当初書こうとしてた話じゃなくなってる事に投稿寸前で気付いて急遽サブタイ変える。下手すると更新に間に合わない
「とは言うても、俺が帰って来てもほぼ変える予定無いんやけどな。スペシャルの調教」
「「えっ」」
意気揚々とコースに繰り出してみれば、臼井さんの口から出てきたのはそんな言葉だった。
「変える事無いって、どういう意味ですか」
「現状維持。いやタイム更新は勿論狙っていくけど」
「そっ、それだけで良い訳無いでしょ!?俺が組んでた予定じゃ、ガレまくっていくスペシャル号の体重減少をなんとか遅めるので精一杯でしたし!」
「それがなぁ……」
助手さんの慌てふためきに対し、臼井さんが困ったような顔してみせたのは一冊の資料。手渡されたそれを二人(+1頭)で覗き込む。
そして、書かれていた事に揃って目を丸くする事になった。スぺ以外。
「ええと、京都大賞典の時の体重が486㎏で」
「そこから痩せ細って秋天の時には466」
「んでダービーの時はどうだったかと言えば……468ぃ?」
『何ですかコレ。何書いてるの、教えてよイキゾイー』
あれ。思ったより痩せてなかった?短期的に急激に細ったからヤバいと思っただけで、長期的に見るとむしろ……。
「トントン拍子に進んだから錯覚してもうたけど、春の頃は太り過ぎまであったみたいでな。宝塚記念での大敗は恐らくそれが主因」
「ガレた結果、
「多分。俺とした事が甘やかし過ぎてしもたわ、肥えた分だけ筋肉に出来てしまう奴やから尚更」
「な、何ですか?皆揃ってなんで僕に生温かい視線を向けてるんですか」
えぇ……拍子抜けというか、気の抜けた納得というか。心配したこっちの身にもなって欲しいっすよ、いや実際精神的には心配して余りある状態だったっすけどさぁ。体調的には逆に健康になっていってたなんて、そんなのアリっすか。
……一言ぐらい、恨み言散っても許されるっすよね?
「デブシャルウィーク」
「…むぅーっ!!」
「でゅらんだーッ!!?」
「なんか暫く見ない内にスペシャルまで人語分かって来てへん?」
「いえテキ、よく見て下さい。クロスなら言われてからコンマ1秒以内に反応してましたが、スペシャルは数拍ほど置いてから動いてます。分からないからこそ咀嚼時間を要するようです」
「凄いな。まるで馬博士や」
「いやぁそれ程でも」
「その上で言わせてもらうけど、最早誤差やろ」
ロデオされたっす、振り落とされかけた!しかも、こんの生意気な……と、せめてもの仕返しに軽く睨んでたら臼井さんに咳払いされる始末。スぺだけでなく俺にも注がれるジト目。解せぬ。
「まぁええわ。ともかくスペシャルの状況は今がベストって事だけ抑えとけば問題あらへん。その点、上手くやってくれたなぁお前も」
「わァ…あ……!*1」
『「また泣いちゃった!」』
「ええい事あるごとに泣くな、話進まんやろが!!生沿、俺の言いたい事は分かっとるな!?」
「勿論っすよ」
スぺの方の準備は既に出来てる。となれば必然、整えるべきは俺の方だ。
本番はどうなるか、そこまでどれ程スぺと同調を高め合えるか。諸々を踏まえ、見据え、作戦なり算段なりを組み立てていく。秋天で開花した俺とスぺだけの
やる事は山積みで、消化される気配なんて皆無。だからこそ!
