ご照覧あれ(大仰)
【挿絵表示】
あと、アスカ様(Twitter垢:@AskaZerosaki)に依頼し描いて頂いた物をここに掲載します。これが(現状で想定している)ウマ娘のクロスクロウです
【第1話】前途!
生まれて、罵られて、弟を殺し、母さんの心を殺し。
色んな物を台無しにして、さりとて何かを生み出す訳でもなく。
無為……っていうんだっけ?
(生まれてこない方が良かったんじゃないか?)
認めたくないけど、まぁ仕方ない。だって本当に碌な事が無かったから。
(ごめんなぁ、母さん)
心だけじゃない。その命を絶ったのは実質俺だ。
最愛の
あの日、俺は警察官に連れられて速やかに隔離……というか、保護。母さんは留置所、拘置所、裁判所、刑務所……とはならず、どうやら完全に精神をやってしまったようで病院方向に。
俺は会いたいと度々泣き叫んだけど、周囲の大人たちのガードを突破できず。脱走を試みる度に阻止されて、そうしてる内に母さんは自分の病室で舌を嚙み切って死んだ。両腕が拘束されてたから、他に手段が無かったんだろう。
再会が叶ったのはその直後の事。存命ならともかく、遺体なら罵詈雑言を浴びせられないから面会させてもいいという慈悲だったのかな。これを「死に目に会えた」と表現して良いのか、俺は今もそうとは認めてない。いずれにせよ、棺の中で苦悶と憎悪の表情のまま冷たくなっていた母を見下ろして、俺の背筋もまた冷え切っていった記憶だけは確かにここにある。
結局俺の存在は、最後まで母さんの邪魔にしかならなかった訳だ。じゃなきゃあんな、俺のいる世界を憎み切った表情のまま死ねないんだから。
……分かってるよ。これでも勉強した、隔離されてからも母さんの下に“良い子”になって戻りたい一心で必死で本を読んだ。賢くなろうと励んだ。そうしてれば、俺のいた環境の異常さなんて理解するまで時間の問題だ。
それでも———俺にとっては、たった一人の母さんだったんだよ。
無意味な俺が無意義な失意と落胆に陥っていた時、追い打ちをかけるように刑事が訪問してきた。弟の事故と母さんの事件の両方を担当した人で、あの日俺を母さんから引き離したその一人でもあった。
そんな人から渡されたのは、小さな日記。弟がずっと書いていたヤツ。精神状態の悪化を懸念して母さんには渡せなかったが、その母さんが死んだことで俺にようやく渡せるようになったそうな。
狭い自室で読んで驚いた、あの日俺を
「あっははははは!『優しく出来た』ってそういう意味かよ!?」
笑うしかない。何だ?俺がお前の、母さんのご機嫌取りのためにやってたお世話にお前、そう思ってたの?優しくされたから優しくしたい?
俺はその裏で、お前を殺したいぐらいに思ってたのに。憎んでたのに、お前は。
「ははっはぁはははっ…………ぁぁぁぁああ゛ア゛ア゛あ゛ッ!!!」
俺はどこまでも……大馬鹿野郎に過ぎなかったと!なんで今更になって、皆して突き付けてくるんだ!?
良い息子どころか、それ以前に一人の“兄”としてすら出来損ないだったなんてさぁ!!人間失格だって事、これ以上言わないでくれよ!もう分かったから!!
「ごめ、なさ゛っ……ごめ゛ん…!!!」
死ぬ事は出来なかった。勇気が無かったのもあるけど、死んだら母さんと同じ場所に行ってしまう。その資格は俺には無い。母さんと弟には、俺なんかがいない所で一緒に安らかに過ごして欲しかった。
代わりにあの日。
「───あは、はっ」
泣き止んだ俺の中から、「生きたい理由」は確かに消えていた。
そこでパチリと目が覚める。見えたのは窓、動く景色。自らを揺らす座席。
いつもの夢でも見てたか。
(かなりの頻度で見る割に、肝心の内容はてんで思い出せねぇんだよなぁ)
内容を覚えてないのに、なんで“いつもの夢”だと分かるんだ。我ながら意味不明だぜ、ホントなんでだろな?
