また君と、今度はずっと   作:スターク(元:はぎほぎ)

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【クロスクロウのヒミツ】
裸族。


【閑話】寒中に暑を見出すべからず

12月5日。編入生の到来3日後。

事件は起こった。

 

「はーいお疲れ様―」

「うぇえええ………」

 

トレセン学園において、体育の授業は毎日あるのが普通である。今日は地獄のシャトルラン、それもウマ娘仕様で超ハイテンポな物。

 

「ふーっ、こりゃかなり効きますねぇ~」

「貴女手を抜いたでしょ……」

「何の事かなぁ?」

「まぁセイちゃんはそういう所あるし」

「スぺちゃんちょっと待って。なんかその物言いは頂けない」

「エルはもうちょっとぐらい行きたかったんデスけどねー。今はこんなものデスか」

「……あ゛ー」

 

各々、悲鳴なり感嘆なりの声で以て解放を実感する。クロスクロウもその一人だった。

少なくとも、この瞬間までは。

 

「暑ぃ」

「……?」

 

顎に一筋の汗。それを拭ったのを皮切りに、クロの赤い瞳に変な光が灯される。

隣にいたグラスワンダーが気付くも、時既に遅し。

 

 

「あっ————ついなぁ、もーッ!!!」

 

 

①、チャックに指を掛ける。

②、勢いよく降ろす。

③、振り回すように脱。

 

この間、僅か0.5秒。一瞬の脱衣であった。

真冬にあるまじき所業。寒気に躊躇なくその柔肌を晒し、スポブラだけの上半身を思いっきり解き放っていた。見ていた全員が、理解が追い付かずに目を丸くするしか出来なかった。

土手の上から見ていたルドルフ・シリウス・行末の3人も同様だった。予想不能理解不能の奇行に気を取られ、お互いが擦れ違った事に気付かない程だった。

 

さて。世の中何事も起承転結、当人たちが意図するにしろ意図してないにしろ必ず最後には“オチ”が待つ。この場合、“起”がシャトルラン、“承”が暑さ、“転”が脱衣だろうか。

ならば、“結”は。それを担うのは。

 

「……ぁ、わぁ」

 

最も至近距離で、クロスクロウの半裸を目撃してしまったウマ娘。

よりによって、一番彼女に対し情念を燃やし、そして広がった汗の匂いの直撃を受けた少女は。

 

「す、ご……ぃ—————」

「「「グラスーーーッッッ!!!???」」」

 

しめやかに卒倒。

素人考えで無方針・無秩序に鍛えられた肢体。しかし寧ろそれ故に健全性に満ちたそれは、グラスにとって直視に耐える物ではなかった故に。

スぺは叫んだ。キングとエルも叫んだ。

何ならクロスも叫んだ。お前が原因だバカ。

 

 


 

 

「緊急会議を始めるよ。もう議題は分かってるね?」

 

開口一番に問えば、他3人から返ってくるのは無言の首肯。私自身も頷きで応じてから、切り出す。クロとグラス?前者は反省文書かされてるし後者は保健室だよ、仕方ないね。

 

「クロに脱衣癖が発覚した。なんとかしよう」

 

全員が再び頷いた*1。このままじゃクロは何か運動する度に脱ぎかねないし、それで毎回グラスが倒れてしまう!

 

「クロス-サンには何と説明を?」

「グラス特有の発作、って伝えといた。これでクロが何か自責するような事態は避けれた筈」

「ねぇそれグラスちゃんの方に風評被害行ってない?」

「まぁ倒れたのは実際彼女自身の問題だし。私は異論無いわよ」

 

納得してもらえたようで、自分の応急的対応が間違ってなかった事にひとまずの安心を覚えた。これでクロスとグラスの関係は拗れない。恐らく。

 

「で。問題は再発をどう防ぐか、でしょう?冬でこの体たらくじゃ、夏には常時全裸よ彼女(クロスさん)

「流石にそれは無いんじゃない?」

「全裸は誇張表現に決まってるじゃない」

「いや……クロが必要だと判断したならあり得るかも」

「「あり得るの!?」」

「ケーッ…相変わらず予測不能で量り知れマセンねぇ。流石は世界最強のクロウクロウデス」

(((褒める要素あったかな………???)))

