをより強くする」

 

それを、力に変えてきたのか。

すげぇ筈だよ、アンタ。奥分さんもそうだったんだろうな。だからアンタ達は、俺みたいな駄馬でも乗りこなして、ここまで引っ張り上げて来れるんだ。全てに納得がいったよ、ああ!

 

(……勝たせてやりてぇ)

 

俺自身の為、なんてハナから考えてたつもりは無かった。友の為、敗者達の為、応援者達の為。けどその片隅に微かに残ってた自己保身が、今度こそ完全に吹き飛んだ。

それで空いたスペースに入り込んできたのは、「拓勇鷹に褒美を」。その努力に応報を!

 

「狙うは勝利、もうそれ以外が欲しいタマでも局面でもないだろう君は!」

『……ったりまえだ!』

 

日本国民だけじゃない、フランス国民の記憶にもこびりつかせる勢いで。俺と拓勇鷹という記憶を、記録(レコード)を、その歴史へと。

 

「勝つのは、君だ!」

『アンタを、勝たせる!!』




次回、1999年10月の第一日曜日。
凱旋門賞が来る。


その日、彼は世界を超えていった。
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