それはともかく、ん~っと伸びして視野を再び窓へ。未だぼやける意識で先程の三要素を整理すれば、自分は電車に乗っているのだと理解出来る。目的地も思い出せた。
思い出せたのだが、はてさてその上で。
「隣に座る子、良い子かな」
ふと口ずさむ。抱いた疑問、不安を乗せて。ずっと昔から、なぜかこのフレーズが昔から口に馴染んでたから。
「とーもーだーちに、なれるかな」
この先、どんな出会いがあるだろうか。どんな競争が待ち受けてるんだろうか。
友達になって、良いんだろうか?
(見えた)
景色の奥深くに見える時計塔。今向かってる最中の、その目的地。
そこで待つ俺の運命は、どこへ俺を導いてくれる?俺を幸せにしてくれるのか?それとも、また負債の上塗りを促すだけか?
そうなったら、今度こそ俺は———
「———今考えても仕方が無ぇや」
大丈夫だ。前に下見に来た時、あの
ダービーウマ娘、それも海外遠征をこなしてきた猛者から編入前なのに勧誘して貰えるなんて、幸先も良いとこだろ。甘えちゃいられないけど、存分に頼って足掛かりにさせてもらうぐらいなら許される……許されるよな?まぁ許されるだろ、うん。
(それに、楽しみなんだ)
あの
(俺を、求めてくれた子達)
あんな歳でもうウマとしての名を得てる*1子なんだ、相当な才能で学園に君臨してるんだろうな。勝てるかは分かんないけど、会いたい気持ちはまた別の話。
そんな彼女たちと、また会おうって。あの学園で、そしてまた走ろうって。
(……失望だけはさせたくねぇなぁ)
ギュッと握った拳。この決意が、どうか届きますようにと願うばかり。
祈る相手は三女神?ヤハウェ?アッラー?ううん、自分自身。
(結局最後に頼れるのは、俺自身だけ)
思いを新たに、さぁて自己回顧もこんぐらいで良いだろ。自分でも飽きた、何より着いた!列車を跳び降り、人込みを跳び越し、駅を跳び出せばもうすぐそこ。日本全国のウマ娘が、一生に一度は憧れる聖地に。
「伝説の一つや二つ、始めさせてもらいますかぁ!!」
その内容は吹けば飛ぶような木っ端か、それとも爪跡となって永久に語り継がれるか?後者でありたいと願い、そして挑む。
待ち受ける未来も知らぬまま、決めた覚悟が足りない事も分からないまま。俺———クロスクロウは喜び勇んで、校門という名のその坩堝へと身を投じたのだった。
───前略。次いで速報。
「───っ、……!!」
クロスクロウ。クラスへの入室とほぼ同時に同級生のウマ娘に押し倒されました。どうしてこうなった?
「クロ、クロだ、クロ、息してる、心臓動いてる、クロ……」
いやホント、どうしてこうなったの?なんか息荒いよ!?かといって体調が悪そうな訳でもないし、ホントどうしてこうなったのマジで!?
落ち着けクロスクロウ。こうなった経緯の仔細を思い出せばヒントはある筈だ。まず俺はトレセン学園に着いた後、駿川さんに連れられて各施設を紹介された後に自分の教室へ案内されたんだ。そこから担任の紹介と同時に入って、黒板の前で皆に自己紹介したら。
「はじめまして!クロスクロウと言います、これからよろしくお願いしm」
「「「「「クロ?????」」」」」
「ほぇ?」
「………クロっ!!!」
なんか同級生の内5人から略称で呼ばれて。
そのうち1人が席から立ち上がるや否や、俺に飛び付いて来たんだったな。そういやそうだった、ワハハハハ。
(いやホントどうしてこうなった!?)
