また君と、今度はずっと   作:スターク(元:はぎほぎ)

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【ステイゴールドのヒミツ①】
トプロの頼みは断れない


【Ep.123】共闘!

《枠入りは順調。いよいよ迫って参りました決戦の時!》

《14頭が揃いました───1999年、そして1900年代最後!烈日烈風を背に受け、2500m先のゴールに真っ先に飛び込んで来るのは果たしてどの馬かっ!?》

 

 

──ガシャンッ──

 

 

《第44回有馬記念、スタートを切りましたッ!!!》

 

 


 

 

キングヘイローの反応は咄嗟だった。

ゲート位置は5枠10番、隣の11番にセイウンスカイ。逆側の隣の隣の、4枠8番がスペシャルウィーク。

グラスワンダーは6番。

 

『くっ──!!』

 

何故即座に対応出来たのか、それはキング本馬にすら分からない。自分を守ろうとしたのか、屈しそうになった周囲を守ろうとしたのか、それは矜持ゆえか傲慢ゆえなのか。

どちらにせよ、結果として……庇えたのは隣のスカイまで。

 

『カハッ!』

『スペ……っ!』

 

逆側ゆえにグラスに近かったスペシャルは、どうしようも無かった。睨むように下手人(下手馬)を見遣っても、その瞳はそもそも自分を向いてない。ハナからスペとスカイ狙い、そしてキングは埒外だと雄弁に語っている。

腹立たしさと悔しさが、沸騰せんばかりに沸き起こる。そんな彼の目を覚まさせたのは、

 

『僕は、いいからっ!!』

 

苦しみにもがく、スペ当馬の叫びだった。

 

『キングは、キングの仕事を!』

『だが──』

『僕は堪えてみせるっ!!』

『──っ、(たが)えるなよ!?』

 

賽は投げられている。信じて己の役割を遂行する、それしか無いのだとキングは割り切ろうとして……しかし生来の優しさがそれを阻む。

こと“見捨てる”という行為において、キングには絶対の不得手があった。判断が遅れる、刻一刻と迫る開戦(スタート)の刻。

 

「キング」

 

そんな彼に取って幸運だったのは。

()()が、ここに来て成熟を迎えた事だと言えるだろう。

 

「俺もいるぞ」

『フクノベ……!』

「忘れるなよ、お前だけじゃないのをさ…っ!!」

 

彼は一度、グラスの威圧に屈した経験がある。その悔しさを忘れなかった、ずっと覚えていた。

そして今、再び同種の猛威に晒された事で、記憶を起点として逆に研ぎ澄まされた感覚は。一時とはいえ、彼に騎手としての急成長を促していたのである。

頼りなかった筈の、へっぽこだった筈の相棒の力強い言葉。リベンジへと燃える闘志を背中に受けて、キングは───その熱に、()()()()()事にした。

 

『だったら……ついて来いよ!!』

「当然だろ───!」

 

王威が広がる、グラスからの重圧を強く跳ね除けていく。少なくとも、スカイとキング自身の安全を確実に確保できる程に。

 

『スカイ!分かってるな?!』

『オレはいつだって準備万端だよ!!』

 

伝う熱意の高揚に任せ、隣の仲間へ檄を飛ばした。精神が荒ぶっていくのを自覚しながらも、同時に騎手との同調で視野も広まっていた。

 

『スペだけじゃない、件の大逃げ馬──推定(たぶん)サイレンススズカも餌食になりかけてるのが垣間見えた!カバー頼む!!』

『頼まれたよ!後方任せた!』

『任されたさっ!!!』

 

それによって得た情を伝えた瞬間、開かれる視界。怪物を阻むべく、王威は風雲を押し出すように踏み込んだ。

 

 

 

セイウンスカイの策の根幹は、サイレンススズカに似た大逃げ馬——というか恐らくサイレンススズカ本馬——のハイペースに乗じてグラスを削り、限界を超えさせない事にあった。彼もまた逃げ戦法のエキスパート、その利点も短所もよく分かっている。それらを活かし、そして弱点はこちらでカバーし、グラスに最大効率で不利(デバフ)を叩きつける算段だ。

そしてそれは、その背に跨る縦峰もまた同じ。返し馬およびゲートにて威圧をぶつけられた事で、グラスの脅威度を正確に測り取った彼は、事前に用意していた複数のプランから対グラス特化の物を即適用。サイレンススズカに追いすがる標的を横から突き、その消耗を加速させるつもりでいた。

