ゲートの中で時を待つ。その間にも、ヒシヒシと感じる視線の矢。
(どうするのかな)
(前か?)
(後ろかも)
(逃げ追込の可能性)
(大逃げもあり得る)
(どうする)
(どうするつもりだ?)
問いかける心が、鏃に乗せられ突き立てられた。さて、どうするかな。
右を見る。ズラリと並んだ、その気迫達が肌を震わせた。
『Je vais gagner cette fois…*1』
『Peu importe ce qu'on dit, je suis le plus rapide !*2』
『Eure Hoheit Elle... Ich werde Euch definitiv zu meiner machen*3』
『I won't lose anymore, I won't lose!*4』
『Que dois-je faire de cette boue... ?*5』
誰も彼もギラついていた。自分だけの勝機を掴もうと必死な瞳。
つまり、俺と同じ。だが基礎から既に出遅れている俺が、そんな奴らに置いてかれない為にはどうするべきか?先んじる為にはどうしたら良いんだ?
その答えの一つが、アンタだ。
「………」
勇鷹さん。俺の上で、俺の心臓の拍動に耳を澄ませてる勇鷹さん。
初めに言っておく。俺は例の自分勝手な走りを、この土壇場でやるつもりだ。この勝負、それにアンタがどれ程付いて来れるかに懸かってると言っても良い———いやそりゃ万が一に振り落としでもしたら実質失格なんだから当たり前なんだけど。
けど、その心配は…アンタの事だ、要らないんだろうな。
(凄ぇ集中状態……)
周りの何にも頓着してない、本当に俺以外の何も頭に入れてない。その証拠に、他の馬が暴れたりしても一切反応を見せない。
けどきっとこの状態でも、一旦レースが始まれば状況の全てを把握するんだろうな。情報の取捨選択、俺が終ぞ出来なかった事。見上げるしか無ぇぜ全く。
(助かる。心の底から)
勇鷹さんに問題が無いという事はつまり、あとは全部俺の問題。無理のあるスペックで無理な展開を押し通すには、それこそ文字通りの無理が必要だ。
出来るか?
して良いのか?
しちゃいけないんじゃないか?
(関係あるか)
やりたいからやるんだ。
限界を超えたいから、俺はこれから超えるんだ。
退けば老いるぞ、臆せば死ぬぞ。ううん、退いたら即死するぐらいのつもりで行け。
(……それすらも正しくないな)
死を恐れてる場合ですら無い。そんな余裕がある程、俺は強者か?自惚れんな、クロスクロウ。
死を厭うな。
これまでもやってきたように。
『
奪った命に報いるなら、同じように命をチップにする。
それでやっと、対等ってモンだろ?
なぁ。なァ……!
クロスの心臓に重心を寄せる。
鞍越しに伝わる脈動と、自分自身を親和させる間隔。他の全てをシャットアウトして、それでようやく出来る事。人馬一体が出来ない時の代替手段だ。
それで伝わって来たクロスの奔流は———凪いでいた。
(正直、意外だ)
もっと激しい荒波を想定していた。道理を覆してきた馬だからこそ、安定や停滞からは程遠いと思っていた。もしくは、激しく此方を焼く太陽の熱線。
だが代わりに見えたのは、風の無い暗黒の海。虚無に近く、だがその奥に何かの存在を隠しているかのような。
(生沿君なら、隠していたこれを引き摺り出せただろうか)
彼はこれを露に出来ていたからこそ、あれ程無茶苦茶な疾走を体現出来ていたのだろうかと。ふと、そんなことを想う。
同時に、僕もこれを掴めれば、このレースに勝てるかも知れないと。
(いや、それは駄目だな)
人馬一体を経ないまま無理に領域に入り込めば、騎手と馬で負荷を分担できない。ダメージが片方に寄って、潰れてしまいかねないから。
そしてこの得体のしれない“何か”が、領域に近い何かだとすれば———僕がそれを引き摺り出す事は即ち、クロスを危険に晒す事に他ならない。
(生沿君に無事に引き渡すと決めているんだ)
彼が復活すれば、きっと主戦の座を奪い返しに来てくれる。その時の為にも無茶はさせられない。
となると、残された勝機はやはり、クロス自身の自由な走りとなる。それを邪魔しない為にこそ、今僕は彼へとのめり込んでる訳で。
(これほど穏やかな世界で良かった)
この静けさこそが、彼の本来の気性なんだろうか。普段スペシャルやエルに対して見せている陽気さは、相手を心配させまいと慮っての物?
