また君と、今度はずっと   作:スターク(元:はぎほぎ)

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ステイゴールド(CV:故・藤原啓治氏)


【Ep.124】蹂躙

『何、あれ』

 

(ツルマルツヨシ)が出来たのは、そう呟く事だけ。鉄格子(ゲート)で待っていた時から既に、僕は怪物に()()()()()()()

完全に分からされた。ここは桶の中で、自分達はそこに無造作に放り込まれた飼葉に過ぎないんだと、その重圧は否応なく告げてきた。抗いようなんて、どこにもありはしなかったんだよ。

重圧が徐々に軽くなって、周りの馬達もそれで楽観して、でも僕の中ですでに決着はついてしまって。戦う前から、走り出す前から、僕はグラスワンダー君に敗北した。スぺ君のライバルを自称しておいて、挑む事も無く諦めた……ううん、ゲートどころかその前から既に負けていたのかも知れない。スぺ君を挑発するつもりだったのに、彼と相対するグラスワンダーの覇気に気圧され二の足を踏んだ、その瞬間から既に。

 

……だから、後ろから見てる事しか出来なかった。

一番狂わされたのに足掻くスぺ君が、僕を追い越していくのをただ見送った。続いていこうとか、思う気力すら無かった。そして、下手に頑張って、今度こそあの牙の標的にされるのが怖かった。

 

そしてその懸念通り、予想通り。

 

先頭集団で、恐ろしい青い焔が、怒り猛り燃え上がる。

 

奈落の底から、怨念がその顎門を開く。

 

 


 

 

“実”の入った日々でした。

心の中にポッカリと空いた穴を埋めようと、体が求めていたかのように。自分を虐め抜いた果てに手に入れる力と痛みが、それだけがボクを満たしてくれました。

なのに癒されない。慰められない。ちっとも足りない、苦しみが、ボクを急き立てる。

 

もっと。

もっと責苦を。

 

クロに近づいてる実感が欲しい。

 

彼が宿した熱を、何もかも真っ黒に焦がす熱をこの身の内に欲しい。

 

手にして、自分を燃やして、焼き尽くして。

 

灰すら残さない火の中に投じて。

そして。

 

 

そうして───どうする?

 

(分からない)

 

どうしたいんだ、ボクは。

分からない。

何がしたいんだ?

分からない。

 

ボクがボク(グラスワンダー)である為、それに偽りは無い。

無い、けれど。

 

でも求めたんだ。

 

クロに、求めたんだ。

 

クロは返してくれたんだ。

 

ボクはそれを報いるって、そのつもりで。

なら立ち止まる訳にはいかないんだ。何もしないのだけはダメなんだ。

退くな。

転ずるな。

それだけは自分に許すな。これまでそう、自らに望んだように。

 

 

──だから。

 

『邪魔を……するなッ!』

 

語気を強めた自覚なんか無かった。にも関わらず喉が震えたのは、きっと精進が足りないから。

予想以上の威力を以て放たれた殺気は、目の前の芦毛の躯体を確かに揺らした。この目で、揺らぐのを認めた。

 

『へ、へ──まだまだぁっ!!』

 

なのに、崩れない。致命的な崩壊まで至らない。

スカイ君は尚もボクの前を行き、サイレンススズカへ通づる道を阻んでいる。滝のような汗を流して、体毛でそれを泡立たせて、それでも。

 

(ダメだ。半端な威圧だけじゃ崩し切れない)

 

後ろからチマチマ突いてるだけじゃ確実性に欠ける。もっと直接的なやり方じゃなきゃ、スカイ君は倒されてくれないでしょう。

……だったら。

一層力を足に込める。必然、体は前に進む。塞がれてる前方へ、それを意に介さず接近。

 

『ん?え?前、行けないよ?ぶつかるけど、良いの?』

 

スカイ君は余裕を装って嘲ってきた。それが虚勢だなんてとっくの昔にバレバレだ。

 

『……いや、ちょっと。グラス君、分かってるよね?』

 

うん、分かってます。君がボク以上に分かってる事も、分かってます。

その危険性を、君はボク以上に理解出来る。だって君は、賢いから。

 

『本、気……!?』

 

どうでしょうか?

