単刀直入の殺意が一周回って気持ち良い
序盤は独自設定を垂れ流してるだけなので流し読みして下さい。でもこう考えないとワンダーアキュートが筆者の中で辻褄合わんのです
ウマ娘は不老である。
……急に何を言ってるのか分からないと思うが、少なくとも“この世界”においてはありのままの事実だ。
ウマ娘は、本格化に近付くと肉体年齢が止まる。筋力増加と体重増減などの生理現象こそ普遍的なホモ・サピエンスと同等に起こるものの、成長および老化が著しく緩やかになり、見目がほとんど変わらなくなるのだ。肉体は勿論のこと、精神年齢の変化もまたかなり緩やかになり易い傾向が散見されている。
有史以来研究され続けているもののメカニズムは未解明、終われば常人と同様の老化スピードを取り戻すもののその時期も不明瞭。風説として、「本格化を終えた上で、走りから気持ちが離れた」時という論もあるが……真実や如何に。
いずれにせよ、それも相まってウマ娘は年齢の定義は国によってまちまちである。「12歳で不老になって走り終えたら20歳でした。外見と精神年齢は12歳のままです」という案件に対し、果たして成人と同等の権利を与えていいものか。選挙権はまだしも飲酒やタバコは公共良俗というか、少なくとも日本においては絵面が致命的に不味過ぎる。
男女ウマ娘平等が謳われる近代以降の世界で、そりゃぁもう巻き起こるは激論の嵐。何なら今も終わってない。
一応、成長と老化の再開は医学的に判別がつく。日本はそれに即し、「不老期間はそのまま戸籍年齢を固定し、期間終了と共に加齢を再び始める」という形を取っていた。まぁ無難な判断と言えるだろう。
さて、堅苦しい話はやめて本筋に戻す。そんなうら若き花を長く永く咲かせる、美しい少女達が主役として青春を燃やすトレセン学園の話だ。
今回は、そんなトレセン学園における“もう一つの主役”にして“縁の下の力持ち”の視点から始まる。
「オイ聞いたか?」
「何が?」
「走るらしいぞ、
同期の興奮した声をキッカケに記憶を探った。けどここ数日で、模擬レースの予定が入っていた記憶は無い。
「野良での話?」
「違うっての、体育!“鬼人”ちゃんと“侠王”を倒した子の身体能力を拝むチャンスだって話!!」
「……グラスワンダーとキングヘイローを、倒した?」
あー、あの噂か。あの噂ねー、なるほどねー。
「いやー
鬼人も侠王も、入学時の選抜レースで付いた二つ名だ。その時見せた鮮やかなまでの“絶望”がそうさせた。
中等部1年生としてのレコードは
それが、
彼女らの同期の内、ある者は憧れを、ある者は諦めを込めて自らの世代をこう呼んでた。
「“幕府”の子達だぞ?」
王より義を賜りし将軍が放つ極光の権威。それに傅く3人の大老。元ネタからは2人ほど足りないが、それでも例えるには十分過ぎたんだろう。
この学年は皆仲が良い、それは良い事だ。でもその根源が“絶対的トップが決まった上での諦念”だと考えると……ちょっと素直に喜べない。ライバル心を未だ秘めた子達は、確かにいるとはいえ。
「そんな、一回の走りで強烈な印象を同期に植え付けるような子が編入生に負けるって。絶対に尾鰭付いてるから考え直せよ」
「でも幕府の中心の子達が一目置いてる子なのは確かなんだろ?」
「それは……そうなんだけど」
