いやまぁやらないんですけど。多分
あ、それと先に注釈です
この時空における覇王世代のクラシックは史実通りの歴史を辿っております
必要なのは、臆さない奴。もしくは、諦めていない奴。
どちらかを満たしてねェとダメだ。せっかく前に繰り出しても、返り討ちにされて終わッちまうからな。
(アイツは違う、コイツも違う……!)
該当する奴はいるにはいる。スペシャルにキングとやらにスカイとやら、そしてスズカと俺。だがソイツらは既にグラスワンダーに目を付けられてるから対策されてるだろうし、何よりそれぞれがそれぞれの役目に就いてるから巻き込めねェ!俺に至っては初手を挫かれたから自力だけで張り合うにゃ心許ないザマだよ我ながら!!
となると、完全フリーの残り9頭から探し出す必要がある訳だが……簡単に見つかる訳も無ェよなァそりゃ。
(くそっ、誰も彼も
最初の広範囲威圧で、有象無象──
『いねェのかよ一頭ぐらいよォォ!!』
『ひーっ!!!』
『また来たぁ!!』
『んんっ、呼んだかい?!』
『さっきと同じ!?』
『違う、けど怖いぃ!』
『……けど……!!』
チッ、こうなるんだったらスペシャルの提案に素直に乗っといた方がマシだったかァ?けど吐いた唾は飲み込めねぇ、そもそも既に奴らは今俺のいる位置を通り過ぎて前方だ!最悪、俺自身を
『おーい。ボクはここにいるよ!用があるんだったら早く言いたまえ、ファンサービス出来る時間も限られてる物でね!』
『ちょ、オペラオー君!怒ってる馬にそんな悠長に話しかけてたら……』
『しかしねぇトップロード君。喜劇の主演ともなれば、ボクには呼び声には応える義務があるのだから』
いけるか?消耗したこの脚で?心は大丈夫でも体力は??仮に行けたとして、疲労困憊の無防備状態でグラスワンダーの覇気にもう一度対抗出来るか???
……クソッ!!
『ふむ。ここは一度、高らかに名乗りを挙げて知らせた方が良いだろうか?』
『そんな余裕無いでしょう!?』
『心配してくれるのかい?君こそ余裕だねぇ!!』
『だって───』
『ウルせーーーッッッ!!!!』
『『!?!?』』
だーもう!お前ら状況わかってンのか、やいのやいの言い合ってる場合じゃねェだろアホか?!俺が必死に考えてる横でグダグダグダグダと!!
『前見ろ!また状況が動いた!!』
『……!芦毛の馬君が……』
ああそうだよ、セイウンスカイが揺さぶられて崩れた!つまりサイレンススズカを守る防壁はもう無いって事だ、もう次は直接狙いに来るぞ!!
『栗毛の馬が陥落したら、レースペースが無茶苦茶になる…!』
『その前にキングヘイ……あの緑メンコの奴が阻止するべく動くだろうが、そうら言ってる側から早仕掛けだ!猶予はもうアイツが稼いだ時間しか無い!!』
こうなりゃ一か八かだ。身体の丈夫さには自信がある、怪我はしねェ!多分!しそうになったら流石にやめる!!でもそれを覚悟してでもやんなきゃ……!
(だってアレは、どう見たって
あの人の後悔を、名も知れねェ青い
『なるほどね。だから君はボクを呼んだという訳だ、ボクが必要だったから!』
『ハァ!?誰がテメェを呼んだよこの自意識過剰!!』
『落ち着いてくださいよぉ!!そんなんじゃ余計疲れるだけですって!』
『ハッハッハ!自意識無くて何が覇王か!!』
『オペラオー君も一回黙って!』
ええィいい加減うっせぇなコイツら!よりによってこんな時に絡んで来やがって、ちょっとマジでウゼェ!一回本気で
『テメェら、“大丈夫”なのか?』
『だから、君が呼んだんだろう?“俺の威圧に耐えれる奴だけ寄ってこい”と重圧を振り回してね』
───。
……!
(見つけた………!!)
大したモンだ。ここまで余裕を保ってるのは期待以上だ、良い掘り出し物だよこの若造!!
『とは言っても、流石に最初のは堪えたけどね!全く倒し甲斐のある“怪物”だよ……で、君にはそれに勝つ算段があるという事で良いのかい?』
『え、そうなんですか!』
『見たまえ、この土壇場で無闇に威圧を撒き散らしておきながら彼はしっかり冷静だ!何か切り札があると考えるのが定石だろう、なぁリュージ!』
「ぐごごご……まだ立ち直れない……」
『なんかめっちゃフラフラしてません?』
『あ゛?俺に切り札?無いぞ』
『無いじゃないですかヤダー!!』
全く騒がしい奴らだ、時間が無ェし手短に言うぞ、耳穴カッポジいて聞いとけ!一回しか言わねェぞ、だってもうキングヘイローの奴も崩されたからなたった今!!とりあえず一旦威圧解除ッ!