どう思いますか、スカイ君?

ボクはこのまま、君とぶつかると思いますか?

そうなったらボク達はどうなってしまうのか。スカイ君は、どうなると思いますか?

 

ねぇ、スカイ君?

 

『──チッ!』

 

……掛かった。

やっぱりそうだ。どう足掻いても、君は頭が良い。だから見過ごせない。

わざと、感情に理性を支配させてるボクと違って。

 

『君は危険(リスク)()()()()()()ッ!!!』

『しまっ──カッ!?』

 

ボクから離れようと思わず微加速したその瞬間、威圧よりも退避に気を割くその刹那を待ってた。徐々に緩めてあった気迫を再度高め、緩んだ心の抵抗へと捩じ込む。さっきまでの粘りが嘘みたいに、牙が鎧を剥ぐ。

 

『やっと捕まえました……!』

 

掴みどころの無かった貴方を、この足でようやく縫い止められる。義務感で封じ込めていた興奮が膨れる。

こうなればもう容易い。捕捉した青雲を呑み込むべく、トドメの一歩を踏み出そうとした。

 

『させるものかァァァッ!!!』

 

それを阻んだのは……威容。他に形容できる言葉をボクは知らない、クロから教わってない。

 

『──ッ、キング君』

『グラスゥ……っ!!』

 

押し潰し踏み躙るボクの威圧とは違う、貫き通して切り開く覇気。進んで道を譲りたくなりさえする、所謂カリスマ性。

やはりキング君は、上に立つ器だったという事でしょうか。前々から感じてはいましたがしかし、これ程の物とは。

 

『スカイ、しっかりしろ!俺も来たぞ!!?』

『キング、ごめ、ん……!』

『謝るな!ここからは引き受ける!』

 

ボクからの重圧なんて物ともしない彼に、決して無視の出来ない危惧が心の内に宿る。今の時点でも全然堪えてない彼にこれ以上プレッシャーをかけても、他の馬と違って効果は期待できない。そして後ろからスカイくんを援護する形で圧してきたら、今のボクでも流石に消耗が激し過ぎる。

……何より。

 

『──フゥゥウウウゥー……ッ!!』

 

キング君の真後ろ。ピッタリとひっついて風を避け、その身を引き絞る……スペさんの姿。

 

(なるほど。そういう作戦でしたか)

 

その瞬間に理解した。サイレンススズカを追うボクをスカイ君が前から妨げ、キング君が後ろから休ませず、最後にスペさんが総取りする。成る程、良い作戦と言えるでしょう。その後サイレンススズカをどうするかは知りませんが、ボクをとにかく負かせるというその側面においてだけは。

 

……なら、ボクがそれを放っておく理由もありませんよね?

 

『ぁ?』

 

間の抜けた声が聞こえた。その原因はきっと、急減速してきたボクの尻尾が目の前に迫ったからですよね?

 

『ちょっ、え、何?どうした、まさかもう脚を……!?』

 

この期に及んで心配するだなんて、君は本当に優しくて……甘いですね。今はレース中、ならば自分の事にのみ注意するべきなのに。

だって、気付いてないでしょう?キング君、今自分の身体に吹き付ける風が弱まっている事に。君がスペさんにそうしているように、ボクが今風除けになっている事に。なんなら、その抵抗が無くなったから、君自身の脚も空回りしかけている事すら。

さぁ。()()()()()下さいね?

 

『フッ───!!』

『何っ……ぁぐ!?!』

 

再加速。再び離れる距離。そして、キング君の前に聳えるのは()()()()

急な気流の変化に、貴方は耐えられるでしょうか。いや、耐えさせない。

 

「ぶっふぁ!?ゴーグルがっ!」

『ゲフッ、げぇっ……!』

『キ……大丈……?』

『構…な……捨て…!』

 

トドメとして、加速ついでに蹴り上げた土。気勢が削がれたのを、その圧力(プレッシャー)の喪失で以て感じ取り、そして成功を認識した。遠くなっていく話し声に、確信を深めた。

同時に。

 

(───っ)

 

ズクンと。左後脚に奔った、痺れにも似た感覚。まだ望んでいる物には届かない、けれど確実に()()に近づいている事の証左。その刻を報せる危険信号(鐘の音)

 

もう少しで、折れる。

 

(いける)

 

クロと同じ場所に行ける。

今のボクにとって、もう痛みは苦しみじゃなくて快感に近い!

