マンボ:皆さんご存知エルの友達。過労気味のヨウム。口癖は「アーッ」。「アッー」ではない(厳命)。
シーラ:マンボのガールフレンドなインコ。放し飼いの飼鳥。口癖は「エーッ」。マンボが好き。
ヒドラ・バードン・バッサー:シーラのセコム。ヒドラは最近交通事故で歩けなくなった子供と仲良くなったりしてるしバードンは鳥なのに火遊びが好きだしバッサーは輪っかが苦手。
慌てて飛んで来たマンボ、そして彼の友達であるインコのバッサー。彼らを迎え入れたその日、事態は急変した。
『グラスが……死にたがってる?』
『マンボ、ソーイッテタ!』
『コヒュー、ハヒュー、グラス、ヤバイ……!!』
余程急いでくれたのだろう。息も絶え絶えになりながらえずくマンボと介抱するバッサー、その姿が何よりも物語っていた。それを横目に僕は、理解しがたい情報に対し必死で咀嚼を試みる。
……グラスが?歩みを止めないグラスが?不屈を誓った、あのグラスが?
(信じられない)
だって僕の知る彼は、いつだって諦めをこそ厭ってた。どんな辛い目に遭っても弱音なんて吐かなくて、どんな逆風に晒されても俯かなくて、どんな逆境に虐げられても自分を失わない。それが僕の知る、孤高のグラスワンダーだもの。
そんな彼が、自分自身にどこまでも厳しく在れるグラスが、折れて“終わり”を望むなんて。マンボたちの言う事はいつだって正確で、けど今回に限ってそんな事ある訳が———
(———違う。
発想が逆だ。因果が逆なんだ。自分に厳しいからこそ、だ!
グラスは一番クロと長く触れ合って、彼に一番近かった。誰よりも、多分僕と同じくらい——もしかすると僕よりもクロを理解してたかも知れないし、グラス自身もその自負があっただろう。それぐらいグラスは、クロの事を想って……そして、好いていたから。
そんな彼が、クロの喪失を、たった
(あの時、近い場所にいるスカイも半狂乱で、互いを支え合える状態じゃなかった)
僕にはキングがいた。悲しみを同じくしていながらも近くで頼り合える仲間がいて、それを踏まえてなお僕は無気力に陥っていた程だった。
そしてシーラ達を介して繋がっていたスカイと違い……グラスはその連絡すら断ち切っていた。アレが自分を整える為じゃなく、塞ぎ込んで殻に閉じ籠る行為だったとしたら?
(
なんで放っておいたんだろう。なんでキングの懸念を真剣に聞かずに流したんだろう。今になって、僕自身の楽観が憎い
自分を追い込むグラスの立ち振る舞いは、ともすれば“自罰”と大差無いんだ。そして今それは、クロの件を経て変容し。
そして孤独の中で研がれた結果、まさしく
『マンボ!エルは、他の皆はどうしてる!?』
『エル、イッカイ、パニック!マンボガ、ナントカ、オチツカセタ。シーラガ、ミテクレテル!』
『デモ、マンボモ、ツカレテルカラ、バッサーガ
やっぱりエルが大変な事になってて、マンボは行動不能。スカイとキングにはこれから伝わる所って事か。不味い、速く手を打たないと。エルはマンボが何とかしてくれると信じて、僕はやっぱり何よりも先に……!
『疲れてるところ、本当にごめん。でも頼まれて欲しい』
『モチロン!!』
『ソノ
出来る限り早く、もう手遅れだとしても。今からでもグラスと話さなきゃいけない、その一念が僕を突き動かした。マンボ達もそれに応えてくれて。
『クロは絶対に望んでない、って伝えて!!』
引き合いに出すのはやはり彼。僕はクロの理解者だ、グラスに匹敵するレベルでその自信はあった。その僕が彼を語れば、グラスにだって届く筈。
クロは絶対に……君に、苦しんでなんか欲しくないって!
『君はクロをよく知っていた、それは間違いないよ!けどだからって、
僕の知るグラスの思考をなぞって、陥りそうな自責を一つずつ踏破していく。先回りするように、君に非は無いって知らしめるように。
『それに囚われて、変えられない過去に縛られてたら…グラスの幸せをこそ望んでたクロの気持ちはどうなるの!?』
君の為に。君の心を欲してたクロの為にどうか、思い留まって欲しいんだ。
想い合う君達の姿を見てきた。僕はずぅっと、一番近くで見てきた。ずっと、見てたんだ。
悔しい思いもした。クロに好かれる君に嫉妬したし、君に愛されるクロを妬みすらした。君とクロの間に、僕が入る隙間は無かったから。
それでも、あの幸せな景色はいつまでも見てられたんだ。
……こんな結末に繋がって欲しくない。そう、必死になれる程度には!