「やり甲斐があるって物っすよ!」
『おっ、走る?やっと走るんだね、分かった!』
「良い気合や、単走行ってこい!けど強度超過はやめぇよ!?」
「了解です!!」
居ても立っても居られない。クロが世界に示したように、スぺもまたそう出来るように、俺が足手まといになってる暇は無いから。
止まってたまるか。その一念で、俺とスぺは次の一歩を踏み出したのだった。
「テキ。モンジューはどう来ると思いますか」
助手のそんな質問に、臼井は顎に手を当て返す。
「そうやなぁ。輸送疲れと
「……まさかとは思いますが。モンジューも……」
「起こり得んぞ、
咎めるように、二の句を告げさせないように。彼はそう、断定して。
「
「っ、すみません……」
「おう。せやから、俺達が備えるべきなのは———」
さりとて気分を害したわけではなく。挑戦者としての気概と、母国にて待ち受ける君臨者としての覚悟。それを口角に宿して、臼井は持論を言い放った。
「———その猛者達の手によって、モンジューが本領を取り戻しよった時や」
忘れない。あの最悪の馬場を支配してみせた豪脚を。コンドルより速く跳んだ、将軍の武威を。
戦士の決死でなければ切り拓けなかった、日本馬にとっての“絶望”。その体現者を。
そういえば、モンジュー君ってどんな馬なんだろ?クロが追い詰められる程、という実力の程は聞いてるけど、その馬となり*2までは知らない。
疑問に思った僕は、実際に会ってきたエルとマンボに聞いてみた。
『……凄まじい奴デシタ』
『アーッ、、ナマイキ!』
彼らの感想としてはこんな感じ。なるほど、凄まじくて生意気……どう生意気?そもそも
もう一回聞き返したかったところだけど、これ以上はエルにとってもキツそうだったからやめておいた。いつかまた、ゆっくり落ち着いて話してくれるのを待とう。
という訳で、マンボにはもう一回聞いてみた。そしたら、
『ウーン、ナンテ
と言って飛び出してしまったのが昨日の事で。
『大丈夫かなぁ~…』
マンボだって帰還して間もない、疲れだって取れ切ってない筈なのに。一応僕の頼み通りにエルに寄り添って、往復回数も以前よりかなり減ってるけど、それでもちょくちょくシーラちゃん達と共に伝言を運んでくる。前に“動いてないと気が休まらない”って言ってたけど、その状況がまだ続いてるみたいで心配なんだ。
(変な事に巻き込まれてなければ良いけど)
そう願って空を眺めてた、そんな折に。
青空の彼方、フラフラと影二つ。
『……って、マンボとバードン君んん!?』
『アーッ……タダイマァ……カフッ』
『シッカリシロ、コノタコスケ!!』
バードン君がマンボを連れて、僕の馬房の窓に留まる。両方とも怪我とかはなさそうだけどマンボの消耗具合が半端じゃない、一体何があったの?!
『シクジッタ…』
『
『モンジューニ……』
『モンジューに捕まってたぁ!?』
凄まじいってそういう方向なのか!鳥を捕まえるってつまり飛べるって事!?なに、羽根でも広げるの!?!勝ち目ないじゃん、だってレースでも柵を飛び越えて
『
『あービックリした、そういう経緯ならまだ理解できる』
『
だ、だってそっちが言葉足らずなのが悪いし……という文句は飲み込んで、ひとまずマンボの無事を喜んだ。大丈夫?変な事とかされなかった?
と聞いてみれば、マンボは数秒だけ何か考え込んでこう言った。
『ンートネ。マズ“誰の差し金だ”ッテ
『『
『スペ、ッテ
『なして!?』
『ナゼニ?!』
『チビルグライ、
だからって僕の名前を出すのは……いや、知りたがったのは他ならない僕だからいいか。マンボには恩もいっぱいあるし、本鳥も申し訳無さそうにしてるし、今回はもうこれで手打ちにしよう。
『でもそんなに凄まれて執着されたのなら、どうやって脱出したの?』
『スペノ
『ソシテ、フラフラシナガラ
『伝言?』
言うまでも無く、僕とモンジュー君の間に面識は無い。なのに何故、という疑問。
“偵察された事に対する文句”という線が一番濃いけど、僕の名前を聞いて目の色変えたってところが気になるし……考えてても仕方ないか。言ってよ、マンボ。
『僕はこっちに来た。そんなに見たいなら、今度は貴方から来い……ッテ、サ』
『……へぇ』
道理だ。彼は海の向こうから遥々来たんだから、今度は迎える側であるこっちが出向く番。先に不義理な事をしたのは僕達だしね。
何より一層興味が湧いた。故郷から遠く離れても啖呵を切れるその胆力、真似できる物じゃない。年下だなんて嘘みたいだ、今の僕に出来るだろうか?
会って、みたいな。
『マンボ、バードン君、彼はどこにいるの?』
『アーッ。
『じゃあ行けるね』
『『ヘ??』』
強引でも手段はある。クロがいつか、馬房から自力で抜け出したように。
翌日、ニンゲン達に連れられて外へ出た。いつも通り練習するんだろうけどイキゾイはいない、まぁそういう日もある。今回に限っていえば好都合かも?
「活気が戻って来てますねぇ。人々は勿論、馬達にも」
「原因になった俺達が言えた話じゃないがな。馬の体調に対して以前以上に敏感になる空気が続いてる、これを無駄にできない。クロの後追いを出さない為にも」
前を行く彼らの口調に耳を澄ませる。内容は二の次、問題なのは注意力とか緊張感とか。その波を探って、探って……今!