 

ただ……。

 

「『ちょっ———!?』」

 

怪物は、いちいち、逐一、嫌がらせが如く予想の上を行く。消耗を避けるどころか、先頭に躍り出んと飛び出したスズカに追走し始めたのだ。

 

「正気か!?」

 

縦峰は窓葉の判断を疑い、しかし直後グラスの様子に考えを改める。掛かった訳ではない、落ち着き切った走り。消耗の激しい序盤加速でありながら、体の芯はブレずに冷静そのもの。

こんな走りをしても末脚を残してくると、縦峰は確信せざるを得なかった。

 

『こっちの思惑なんかお見通しって事かい……!!』

 

そして何より、これは“不味い”。

何が不味いって、スズカを()()()()。あんな直近から露骨にマークされ続けようものなら、先程のような威圧をかけ続けられれば、並の馬じゃまず()たないからだ。

そうやってスズカが潰されてしまえば、先頭を仕切れる馬がいなくなってしまえば、ハイペースを前提とした此方の方策は丸ごとオシャカ。スカイと縦峰は互いに焦燥を募らせ、その間にも刻一刻とグラスは逃亡者の背へと迫っていた。

一歩近づく、その度に重みが増す。足音に揺らされたのか、微かにスズカのテンポが狂う。その度に、グラスが。

その無表情に、僅かずつ喜悦の色を濃くして。

 

『———行けるか?!』

『行くんだよッ!!!』

 

感じ取った声なき哄笑を、これ以上許す訳にはいかない。多少の無理を承知で急加速。

目指すはスズカの背後。グラスよりも先にそこへ、まずは彼の最初の狙いをくじくべくそこへ一直線!

 

『Holy shit——!?』

『残念でしたー!』

 

結果はギリギリ。進路妨害一歩手前のタイミングで、割り込みに成功となった。これでグラスは、サイレンススズカに直接圧力を掛けられない。

だが代償は大きい。返ってきたのは無視できない疲労感と、そして報復の殺気だ。

 

『……どいて下さい』

『ぅぐっ!!』

『貴方は関係ないんです。分かってるでしょう?』

 

ドス黒い、沼のような脚応え。そのドン底へ力尽くで沈めんと、そうなりたくなければ退けと、雄弁に脅迫し(かたりかけ)てくる怪物の咢である。

これをスぺはもろに食らったのかと、スカイは心の底から戦慄した。一番頼りにしていた戦友を初手で完封された可能性に、この重力の中で失神すらしかけた。

 

『もうスぺさんは来れませんよ。貴方だけじゃボクは止められない』

『……だろう、ね』

『キング君だってあんなに後ろ。希望を抱いても何も残らないのに、無為に苦しむつもりですか?』

 

力量差は嫌と言う程分かった。分からされた。まだ序盤にも拘らずだというのにスカイは実力の隔絶を完全に教えられてしまっていた。

 

()()、するよ……!』

 

それでも、やめない。

 

──貴方は、もっと賢いと思ってました』

 

問答無用。それを察したようにグラスは押し黙り、代わりに威圧へと専念する。ただひたすらにサイレンススズカ、そこへ向かうのを阻む“障害物”を除くべく。

怒る、呪う、そうでありながらどこか機械的に。それはもう、ライバルではなく“物”へ行う対処に近い。

 

『く……うぅ………!!』

『芦毛君、どうして…!』

「縦峰!?」

 

いよいよ揺るがされ始めた彼らにスズカが、勇鷹が、それぞれ言葉を投げた。言外に告げた内容は「何故(おれ)を庇うのか」である。

悠長に返す余裕は無い。だからスカイは、短く吼えるのみ。

 

『振り返るなァァァッ!!!!』

「『!!』」

 

嘶きは、スズカだけでなく勇鷹にも届いた。意味は伝わらない、だが 咤だけは伝わってきた。有無を言わさない絶叫だった。

 

『俺は、スカイをっ、信じます……!』

 

トドメとなったのは、愛馬を信じる騎手の決意。それを背に受け、勇鷹は手綱を振るった。逃亡者も一瞬の逡巡を経て、しかし即座に前を見据える。

その様を、グラスは見ていた。ずっと、じっと、見つめていた。

 

『にゃはっ。熱視線だぁ~』

『いえ。というより、忌まわしいです』

『ぐぎぃッ!?———まった、く!つまんない、奴に、なったよ君!!』

『……ん……?』

 

彼は気付く、スカイが微かに持ち直した事を。先程まで揺るがされていた圧力に対し、今では受け流すようにその波を交わしている。無論、完全ではないものの。

 

(そうだよ、一頭(ひとり)じゃ勝てないよ)

 

そんな事は最初から分かっている。だがどうした、だからどうした?