アカン。ものの見事に疑問が振り出しへ戻った、状況を微塵も把握して出来ねぇ!!俺なんかダメな事言ったか、出鼻の31文字にNGワードをぶっ込んで怒らせでもしちまったのかぁ!?
……と、いうか。そもそも今俺にまたがる彼女の顔に、何処か見覚えがあるんだが。
「ぁっ、い、生きてる。嘘じゃない、幻、じゃ、ない……!」
その時だった。
グスッ、と。絞り出すような声音に僅かに挟まった、しゃくり上げる所作に。
覚えたのは、猛烈なまでの
「………グラス、ちゃん?」
頭の中で、点と線が繋がる。
会った事が、ある。記憶の全てがそう告げていた。
潤んだその瞳に、そこから零れかけていた一雫を指で拭っていたのは、完全に意識外の行動だった。
「───あったかい」
ん?
また雲行きが怪しい。俺の手を取ったグラスちゃんが、何やら自らの頬にすり寄せ始めた。
その目には大粒の……ってオイオイオイ、今拭ったばかりだぞ!?
「嘘じゃない、あの日の優しいまま、あ、っあ、ああぁあぁぁぁっ……!!!」
【続報】クロスクロウ、出会い頭に思い出の女の子を泣かす【責任取れ】。
………いや。あの。どうしてこうなった。
私が最初に“僕”を取り戻したのは5歳の時。グラスと、そしてクロと再会したあの瞬間だ。
あれからクロとは接点を失ってしまって、それでもグラスとは交流を保ち続けて、ちょっとずつ記憶を取り戻していった。自覚してないだけでまだ歯抜けの部分もあるかも知れないけど、もうほとんど全て取り戻したと思う。
(クロだ)
でも、苦労して思い出した記憶は、その時ばかりは役に立たなかった。頭の中を探るより先に、視覚を受け取った魂が、目の前の彼女を“クロスクロウだ”と呼んでいたから。
この推測が正しいか否かは、前世の夢でクロの人間としての姿──今思えば、あの姿はこのウマ娘そのものだった──を知ってる僕だけでなく、キング達まで異口同音にクロの名を呼んだ事が雄弁に示してくれてると思う。
……改めて見れば。艶やかな黒髪が、全ての光を吸い込み、いつか光を放つ白銀へ変わる時を待ち侘びてるようだった。そうだ、クロは芦毛だった。最初は、この
(とはいえグラスが飛び出しちゃったのは予想以上だったけど)
予想外ではない。けれど、予想を超えたスピードで。
……彼女がクロを待っていた時間を考えれば当然。予測出来なかった僕達が悪い。
(先生も皆も固まっちゃってるなぁ)
グラスはここまで、他者に対してはほぼ完璧にお淑やか優等生を貫いてたからね。そんな彼女が編入生を押し倒すなんて、考えもしてなかったとばかりに皆して目を見開いてる。
かと言って内面を知ってるキングやエル達はといえば……あー、こっちはクロに気を取られて固まっちゃってるよ。僕しか動けないや、まぁ仕方ないね。
「クロ。
「んぉ?」
歩み寄った、覗き込んだ、飽くまで“ウマ娘”のスペシャルウィークとして。彼女が“彼”だった時の記憶を失ってるのは、最初の出会いで既に分かってるから。
……この数年で、僕と同じように思い出してくれてたら、と思ってはいたけれど。
「……あっ、もしかしてスペちゃんか!?久しぶりだなぁ!!」
儚い願いは掻き消えて。
それでも、覚えてくれていた事実が僕を嬉しくさせる。やっぱり君は、間違えないんだって。
「また、君と」
「へ?」
グラスはさめざめと涙を流し続ける。その姿を一瞥してから、僕は仰向けに倒れたままの彼女へ告げた。
「一緒にいられるね、クロ」
「……ああ。よろしくな!」
今度は、ずっと。
君とグラスと僕達で、今度こそずっと。
勝負だ、運命。
時系列としては初回こと“親友を助けたいです”よりもそこそこ前だったりする今回