また君と、今度はずっと   作:スターク(元:はぎほぎ)

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「秋天でステゴが勝ってたら?」という質問がありました。この場でお答えします

①まず観客の反応は「お、おう……競馬やな」となります。衰退はしませんが再興もしません。史実程度の盛り上がりに収束するでしょう、少なくともその頃合いは
②スペ君はとても悔しくなります。んでもって覚醒度合いも中途半端になっちゃいます。スカイは諸々に打ちのめされて菊花直後の燃え尽き症候群が再発するかも知れません
③でもまぁスペ君は奮起するでしょう。すぐに立ち直ってJCに挑み、モンジューと対決します。その結果がどうなるかは分かりませんが、秋天敗戦により強化が遅れてるのでそれがどう作用するか
④そして有馬。グラスが待っています。スペの練度に関わらず漏れなく怪物化してます。覚醒遅延したので止められません

要約:スペ、勝ったのでギリ回避


【Ep.108】黒金!

夜空に星が流れた。スッと一筋、闇を切り開いて。

それだけでなく、帳の降ろされていた地にも火が灯る。一つ、二つ、三つと続く。掲げられた(のぼり)となって、天を仰ぐ。

黒一色だった世界、光が満ちる様。落日を経た地平が照らされ、その中心には彼がいた。

 

———夢と現実が、混ざり合う。現実の彼も、また。

 

『———!』

 

彼は確かにそこにいた。鎮められていた熱狂に再び業火を灯し、その中心で喝采を浴びている。

 

『スペ…!』

 

その後ろ姿に、敬愛する芦毛の面影が、重な——らない。全然違う。

そこにいたのはクロスクロウではない。新しい時代を作り繋いだ、紛れも無い、スペシャルウィークその者で。

 

『そうか……終えたんだな、お前が』

 

今まで、俺達にとってはクロこそが中心だった。彼に追いつきたかったし、彼を追い越したかったし、俺に期待してくれた彼に報いてやりたかった。

その時代を、スぺは終わらせたんだ。次に追うべきは自分だと、自分がそれを負っていくのだと、その走りで以て示された。

 

『あんまりじゃないか、殺生じゃないか……!』

 

なんて強引な。俺はまだ銀の尻尾を追っていたかった、沈んだ日輪がまた昇る日を待っていたかった。けどこれじゃ、嫌が応にも歩き出さざるを得ないじゃないか。

夜に迷う時代はもう終わりだ。星と灯で、進む方向を示されてしまったのだから。

 

(くそ。これじゃキングの名折れだな)

 

俯いてる暇は無い。指し示し導く役割は本来俺の物だ、アイツに任せたままでいられるか。今はいないけど、次にフクノベが乗った時はこうはいかない。

お前がクロの後釜になるというのなら、良いだろう。俺はそれすらも超えて……ん?

 

『スカイか?』

『……どーも。その通りですよい』

 

背後の気配には覚えがあった。腐れ縁、というのも悪いけど…そう呼ぶしかない相手、セイウンスカイ。俺と同じ、足掻く者。

その視線が、妙な色を浮かべてスぺに注がれていた。なんだか気になって、声を掛けた。

 

『どうしたんだ。妙に粘っこくないか、目が』

『そうかなぁ?オレはオレなりに勝者に賞賛と怨念を送ってるだけですけど』

『怨念はやめろ怨念は』

 

全く、コイツは。クロ相手にもそうだった、というかクロに関係する相手に露骨過ぎだ。どれだけ負けたくないんだ、アイツに。

……いや、そうだよな。負けたくなかったんだよな、特にお前は。

 

『……残念だったな』

『君も同じでしょ』

『お前ほどじゃない』

『………どうだろうね』

 

シーラやマンボを介してじゃ、スカイの怒りは止められなかった。俺自身が参ってたのもあるが、それだけコイツの中の欠落が大きかったという事。クロに勝つ、その為に走ってきたから。

なぁ、スカイ。お前に道は見えたか?スぺに照らしてもらえたか?

