【カルピ水さんからの絵】
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【Simca Vさん・TKさんの絵(2枚)】
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前者は冷え切った視線がイケメン過ぎて困るし、後者は自分が上手くイメージできなかったスカートver.を勝負服に取り込んでくれてて感謝だし
貰ってからずっとハイテンションなんだよなぁ
誰もが俯いていた。
誰もが下を向いていた。
街行く誰1人として、前を向く気力を失っていた。自分も、その1人だった。
「ぐむっ……」
パサリ、と。そんな自分の顔に降り掛かる固い紙。風で飛ばされて来たのだろうそれを掴み、広げれば。
詠買新聞 | |||||
| 神 風
仏 に 散 る | 命と引き換えの栄光
| | | | 勇 鷹 に 総 て を 託 し | |||
『……ッ』
現実。
この東京の街を、日本を、一瞬でこの有様にした悍ましい現実が、そこに。
この新聞が流されて来た方角を見れば、地べたに座り込む壮齢の男性。力なく項垂れたその表情を窺い知る事は叶わないが、きっと今の自分と同じ顔をしている事だろう。
……もう、1週間。それ程の時を経て尚、このザマだ。
(俺が始めた物語だ)
そう思わずにはいられない。自惚れだと自覚して、なお。
だって。俺は
クロスクロウが人気になるよう、ブログで閲覧者を誘導したのは───他ならない、俺だったから。
(俺が……俺がっ)
思わず自分の頭を殴る。無意味だ、でも消し去りたかった。気が付くとフラッシュバックするあの光景を、現地で見た紅蓮の血溜まりを忘れたかったから。
クロスを。クロスクロウを殺したのは、クロスの人気だ。
そしてアイツを人気にした1人が、俺だ。
つまり。俺が。
「ああ゛ぁあ゛───ッ!!」
掻きむしった頭、ひとりでに叫び出す喉。だがそれを気に留める人はいない、誰もが同じ状態で、その寸前で止まっているのだから。
喉が枯れるまで蹲り、ようやく落ち着いてから──歩き出す。フラフラと覚束ない、でも進まざるを得ない足取りで。
でなければ、間に合わない。
「もう……14時……」
いつもなら朝早くから
彼が出ているならば、見届けなければ。記事にしなければ。
「クロスクロウに、申し訳ない」
最後までやり遂げるんだ、彼がそうしたように。そう己を鼓舞して歩き続ければ。
「始まる……」
「始まっちゃう」
「見なきゃ」
「見てどうなる」
「知らないよ………」
1人。また1人、気づけば人集り。
皆一様に、同じ方向へ歩いていく。行き先が同じなんだから当然だ。
そう。本当に皆一様に。
東京競馬場へ。
昨年、稀代の名馬達──クロスもそこにいた──が、激戦を繰り広げた毎日王冠。その舞台へ。
気付けば、ボクはそこにいた。
芝の匂いに目が覚めたようだった。ハッとした時には、既に
「グラスワンダー……驚くほど、何もありませんでしたね」
「ああ。集中力は少し、散漫になった気はするが」
「…グラス自身の動揺なのか、それとも俺達の動揺が伝わったのか。どっちなんでしょうか」
「少なくとも今の臼井厩舎の惨状よりはマシだろう。だから俺達が彼等に代わり、クロスに代わり、競馬界を支えなければならない」
引き連れるニンゲン達の声に、少しずつ意識がハッキリとする。そうだ、ボクは朝起きて、ご飯食べて、車に乗せられて、そしてここへ来たんでした。
そんな事も分からなくなっていた理由は……我ながら、情けない物で。
「窓葉さん、頼むぞ。今回のレースは、グラスが本当に大丈夫かを確かめる意味合いもある」
「当然です。絶対に……ライスの二の舞にはしませんよ」
何も、考えたくない。
考えたら、すぐ
《……10月10日。今年もまたスーパーGⅡ、毎日王冠が始まります。実況はわたくし蒼芝、解説に獅童さんをお呼びしています。獅童さん、宜しくお願いします》
《………》
『——グラス?グラスか、オイ!?』
『ちょ、何よ。急に慌てても良い事無いわよ』
『すみませんドーベル先輩、ちょっと失礼します!』
『待ちなさいキングヘイロー。私はアンタたちの世代にまだ一言も二言も言いたい事が———うぇっ!?アイツあの時の…!』
《…獅童さん?獅童さん!》
《ぁっ……すみません、少しボーっとしてしまって》