彼女達が如何に隔絶してるか、ウマ娘からすれば割とすぐ分かるものらしい。それにも関わらず初日から騒ぎを起こすレベルで関われるのは、当の極光──スペシャル達の方から関わったってのが考え易いか確かに。
「というか!お前こそ西崎さんからなんか聞いてないのか!?」
「あのなぁお前、俺と西崎さんは同門の兄弟弟子でしかないんだぞ。“お手ウマの友達”の情報がそんなすぐに出回ってくる筈が無いだろ、昨日の今日で」
それにあの人大雑把だしなぁ、決めるところは決めてくるから油断ならないんだけど。彼に一度はお熱になっちゃったおハナパイセンが気の毒でならない、せめて後先考えずにお金使い切っちゃう悪癖はなんとかした方が良いっすよウマ娘の為だとしても。
……まぁ、なぁ。
「俺も興味ないっつったら嘘になるよ、流石に」
「おっ、じゃあ見に行くか?」
「騒ぎにならない程度なら」
「それは無理だな。トレーナーだけでなく教官勢、果ては上の学年の娘達まで観覧しに来るって噂だし」
「うへぇ」
親父はトレセンで名の知れた伯楽だった。俺がトレーナーを目指した、その確かな一因だ。
けど、主因じゃない。
「今度こそ、待望の“あの子”だと良いなぁ?」
「やかましゃーっ」
幼い頃から、ずっと夢に見て来たんだ。昼も夜も、ふと視界によぎる銀の光。
立ち止まってたら、通り過ぎて消えてしまう。
歩いてたら、抜き去って消えてしまう。
走ってたら、隣に並んで──でもいつの間にか、やっぱり、消えてしまう。
そんな閃光の、幻影。
掴みたくて。追いつきたいと、そう願った。
「えぇと、時間割的に……4時限目かぁ」
その為のトレーナー。自分で言うのもなんだけど、努力と苦労の果てに手に入れたこの座で。
あの銀色を、そうでなくともそれを超えて行けるような
うぅぷ。
「……昨晩は風船が帰ッて来たかと思ったが。朝起きても変わンねぇな」
「ご心配ども〜……」
「はァ!?誰が誰の心配してるとかクドクドネチネチクドクド」
「あっ、違ったんなら良いです。すみません」
「謝れとは言ってねェよアホ」
うぅん、ゴールド先輩の機嫌の取り方が未だに分からん。まだ2日目だから当然っちゃ当然なんだけど。
いやしかし、単純にこう……食い過ぎたぁ。
「中央の洗礼、なのかぁ?」
食堂が食べ放題なのは知ってたけど、だからってスペちゃん達運んで来過ぎだろ。「お腹空いてない?」「沢山食べないと中央じゃやってけないよ〜」「いっぱい食べる貴女が好k「………ッ」ナンデモナイワ」「タバスコ!タバスコかけたらその料理、もっと美味しくなりマァス!!」ってな具合に、わんこ蕎麦みてぇな
……ハッ!!まさか、ここで俺を太り気味にしてライバルを減らすスペちゃん達の作戦だったのか!?
「って時間がやべぇ。んじゃ行って来まーす」
「早ェな。朝練するにしても相当だぞ」
「諸用ありまして。食ったモン早めに消化したいですし」
ジャージに着替えるなり、それでは!とだけ言って部屋を出る。先輩としても俺なんかいない方が気楽に過ごせるだろうしな。
部屋から出るなり、ルールに抵触しない程度に小走り。寮を出てウマ娘専用レーンに出るや否や、全力疾走にシフトチェンジ。まだ日も昇らない早朝を駆けていく。やがて辿り着いた目的地は
………ん?なんか騒がしいな?
