また君と、今度はずっと   作:スターク(元:はぎほぎ)

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《中山競馬場、雨は降らずともモヤり、照明が必要となっております。そんな中始まろうとしている第49回朝日杯3歳ステークス、お送り致します》
《とにかくもうグラスワンダー1本被りというね、レースになりましたが》
《これまで新馬戦以外の2()()()()、しかもうち1回は重賞で3歳馬のコースレコードを樹立していますからね。あのマルゼンスキーを彷彿とさせる強さ、そしてそれを超えかねない戦績です》
《このレースを控えた今の時点で既に“怪物2世”。今回も願わくば、圧勝のレコード劇を見てみたいところ》
《グラスワンダー以外で気になる馬といえば、クロスクロウが挙げられるでしょうか》
《過去二戦で、共にグラスワンダー相手に2着と追い縋っているクロスクロウ。レコード相手には届かず、格付けは済んだと評されていますが、出生やセリでのエピソードから一般層に人気が出たらしく4番人気。個人的にグラスワンダーに一泡吹かせるとしたらこの馬なのではないかと》
《人気が下がっているのは、この出走馬の内11頭が外国産馬であるのに対し本馬が内国産馬である事も影響してそうです。鞍上奥分の手綱捌きに期待したいですね》




【Ep.10】朝日!

クロを、待っていました。

北の地で交わした約束。その通りに、ボクを止めに来てくれた彼を。

 

彼の言う通りに、“グラスワンダー”という名を貰ったボク。新しい場所に引き連れられて、そこでとあるニンゲンと出会いました。

それが、今ボクの上に乗っているマドバ(窓葉)さん。ボクの力を、引き出してくれるヒト。

 

「この馬ならいける。一流のさらに先に行ける」

 

ニンゲンの言葉は分からないけれど、それがボクに向けられたホメ言葉だとは分かった。嬉しくて、一緒に頑張った。実際彼とボクは相性が良くて、日を追うごとにドンドン強くなっていく自覚があった。

更に嬉しかったのは、クロとは別に新しい友達が出来た事。エルと名乗った彼は、ボクと同じく異国の地の生まれで、だからだろうか。とても話が合った。

 

『エルは最強デス!いずれはもっと大きい世界に羽ばたく為にも、こんな所じゃ負けませんカラ!というワケでグラス、勝負デース!』

 

そんな彼と切磋琢磨し合い、自分磨く日々。それに応じてどんどん、逞しくなっていく身体。

これで負けない。

クロにも負けないと、そう思えた。

 

そのクロと再会できたのは、2戦目の時だった。嬉しかった。最後に別れてから季節を一つ跨いだくらいだったけど、こんなに早く会えるだなんて思わなかったから。

 

春、あたたかかったね。桜がキレイでしたよ。

夏、あつかったデスね。立ち昇る雲と日差しの下で泳ぐの、楽しかったデス。

秋。スズみたいな虫の声が、聞いててとても心地イイ。

 

…アナタが教えてくれたから。ボクは、この土地の季節を楽しめていマス。アナタのお陰で、ボクは毎日がとても楽しいんデスよ。

そこに来た、再戦のチャンス。ずっと楽しみにしていたコト。アナタを超える為の成果を見せるStage(舞台)

最後の三頭での競走。あそこでアナタが見せた最後の末脚。アレを超えてやっと、ボクはクロに勝てたと胸を張れるんデス。

クロのお陰で強くなれたと、自慢できるんデス。

さぁ見せてください。あの輝きを、あの俊足を!!

 

 

……だと、いうのに。

クロがやったのは、Half-Baked(中途半端)な位置での待機。後ろからなんかじゃない、まるでクロの強みを出せない走り。

どうして。なんで勝てない走りを。

そんなのに勝っても、意味無いのに。全力を出したアナタじゃないと、意味無いのに。

ねぇ、クロ。

その走りは、楽しいデスか?