何にせよ、荒れていない心には没入しやすい事だけは確かだ。それに託けて僕は、暗い海の更にそこへと潜っていく。
(勝負は、近い)
ゲートが開くまでにどれほど
どこまで行けばいい。
もっとだ。
どこまで、なんてのは無い。深く彼を知り、深く彼に知られるんだ。
全ては。
(この
その瞬間だった。
ジリ、と。
(……?)
そんな感覚がした僕の表面。何だ、これは?
熱い?
(おかしい)
さっきまで涼やかさ、どころか肌寒さすら感じていたのに。あんなに静寂に満ちていた海が、今。
煮立っている。
焼かれている。
(これは…!)
奥深く。暗闇のベールの隠された、最深部の“何か”が。
現れていた。
独りでにその姿を現し、世界諸共僕を焼いて……っ!?!!?
(それだけじゃない!引きずり込まれ———!!)
強烈な引力までもが、僕の精神に襲い掛かる。逃げられない!
何だ!僕は何もしてないぞ、何があの日輪を呼び覚ました!?
(クロス……まさか!!!)
君自身の、意志で。
次の瞬間、僕の自我は敢え無く呑み込まれた。抵抗なんて出来る筈も無かった。
誰も彼も引き込んだ、墜ちて来る日輪の輝きの前では。
ああ。
あぁ。
嗚呼!
(始まる。始まる、始まる!!)
空気が張り詰めていく。俺の中のテンションが、自分を鼓舞するべく急上昇する。
いよいよだ、お前らに報いる時だ!!
スぺ!待っててくれ!
フレア!呪ってくれ!!
グラス!見守ってくれ!!!
(勝つんだ、勝つんだ、勝つんだ)
勝たなきゃいけないんだ、その為に全員蹴落とすんだ。
許せだなんて言わねぇさ、出走馬の皆様方よ。憎め。その憎しみも忘れない。
だから。
だからさ。
だか、ら……ッ!!
『 ど け ぇ ッ ! !』
『Ouf…!*6』
『Aïe!?*7』
鉄格子が開かれた瞬間、沸騰する身体。血潮が迸ってるみたいには全身が弾け、飛び出した。
あれ。なんか隣2頭がよろけてやんの、ラッキー。
(エルは…前!モンジューは控えてる!!)
俺は大外枠、当然ほぼ全頭が俺の右側に集まってる訳で。熾烈な位置取り争いを一つの視界に収めれるのは僥倖と言えた。
ヨシ、今のところ予想通りだ。なら……!
『ぎぃぃぃッ——!!』
馬場は案の定、俺の味方にはなってくれない。踏み出した力の殆どが、滑って無に帰る。
でもそれを押して……前へ!
《全頭ゲートに揃って今……スタートッ!!各馬一斉に飛び出し、エルコンドルパサーがスーッと逃亡体勢!馬群を厭うたか海老奈仁義、しかし軽快に飛ばしていく……!!クロスクロウも前だ、クロスクロウ前!逃げか、それとも逃げ追込か!!?》
《ここで分からないのが彼の良い所でもあり……!》
『エル、とっしーん!』
『っ…!!』
エルは未だ俺に気付いてない。まだ序盤も序盤の混戦状態だし、そもそも俺が限界まで息を殺しているから。
(この内に整理だっ)
今しがた視認した馬群を頭の中で思い浮かべながら、どこに誰がいるかを再確認。が、実の所エルとモンジューさえ分かっていれば良い。
俺の勝機は、モンジューとエルを削りながら、他の奴ら——敢えて“有象無象”と表現するけど——を上がって来れないようにするのが大前提になる。その理由として、
(逃げじゃ、勝てない)
そう、悠長に先頭を走ってたらまず捉えられる。そもそも同じ土俵じゃ俺の方がエルを捉えられないんだから、まず最初に逃げは選択肢から外れた。
だがかといって、自由に追込させてもらえると思ったら大間違いだ。俺はいい成績残してないから注目度こそ低いけど、下手に目立ったらその瞬間に囲い込まれて壊滅するだろう。そうでなくとも、この最悪の馬場状態で馬群を駆け抜けるのは無謀に近い。
……となると、だ。
(
多少のリスクは承知済み。全て掠り傷だ、負ける事以外。
あとは俺さえ上手くやりゃぁ……
そう思った瞬間。俺は。
《クロスクロウ下がった!逃げ追込だ、朝日杯の激走だ——が、これは……?!》
『Hein?*8』
『Quoi!*9』
『Mon amour... Qu’est-ce que vous faites!?*10』
後ろに沢山の馬が控えてる状態で、下がった。馬群最先端のど真ん中から、減速した。
それが何を意味するか?
