また君と、今度はずっと   作:スターク(元:はぎほぎ)

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いやぁ台風は強敵でしたね(まだ範囲内の人はどうか身の安全を確保して下さい)


【第6話】選抜!

「そういやよ〜健一君〜」

「なんすか?」

 

西崎さんのウザ絡みをキッカケに、俺は手元の資料を読むべく俯いていた顔を上げる。目の前に差し出されていた飴は、この人なりの俺の可愛がりの一環らしい。

トレーナーが集う休憩室にて、俺はそれを素直に受け取った。口の中にミントの香り。

 

「この前、編入生に粉かけたんだって?やってくれるね〜」

「粉かけるってそんな……暑そうなのが見てられなかっただけっすよ」

「だからって自分用の扇風機をそんなアッサリ渡しちまうかね」

「いやぁ散財っぷりは先輩の方g」

「この話おしまい!終了!!」

 

彼は殊更ウマ娘に関しては出費が嵩み過ぎるきらいがあった。それを突かれると痛いのか、タジタジとなって降参ポーズを披露された。

……でも、そうやって教え子に対して投資を惜しまない姿。実は格好良いと思ってるんすけどねぇ。

 

「今更隠す事無いでしょ。同僚の間じゃもう広まり切ってる事よ」

「しかしねぇおハナさん、俺にだって後輩に対する威厳という物が」

「無い見栄張らないの。ところで健一君、()()()()()()()()つもりなの?」

 

粘る西崎さんを切って捨て、次に俺に問い掛けて来たのはトップチーム“リギル”のリーダー。おハナさんこと東条ハナ女史だ。

そしてその質問に対しての返答は……どうしよ。そしてどういう意味だろ?

 

「そりゃおハナさんとこのグラスワンダーにはまだ敵わないっすけど。素質の問題なら、クロスクロウだって負けてないと思うっすよ?」

「彼女の強弱の問題じゃないわ。一年目の新人トレーナーがサブトレとして下積みもしないままウマ娘1人の青春を背負えるだけの立ち回りを出来るつもりかって事よ」

「ぐっ……!」

 

それは……図星。俺はペーペーの新人、そんな奴が前途有望なウマ娘の専属トレーナーとして担当を務めるなんて無謀極まる。普通は教官として見識を育むなり、サブトレとして先輩トレーナーに師事して手腕を盗むのが定石だから。ウマ娘の本格化期を任されるというのは、そうやってちゃんと下地を整えて挑む大役なんだ、普通は。

今の俺にそれは無い。才能を見初めていても、いや見出したなら尚更。そんなクロスクロウの未来を俺という悪手で狭めちゃいけないんだ。

 

「……ごめんなさい、ハナ先輩」

 

それでも。

それでも、だ。

 

「俺、やっぱりクロスクロウを諦める訳にはいかないっす」

「……やけに自信ありげね」

「そんなんじゃないっすよ」

 

自信とか自負とか、そんな綺麗な物じゃない。

この数日間ずっと考えてた。俺で良いのか、俺はクロスクロウに相応しいのか。俺じゃなくてもっと敏腕トレーナー、それこそハナ先輩や、ウマ娘に寄り添ってくれる西崎さんにこそ導いて貰うべきじゃないのか……って。

 

(そうじゃない)

 

その度に、心が。

魂が。

俺の中で、どこからともなくドス黒く発火した欲望(後悔)が、叫んだ。

 

「あのウマ娘は、()()()()()()()()()()んすよ……───!」

 

多分彼女は、俺が待ち望んだ“銀色”なんだろう。まるで前世から恋焦がれてたような、探してたような、悍ましいまでに自然発生したこの執着心がそう告げている。

逃すなって、是が非でもしがみ付けって。()()()って殴り付けてくるんだ!

 

「……行末君……?」

「まぁまぁおハナさん、ここは若い血潮が真っ赤に燃える様に賭けてみようじゃないの」

 

今度は、西崎さんが割って入るように助太刀してくれた。でも次いで彼は、俺と肩を組んで囁くように一言。

 

「けどな健一君。俺達(トレーナー)は飽くまで()()って事、忘れるなよ」

「!……っ、はい!!」

 

それは俺達の職の大前提(セオリー)。教え導く者として、寄り添う大人として絶対に外しちゃいけない必須単位だった。

忘れてたつもりは無い。無いけど、でも今一度心に銘じておいた。よし、俺はトレーナー。そこは絶対に間違えない。

 

「……良いわ、信じてみましょう。実際、あの子の素質を見抜いたその目は中々の物だしね」

「えっ。ハナ先輩も分かってたんですか、クロスの才能!」

「ウチのグラスにあそこまで喰らい付ける子よ?同年代だとそれこそ“幕府”の子達に次ぐわよ、彼女」

「の割にはスカウトには興味無さそうだなぁ」

「当たり前じゃない」

 

ハナ先輩も認めてくれた、と思った次の瞬間に出て来た言葉に俺は目を丸くする。西崎さんも同様で、けどその理由は別。

確かに、トップでありながら未だ錬磨を絶やさない貪欲なリギル、それを率いるハナ先輩の事だ。磨けば光る原石だと分かってるなら、なんでクロスを獲得しに動かないんだ?