 

腹立たしくて、悲しくて。でも慰めるのは何か違う気がして、ボクはクロに怒るコトしか出来なかった。不器用な自分が、イヤでしかたが無かった。

でもクロなら戻って来てくれると思ったから、がんばれた。

 

でも。次のレースでも、クロは変わらなかった。

強かったとは思う。けれど、それを全く活かせてなかった。

きっともう、私を追い抜かしたクロは見れない。そう思った瞬間、足元がくずれるような感覚にオチイリました。

 

『もう、良いです』

 

口から漏れ出た言葉は、半ば無意識で。

気付いた時には、目蓋を引き裂かんばかりに目を見開いたクロの表情がそこにあって。

手おくれだ。取り返しのつかないコトを言ってしまったんだとようやく理解したボクは。

逃げるように、その場を去るブザマをさらすしかありませんでした。

 

嫌われた。

嫌われてもしかたの無いコトを言った。

嫌われて当然だ。

その夜は、どう頑張っても眠れなくて。夜通し考え続けて、声を押し殺して泣いて、やっとボクは立ち上がれた。

 

もう、誰にも頼らない。

もう、誰にも期待を押し付けない。

ボクは……一頭(ひとり)で、生きていく。走り続ける。

そう、決めた。

 

 

 

 

 

 

『グラス』

 

前の戦いから1ヶ月。ボクとクロは、また出会う。

相変わらずしっかりと仕上げて来た肉体。でも、もうあの速さは出せないんでしょう?

 

『すまなかった』

 

謝る必要は無いデスよ。ボクが求め過ぎました。迷惑をかけて、こちらこそスミマセン。

 

『っ、俺は───』

『大丈夫デス。ボクはもう、()()()()()()()()()

『!!』

 

話すのが、ツライ。だからボクは目を背けた。

 

『…もう、俺を見てくれないんだな』

 

 

背後に聞こえる声から、必死で耳を塞ぎながら。

 

 

 

 

『……分かったよ』

 

 

 

 

 

 

 

ゲートが開く。

レースが始まった。

 

《ゲートが開いてグラスワンダーのスタートはまずまず!今ちょうど馬群の中段あたり、中段あたりでスタートを切っていきました!》

 

15頭の一斉スタートで、ボクはいつも通り中段につけた。よし、後は全体のペースについて行って。

ついて行って……ぇ?

 

見慣れた漆黒の馬体が、横を駆け抜けていった。

 

《さぁ内からアグネスワールド…しかしこれを躱して…クロスクロウ?掛かり気味か、奥分必死に手綱を引く!》

 

どういう事だ?クロが逃げなんて考えた事も無かったし、実際合ってないとも思う。その証拠に、クロに乗ってるヒトも必死に止めようとしてマス。

 

(クロ、何を…?)

 

分からない。彼が何を考えているのか、何も分からない。

この場にいる誰よりもクロを理解していたつもりだったのに、その自負が完全に打ち崩された気がした。

 

「グラス、しっかり…!」

『…はい!』

 

っ、ボクは何を考えていた?今は目の前のレースに集中しないと!!

 

《外目をついてマチカネサンシロウ、そしてグラスワンダーはここです!この栗毛の怪物にじっくりご覧いただきましょう!》

 

響き渡るニンゲンの声が私の名を呼ぶ。その度に、歓声が一際大きくなる。

応えなきゃ。皆がボクに期待してるんだから。

 

『キツイー!』

『なんでこんな速いの?』

『ついてけなーい!!』

(……速い)

 

それにしても、ペースが速い。最初にクロが高速でハナを突いて馬群を引き連れた影響で、全体的なペースが今までとは比じゃなくなっている。もう、クロ本人が落ちたところで止まらない。

 

そう。クロが落ちてきた。

 

《間もなく800を通過しようというところで、クロスクロウ号が少しずつ下がって参りました。奥分騎手、どうやら折り合いを欠いてるようですね》

《彼にしては珍しいですね、ここからどう巻き返せるか》

 

走るのをやめてはいないけれど、ズルズルと引き摺られるような落ちていく親友。見てられなくて、意図的に視界から外す。それがボクの精神的な限界だったから。

だから、彼の瞳がまだ死んでない事に気付けなかった。

 

《13番のマウントアラタでありますが、今通過して行きました44……44秒代後半!?凄まじいペースだ、これはとんでもない事だぞ朝日杯!!会場からどよめきが上がります!》

 

「──今だっ」

 

───ここデスね、マドバさん。

クロの分まで、ボクが。

 

《グラスワンダーが徐々に上がってきた、ジリジリと上がってきた!さぁ窓葉の手が動いて!!》

『うぇっ!なんだよお前!?』

『わぁ来たァ…!』

 

マドバさんの誘導に従いながら、スパート。位置を上げる、上げる、押し上げる。

勝ちパターン、もう負けません。全員千切って、皆後ろに押し込めマス。

クロも。

 

 

 

そう思った、次の瞬間だった。

 

「 ぉおおオオオオォォォ!!!」」

「『!?』」

 

唐突に巻き起こった声、声、声。それを耳にして、マドバさんと揃って困惑してしまう。

何が起こったのか分からなかった。ボクの行動で引き起こった歓声じゃない、ならば何?