「あっ」
「ファッ」
二人同時に気が緩んだその瞬間、スルリと抜け出した。面白いぐらいに上手くいって、引っ張られる感触が無くなる。こみ上げる解放感、そして不安感。
でも頓着してる暇は無い!
『ごめんねーっ!!』
「「ほッ———放馬ァァァァァ!!!」」
すぐ人間達は追いかけてくるし、集まってくる!脚こそ速くないけど囲まれたら最後、だからって突破する為に轢くのは嫌だし、そうなる前に先手必勝で突き抜けるしか無い!!
『道案内頼むよ、バードン君!』
『マカセローッ!』
疲れ果てて今度こそエルと休んでくれてるマンボに代わり、同じく鳥であるバードン君が先導してくれた。僕はその後を、いろんな物にぶつからないように気を付けながら駆け抜けるだけの難しい仕事———いや本当に難しいね、バードン君を見失わないようにしながら邪魔物を避けるのって!?避ける、飛び越える、時には潜る、これだけで新しい種類のレースが出来そう*3なくらいだよ!
でもその甲斐あって……辿り着いた。
『ここ?』
『ココー!』
僕も時折使うコース。今日はその予定じゃなかったみたいだけど、他の馬は変わらず駆けている。
その中で、一頭。
『……っ』
いた。明らかに纏うオーラが違った。いつかクロやスカイが“覇気”と呼んでいたヤツ。
一頭だけ明らかに違う、あの鹿毛の彼。
(道理で、って感じだ)
だって、あの日の僕なんか優に超えてる。同じ年頃だった頃、あの日エルとクロに負けた僕…に留まらない、何ならその時のクロやエルすらも遥かに。アイツが、エルの掲げた最強を打ち砕いたんだね。
何より恐るべきなのは……!
(過去どころか、今の僕ですら気圧されかけてるなんて!)
実のところ、走ってる姿自体からは脅威は感じない。でもあの“目”、グラスと同じ類の執念を秘めた瞳だった。
こんなのでも経験積んできたから分かるんだ。あの目をしてる奴は這い上がってくる、
『……!』
『ligne de mire?…!』
その時、視線が交わった。
見つかった。
「やっと追い付いたー!!頭絡確保!」
「ありがとうございます、って動かなッ…?!」
「ええいこんにゃろ!珍しく言う事聞いてくれない!」
「大岩か何かかコイツ……?」
続々と、追いかけてきた人間が僕を引っ張る。けれど動くわけにはいかない。
だって向こうも、跨ってるニンゲンさんの制止を振り切って、歩み寄って来てるから。
僕は来たよ。次は君の番。
『……
『…こちらこそ』
目と鼻の先。柵を間に挟んで、僕達はとうとうお互いと向き合った。
けど困った、当たり前だけど言葉が分からない。挨拶である事は察しがついたから、咄嗟にこっちの馬語で返せたけれど、向こうは分かってくれただろうか。エルかマンボがいたら通訳になってくれたんだけど、無い物ねだりしても意味は無いしね。
だから代わりに、じっと見つめる。メンチを切るって昔クロが言ってたけど、これってそうなのかな?
『……』
『ッ………!』
『エッ
モンジュー君も視線をぶつけてきて、にらみ合いの構図に。周囲からの困惑の空気が強まって申し訳ない、それでもやめられない。目を逸らしたら負けな気がして、不誠実な気がして。
そうやってお互いを、探り合うように射
フゥーッと、一息。そして。
『
『!』
何故か、その言葉の意味だけは分かったんだ。好意と共感の色がわずかに浮かんでたからかな、察しがついたのかも。
だから僕も、何か気の利いた返しを……待ち受ける側として相応しい
「「「「「引っ張れー!!!!!」」」」」
『ラヴィババばば―!?』
『ウワー、ニンゲン10ニンガカリ』
流石にここまで来たらもう抗えなかった。柵からは離されちゃうし、モンジュー君も鼻息一つして去って行っちゃう。結局何も言えないまま引き離されちゃった、あーあ。
(まぁいっか。また会えるし)
どうせ僕たちは同じ場所に集う。彼は僕に挑みに来るし、ボクは彼の前に立ちはだかる。それはもう決められていて、そして僕たちはそれを望んでる。
———ただ、思うのは。
(きっと彼は、クロに待ち受けてて欲しかったんだろうなぁ)
モンジュー君も、見届けてくれた一人だから。
クロに負けたんだもの、クロに勝ちたかった筈。なのに、クロはもういない。
だから。
『クロに代わって、僕が』
叩きつけてあげるから。
言ってあげるから。クロが君に言う筈だった言葉を、僕が。
『待ってろよ、モンジュー君……!』
かくして日は経ち。
その日が、来た。
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