 

(もうすぐ、いける!)

 

胸が高鳴る、顔が熱に浮かされる。ギュウギュウと身体の芯が疼く。のぼせた頭が更なる加速を脚へと命じ、積み重なる負荷でチカチカと視界が明滅する。

その中に、光が。

恋焦がれた、大好きな銀色の光が見えた。ボクを待ってた!!

 

『クロ!』

 

やっぱり貴方はそこにいた!もう待たせない、今度こそ……今度こそ、一緒に。貴方にボクだけを、ボクに貴方だけを!!

 

ボクとクロだけで、ずっと───!

 

 

『そこにクロは、いないッ!!』

 

 

───Ah.

昂りに冷水を打ち付けられる。一瞬でも油断した自分の落ち度、でも苛立ちを抑える理由には足りない。

崩れたキング君とスカイ君、それらを躱してスペさんが迫りつつあった。早過ぎる決死の仕掛け、既に領域の一つ──サイレンススズカと同種の──を発動して。

 

『クロはもういないんだ!分かりなよ、グラス!!』

『貴方の行く道に見えないだけでしょう?』

『ッ……そんな事、あるもんか!!』

 

煩わしい。貴方が、貴方に乗るニンゲンが視界に入る度、心が引っ掻き回されて荒らされてるみたいになるんです。

お願いだから、近付いて来ないで。その一念で殺気を投げかける。

 

『自分のやってる事、本当に分かってやってる?!』

 

揺るがない、でも織り込み済み。元よりスカイ君より粘り強いのは想定済みですし、でもキング君ほどの芯は通ってない筈だ。ならばもう一度。

 

『それがグラスの……んぐっ((本当にやりたい事だって!胸張って言えるの!?』

 

もう一度…ッ。

 

『違うよ!絶対、カハッ、違う!グラスがグラスである為、なんかじゃない!!』

『……貴方に、ボクの何が分かるんですか』

『見てきたもん!最初の君を、クロ達と一緒に未来を誓ったグラスをっ!!!』

 

なんで。

力は抜いてない。なのに何で落ちない?

どうして、その口を閉ざせない?

 

『ボクの知るグラスなら、これまでのグラスなら、どんなに自分に非があっても……ううん、非があるからこそ!』

『うるさい…!』

『ぅっ……、責任を自覚した時こそ、投げやりになんかならなかった!意志をハッキリして、生きて責任を取ろうとするのが君だった!』

『それは……アナタが見た一側面でしか……!!』

『なら、それも君自身な事には変わり無いじゃんっ!!!』

 

声が響く。耳の中を掻き鳴らす。

うるさい。

 

『違うんでしょ?君が死にに行くのは、誰の為でも何の為でもない!』

 

違わない。ボクはボクである為に、死に急いでいる。

スペさんの言う事は間違いだ。だから、うるさい。

 

『嫌になったんだ!クロがいない事に耐えられなくて、逃げ出したいだけなんだろ!!?』

 

必死が過ぎて、口調さえ変わる様は滑稽の一言。もういいから、黙って欲しい。

うるさい。

 

『そんなの、そんなの許さない!君が君自身の為って言うなら……!』

 

うるさい。

 

うるさいっ。

 

 

『僕も、僕の知る君の為に、君を逃がさないっ!!』

うるさい(Shut Up)ッ!!!』

 

 

もうウンザリだ!だってボクは、アナタが何と言おうとボクは、もう!

 

『嫌です、嫌だ、ヤだァッ!!』

 

入ってくるな。

アナタはボクの心をかき乱す。クロだけだったボクの心を壊す。

だから、来るな!!

 

『クロのいない世界なんて、大っ嫌いだッッ!!!』

 

……あ、れ?

ボクは何を言ってるの?

さっきまで自分が掲げてた物を、嘘にしてしまった気がする。ううん、最初から嘘だった?