《いえ、仕方ありません。私もこうやって見下ろしてると……この返し馬の光景に、あの芦毛が紛れ込んでないか、つい探してしまいそうになりますから》
《……惜しい、なぁ》
『グラス、俺が見えないのか!キングだ、キングヘイローだ!シーラを介しても全然返答しないから心配だったんだぞ…!?』
『……?待って、キングヘイロー。様子がおかしいわ』
『分かってます。だって、帰って来たマンボから
『例の事って、いったい何の事よ?』
《しかし、彼がいなくとも歴史は進みます。進まざるを得ないのです、私達は……!》
《蒼芝さん!そうは言っても……すみません!無理なんです、どうしても!》
《ダメです獅童さん!それだけはいけません、それだけはッ……!!》
『グラス……まさか、本当に見えてないのか?』
『……キングヘイロー。これは親切心と、あと私が苦手意識を持ってるソイツとあんまり関わりたくない利己心からの忠告だけど……無駄よ。こうなった奴は放っとくしか無いわ』
『でも!』
『ダメなの!自分で答えを見つけない限り、コイツはずっと闇の中。他人が手助けしたら、その手にずっと縋り付いて生きていく事になる』
『……仮にそうだとして。もしそれでグラスが、グラスの為にならない道を……自分を傷付けるような道を選んでしまったら、どうするんですか。クロはアイツにとって、俺たちにとってどれほど……!』
『……よく聞きなさい、キング。これは──』
やめろ。
物を思うのをやめろ。
何も考えるな。
考えたら全てが終わる。何かが壊れて、戻らなくなる。
《止まってはいけません、背を押した私達だからこそ。見届けるべき1999年毎日王冠……きっと、足を運んだ観客一同も同じ思い!》
嫌だ。入れないで。そこに入ったら最後、考えずにはいられない。
ゲートに入ればもう、レースが始まってしまえばもう、後戻り出来ない。
だめ、だめ、ダメ……!
《去年の高鳴りの面影、それと相反する異常とも言える静寂の中で今──ゲートが開いたッ!!》
『うぁあぁっ……!!』
あ、ぁ、あああ!
だから嫌だったんです。意識が明瞭になってしまった、レースでは否が応でも集中してしまうから!ずっと、ずっと微睡の中にいたかったのに!!
《グラスワンダー出遅れ、大きく出遅れた!》
走りたくない。よりによってこのコースで、でも走らずにはいられない。
なんとか飛び出したけれど、案の定最後方からの出だしになってしまう。
そう。よりによって、このコース。
(クロと走った、最後のレース)
そうだ。彼と会ったのは去年、このコースで競ったのが最後だった。顔を見れたのは、あの時が最後だった。
ボクは、どうしてた?
(あっ、あっ、いやっ……!)
最悪だ。最悪の態度だった。
呼び止めるクロを振り切って逃げ出した。あんなのが、最後だなんて。
最悪過ぎる。こんなの、無いですよ。
《折り合いを欠いているのか窓葉一、落ち着かない様子。立て直せるでしょうか》
「くっ……これは、レースどころじゃないか……?」
言わないで。アレが最後だなんて、そんなの嘘だって言って。クロは無事に帰ってくるって言って。
誰か。誰か。
「はァ、ハ、ァッ……!」
願いを否定するように、
違う。彼は死なない。だって、ずっとボクを想ってくれるって。
なのに死ぬなんて、そんな訳。
(じゃあ、あの水は何?)
考えるな。
(健康な体で、吐く事なんてある?)
(普通の水じゃなかった。粘ついてた)
考えるな。
(あれが、クロの命だとしたら?)
考 え る な !
「うおっ……!落ち着け、グラス!」
《アンブラスモアが先頭、スティンガーを始めとする二番手集団を惹きつけれてさぁ3コーナー……ここでグラスワンダー加速、今度は掛かったか順位を上げていく!》
『お前という奴は……!!』
あり得ない!クロが約束を破る訳が無いんだ!有馬で走るって誓ったんだ!!
それがこんな、こんな……!
『行かないで』
見える。ボクの前、芦毛の尻尾が見える。
離れていく。追い掛ける。それでも離れていく。
そこにいるのに、届かない。
『待って』
ボクも同じ所に居させて。隣で、ずっと、ずっと、一緒にいて。
貴方さえいれば、他に何も要らないから。
『クロがいなきゃ、何にもならないよ』
貴方に会ってから、ボクの全てが貴方になった。
貴方がいたから今のボクがあって、じゃあ貴方がいないボクはどうなるんです?