「おいたん!」
「おばさんはやいね!」
「オイその呼び方はやめろ頼むから」
えぇ…(困惑)。
「何やってんだおまいら」
「あっ、クロ!」
「クロねぇ!!」
その時俺が目にしたのは、時折面倒見てる近場の児童養護施設の子供達。そしてそれに群がられて心底迷惑そうな顔をしている、
「オイ。知り合いならなんとかしろ」
クロスの奴を待ってたらガキに取り囲まれた。どうしてこうなった。
「おいたん、ちゅーおーの生徒だよね?」
「はやいの?!」
「あ゛ーはやいはやい」
「だったら競走だ!」
「お前らがおっきくなったらな?」
どこぞからワラワラと……いや近くに孤児院があったか。取り敢えず
そうしてたらほら、時間なんざあっという間。奴がようやく到着した。
「すみませんシリウスさん!ほれお前ら、またご飯作ってやっから散った散った」
「えー!」
「クロねえと遊びたい!」
「おいたんと走ってみてよ!!」
「だからそれはまた今度……あれ?フレアはどした?」
「風邪ひいちゃった」
「マジか……」
話を聞いてりゃ、飯なり何なりの面倒を見てるらしく。なるほど、やっぱり私の“見立て”は間違ってなかった訳だ。
──
「この際ソイツらも一緒で良い。取り敢えずどっか座れ」
「うす」
「オイ誰が地べたに
「違いましたか!?」
「くろねえ正座ー!」
「わたしもせいざー!!」
この変な思考基準の即決即断さえ無ければ、コイツは……逸材だ。クロスを上手く使えれば、或いは。
私の願いが叶う。
「まず、編入おめでとう。これでお前も晴れて中央の荒波入りだ」
「シリウス先輩のおかげです。先輩が推してくれなきゃ、親を説得できたかどうか」
「そりゃ何より。が、しかしだ」
クイッと顎を引き寄せる。この
「恩に感じてるってんなら、相応の返済に期待させてもらうぜ?」
「そりゃ勿論ですよ。クロスクロウの学生としての命はシリウスさんの物dアイタッ」
「自分を安売りすんな」
「叩いた!」
「チャップだ!!」
「つっこみだ!!!」
お前は本来そんな安いタマ*1じゃねぇんだ。だからな、これから言う事をよく聞け。
よく聞けば、従えば、お前の願いも私の願いも叶うから。
「クロス」
「うす」
「お前、生徒会長になれ」
…。
……。
………。
「はぃ?????」
その時の、クロスの奴の呆けた顔を。
私は一生忘れやしないだろう。
「お義父さん。クロちゃんが無事寮に着きましたって」
「……ああ、そうか」
コポコポと泡の音、立つは湯気。女性が淹れた茶を、老いた男が病床にて受け取る。
変わらぬ朝のルーティーン。しかし唯一常と違うのは、クロスクロウが女性の傍にいない事だった。
「さて、
「変な所で意地が悪い。折角なんですから、同期の方達ぐらいには伝えても良かったでしょうに」
「私が関わっていると知れば色眼鏡が付いてしまうだろう?見出すにせよ見出さないにせよ、フラットな視線で彼女を見つけて欲しいんだよ」
クック、と笑いを隠せずに、しかし次の瞬間に咳。補助しようとする女性を、男は手で制する。
「ただ噎せただけだ。タオルだけくれれば良い、少し零したから」
「……分かりました」
「ところで、
「もう登校しましたよ。妹を自慢するって、クロちゃんがLANEで送ってくれた画像片手に勇み足」
「相変わらず元気っ子だな、はは……——————
———————悠真は?」
数拍の沈黙を経ての問いかけ。女性はそれに、首を振って応じる。
横方向だった。
「まだ帰って来ないと。今朝も電話は出来たのですが、戻ってくる予定は未だ無いようです」
「すまないね
「亭主元気で留守がいい、とも言いますよ」
「……女性を見る目は、私に
それを皮切りに溜息。また静寂が部屋を包み、窓から差し込む日光がカーテンに揺れるのみ。空気は爽やかなのに、後悔と心配が空気に漂い重くのしかかる。
「私が、何とかするべきだった」
「当真さん、それは……」
「君の言いたいことは分かる、だが当時大黒柱だった私の責任なんだよ」
思い出すのはXデー。二人がその在り方を、決定的に変えられた日。
我が子、我が養孫。悠真とクロが、捻じ曲げられた最悪の日だ。
「私が妻を、変えられていればなぁ………」
開けられた窓。そこから吹き込んできた寒風に、懺悔の言葉は薄く乗って消えていく。
耐えられず、梢は窓を閉じた。春は遠い。
「違うと思う」
※72話目【冠が仰ぐ星は】にて、おいたんが言った「———にしたいんだよ」の空欄
そこに入る言葉は“生徒会長”
ではないです