『俺自身は勝つつもりは無ェ、そもそも勝ちたくねェんだ。ともかくあの怪物野郎を、グラスワンダーを引き摺り下ろせりャそれで良い』
『……という事は、他に勝つ目のある馬がいると。それが私達ですか』
『まぁ選択肢の一つだ。だがこのままじゃ絶対に追いつけねェのは分かってるよな?』
『………悔しいですが』
青二才の割に話が早くて助かるぜ。ともかく奴のペースを崩さない事にはどうにもならない、何らかの一手で楔を打ち込む必要がある。
お前達を、
『だからテメェら。俺の“牙”になれ』
『『はい??』』
『この大舞台に来るような奴なんだ、どうせ
コイツらを先頭集団に捩じ込んで、グラスワンダーにぶち当てる。ただでさえハイペースなンだ、そこから更に競り合われりゃ堪ったモンじゃねェだろ?
問題は、この若造どもが受け入れるかどうかだが……
『捨て駒とは、なんとも酷い扱いじゃないか』
『怖いなら降りてもいいが?』
『挑発なんて無駄さ!何故なら既にボクは
『言ッてくれる……!』
『な、何だか分かりませんが、私だって乗りますよ!?グラスワンダー先輩でしたっけ、もう放っておけませんし!』
ナルシストの方は了承の返答、これはまぁ予想していた。そしてもう片方の栗毛の方も……が、なんだかこっちはちょっと引っかかる部分があるな。
『一つ聞くが。お前、なんでそんなやる気あるんだ』
『……それは』
『お前、ビビってンだろ』
そう言うと途端、帰ってきたのは息を呑む音。やっぱり図星か、だってナルシスト野郎よりも覇気弱まってやがるじゃねェかよ。
『ハッキリ言って、テメェ既に無理してる状態だろ。なんでそこまで頑張れる?グラスワンダーなんか、テメェにとっちゃ赤の他人に過ぎねェだろうに』
『私は……ただ…』
一瞬の閉口。咀嚼するように自分の言葉を口の中で巡らせ、そしてソイツは己の思いを発露した。
『今度こそ、助けたいんです……!』
それを聞いたその瞬間。俺が何故か、コイツに少し心を許してしまったのは。
間に合わなかった想いと、叶わなかった願い。それらを飲み込んで、自分に出来る事を探し続けるその姿勢に。
(ラストさん)
苦しみ続けた先輩の姿を重ねてしまったから。
この時の俺は少なくとも、そう思う事にした。
『──ハッ。忘れちまえ、その先は地獄だぞ』
『忘れません!この痛みは私だけの物ですからっ』
『分かった分かった!………無理すンなよ』
ぁ?俺今何て言った?変な言葉がポロッと出てきた気がする……が、ンな事は後回しだ。もう時間が本当に無ェからな!
『さて、話が纏まったところでだ。具体的に君は、どうやってボク達を前へ打ち出すつもりなんだい?』
『脅す』
『『………ゑ??』』
全身全霊を込めた俺の殺気で、テメェらを心底恐怖させる。ビビらせて、前へと無理やり踏み出させる。
その為に今練り上げてんだ、わざわざ奥底に威圧を引っ込めて、殺意と織り交ぜ紡ぎあげて溜め込んでんだ!念を押しとくが、耐えろよ!?
『ちょちょちょっと待ちたまえ!ボクはともかくリュージの準備が!!』
『すごく無茶苦茶ですよぉ!ク、クニヒコさん気を付けてー!!!』
「えっ、何?何か起こるの?」
「待て待てトップロード!まさかとは思うが、隣のステゴがなんかやらかすとかじゃないだろうな?!!」
もう時間だ。点火。周囲のごく限られた範囲に、集約した威嚇を叩き込んだ。成功の是非は、一瞬待てば分かる事。
そして。
『───シィッ!!』
『ふんっ……!!』
見立ては間違ってなかったと、識る。
『いつの間に……!』
いや、心当たりはある。スペさん達に気を取られ過ぎた、突き放しが甘かったんだ。
けれどまだ充分対処出来る範疇。今一度その心根、2頭とも押し潰して……ッ!!
『させるワケ無ェだろ、バカの二番煎じがッッ!!』
まただ!また遥か後ろから飛んできた、この重圧に邪魔されて阻めない!そもそも、あんなに距離が開いてるのにどうして、これ程の鋭さを残せるの!?
(あり得ない……!)
そもそも、何故彼はボクの邪魔を?接点なんてほぼ無い、恨みを買うような覚えだって無い。なのにどうして、そんなに純度の高い憎悪をボクに飛ばせるんですか。分からない、
『今ですっ!』
『おっと、一抜けは許さないよ?』
『……!』
悩んでる余裕が無いことは明白。意図してか否かはともかく、ボクを挟み込むように接近してくる二頭を早く対処しなきゃ、ペースを崩される。この際後ろからの妨害は甘受して、比較的心の弱そうな方から……!