 

クロはいつだって私達の予想を超えていく。思い出すのはウスイさんの厩舎(ところ)での初めての夏、ニンゲンが付けた閉じ込める仕組み——今なら分かる、鉄の鍵だ——を、クロは舌で難なく開けていた。窮した時、クロはあの手この手で脱してみせる、彼は“そんな馬”だった。

じゃあ、彼女が“そんなウマ娘”じゃないと断言できる要素は?そんなのある訳無い!だからクロは夏に全裸になる!!*2

 

「じゃあいまここで方策を講じておく感じにしよっか。まず何が出来るかな?」

「取り敢えず私たち全員で団扇常備よ。彼女が汗をかき出したら側にいる人が全力で仰ぐの。対症療法に過ぎないけど……」

「他に手段無いでしょ。あとは冷たい飲み物、保冷剤、エトセトラエトセトラ」

「いっそ、辛い物を事前に食べさせて汗を流し切らせるデェス!」

「エルちゃん。それ、世間一般では脱水症状って言うんだよ」

 

踊るように進む会議、極めて真面目に対策を講じていった。全てはクロに負荷を掛けない為、クロとグラスに快適な学生生活を送ってもらう為!

さぁ頭を捻れ、皆でアイデアを絞り出せ───ッ!!

 

 

 

 

*3

 

 

 


 

 

 

上水道が発展してるのは先進国特有の恩恵だ。いつでもどこでも使える清潔な水、ってのは地味に貴重で無茶苦茶ありがたい。そのお陰で、この国じゃ家を失ってもある程度は生活していける。

で、俺はそれをちょっくら贅沢に利用させてもらっていた。

 

「小学校のプール前のシャワーってなんであんなに冷たく感じたんだろーなぁ」

 

冷水なのは同じなのにフシギダネ。フシギソウ。フシギバナ。なーんて考えながら、本来運動後に浴びるシャワーを頭から被る。ジャージを着たままなので、濡れた所から這うように密着してくるのが妙に気持ち悪かった。

 

(水も滴る良い女……なんつって)

 

キュッと絞れば、垂れてきたのは一雫。それで放水はお終い。

さぁて、()()のお時間ってワケだ!

 

「いってみよー!」

 

最低限の水気だけ取って、飛び出すシャワー室。目指すは早朝のグラウンド、陽の目を見ない極寒の地平へいざ───!

 

「のわぁ濡れ鼠っ!?」

「おっと失礼」

 

なんて逸ってたのが不味かったのか。曲がり角で衝突しそうになる影、寸前で急ブレーキにより事故は回避。あー悪い悪い、こりゃ俺の過失ですな。

 

「すんません、次から気を付けます」

「あっ……」

 

出来る限り水気を保ったまま走ってみたい。果たして俺が寒さに耐えれるのか、または暑さを水気で凌げるのか、脱がずに済む手段を探しておきたいんだ。

つーわけで、さいなら!

 

「───待ってくれ!クロスクロウ!!」

 

 

……ほぇ?

 

 


 

 

 

装備①!扇風機&冷感スプレー!

 

「装着!ヨシ!」

 

装備②!!団扇及びタオル!!

 

「所持Okよ!!」

 

装備③!!!保冷剤とペットボトル!!!

 

「完備デェス!!!」

 

よーし!

 

「黄金世代・対発汗モード!出げkぃぃいい!?」

「「「「スペちゃーん!?」」」」

 

意気揚々と教室に入ろうとしたスペちゃんが思いっきり転倒したわ。原因?背中で存在感を主張してる扇風機が天井に引っかかったからだけど何か?