 

答えは、すぐ後ろから。

 

ダンッ、という音が聞こえる。

あの日の音。ボクを負かした音。

嘘でしょう?

どうして。

今になって。

 

『よぉ』

 

来た。

 

来た!

 

来たぁっ!!

ボクが恋した、()()()が!!

 

 

『グラス、ワンダー…ッ!!』

 

 

クロ!!!

 

 

 

 

▼▲▼▲▼▲▼▲

 

 

 

 

(ハラ)は決まっていた。

奥分さん、ゴメン。

臼井氏、スマン。

馬主……アンタはいいや、方針知らんし。

兎にも角にも、俺はゲートが開いた瞬間に前へ出る。中段どころじゃない、その更に先へと。

 

「えっ…クロス、抑えろ!掛かったのか!?」

 

ところがどっこい、俺は正気です!これが現実…!

掛かりもしてないし指示を捉え間違えた訳でもない。俺は今、自分の意思でレジェンドを無視している。手綱をどれだけ引かれようが関係ねぇ、今は全力で前へ!

 

『お先ぃっ!』

『ちょ、待て!!』

『コラァ、少しは手加減しろォ!』

 

抜かす瞬間に先頭集団の馬を煽り立てて、ハイペースを促す。

あぁ分かってるよ、連れてきゃ良いんだろ!?どうせ後戻りは出来ねぇんだ!俺が!お前らを!!連れてってやるよォ!!!

……あっ、これ以上スパートしたままだとスタミナ残せないので。俺だけは後戻りするね。

 

『『おまっ!?』』

「「何だったんだ……」」

 

いやぁ悪い、そのままのペースで馬群を引き摺り回して疲弊させてくれや!俺は後方で休んでっから!!じゃ!

 

……さて。ふざけてる余裕も流石に無いし、真剣になろう。いやこう見えてこのレース中ずっと真剣ではいるんだけどさ。

 

「クロス、大丈夫か!?走れるのk…大丈夫そうだな…」

 

いや本当にゴメン、奥分さん。急加速と急減速を繰り返して困らせたよね。

でも、まだ困らせるわ。本当に、ゴメン。

 

「……!?クロス、この位置をキープだ。クロス!」

 

減速をやめない俺に対し、手綱から狼狽が伝わる。そりゃ意味分からんよな、全然言う事聞かないんだもの。

だけど、今だけは俺を信じてくれ。頼むから……!

 

「…そう、か。それが君の判断なんだな」

 

祈りが伝わったのか、手綱が元に戻される。マジですまねぇ、この際俺の身がどうなっても構わない。

だけど……このレースは!グラスに勝ちたいんだ!!

アイツに見せてやりたいんだ、俺の姿を!俺の背中を!

その為には!

 

『アイツの目の前で…』

 

ゴールしないと!

 

『視界に入れないんだよォォォ!!』

「───っ、ここか!」

 

殿(しんがり)に位置した瞬間、中断してたスパートを再始動。燻っていた燃料に火をつけて、筋肉というエンジンをフル稼働しろ!

回せ、回せ、回しまくれ!足も血流も脳細胞も、全身全霊のフルスロットルを叩き込めェ!!

やべぇ、先行の時とは頭の冴え方が違ぇ!馬群を一つの視界に収めた今、面白いぐらいに状況に対応できる。その分だけ体が動く!

 

そして見えた。

最終コーナーの向こう。

栗毛の馬体が、煌めいていた。

 

《外目を突いて、さぁ!どこまで千切るんだグラスワンダ……ぁ!?なんとクロスクロウ、クロスクロウここで来た?!沈んだかに思われた漆黒の十字架が今再浮上、グラスワンダーの更に大外を詰めて来たァ!!!》

 

捉えた、今度こそ。

 

『よぉ』

『クロ…ッ』

『グラス、ワンダー……ッ!』

 

ハハッ、その顔が見たかった。お前が旅立った日から、再会した日から、負けた時から、連敗したその時から。

お前の顔を思い出すたび、何度も!ずっと!!