『大規模垂れ馬だ、コラ……っ!!』
『『『邪魔するなァァァッ!!!』』』
はははは!邪魔だろうな!目障りだろうな!!それが目当てだ!キレろキレろ、キレて掛かって潰れちまえ!アハハハ!!
……はぁ。
(マジで俺、こんな事しか出来ねぇのな)
自分で選んだ道だけどさ。本当にゴミカスだよ俺。下手すると失着モノだろコレ。そうならないように、背後の気配薄い方向を都度探して、致命的な邪魔だけはしないようにしてるつもりで下がってるけど……邪魔しなきゃ勝てないって、こんなに情けない話も無ぇよ。
『……Tu es un mauvais gars.*11』
馬達の怒号の中、一つだけ冷静な、蔑視を含んだ声。モンジュー。あっ、スムーズに躱して脱出しやがった。流石なモンだ、狙い通りだけど。
…ああそうだよ、その通りだ。こんなんで負かした奴らの顔が立つと思ってんのか?笑えるぜ。クソが。お前に蔑まれて当然だ。
『C’est troublant ! Ouvrir la voie!*12』
ごめん。謝る権利なんて無いしそもそも後悔もしてないけど、それでもごめん。
分かってるさ。俺がゴミで、屑で、ここにいる事自体がおこがましい塵芥な事は。
『Ne pas éclabousser de boue, ne vous en lasser pas!*13』
ゲロ吐きながらゲロ掃除するしか、罪重ねながら罪を贖うしか出来ない矛盾塗れの糞な事なんて分かってるさ。
分かってるってば。
『Écoutez-vous!?*14』
だから……!!
『分かってるッつってんだろ』
『『『————っ、~~~!?!!?』』』
……あれ。何だ今の。
うわダッセ。ダッッッセ!。逆切れかよ、ホント救えねぇ。しかもレース中だぞ、この駄馬野郎。
けど……周りの馬が一斉に崩れた。
(使えるかもな)
恥さえ捨てれば、忍べば。恥知らずに癇癪を撒き散らして、周りの馬を押し退ける。もう手段は選ばないって決めてるから、選べるほど強くないって知ってるから。
大丈夫、もうやり方は分かってる。喚かなくても出来る。
ほら。
『……!!』
『Pouah...!*15』
ギラリと気迫を向ける。隣の馬がよろめく。
何だ、やるじゃん俺、って思ってたらもう中段後方かぁ。こりゃ、あれだな。
(キッツ……)
最序盤での急激な加速と位置取り、下手に減速して馬群に埋もれた事による周囲からの重圧集中、そしてそれを受けながらの威圧の
ハッキリ言って、この時点で精神的にかなり削れちまってた。ただでさえ場群は情報量過多で苦手なのに、自分から突っ込んで逐一喧嘩売りまくってりゃそらな。
頭痛ぇ。張り詰めた緊張の糸をバイオリンの弦に引っ掻き回されて、今にも脳の中の大事なモンが千切れちまいそう。
(でも、これで目的の第一段階はクリアか)
前を見る。先頭のエル、追うモンジュー。最終的に競う事になる最強二頭を——ううん、逆だ。アイツらを、他の有象無象から隔離しておきたかった。だから俺の挙動をモンジューに厭わせたかったんだ、前へアイツを誘導する為に。
終盤、アイツら以外の奴なんて相手取ってられないから。今の内に、的確に潰しておかなきゃ。
さぁ。
(
《クロスクロウ、減速を中断!馬群を搔き乱しながら最後方へ落ちる前に再加速です、これは一体!?》
《分かりません!平時のクロスならここから追込の位置に就ける筈ですが…勇鷹騎手の思惑ですかね?!》
『Ce est de retour !!*16』
『Ne venez plus!*17』
『C’est fou... Êtes-vous d’accord avec ça!?*18』
嫌か!?そりゃそうだろうな!!ただでさえ邪魔なのにデバフばら撒かれちゃそりゃな!