 

「全く、自分が背負ってる物のサイズを把握してないからデス。ここはエルが見本をニョワーッ!」

「エルちゃんェ……ほら、2人とも起きて」

「待って荷物同士が絡み合って()たたたた」

「あぁもう、このポンコツ大将ども!」

 

今度は横に飛び出た団扇が引っ掛かっちゃったわ。初手から一気に注目浴びちゃったじゃないの、見なさいよクロさんなんてあんなに目を丸くして。

 

「あの……スペちゃんに皆さん、何を……?」

 

先に来てたグラスさんまで見かねて歩み寄ってくる始末。説明は……はいはい、私よね。もうどんと任せなさいこの際。

 

「クロさんの脱衣対策の結果よ。高気温にも無風にも対応しようとした結果、この有様になったのよ。心配かけて申し訳無いわね」

「え……私にも相談してくれれば良かったのに」

「倒れた仲間を動員するほど鬼じゃないわよ」

「………では、私に何か宣う権利はありませんね」

 

エルさん達を起こそうとするスカイさんを尻目に説明するけど……まぁ、理解はできても納得は別よね。ここからこの衆目の中、どう説得したものかしら。

と、そんな事を考えていた時の事だった。

 

「えぇと。俺の件だよなこれ?」

 

件の人。乱入。

スペさんが飛び起きた。絡まってたエルさんと解除を試みてたスカイさんが崩落するようにもんどりうったのはご愛嬌?

 

「違うもん!」

「いや昨日の今日で真冬に避暑装備を満載されて来たら察するわ流石に!!」

 

南無三。これはもう誤魔化しようが無い、それだけは明らかだわ。冷静になった今だったらわかる、隠すの最初から無理。というかなんで隠すのに拘ってたのか。

倒れたスカイさんに目を遣ると、力無げに首を振っていた。グラスさんはそもそも状況を把握できてないので立ち尽くす他無かった。

 

「んーとな。えーとな。その件なんだけどな」

 

何か口籠るような所作をした後、そんな私達に向けてクロさんが見せてきたのは1着のジャージ。前が開かれ、顕になった裏地にある物。

それを目にしたエルさんが、呟いた。

 

薄型送風機(サーキュレータ)……?」

「買ったんだ、新型!」

 

縫い付けられたそれに目を丸くした。空調服仕様、猛暑の工事現場における作業着として採用されてるとは聞くけどまさか……本人で対策済み!?

 

「通りすがりのトレーナーに勧められてさぁ。これがありゃ基本暑さ問題は解決ってワケだ、服の中の湿度さえなんとかすりゃな!」

「え、ちょ、待」

「特にグラス、悪かった!もう変な真似はしないから安心してくれ!!」

「いや、その」

「っと。もうそろそろチャイム鳴るし、また後で話しようなー!」

 

予鈴が鳴ってもう幾分か経つ。迫る朝礼に際し、自分の席へ戻っていくクロさんを私達はただ見送った。

───数拍置いて、溜息のように。

 

「昨日の会議の意味……」

「服に仕込む発想は無かった……」

「クロさんの肌を見る機会が……」

「いや最後っ!!」

 

 


 

 

「これ!暑いなら使ってくれ!!」

 

その時、トレーナーと思われる彼が渡してきた扇風機。でも無償で貰えるわけにもいかないので断ろうとしたら、「良いんだよっ」と逆に押し付けられてしまう始末。

埒が開かないので、わざわざ自室に走って財布引っ張り出してきた。相場が2500円くらいなのは悠真のおやっさんの会社関連で知ってたので、ザッと野口英世3人を動員。急いで戻るや否や、留まってたトレーナー君に逆に押し付けて逃げ去ってやったよ。

でも逃げるって事は走るって事で、当然服には熱が溜まる。だから早速使ってみれば、風が俺の体を吹き抜けて、汗を冷やして乾かして。

こりゃ良いや、って。

 

(サンキュー、トレーナー)

 

でもここで気付いた。名前聞き忘れてた。

あーあ。探し出して、恩返さなきゃなぁ。

*1
大真面目である。この議題で大真面目である。

*2
論理飛躍

*3
───まぁ、言うまでもないかも知れないが。

クロの半裸を見た事で、スペ達もまた乱心していた。もうダメだ。




トレーナー君は行末君です
特に伏線とか後に引く謎ではないので悪しからず
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