 

『勝たせてもらうぞ…!』

『待っ───!?』

 

突き放した瞬間、背後から息を呑む音。当たり前だ、もうお前に加速する力なんて残ってる筈が無い。その為だけに、このレースをハイペースにしたんだ。

え?じゃあ俺はなんでまだ加速出来るかって?

そりゃお前、まず育成牧場で無理やり鍛えた分のスタミナだろ。まぁそれだけじゃとても足りないんだが…

だから後は。

 

(根性で補ってるに決まってんだろがッッッ!!)

 

臼井厩舎への入厩試験、奥分さんの騎乗試験!この二つで、気力を底まで振り絞れば2回スパート出来る事は分かってんだ!GⅠの今やらずして、いつやるってんだ!?

苦しさなんてもう通り越した!集中が切れる前に、ゴール板を割ってみせろクロスクロウ!!

 

『ク……ッロォォォォ!!!』

『っ、グラスゥゥゥゥ!!』

《4コーナーをカーブして直線コース、クロスクロウ差した差した!並居る馬群を掻き分けてクロスクロウが先頭だ!しかしグラスワンダーも負けてないぞ追い上げる!!並んだ、並んだぁ!!!》

 

ああやっぱりか!まだ終わんないよな、栗毛の怪物!

強いなぁ、努力を積んだ真面目な天才は!だったら凡夫の俺は、才の代わりに命を削るまでだ!

 

『ぉ…ぁ゛ア゛ァ゛ア゛ア゛ア゛あ゛あ゛ぁ゛ッ゛!!!

 

足がどうなっても構わねぇ、死力で駆けろ!!芝を抉って駆け抜けろ!

目に焼き付けやがれグラス、スペ、いや黄金世代!俺が、クロスクロウという馬がここにいるってなァ!?

 

いけ、行け、全てを切り裂く“風”になれ!

往けぇぇぇぇ!!

 

 

《クロスクロウだ!クロスクロウが一歩抜け出た、内国産馬の意地!マル外の旋風吹き荒れる3歳牡馬戦線に、確かに刻んだ十字の爪痕!!

クロスクロウ1着ゥーッ!!!》

 

ヒヒィィィイイイインッッ(よっっっしゃああああッッ)!!!」

 

「「「わあああああああーーッ!!!」」」

 

暗転しかける視界で、横切るのを微かに捉えた板。そして実況と、歓声と、手綱の手応えでゴールを確信した。

腹の底から、歓喜の嘶きが迸る。止められない。

 

《クロスクロウ吠えた!グラスワンダー、お前が“怪物”ならば俺は“戦士”だと!怪物を倒す勇士なのだと、今声高に、中山競馬場で勝鬨を挙げましたっ!暗澹たる雲を吹き飛ばさんと、観客のどよめきすらも押し除けて響く嘶きだ!》

《っ、荻野アナウンサー!これは…!》

《えっ……か、勝ちタイム1分33秒1!レコードですッ!しかもなんと2着グラスワンダーのタイムも1分33秒2()、こちらも前回記録を0.8秒も更新しています!怪物は敗れても怪物で、ならばそれを上回った戦士は何者なのかっ!?

 

え、レコード?あっ、そういや本来はグラスがレコード勝利したレースだったか。それに勝つって俺凄くね?ハハッ、変なテンションになってる。でも今ぐらい良いよな?

 

『……クロ』

 

ああそうだ、グラス。お前と話さなきゃ。

 

『おう、俺の勝ちだ。見直してくれたか』

『……見直したなんてモノじゃ、ないデスよ。むしろ逆デス、ボクの方こそアナタを…!』

 

あぁそうか。なんだか分かんねぇけど、お前のライバルとして張り合えたなら満足だぜ!

あっヤベェ、アドレナリンが尽きて来た自覚がある。落ち着いて来た。これ完全に沈静しちゃったらぶっ倒れるんじゃね?