建前を、一線を投げ捨ててしまった。戻れない。戻せない。

 

どうしたいんだ、ボクは。

分からない。

何がしたいんだ?

分からない。

 

もう……自分の激情を、制御出来ない!

 

『ぅぁぁぁぁあああアアアアッッ!!!!』

 

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景色を紅蓮に染めt

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Errored Connection

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『くぁっ……!』

 

嫌だ。とにかく此処にいたくない!誰も来るな、ボクに近寄るな!!

消えろ、消えろ、消えろ消えろ消えろッ!!

 

『僕は……またっ、間違え──〜〜〜!』

 

来る、苦しい、狂いそう、刳る。理性が削ぎ取られていく。これは何に対して、誰に対しての想いなの?頭の中がグチャグチャになって、心の中がズタズタに引き裂かれて、全部チグハグに繋がって絡まって!何処にいるのか、何をしてるのかももう分からない!!

クロ!ねぇ、クロぉ!どこにいるの、アナタの光は何処にあるの!?隠れないで、姿を見せてよ!じゃないとボク、ボクはもう、嗚呼(Uhhh)っ───!!

 

 

───────

 

 

───ァ、あ……ッ!!

翡翠の光!忌まわしいぐらいの緑の風!ぐわんぐわんと歪む視界でもお前だけは分かる、忘れるものか!お前だけは、クロを除いてお前だけはッッ!

 

 

『サイレンススズカァァァッッッ!!!』

『っ、グラスワンダー君……!!』

 

お前がいなければ!

お前さえいなければ、こんな事にならなかったんだ!

そんな気がしてならないんだ、自分でもなんでそう思うのか分かんないんだッ!!

無根拠で無価値な八つ当たり、そんなの自分でも分かってる。分かってるのに、心が言う事聞いてくれない!

 

『お前も!お前のニンゲンも!!いなければァッ!!』

 

アナタさえいなければ。アナタに乗るニンゲン(拓勇鷹)さえいなければ、どちらか片方だけでもいなければ!そうすれば、そうであれば──

 

 

──…クロは、帰って来れた。

 

『クロを……返せぇぇえええエエェェェッッ!!』

 

そんな気がして、ならないんだ。

 

『まだだ……まだ私は、終われない…!!』

 

違う。こんなのボクじゃない。そう思ってももう、不可逆の転落が止まらない。

落ちていく、どこまでも歯止めが効かないまま、ボクの中の全てが堕ちて、壊れていく。それを望む心と、拒む理性で、正気なんて保ってられない。ただ逃げ出したい欲求だけがボクの味方で、それを否定する事だけは出来なくて、それにだけ従って。

 

何だ、これは。

 

この有様が、グラスワンダーの終わりか?

 

ダメでしょう。

 

だから、怒って下さいよ。

 

ボクを叱ってよ、クロ。

 

じゃないと、ボク、ダメになっちゃうよ。

 

ねぇ。

 

 

 

クロ。

 

 

 

 

『はーっはっはっはっ!!!』

 

…………。

 

え?

 

『いやはや、()()()()と思ってみれば……なんともまぁ!ボクという主役を際立たせるべくわざと脇に徹するとはね!』

 

何?誰?いつの間に?

全員置き去った筈だ。スカイ君もキング君もスペさんも打ち砕いて、誰もついて来れる奴なんかいない。

 

その筈、なのに。

 

『さぁ残るはクライマックス、覇王たるボクによる怪物退治!ナイスアシストを期待してるよトップロード君っ!!』

『そんなの……絶対絶対しませんっ!!私が一番獲りますからっ!!』

 

いる。真後ろに二頭、初めて見る顔。誰?誰なの?どうして来れたのっ───!

 

 

『やっと……届いたなァ………!!』

 

まさか。そんな後ろから、威圧が届く訳無いのに。でも、声が今、確かに聞こえて。

 

 

『オラ、行けよ“牙”共──!!!』

 

 

ステイゴールド、先輩………!?




グラスが苦しむパートに入った瞬間から執筆スピード爆上がりしてて我ながら芝。具体的に言うと、それ以前の半分で2週間弱費やしたのにそれ以降の半分は2日で仕上がった
どんだけグラスをいじめたいんだ俺は
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