 

『分かんないよ』

 

俺の問いに、彼はそう応じて。

 

『だから確かめに行くんだ。これから』

 

踏み出した。俺も、その隣で続いた。

スぺがこっちに気付く。喜ばしげに、満面の笑みをその顔に浮かべて。

 

 


 

 

まー……してやられたよねぇ。ホント見事に。

久し振りに逃げて、他の逃げ馬と競り合っちゃったモンだから大変なんてレベルじゃなかったんだよ?それでもその中で必死こいて立ち回って、邪魔されないように気配消しながら領域に入って、それがうまくいったと思った矢先に……君だよ。

 

(また見惚れちゃうだなんてさ)

 

レース前にそうならないよう意識したっていうのに、あんな勇ましい姿見せられちゃったらさ。同じ牡としちゃ、憧れを禁じ得ないワケですよこれが。あーやだやだ、これも全部クロスの所為だ。クロスがスぺ君をあそこまで鍛えたからこうなったんだ、そうに違いない。ぜーんぶクロスさんのせーいー!!

 

(……クロ、さん)

 

なんで、こうなっちゃうのかなぁ。なんでこうなっちゃったのかなぁ。

臆病者め。オレとの再戦がそんなに怖かったのかよ。違ったら言い返せよ、そうじゃないとオレ、ずっと勘違いしたままだぞ?それで良いのかよ?

良いワケ無い。だから、もう帰ってこないだなんて、誰にも言わせるなよ……。

 

『スカイ!キング!!』

『……にゃはは。おめでとう、スぺ君』

 

気付かれた。接近してるんだから、当たり前なんだけど、でも本音を言えば気付かないで欲しかった。君は直視するには眩しすぎるもの。

 

(しっかし、また一回り大きくなられちゃったなぁ)

 

対面して、思う。彼は成長したと、以前よりさらに。風格が段違いだ、秘めた覚悟っていうのかな。そういうのが。

奇しくも菊花賞の時と似た構図。違うのは勝敗(けっか)だけ。あの時もスぺ君は前を向いてて、オレは後ろ向きの怒りでゴリ押してかったけど、でもそれが通用する世界じゃとっくになくなってた事に気付けなかった。だからきっと、負けた。

 

(上を目指してる奴に、下向いたまま勝てる訳が無かったんだ)

 

身勝手な怒りに身を任せ、自分可愛さにかまけた。悔しいけど完敗だ、これ以上ないほど現実を見せられた。それが君の狙いだったのかな?

 

『負けず劣らずの策士だねぇ、やってくれるねぇ』

『へ?』

『また拗らせたりしないだろうなお前……』

 

須頓狂な声音はしらばっくれか、まさか素?どっちでも構わないけど、自分の問題だし。

それにキング、安心して。これ以上拗れる事は無いよ。だってもう拗れ切ってるから、自覚してるから。

 

『一応言っとくけど、認めないから』

『はっ?』

『……えぇ~。これじゃまだ足りなかったのか』

 

落胆の声に対し、首を横に振る。君に不足なんか無いって伝える為に。

落ち度は、徹底的に、オレにだけ。

 

『ここに来ても、まだ諦め切れないんだ。クロに勝つ、その為だけに進んできた。今更変えられない』

『スカイ、でも…』

『分かってる。叶わないってわかってる、それでもなんだよ』

 

まだ終わってないんだ、この道は。何かで決着付けないと、他に乗り換える気にはなれない。そんな下らない俺の意地。

でも君達なら、きっと分かるでしょ?

 

『……うん。当たり前だ、僕達はおんなじ光を目指してきたんだから』

『焼かれて落ちても構わなかった、それでも太陽に挑めたなら。俺だって何度、そう思ったか』

『だよねぇ』

 

競争というある種の孤独な世界で、祈り、願う。見果てぬ夢を描き、勝ち取ったIF(みらい)を見る。夢はそれぞれ違えど、きっとオレ達が勝ちたいと思った相手は似たり寄ったりだから。

そりゃこだわるでしょ。ねぇ?

 

『だから、まだオレは迷い続ける事にするよ。照らしてくれたスぺ君には申し訳ないけど、俺は闇の中に留まるから』

『……うん。それがスカイの選択なら、それ()良いしそれ()良いよ。何も分からないまま彷徨うんじゃなく、()()()()()()ならそれだって一つの立派な道だから』

 

話がお早い事で。それでも感謝してるんだよ、お陰さまで下ばかり向いてられなくなったんだからさ。

お先は真っ暗。迷い続けてどこに辿り着くかは分からない、どこにも行き着けないまま終わるかもしれない。端的に言って、未来が怖い……それでも、止まらないって決めたから。

 

『俺も付き合うぞ』

『えっ……キング?』

『迷う奴に寄り添えもしないままじゃ、俺は俺に胸を張れないからな。()()()()王者になるって、決めてるんだ』

 

……全く。君達ってやつらは、本当に。

 