 

 

冷えゆく頭でそう思考していた。そう、冷えたからこそ気付いた。

気付いてしまった。

 

 

『……ッ、…』

『…おい……』

 

グラスの足が、震えていた。

悔しさじゃない。痛みを堪えるように。

 

そうだ。グラスワンダーは、この後。

 

『すぐに戻れ!早く検査を…』

『嫌デスッ!!』

『!?』

 

()()を使う事すら視野に入れたけど、出来なかった。今度は俺の方が、力強い意志の秘められた視線に臆してしまったから。

 

『敗者として……勝者を、讃えさせて下さい』

『グラス…』

『クロさん、いや、クロスクロウ』

 

視線が交錯する。

今度は、俺もまっすぐ返せた。その義務が、俺にはある。

 

『次は……次こそは、負けませんから…!!』

 

泣いていた。グラスは喉を震わせて、大粒の滴を両目溢れさせながらも、渾身の叫びをぶつけてきた。

……応じなければ。

 

『……ああ』

 

勝者として。

 

『あぁ…ああ、そうだ!』

 

親友として。

そして、ライバルとして。

 

『何度でもかかってこい、グラスワンダー!!』

 

誓いの言葉。それが果たされる日まで、いつまでも走り続ける。

 

 

それが、俺達の絆の形だから。

 

 

 

 

朝日杯3歳S【G1】 1997/12/7
着順馬番馬名タイム着差
12クロスクロウ1:33.1(R) 
11グラスワンダー1:33.21/2
10マイネルラヴ1:34.04.1/2
フィガロ1:34.0アタマ
アグネスワールド1:34.21

 

 




──勝利ジョッキー、奥分騎手です。おめでとうございます
「……あぁ、どうも。ありがとうございます」

──とんでもない大番狂わせ、2戦越しのリベンジ。お見事でした
「それは私じゃなくてクロスに言ってやって下さい。あの馬が自分で掴んだ勝利なので」

──今回、奥分騎手にしては珍しく序盤は大逃げ、そして途中下がったかと思いきや最後に凄まじい追い込みを見せた訳ですが
「……ミスターシービーしちゃった*1。というか、させちゃったね。先行策を、私を信頼させてあげられなかった」

──馬が自分でレースを作った、と?
「はい。クロスクロウ号は信じられないぐらい賢いですよ。誰にも相談せずに、グラスワンダーを倒す作戦を自分1頭(ひとり)で練り上げて…そして成功させてしまった」

──勝ち取ってみせたクロスクロウに、何か一言
「……彼にとって、屋根は僕じゃない方が良いのかも知れない」



〜〜〜



──窓葉騎手!すみません、少し良いですか?
「えっ…いやいや、勝ったのは奥分騎手でしょう。どうぞ彼の方に」

──いえ、早々にインタビューを切り上げてしまったので。2着といえど前レコードを更新した怪物2世グラスワンダー、その騎手であった貴方からも何か!
「押して来ますねぇ…分かりました、どうぞ」

──ありがとうございます!では手始めに、今日のレースは手応えとしては如何だったでしょうか?
「正直に言って、負ける気がしませんでした。グラスワンダーも本当に調子が良くて……だからこそ、クロスクロウにはしてやられたなぁ」

──奥分騎手は、クロスクロウが自分でやったと言っていました。貴方の見解としては?
「あっ、奥分さんも分かってたか。うん、間違いなく事実かと。あの動きは分かっててやってないと出来ないし、実際追い抜かすされる瞬間に目が合いましたもん。あぁ、俺達を引きずり下ろす為にここまでやったんだなと、その時に気付きました」

──3歳牡馬の王座は獲れなかった訳ですが、今のお気持ちは。
「悔しいしグラスワンダーに申し訳ないんですけど、同じくらいクロスクロウに天晴れというか……初めてですよ、一番やられたくない事を馬に推し量られて嵌められるなんて。内国産馬なので三冠路線に進むんでしょうけど、グラスワンダーに勝った以上は容易に負けて欲しくないです」

──ズバリ、クロスクロウは現時点で最強でしょうか?
「王座を獲ったんだからそうでしょう(笑)……でもそうですね。敢えて言うなら、私はそれでも地力ではグラスワンダーの方が強いと思っています。今回負けたのは、私がクロスクロウに頭で遅れを取ったのが問題なので。次は、勝ちます」



〜〜〜



「うっわ…すっげぇ。奥分さんを振り回すような馬なんて、誰が御せるんだ?」
「オイオイ生沿、お前あの馬の馬主に気に入られてんだろ?卒業した時、もし奥分さんが降りてたらお前に指名来るかも知れねぇぞ〜?」
「アハハ、そんなまさか…まさか……」



〜〜〜



「私の見立ては、間違っていなかった」

*1
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