……その答えは、すぐに本人の口から語られた。

 

「行末君。私があなたに彼女との契約を薦めないのは、あなたの経験不足だけが原因じゃないのよ」

「へ?」

「近々リギルの選抜レースがあるわ。幸か不幸か、クロスクロウも登録してるの」

「まさか興味無さげだったのは“既に手中にあるから”だったんすかー!?」

「エゲツない!後輩相手にエゲツなさ過ぎるぞおハナさん!!」

「勝手に話を進めるのやめなさい!!」

 

訂正。俺と西崎さんが中断させてしまったので流石に黙る。

そして今度こそ、その答えは本人の口から語られた。

 

「今一度、彼女の走りを見直してみなさい。あなたなら直ぐ分かる筈よ」

 

……再訂正。答え合わせを先延ばしにされた。

な、何だってんすか……?

 

 

「ところで、西崎さんはクロスを狙ってないんすか?」

「見かけた時に(トモ)を触ろうとしたらスペにガチギレされてな……怖くてちょっと」

「何やってんすか………」

 

 

 


 

 

 

まぁこのトレセン学園で手っ取り早く名声と金を得たいならね。現最強チームに入って最高のトレーニングを受けるのが一番だよねっていう。

 

「これにて記入完了っと」

「入部届?おーおー、編入から1週間も経ってないのに」

「つっても、もう俺達は“本格練習”始める頃合いだろスカイ」

 

この年代の本格化突入は他の世代に比べてかなり早い、らしい。例年だと入学してから2〜3年、遅い子だと中等部入学から6年経ってやっと成長遅くなった本格化……って例もあるそうな。けど俺を含むスペ達の世代は中学2年目でもう本格化突入と来た、焦らなきゃ俺はデビューすら出来ないまま終わっちまう!

……ちなみに、グラスを呼び捨てにしたらスペ・キング・スカイ・エルからも「同じように呼んで」とせがまれたのでさん付けはやめていた。俺なんかに気安く呼ばれて何が嬉しいんだか?

 

「兎にも角にも、新年までにはチーム入るかトレーナーと単独契約しないとなぁ」

「して、まず目星をつけたのは何処(いずこ)で?」

「リギル」

「「ゴホゲホッ!?」」

 

おわぁ視界の隅でグラスとエルが思いっきりむせた!大丈夫か!?

 

「ご、ご心配なく。ちょっと驚いちゃって」

「ケーッ、胃がひっくり返るかと」

「なら…良いんだけど……」

「リギルにはグラスちゃんがいるからね。嬉しくてビックリしちゃったんでしょ」

 

いくら嬉しいからって咽せる程かぁ?……と疑問に思おうにも、頬を染めて目を逸らすグラスを見たら嬉しいやら照れ臭いやらで疑えない。俺の何がそんなにお気に召したのか、未だ分からないんだなコレが。

……ん?グラスはまぁそうだとして、エルは?

 

「エルさんもリギル志望なのよ」

「だからクロちゃんも志願するなら、選抜レースでエルちゃんと競う事になるね」

「……!」

「マジか!」

 

入って来たキングとスペによる注釈に、驚きながらも納得。そりゃライバルが増えるんだから心穏やかじゃいられんわな。

改めて見てみれば、エルから俺に注がれる視線は好戦的な色を帯びて……

 

 

……ねぇ。それどころか俺の方をそもそも向いてなかったわ。自意識過剰()っず。

 

「えぇと……その…」

「エル、どうかしましたか?」

「いやその…ups(うぅん)………」

 

スペとグラスを代わる代わる見比べ、何かしら悩んでる様子。どしたん?話聞こか?なんて言うバイタリティも発揮出来ないまま、妙な膠着状態を終わらせたのはスペの一声だった。

 

「好きにして良いよ、エルちゃん」

「でも……」

「私は全然気にしないから。ね、グラスちゃん?」

「えっ──あ、はい。私も、どんな結果になろうと文句はありませんから」

「……!」

 

えっなになに?今3人の間でどんな意図が交わされたの?側から聞いてても意図が読み取れなかったんだけど、俺に関係する事……で合ってるんだよな?

おーい、キング、スカイ。肩すくめて口閉ざさないでくれ、事態推移がまるで読めん!