『“今”を捨てちゃ、ダメだよ……!』
その為に言の葉を託す。直接伝えられないのが心残りだけど、でもマンボたちなら一言一句違わず伝えてくれるだろう。
だから後は、飛び去って行く翼に願うだけだ。僕の想いが、グラスの死にゆく心に響くように……!!
『全て承知の上ですよ』
結果は。
目も覆いたくなる程の、断絶。
全て分かっている。
こんなのは、ボク自身の
……じゃあ、どうしろって言うんですか?
『ボクが生きていたくないから……いえ、違いますね』
スぺさんは言った。ボクは悪くないって、これでもかと言う程。
ええ、そうでしょう。貴方の視点ならそうなんでしょう。でもね、スぺさん。
『
もう、この道でしか、ボクはクロに顔向けできない。
クロが望んでなくとも、そうしなきゃボクはボクを許せない……!
『ボクが悪いから、だけの話ではもうないんです。ボクはクロに疾走を望んだ。クロはそれに命を懸けて応えた……ならボクも、
自分が吐いた唾への責任の問題だ。平等じゃなければ、対等じゃなければ、友だなんて口が裂けても言えないから。
友に命を差し出させておいて……自らはおめおめと生き永らえてしまったら。そんな肉塊は最早、ボクと呼べるでしょうか?それで寿命まで生き延びたとして、胸を張って逝けますか?
……無理だ。
『そんなのは最早、“グラスワンダー”ではない』
彼がくれたこの名に値しない。そんな生き恥は晒せない、晒したくない。ボクをボク足らしめる物を失いたくない。
今死ぬか、死んだように生きるかの違いです。両者の価値に大差は無く、そして後者がより多くの時間を無為に費やすのならば。前者にて、クロの最期の旅路への葬送とする事に、何かおかしい事があるでしょうか?
『ボクがボクである為に、こうするんですよ』
そうでした、スぺさん。これはどこまで行っても、ボクの欲望でしかない。誰かの為とか言えない、クロの願いすら
『だから……放っておいて、くれませんか』
貴方達に同じ道を強いるつもりなんて毛頭ありません。生き方はそれぞれで、そしてボクがこれまで選んで来た生き方に、これからの生存がそぐわないだけの話だから。
故にどうか、ボクだけの道を。
『突き通させてください……!』
ボクの中の“グラスワンダー”を、死なせないでください。
『コレヲ
今度こそ頭が真っ白になる。グラスの命か、グラスの矜持か。そんな最悪の二択を迫られたから。
(……どうすればいい)
そんなの間違ってると、そう言うのは簡単だ。誇りとは強く生きていく為に持つべき物、その為に死ぬなんて本末転倒だって。捨てるべき順序を間違ってるって、ただ指摘するだけならそう告げれば良い。
でもそうじゃないんだ。だってグラスは、それを分かった上で、それでも選んだんだ。
命よりも、矜持を。
(どうすればいい………!?)
間違っていると分かって突き進む相手に、「間違ってる」と言っても「今更」と返されて終わりだ。それこそ、僕が送った伝言とそれに対する返答が良い例だ。そんなのじゃ、覚悟を決めたグラスは止められない…!
伝言による説得が見込めないなら、一刻も早く他の道を考えないと!!
(伝言がダメなら面と向かって……何を言うつもりだよ僕、たった今反論されて終わったばかりだろ!そもそも僕とグラスは簡単には会えないし、それに——)
僕はまだ知らない。そもそもグラスは、
『バッサー、ダメもとで良い。具体的にどうするつもりなのか、グラスに聞いてくれない?』
『モウキイタヨ…“説得には応じましたが、手の内まで明かすつもりはありません”ッテ、コトワラレタ……』
『そんな!』
グラス本馬から聞き出す算段も断たれた。完全に窮してしまったこの現状、僕にこれ以上何ができる?
諦めるな、考えろ。このままじゃクロだけじゃなくグラスまで遠くに行ってしまうぞ。またボクの知らない所で、独りで死なせてしまうんだぞ!?嫌ならもっと考えろよ、スペシャルウィーク!!