『何にも、なれないッ』
全てを捧げると誓った。ボクの全てを以て、貴方を満たすと。エルからもサイレンススズカからもスカイ君からもキング君からも、スペさんからだって、その座を奪うって。二度と譲らないって、そのつもりで。
なのに捧ぐ相手が、注ぐ器がいなければ、この行き場の無い想いは、どこへ。
《とうとう先頭に躍り出た、なんて早い仕掛けだ!ペースは保つのか窓葉はどうする!?》
『グラス、待て!待てってば!!』
『これはちょっと見てられないわね……!』
まだだ。こんな物じゃなかった、クロの走りは。
《第四コーナーを回って未だグラスワンダー先頭!これは、これはクロスクロウへの手向けか!?怪物が全てを置き去りにする激走だ!》
ボクは全然、その域に達してない。だから離されるんだ、だから置いていかれるんだ。
(そんなの、嫌だ!)
隣にいたい。ずっと寄り添っていたい。
朝起きたら隣にクロがいて、昼に一緒に走って、流れた汗を舐め合って、並んでご飯を食べて、今日も楽しかったですねって語り合いながら床に就く。それをお互い老いるまで、睦まじく緩やかな終わりまでそうやって、クロと永遠に暮らしたい。暮らしたかった。
(……
ああ、そうか。
気付いた。気付いてしまった、ずっと目を逸らしていた事。
ボクは。ずっと、ずっとボクは。
クロ。
(あなたが、好き)
友達として。
仲間として。
そして、何よりも……!
『好きだった……!』
愛してた!愛していたんです、クロ!
何よりも強く、誰よりも深く!あなたを!!
(貴方と交わりたかった!貴方と一つになりたかった!!)
でも、もう叶わない。今更全ては手遅れのまま。
願いは何一つ届かないまま、終わったんだ……!!!
『う、ぁ、あ…うわぁぁあああぁああッッ!!!』
クロを拒絶した自分、クロに寄り添わなかった自分、クロの痛みを理解しなかった自分、その全てが忌まわしく呪わしく腹立たしい!
何故臆した、何故誤魔化した、何故退いた!?何故、なんで、どうして───!!
───きっと、その怒りこそが“隙”だった。
「……、フッ!」
「あぅっ……!?」
手綱が引かれた。ボクの力に比べれば本当に些細な、でもそれは確実にボクの気勢を削ぐ。
マドバさん……っ!!
『どうして!』
「同じ轍は、踏ませない……!」
止められた。すぐ分かった。いつもボクを導いてくれる彼が、今度はボクに立ち塞がった。
クロの影が掻き消える。それでも、例え届かなくても、マドバさんが止めたんだ。
《燃え上がる武蔵野の森を背にグラスワンダー、多少よれた!がしかし負けられないグラスワンダーそのまま1着!愛しき戦士へ捧ぐは、不死鳥の咲かせた花束か!!》
『……ッ、カハッ!?』
ゴール後、止まった瞬間に溢れ出る吐息。想像以上に体力を使っていたらしく、呼吸の荒さを直せない。
我ながら、あまりにも無様。
(行きたかった)
クロに追いつきたかった。叶わないならせめて、同じ場所に行きたかった。そんな最後の想いさえ、許されないの?
(いきたいよ、クロ)
行きたいよ。
生きたかったよ。
……逝きたい、よ。
今度は痛み。それも、右の後ろ脚。ボクがクロから離される最初のキッカケと、同じ。
何なの。何なんですか。どうしてこう、何もかもボクの邪魔を……
……じゃま……?
本当に?
確かに普通だったら邪魔だ。走る機会を奪う忌むべき物だ、この痛みは。
でも……
(この痛みの更に先、なら)
ずっとずっと、飛び越えていけたら?
『ハッ、ハッ、ハッ……くっ、そぉ!!』
ダメだ。敵わない。俺じゃ敵わない……!
『グ、ラス』
掠れた声じゃ、呼んでも聞こえない。友はそのまま踵を返し、遠くへと言ってしまう。
待てよ。お前、自分が何しようとしたのか、分かって──ああ、ちくしょう!