『揃いも揃って不器用な……』

『な、なんだとぉ!?こっちなりに気を遣ったっていうのにその言い草は無いだろう!!』

『というか僕もその括りに入るの!?』

『誉め言葉だよ、言わせないでってば恥ずかしい』

 

一緒に三冠を走り切った仲。その4頭(クインテット)から1頭消えて、3頭(トリオ)。寂しさは否めないけれど。

 

『キング、スカイ!』

『ん?』

『何?』

『君達がまた迷った時でも、また道を変えたくなっても!それでもいつでも光になれるくらい、輝いてみせるからね!!』

 

———やっぱり敵わないや。走りはともかく、心では。

星が煌めくような笑顔。クロとは違うそれで、これからも色んな馬やニンゲンを照らしていくんだろうな、君は。

早速、ほら。

 

『スぺくぅぅぅん!!おめでとおおおおお悔しいいいい!!!』

『うわぁツル君ちょっ危な!?』

『前あんなこと言ってごめんね!今日のスぺ君は本当にすごかった、完敗!僕にとって初めてなレベルの大舞台で、勝ちたかったけど、でも、でも…うわああああん!!!』

『落ち着けツルマルツヨシぃ!スぺ、とりあえずいったん離れt』

『僕も混ぜろよッ』

『『うわまたなんか来た』』

『なんかじゃないエアジハードだ!今回は負けたけど絶対諦めないぞ、次は勝つ!というかスペシャルウィーク、君はなんか走り以外でもかなりライバルな気がするからその意味でも絶対負けないぞ!』

『凄い方向から敵視されたんだけど逃げて良いかな僕!?』

『スぺ君に勝つのは僕だよエア君、取るな―!』

『何かツル君の物みたいになってるし……あ、ブライト先輩!』

『祝福しに来たら何ですかこの盛況は……たまげましたね』

『そんな事言ってないで助けてください!』

『楽しそうなので僕も混じります~』

『ちょっ!!』

『もうダメだ。悪いが俺は逃げるぞ』

『キングぅぅぅぅぅぅ!?』

 

もう集まってる。光に当てられ、導かれ、集う熱意。その中心に君は座すんだ。

良いじゃん。せいぜい輝いていてよ、皮肉とか抜きで。

クロよりも輝いて、最強になってみせなよ。オレの前に立ちはだかってみせろよ。

心から応援してる。日本一(さいきょう)の馬、スペシャルウィーク君。

 

 

 

『あっそういえばブライト先輩。ステイゴールドさん見てません?』

『彼ならもう帰ってしまいましたが?』

『えぇ~…色々話してみたかったのになぁ』

 

 


 

 

———負けた。

またあの走りに、勝てなかった。

 

『チクショウ……!』

「……お前、本当にすごかったんだな。なぁ、ゴールド」

 

反吐が出る、自分以外の為に走るなんて。擦り切れるだけの走りに幸福なんて無い、満たされる筈が無い。己に割くべきリソースを他者に回して、どうして。

どうして、アイツらは。

 

『あんなに幸せそうに勝ち取ってンだ……!』

 

意味が分からない。脳が理解を拒んでいる。生殺与奪を他の生物に握られてる世界だぞ、他の奴に構ってられる余裕なんか無い!

だというのに、なんでアイツらはあんなに満足できるんだ?!

 

(おかしいだろこの世界の(ことわり)上ッ…!!)

 

そうだよおかしいんだ。何故なら、アイツ自身が言った論理と矛盾してるから。

なぁクロスクロウ。お前がお前の言った事を破って、どうする!

 

()()()()()()と、そう言ッたのはお前だろうが!)

「……ゴールド?」

 

生きてる限りできる事がある。あの言葉は嘘か出まかせか、俺を煙に巻く為だけのハッタリだったのか?いいや違う、ペット2号(サイレンススズカ)を救う為に自らの身を躊躇無く投じたのがお前だ!その顔には、走りには本気の想いがあった!じゃなきゃ俺はあんなに苛立たねェ!!

なのに————お前は。

 

『帰って来ないって、なンだよ』

 

前のレースの時に伝えられた言葉。あの時のスペシャルウィークの表情、喪った者の悲嘆。

見覚えがあった。ラスト先輩と同じだったから。

 

……死んでるじゃん。

あんなに生かす事に、死なせない事に拘ってたのに。自分が死んでんじゃん。ギャグか?笑えば良いのか、あ?

 

『冗談じゃねェよォォォォッッ!!』

「うゎっ——!?」

「不味い、抑えろ!」

 

堪えられない、そのつもりも無い。馬道(かえりみち)独り咆哮した。ありったけの怒りだけを込めて!