けどやめてやらねぇ、それが目的だから!!
(落ちろ、落ちろ、落ちろ落ちろおちろおちろォ!!)
ただただ我武者羅に気迫を撒き散らす、簡単で傍迷惑なお仕事。これで負けたら誇るどころか日本の恥だ。尚更、勝たねぇと!
後ろを無茶苦茶にすれば、掛からせれば、前も追い立てられる!エルもモンジューもハイペースにせざるを得なくなり、削れる!一石二鳥だ、どんな労力だって成果に比べりゃ安いモンだ!
頭痛も!繰り返す急加速で波打つ心臓も!
『ッチィ!!』
ああ糞、忘れてたよ後方!まだ下がり切ってない所も牽制しなきゃ、また減速だ。
馬群の中を縦横無尽に動き回って、全員引き摺り落としてやるんだァァァ!!
《クロスクロウ、またもや減速です!どうなって…》
《おかしい、拓勇鷹はこんな無茶な———馬に負担がかかるような走りはしない筈》
《しかし現に……っ、フォルスストレートに入って先頭は依然エルコンドルパサー、三番手以下を突き放し、だが二番手モンジュー追走!ピッタリくっ付いて離さない、逃げ切りは許さないとばかりに食らいついてくる!》
《これは不味いかもわかりません!加速度は明らかに向こうに利がありますからッ》
《偽りの直線を越えて今!最終コーナーに差し掛かりモンジュー並ぶ、いや躱した!エルコンドルパサー差された!!》
『ハァ、ハ、ぁ、あがッ……』
やべぇ。
つかれた。
あたま、おかしくなりそうだ。
『まだ、まだ』
まだおわれない。今どこだ?おれはどこにいる?
『Was hast du für mich getan...!*19』
あ?お前、エルの
そうだ、エルは。エルはどこだ、モンジューはどこだ。
あっ。
\\\おォォおぉオオオーーッ!!!///
かんせい。
客。
皆の、声。
前が見える。
客席。そこへ向かうコーナー。
『負けるもんか……負けるもんかッ!!』
「負けて堪るかァァァァァっ!!!」
…エル。
モンジュー……ッ!!
(何やってんだ俺はバカか!)
意識もうろうとしてる場合じゃねぇだろ!友達を、ライバルを、エルを独りで頑張らせるつもりか!?モンジューの相手を任せて、それで満足なのかクロスクロウ!!
違 う だ ろ ッ ! ! !
『勇鷹さん!!』
「……ぇ。な、えっ……!?」
様子がおかしい。無茶な走りに付き合わせた所為か、本当にすみません。
けど、また付き合ってくれ。行かなきゃいけないんだ、あそこへ……!!
「まだだ!」
聞こえた日本人の声。観客席から。
「まだ彼がいるよ!」
ああ、まだだ。
俺がここにいる。
《頼む、戦士!》
願われた俺が、ここにいる!!
《「「「勝てッ!クロスクロォオ!!!!」」」》
あぁ!聞こえてるさ!
『勝ちに——』
「クロ、ス」
『いくんだァァァぁぁ!!!』
『ガッ———!!』
《!クロスクロウ上がって来た、来た来た来た!あの迷走を突き破って繰り出した!!》
全身の血管に、空気を押し込まれたみたいだった。
破裂するかと。
それがどうした。
幸い、前はバラッバラだ。威圧しまくったお陰で、全員ビビって近付いて来ねぇ。
だが足りない。
エルたちの方がまだ速い。
もっと。
まだだ。
みみっちい加速してる場合じゃねぇ。分かってんだろ?
もっと!
痛ぇ。
もっと。
胸の奥が痛ぇ。
もっと、もっと!
《上がって来る!日本伝統競馬の祈りが届くか!エルコンドルパサーも頑張る!行け!行け!!》
《届けぇぇぇぇ!!!》
『……なっ!?』
「は?」
「来たか!」
『…!!クロォ!』
轟音と共に迫り来る強大な気配。おかしい。あり得ない。
『何故だッ!』
あんな無茶苦茶な走りをして、足が残る訳が無い。残ってて良い筈が無い!