『…ふぅーっ。お疲れ様、キングヘイロー』
『先輩……何ですか』
『謝っとかなきゃいけないなって。あんな大口叩いたのに、私は歯牙にも掛けられないまま終わって……呼び止める余力も無かったし』
『大口って………』
『止めるのよ。彼を慮る、貴方の意思で』
思い詰めたグラスが道を誤った時、どうするのか。その問いに、ドーベル先輩はそう答えた。
『止めるって……』
『方法は問わないわ。走りで勝つ、言葉で止める、寄り添い癒す……でもその前に、彼自身が答えを出して自立する過程を疎かにしちゃいけないの』
そう言って前を見るドーベル先輩。それは、“待ち”の姿勢。
「私は女王。エアグルーヴ先輩からその座を継いで、在るべき姿もある程度は分かってるつもり。その上で言うわキングヘイロー、“王者は泰然であれ”と」
『たい……ぜん』
『そう。動じず、揺るがず、けどやると決めたらとことん。まぁ
『その割には俺に話しかけて来ましたね』
『アンタ達の世代には煮湯飲まされてるもの!宣戦布告の一つや二つしとかないと、それこそ王者の名折れでしょ』
ともかく!と一つ咳払いして、彼女は。
『彼はこのレースで、何かきっかけを掴むと思うわ。それが善き物なら良し、悪しき物なら……否を叩きつけてあげれば良いのよ。友達なんでしょ』
『ぁ──!』
『今回は特別に、私も余裕あったら見定めてあげるけど……誰かを救う“ここぞの時”。王様を目指すなら、ちゃんと見極める事ね』
俺より先に、
『私が間違いだったわ』
その声で我に返る。視界に映ったのは、頭を下げる先輩の姿。
『見誤ってた。一目見て分かる“踏み外し”だったのに、先輩として何もしてあげられなかった……』
完全に消沈した意気。持論の破綻を前に、折れ掛けている。
……けれど。
『俺は、そうは思いませんよ』
『え…?』
『先輩の意見は、間違ってなんかいない』
王たる者、泰然であれ。動く時を誤るべからず。
その通りだ、言われてハッとした。俺は今まで、ガムシャラに焦っていただけだった。クロが俺を好いてくれたのも、そういう所だった。
その上で。
『まだ、“その時”じゃなかっただけだ』
俺一頭じゃ、先輩と一緒でもグラスを掬い上げられない。一頭だけじゃ。
けど……俺だけじゃないんだ。グラスを想う奴は。
クロがいなくったって、俺達は。
『むしろ感謝させて下さい。不利な状況だったのに、俺たちに気を遣ってくれてありがとうございました。次に機会があれば、今度こそ支障の無い先輩と競いたいです』
『……!』
『本当の“王”になった俺と、女王たる貴方で』
その為には、自分を鍛え直して、その上で皆と連絡取り合って。
ってそうだ、スカイも何とかしないと。アイツはシーラ越しに発露出来てるだけマシだけど、それでも相談に乗ってやらなきゃ。クロはもういないんだから。
そうだ。クロは、クロは……もう……
『どうしたの?』
『へ?』
『涙』
バカな。悲しくなんて無い、だって聞いたんだ。クロはやるべき事をやり切って、勝って逝ったんだって。
アイツは、自分のやる事を分かった上で、納得した上でやる奴だ。ならそれを、友として誇ってやらないでどうする。悲しんでどうする。
悲しくなんかない。そんな事はない。あり得ないんだ……!
『んっ……』
……!?
ドーベル、先輩……?
『私の勘違いだったようね。汗だったわ』
そう言いながら、つい今そうしたようにゴシゴシと目元へ鬣を擦り付けてくる先輩。
やめてくれ。頼むから、やめてくれ。
我慢出来なくなるから。
『何を?分からないわよ、だって見えないもの』
『あ、ぁ……!』
あぁ。くそ。
『クロ……どうして、どうして……!』
何故行ってしまった。何故帰ってこなかった!
『俺を照らしてくれよっ……!』
もう止まらない。一度決壊した感情は声として、震えとして容易に表に溢れ出す。
間違っても王だなんて呼べない、情けない姿。それをドーベル先輩は、ただ静かに受け止めてくれていた。
「窓葉一騎手。まず一言、おめでとうございます!」
「ありがとうございます。いや本当に……大変でした」
「グラスワンダーのポテンシャルを盛大に見せつけての圧倒的走破!最後は詰められましたがしかし、昨年の雪辱を綺麗に果たしましたね」
「……本当にそう見えますか」
「え」
「課題だらけですよ、私も彼も……次走はJCという方向で緒方さんと組み立ててたんですが、お互い頭を冷やす期間が必要そうです」
「それはどういう、」
「すみません。凱旋門の事も含めて、まだ咀嚼し切れてないので……ここで、失礼します」
「ちょ、窓葉さん!?窓葉さーん!!?!」
絵を上手くしたい……
勝負服のズボンver.もスカートver.も綺麗に格好良く描きたい……