セイウンスカイは、独りではないのだ。

 

(スぺ君はきっと来る!キングも、諦めないでいてくれる!!)

 

グラスへの想いを同じくする仲間たちが、確かにここにいる。そして何よりも、彼がいる!

 

(タテミネさんが、俺を()()()()()()()くれてるでしょうがぁ…!!!)

 

負けない、負けられない。今スカイは理解した、グラスの背のニンゲンが殆ど意識が無い事に。グラスが彼を、相棒ではなくただの重しとしている事に。

そんな奴に、簡単に屈するものかと、セイウンスカイの意地は燃え滾っていた。

 

 

『———Ah、羨ましい———』

 

 


 

 

『キング!なんで戻って来たの!?』

『お前がこのままじゃ上がれないからだよ!』

『でもスカイが、栗毛先輩が……』

『だからあいつは先輩を庇ったんだ、それがスカイの選んだスカイの仕事だ!自分の役目をこなせと言ったのはお前だろう、スペ!!』

 

スカイを先頭へと送り出した後、わざわざ僕に寄るように後方に戻ってきたキング。そんな彼に叱咤されてしまえば、僕から反論できる言葉は無い。

でも二の句に窮する僕を見かねたように、キングは再び口を開いてくれた。

 

『言っとくがな。お前を助けるのは俺の為なんだぞ』

『え?』

『抗ってみて改めて理解したが、グラスは今走ってる奴らの中でずば抜けて最強だ。そしてそんなグラスに抵抗出来るのは、スズカ先輩とお前だけだと』

『スズカ先輩?栗毛先輩は栗毛先輩だよ』

『ええいどっちでも良いだろ今は!ともかく、お前が前に行けばその分だけグラスの消耗を見込めるんだ。そうすれば俺の勝ち目だって出てくるって話なんだよ!』

 

そう宣うキングの瞳に嘘は無い。自分の勝利を諦めないままグラスを止める、その抱負は彼の中で確かに両立しているようだった。

 

『……僕を、利用するって訳だ』

『嫌か?』

『ううん、僕も存分に利用させてもらうよ!』

『だったらとっとと後ろに入れ!俺が馬群を割るから、風除けにして体力温存してろ!』

 

それは僕も同じ。遅れを取り戻す為にも、ここは存分甘えるからね王様!?

あっ、そうだ。君はどうする?

 

『ステイゴールド!』

『あ?ンだよ』

『僕とキングは足を溜めながら中団に行くけど、どうする?今なら僕の後ろに入れるよ?』

『舐めてンのか?要らねェよそんな情け』

 

聞いてみれば、返ってきた返事は色悪い。それどころか敵意にも似た感情で迫られ、怯むと同時に思わず苦笑してしまうほど。

 

『俺には俺の考えが……あるッ!』

『え……!?』

『待て!それは明らかに無茶だろ!!』

『知るか!今思いついたんだからしょうがねェだろ?!』

 

と思った次の瞬間、なんと先輩は急加速。まだ体勢を立て直し切ってないのに、僕達を置き去りにして進み出してしまう。あっという間に馬群の中へ。

……いや、心配してる場合じゃない。

 

『キング、お願い』

『──っ…そうだったな!』

 

焦らず、急いで、慎重に。体力を奪われないよう損なわないよう、グラスの威圧距離(しゃていけんない)のギリギリまで進出していく。でも息を潜めるだけでなく、出来る限り存在感を主張してグラスの気を散らすのが、僕達の仕事だから。早くそれを出来るように、だからこそ極限まで集中を!

 

差し掛かった最初のコーナー、その彼方に久方ぶりに見えた横顔。妄執に憑かれたその視線を絶つ、ただその為に。

 

 

 

Anyone(誰もかも)(,)everything(何もかも)……!』




頼むグリッドマン
近くの劇場で上映してくれ
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