お前は一体何なんだ!?
『アナタが来るなら!エルだって、負けてられないデェェス!!』
「だなぁ、エル!」
『っ、クソ!!!』
「マジかよ…?!」
エルコンドルパサーまで息を吹き返した!どうなってる!?
だがそれでも……!!
(ここは僕の地平だっ!)
誰にだって、
『渡すもんかァァアアア!!』
《まだだ!モンジュー粘る、いやさらに加速した!?どこまで行くんだ、凱旋門賞が遠のく!!》
《直線が短い……!》
《差し返せぇぇぇ!!!》
『グぉあァァァアアァァアッ!!!』
痛い、痛い、痛い!
体の中がブチブチ言ってる!骨がミシミシ文句言ってる!
それぐらい頑張ってるのに……頑張ってるのに、届かねぇ!!!
(ふざけんなふざけんなふざけんなふざけんなふざけんな!!)
まだある筈だ!絞り出せるものが、俺のどっかに!
勝つんだ!その為なら何捨てても良い!命だって!!
死んでも良いんだ!その覚悟でここまで来たんだ!だから———ああ、くそっ!
チクショウ……!!
『クロ…エル……!』
力に、なりたいのに…!
(ボクには、何も出来ないの!?)
「オイあと何mだ!?」
「200弱です緒方さん!」
ニンゲンさん達も慌ただしくなる中、ボクも立ち上がりそうになり———持ち堪える。
それは、僕がすべき事じゃない。
『お願い』
ならせめて。
『負けないで……!』
このグラスワンダーの。
アメリの、想いだけでも。
負けないで、と。
誰かの祈りが、胸に響いた。
(———あっ)
欠けていたピースが、微かに埋まる。舞い降りてきた花びらの
これだ。これを埋めれば、俺は
(あと、一つ)
どこだ。答えは俺の中にきっとある筈だ。
探せ。あの将軍気取りの
『ここまで、だなん、て……!』
エルに追いつく……追いつく?
あ。
ああっ……!
(埋まった)
誰かを追い越していくとき、アイツらは誰より輝いていた。俺はずっと、それを見ていた。
誰よりも早く、誰よりも近い所から。
(答えはここにあったんだ)
ずっと、ずっと、この胸に。
流れていく星の煌めきを、研ぎ澄ませたその精神にて。
最初から、刻み込まれていたから。
《……!!来た!伸びた!!クロスクロウ迫撃!!!》
《 《そこだぁぁぁぁ!!》 》
「オイ、奥分!!」
「分かってる!見逃すものか…!」
「生沿さん…クロが……!」
「っ…!」
「クロス……頼む!!」
「獲れや世界ィィィ!!!」
あと。
あと、もう少し。
最後の、一押し。
どうなっても良いから。
動け。
動け。
動け!!!
———やった。
銀色の風だった。
《捕った!捉えた!クロス並んだ!今だっ!!》
白銀の太陽だった。
『お前は』
僕の横を、通り抜けていったのは。
『お前は一体、何なんだ』
そいつは答えない。ただ、まっすぐに、強く、輝いて。
《超えていけ!世界に消えぬ爪痕を今!!》
僕の
聳え立つ僕の
《刻み込めェェェ!!!》
『————!!』
こじ開けた。
無言の咆哮と共に、こじ開けられた。
開かれた世界のその先で———先に、ゴールされた。
『——ぇ』
その時、不覚にも。
本当に不覚にも僕は。
雲間から差す陽光に照らされたその後ろ姿に、僕は。
『———神様?』
見惚れていた。
その猛き姿に目を奪われた。
思ったんだ。
あの光に、追いつきたいと。
かった。
勝ったんだ。
なぁ、やったよみんな。グラス、生沿、スぺ、フレア、おっさん、臼井さん。おれ、歴史をかえたんだ。
日本初、だ。
ゆたかさん、ありがとうな。
ゆたかさん?
あれ。
まって。
とまれない。
ちからはいんない。
なんで?
えっ、え、えっと、え?
だめだ。
ゆたかさん、おちる。
それは、だめ。
とまれ。
ふんばれ。
とまって。
たのむ。
おねがい。
———あ。
あっ、あっ。
あ。
暮れる刻、陽は赤く染まるものですから。