『失せてろッ!!』
『!───』
完璧に入った。確かな手応えと共に一頭の脱落を予期し、同時に襲い来るであろう背後からの圧力に覚悟した。
……にも、関わらず。
『───プッハァ!!怖くない、怖くない!
何故だ。何故無事なんですか。さっきから意味が分からない事ばかりだ。
さっき?何の事?
『はーっはっはっはっ!怖かったものなぁトップロード君、“彼”の射出は!』
『今度、こそ……!』
『ぐぅっ!!……ッふぅ、差し詰め黄金の鎧と言ったところか…!』
まただ。通じない。何かの理屈で防がれ……ま、た……っ!!
無理な攻勢により無防備だった所に、突き刺さる金色の怒気。その大元は僕の射程外、そして範囲内の二頭には何故か通用しない。
このままだと、負ける。
どうする。
クロならこんな時、どうする。
思い出せ。いつだって彼は苦境を跳ね返してきた。ずっと見てきたボクにだって出来るはずだ。
ううん。出来る出来ないじゃない。
やりたいんだ。
ただ、彼に追いつきたくて。
その走りに敵いたくて。
もうそれしか無くて、それも叶わないなんて承知の上で。
でも譲れないコレは、コレだけは、どうか。
クロ以外に、負けたくない。
これだけは、絶対───!!
(──グラス──?)
ドロドロに澱んだ底の底で。
微かに光が、揺らめく水面が見えた気がした。
「そんな……」
またか。
また、ダメなんですか。
『させない!リュージ、踏ん張り給えよッ!!』
『流石に、そのつもりだっ!!』
オペラオー君達が更に仕掛けるけど、もう間に合わないのは明白だった。
『なッ、や──やめろォグラスワンダァァァッッ!!!』
先輩が絶叫して、威圧を放って、でも届かない。あんなに鋭い狙撃すら、もう届かない位置まで脱してしまったから。
グラスワンダー先輩は、強引に、力技で、物理的に私達の包囲から逃れてしまった……!
「クニヒコさん!」
「よせトップロード!
「〜〜〜っ!!」
相棒の意向はその通りで、自分がまず大丈夫じゃないと何も始まらないのは分かってる。けど!
(アヤベ君──!)
きっともう2度と会えないライバルの姿が、先輩と重なって見えた。私の勝利は彼への救いにはならなくて、足を引きずって去り行く彼への
『くそっ!くそっ!!くそぉ!!!』
もっと上がれとスピードを呼ぶ。回復しろとスタミナに命じる。それでなんとかなるならこんな事にはなっていないと分かっていて、それでも駄々をこねるように心の内で喚き続けた。
《全頭一斉にスタートを……ああっ、スペシャル出遅れ!ステイゴールドもです、サイレンススズカは好調な滑り出しを見せまし──グラスワンダー!?》
《大逃げを追走、窓葉さんはサイレンスをマークしたのでしょうかっ》
《いずれにせよセイウンスカイも負けじと加速、グラスワンダーと競り合います!!》
波乱の幕開けに、会場は沸き立った。
《キングヘイロー後ろに控えます。サイレンススズカが先頭集団を率いて後続を突き放し、中盤に差し掛かろうというところ》
《これです、これがサイレンススズカ……!》
待ち望んだ、そして舞い戻ってきた逃亡劇に高揚を露わにした。
《ッ、セイウンスカイここで脱落か?!キングヘイローも交代、スペシャルここで前に出た!!》
怪物が秘める異常性に薄々勘付きながらも、本質的な気付きには至らぬまま。
《す……スペシャルウィークも……!!》
期待を託していた流星が封殺されてようやく、歓声に困惑が混じり。
《テイエムとナリタが来る!しかし突き放す、サイレンススズカ共々再加速!》
《おかしい……グラスワンダーの本来の走りじゃない!!》
困惑は懸念に。
懸念はいつしか戦慄に。
《向正面、終盤に差し掛かり……大丈夫か!?窓葉の意図は!》
興奮は冷めない。だが同時に、同規模の不安が見る者全ての心にのしかかっていた。もう最初の沸騰は、そこにはあり得なかった。
誰かが、言った。
「クロ……?」
宮崎家の一人娘。その瞳に映る怪物の姿へ、憧れた英雄の幻が重なる。
死にゆく彼の姿が、影を落とす。
「ダメよ……ダメだよ、それは…!」
叫んでも届かない。
「生沿さん!」
だから呼ぶ。
「スペシャルちゃん!!」
どうか届けと願い、憧れのヒーロー達へと託す。
「クロ──っ!!!」
死者に縋ってでも、祈る。それで止まるなら、止められるなら。
「
必死の願いを、ひたすらに捧げ続けた。それしか、傍観者の身で出来る事など無かった。
かくして、その願いは。
「スペ」
『……!』
若い命へと今、焚べられた。
真っ赤な炎となって燃え盛った。
『勝ちに、行くっすよ───!!』
【グランプリボーイ】
緑金スキル。夏の阪神または年末の中山で行われるGⅠレースにおいて、該当する各適性の内ランダムで一つのランクが1上がる
例:芝B→A