『スペ……』
マンボ達に説得の伝言を根気よく頼み続ける?ううん、マンボ達は喜んで引き受けてくれだろうけど、受け取る側のグラスが鬱陶しく思って打ち切られたら今度こそ連絡が途切れちゃう。これ以上グラスを孤立させる訳にはいかない、それだけは絶対にダメだ。
『ンー。
『ヒドラ!オマエ、スカイノ
かと言って面と向かって話すとなると、それは近くにいるスカイに一任することになる。彼だってまだクロの件を振り切れた訳じゃないのに、そんなスカイに思い詰めたグラスを押し付けるなんて論外だ!
『モー
『
『ソー』
やっぱり正面から向き合うならボク、もしくはキングでなきゃ。でもここで立ちはだかるのが距離的な問題だ、自分一頭で何とかなったモンジューの時と違ってあまりにも遠過ぎる!ニンゲンの助けが無きゃまず辿り着けない……。
『オーイ、スペー。デンゴンダゾ~』
『……ゼンゼン
『ダナ』
クロなら、クロだったらイキゾイに直談判して連れて行ってもらえただろう。僕には出来ない、僕じゃダメだっていうの?僕にグラスは救えないの!?
『『オーイ、スペェ~!!』』
『うるさいッ!!!』
『ヒエッ』
『ファッ』
………。
———あ。
『ご、ごめん!完全に僕が悪かった、本当にごめん!!』
『イヤー、ダイジョブ。ビックリ、シタダケ』
『
窓で揃ってひっくり返る2羽に対し、心の底から謝った。僕のバカっ、八つ当たりしてどうするのさ。
『キニスルナ。ソレヨリ、デンゴン』
『スカイカラ!スカイカラ!』
え?スカイから僕に?グラスよりも先に僕宛に?
意図が読めない、普通はグラスへの説得を優先すると思ってたから……けどスカイの事だ、何か考えがあるのかも。
『ありがとう。教えてくれる?』
『オウ!イクゾー』
僕の方はもう八方足詰まりだ。けど、君は何か見つけれたのかな。
それに期待して、藁にも縋る様な想いで、僕はヒドラの口から奏でられる音を待った。
どーも、スぺ君。スカイさんですよー。
……御託はいっか。事態はもう伝わってるよ、ヒドラ君が伝えてくれたからさ。
正直な話、ちょくちょく見かけてはいたんだ。走るグラス君の姿を、遠目にだけど。でもお恥ずかしい事に、オレは全然気付けなかったよ。だってさ、あんなに速く走れる?ってな具合に俊足で、とても調子が悪そうには見えなかった訳ですもん。
いや本当に。
ヒドラ君から話を聞いた時、なんか繋がっちゃったんだ。俺が見かけた時のグラスが、何故あんなに走れたのか。死にたがってる事と。
だって考えてもみなよ、グラス君ってクロスさんにゾッコンだったじゃん?常識的に考えて、マトモに走れるかも分かんない状態じゃん?なのに出力全開って、相当無理してないと出せないよ。
うん、無理だ。無理した果てに、自壊しようとしてるんだ、きっと。
そしてオレの予想だと、多分グラス君はクロスさんの死に様を
これらの事を踏まえるに、どういう理屈だか分かんないけど、グラス君はなんだかクロスさんの最期を明瞭に、その目で見てるようにしか思えない。それぐらいの再現度。
だからスぺ君、突くとしたら多分そこになる。ならどうするべきか、っていう具体的な案が思い浮かばないのが自分でも癪だけど…やっぱり自分でもまだ参ってるのか頭回んないし、他の馬を慰めれる余裕までは流石に無いしさ。だからグラス君と話すと変に爆発させちゃいそうだし、取り敢えず今は、必死でグラス君を説き伏せようとしてるだろうキングのアドバイザーにでも徹しましょうかね。にゃははっ。
……頼んだよ。大将。
『……ありがとう、スカイ』
口を突いて出たのは感謝。
空回るばかりじゃダメだった。やっぱりスカイは頭が良くて、だからこそそれを生かした立ち回りをする。僕達がするべきは、そういう
分析は距離的に近くて利口なスカイに、説得は正論を貫けるキングに、そして僕は。
(僕の強みは、クロを通じてグラスを理解してる事だ)
共通の思い出、共有する原典。そこからグラスに今何が欠けているのか、彼に何が必要かを探して……僕の中から引き摺り出す。
いつ来るか、どう迫るかも分からないタイムリミット。それに焦り、急ぎ、抗った。
僕達の物語を、クロと紡いだ命の奇跡を、決してバッドエンドで終わらせない為に。