 

「……クロ-サン。正々堂々、よろしくお願いしマス」

「お、おk」

 

そしてなんだかよく分からん内に宣戦布告。いや今度こそ好戦的な……いやなんか目が据わってんな……視線を向けられたは良いものの、どこか解せないまま話は進んでしまったようで。

 

 

「あれ?クロスちゃんも出るんだ、リギルの選抜レース!」

「ツルぼん。“も”っつー事は……お前もか!」

「ふふん、スペちゃん達だけがずば抜けて目立ってた時代はもう終わり!このツルマルツヨシが戻って来た以上、おっきい顔はさせない!!」

「おっきく出たね。受けて立つよ?」

「当然っ!」

「……僕も今から登録しようかな」

「やめときなよジハ、2000mは適性外でしょ」

「でもエルもツヨシもクロスとやらも薙ぎ倒せば!リギルにいるグラスは嫌でも僕を見るだろ!?」

「あなたグラスちゃんが関わるとホントめんどくさいね?!」

「というかエルちゃんに勝てる訳無いじゃん!!」

 

そうして同級生が集まり、あっという間に大所帯の喧騒。これもスペ達の人望故かねぇ、と現実逃避気味に思考を走らせながら。

来るレースに、エルとの初対決に、俺は意欲を滾らせていたのだった。

 

 

 

「……へぇ〜。エルちゃんとクロさんとツルちゃんが、ねぇ」

「スカイさん。変なこと考えてないでしょうね?」

「別に〜……?」

 

 

 


 

 

 

「あっ」

「ゲッ」

 

廊下をほっつき歩いてたら一番会いたくねェ奴と出くわした。走らされたくない俺とは正反対な、走りたくて仕方がないバカウマ娘。

 

「こんにちは、ゴールド」

「サイレンススズカ……」

 

畜生、間の悪い。いや特に予定が差し迫ッてるとかそういう事は無いンだが、コイツと会うって事は常に間が悪いッて事だ。俺がそう判断した。

しかし……次は体育でもなんでもねェ筈だろ?

 

「なンでジャージに着替えてんだ」

「知らないの?この後、リギルの選抜レースがあるのよ」

「もうリギルを抜けたお前にゃ関係無ェ話だろうが」

「あら、調べてくれてたのね」

「うッせ」

 

のらりくらりと天然、コイツのこういう所がどうにも苦手で仕方無ェ。趣味趣向に至るまで本当に正反対で理解のしようも無ェときたら、歩み寄ろうにもどうしろッつうんだ?

 

「ふふっ、私も実はあなたの事がよく分からないの」

「思考読むなバカ」

「だって顔に書いてるんだもの──さて、リギルじゃない私がなんでリギルの選抜レースに行くのか、だったわね」

 

そんな問答の間にも、参加者なり野次ウマなりがポツポツとグラウンドに向かうのが見えていた。

開始が近い。それもあってか、スズカの奴の沈黙もほぼ無かった。

 

「クロスクロウ」

「あ?」

「出るんでしょ。知らないの?」

「知らねェよあんな奴」

「意外」

 

んで、出て来た名前に心から辟易。意外なモンか、奴とは出来る限り関わり合いになりたかねェンだよこちとら。同室でも我慢し難いッてのに、これ以上踏み込んだら()()()()()()()匂いがプンプンしやがるんだぞアイツ。

ッてオイ!笑うな!お前が笑うと胸の中がザワザワして落ち着か無ェンだよこの先頭狂!!

 

「うふっ、あははっ!ごめんなさいね、あんまりにも意地らしくって」

「いい加減ブン殴るぞテメェ」

「そんなこと言わないの。今の私達は女の子なんだから」

「今のも何も生まれた時からウマ娘だろうがッ!」

「……そうね。そうだったわ」

 

だ・か・ら!そうやって(けむ)に巻いて存在しない記憶を植え付けてこようとすンのマジでやめろ!!そういうとこだぞテメェほんと!!!

と言ってやっても、相手は曖昧に微笑むばかりで暖簾に腕押し。なんかもうやッてられん。

 

「帰るわ」

「まだ授業あるわよ?」

「サボる」

「あらそう。私はこのまま見に行くわね」

「勝手にしろ」

 

それで終わり。俺は自室に、アイツはグラウンドに向かう。そもそも走らない俺と走りたいアイツで、道が交わる事自体がおかしかったンだ。

つー訳で、じゃーな。勝手に走り回ってろ、ジャジャウマ娘さんよ。

 

「──でもね、ゴールド。きっとあなたも、彼女から目を逸らしてはいられないわよ」

 

後ろから聞こえて来たそんな言葉も、聞こえないフリをした。

 

 

 

「あ、ステゴさん!見つけましたよ!!」

「げっトプロ!今度は何の用だよ」

「何の用って、リギルの選別レースに決まってるじゃないですか!エルちゃんにクロスクロウちゃん、すごくすごく話題になってる子達が出るんですよ?見に行かないと損です、ぜひ一緒に!!」

「や……ヤダーッ!!絶ッッッッッ対行かねーーッ」

「そんな事言わないで下さい〜!ほら、リギルだからオペラオーちゃんもいますよ!?」

「だから嫌なんだ!何ならクロスよりもオペラオーの方が嫌だ!だから俺はリギルに近付かねェッて決めてんだー!!!」

 

「……そもそも目を逸らす余裕無さそうね………」

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