 

『ふざけんな!バカ野郎!!阿呆!全員置いていきやがって!!!』

 

俺の事じゃない。全員に俺は含まれない、これは本当に強がりでも何でもない!

けどな、お前の帰りを待ってたやつらが大勢いる、それだけは俺にだって分かるんだ!!なのにお前、お前……!

 

『舎弟が独り立ちできたから満足ってか!?』

 

確かに強かったよペット5号(スペシャルウィーク)は、勝てなかったよ俺は!その走りにあの日のテメェの面影を見て、ガラにもなく本気で走っちまったさ、それでも負けた!

憎たらしい事に、その後の誇り具合まで威風堂々で、見てたこっちが惨めで逃げ出しちまったぐらいだった!!

だがお前……()()()()()()()()だろッ!!!

 

(サイレンススズカは!)

 

また走ろうって、前者と約束してたのをこの目で見たぞ。

 

(グラスワンダーはどうすんだ!?!)

 

お互いを離すものかと、焼き付け合いたいと、まるで惹かれ合う(つがい)のように後者と慕い合ってるのをこの耳で聞いたぞ。

グラスワンダーからは明確に名を聞いた訳じゃなかったが、思い返せば———アイツの恋う相手は、間違いなくお前な筈だ。

そんな奴らを置いて、勝手に旅立って。お前はそれで良かったのか?

 

『ンなワケが無ェ……!』

 

お前ほどの奴が、自分にそれを許すワケが無ェ!許されればレースをやめてでも他馬を助けに行くような奴は、そんな自分勝手に無責任に“縁”を放り出さない。救う算段を予め立てれるレベルで利口な奴なら、尚更!

つまり、だ。言い当ててやるよクロスクロウ、お前。

 

()()だっただろ……!』

 

その最期は。その死にざまは!

どう間違ったって、“幸せ”とは形容できない代物だったんだろ!?

 

(じゃなきゃ筋が通らねェ、不幸(そう)でなくちゃいけねェ!!)

 

満足からは、充足からは程遠い代物だった筈だ。果たせない誓いに叶わない恋、愛、願い。そんな大きな物を抱えて沈んで、どう笑って逝ける?無理だろ!?

のたうち回って、足掻いて、生きたいと願い!届かないまま斃れた、それがお前の末路だ!!

 

『誰が何と言おうと、例えテメェ自身が本当はどう思って死んでようと言ってやる!お前は不幸せに死んだんだと!!』

 

ギリリ、と、食いしばった歯が音を鳴らした。歯茎が裂けそうだ、その痛みも怒りへの追加燃料にしかならない。それぐらい、アイツには言ってやりたいことが積み重なっていたのに。

それがもう、出来ないというのなら。俺に出来る事は。

 

『……否定してやる』

 

復讐だ。

 

『根こそぎ、無意味にしてやる』

 

俺達の論争に勝者はいない。あの日俺は負けて、そして勝者だった筈のアイツは自分の信条を自分で否定してしまった。後に残ったのは、形骸化した一つの論理(ロジック)

 

『絶対に、これだけは』

 

他者を想って生きていく。道具として削られ続ける事を是としてでも尽くし続ける、クロスクロウが掲げた生き方。それだけは、必ず。

どうやって?決まってる、俺自身の生き方でだ。

これは八つ当たりだ。クロスクロウ本馬にやり返せなくなったから、奴の遺した物へ代わりにぶつけるだけ。

 

『ニンゲンには媚びねェ。言う事はこれからも聞かねェ、他の馬を重んじたりもしねェ』

 

死んでも、なんて言わない。そんな事したらクロスクロウとおんなじだ、アイツと同じ穴の狢になんかなってやるか。それこそ死んでもお断りだ。

だから、生きる……!

 

『どこまでも自分勝手に、生き抜いてやるッッッ!!!!』

 

アイツが他者の為に身を粉にして死んだのなら、俺は自己愛の塊のまま生きてやる。アイツが生きられなかった明日を生きてやる、()()()まで紡いでやる。

死ぬまで、生き抜いてやる………!!

 

 

 

 

今に思えば。

これこそが“答え”だったんだろう。俺がずっと求め続けた、俺だけの答え。生きる意味、“足るを知る”為の。

 

肝心の俺は———当時まぁ、気付かないまま帰って不貞寝した訳だが。




「嫌い」が先走りまくった結果、なんか普通の仲間よりも理解度高くなっちゃった関係性が性癖
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