また君と、今度はずっと   作:スターク(元:はぎほぎ)

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まだスペ君ちゃん達は呑気
クロと再会できて皆して舞い上がってます、可愛いね♡


【第7話】期待!

“登録番号9 クロスクロウ”。

その記載を目にした、その瞬間。

 

「———おハナさん」

 

幼き日に沈めた獣。

天狼星と共に在ったあの頃まで遡り、そしてその日々を最後に永久の中へ眠らせた筈のそれが。

獅子が。

 

1()()()()余地は、残っていたりするかな?」

 

ニィ、と。

 

その牙を垣間見せた、気がした。

 

 


 

 

リギルの選抜レースは他のチームのスカウトも兼ねてる。らしい。

というかそもそも、実は選抜レース自体がリギルだけの物じゃない。ただ一位取った走者が大体リギルに流れてくから、主催もいつの間にか東条ハナさんになってたそうな。

 

(いやまぁ実績が実績だからなぁ東条トレーナー)

 

初担当がマルゼンスキーってのがまずヤバ過ぎる。その年のクラシック三冠路線を完全にお通夜にして社会問題まで引き起こしたあの実力とそれを導いた手腕。それが一発屋に留まらず年々続くとなればそりゃウマ娘からは「ぜひ私も!」となるし、他のトレーナーからすりゃ「あ、アンタほどの人が欲しがるなら……」と譲ってしまう人も出てくるわな。

 

 

そして、その中でも。

特に“筆頭”と謳われる者。

東条ハナが、若くして極めた“最高傑作”と名高いウマ娘がいる。

 

クラシック三冠。それも無敗。

 

GⅠ7勝。それも最短の3年間で。

 

絶対の無い競馬において、唯一の例外とされた“皇帝”。

 

 

 

目の前にいた。

 

「シンボリルドルフだ。無病息災、皆の健全な姿を目に出来て心より嬉しく思う」

 

とは言うものの、別に俺とタイマンで向かい合ってる訳じゃぁない。整列した出走者、その前に設けられた壇上に仁王立ちしてるってだけ。

……だけなのに、この重圧。何!?

 

「おぃぃぃクロスー!何やってんだお前ぇぇぇ!?」

「まず最初に、この演説の場は実は例年の選抜では無かった物だ。私が急遽東条トレーナーに頼んでねじ込んでもらった。故にここで君達の時間を取る事への謝罪と、そして東条トレーナーへの感謝を表明しておきたい」

 

あっシリウス先輩だ。土手の上でなんか叫んでる。あんなコミカルな動き出来るんだ、すげぇなぁ。

 

「ルナと接触すんな!!まだその時じゃねぇんだよ逃げろ!早くッ!!!」

「さて本題だ。ここに集まった以上、各人の願い望みは多少の差異こそあれど共通するだろう……“自分の相棒(トレーナー)を得る”のだ、と」

 

ん……?まさか大事な事言ってない!?ちょっ待って下さいよ、流石に遠過ぎて聞き取るどころの話じゃねぇですよ!ただでさえ会長の存在感に押されて聞き耳立てれる状況じゃないってのにそんな無茶な!!

 

「ああ糞っ、ジェスチャーなら伝わるか?!N!I!G!E!R!O!」

「その為なら何でもする、という覚悟を以て挑むウマ娘もいる筈だ。奇抜な戦法、挙動、エトセトラ……トレーナーの目に付くならばと、なりふり構わないような何か」

 

NIGGER!?このご時世で差別は不味いですって先輩!白人も黒人も黄色人種も皆平等、ウマ娘だってその中に含まれてるんですから!!

 

「そんな事言う訳無いだろ今日本で私ほどグローバリズムに秀でたウマ娘はいねぇよ!!黒人の友達だっているのになんで今更レイシズムに目覚めなきゃいけねぇんだバカ!!!」

「姐貴!キャラ崩壊が著しいです!!」

「それが悪いとは言わない──だがこの場では敢えて、それに一条の“制約”を設けさせて貰う」

 

やっべー、いよいよもって分からんまま時だけが進んでいく。というかシリウス先輩からの暗号を解読しようとし過ぎて会長の話が全然頭に入ってこねぇ。大事な事言ってたらどうしよう。詰みゾ。

 

「“目の前のレースに勝つ為”。それ以外の奇策は、今回は禁止だ」

「えっ。あっ、はい」

「ん?」

「ナンデモナイデス」

 

あああやっちまった!ギリギリ耳に入って来た言葉に生返事しちまったー!絶対会長に目を付けられたよ、っつーか実際目を付けられてるよコレ。だってこっちガン見してきてるもん!その笑顔が怖いよカイチョー!!

ごめん、シリウスパイセン。俺、多分ここからどう足掻いても次期会長には選ばれないと思います。この人の後釜は無理です。

 

「うわ最悪だ、学園内でロックオンされた……畜生どうしてこうなる」

「……コホン。勘違いしないで欲しいが、懸命に自らの道を切り開こうと模索するのは大歓迎だ。その結果選んだ答えが如何なるものであろうとも、他者を害する物でない限り尊重されるべきだろう。しかし忘れてはならない事がある、“本番のレースに()()()()はあるか”?」

「ん?ルナの奴、仕掛けないのか?想定よりも自制心が働いてる……?」

「同じレースは二度と無い。同じライバルと競う事は二度と無い。この世界はそんな事の連続だ、果たしてその中で、機会(レース)の一つをまるまる棒に振る──出来るか?()()()か?」

 

続く言葉は至極ご尤もで。周りの子達も触発されたように、大なり小なりの頷きと息を呑む音で応じていた。

もちろん俺もその1人、深く頷きましたとも。だから時折意味深に視線投げるのやめて下さい心が死んでしまいます。

 

「故にこその制約だ。今回の選抜レース、君達にはジュニア級限定レース・クラシック三冠、もしくはそれこそ……引退レースに挑むような。そんな心持ちで、全力を尽くして欲しい。君達が欲するトレーナー達もきっと、そんな全力の姿をこそ待ち望んでいるのだから」

 

そう言って会長が見遣った先には東条トレーナー、そして柵の向こうなり土手の上なりから注目を注いでくるトレーナーの皆さん方。ああ、こりゃ引き下がれんわ。ここまで焚き付けられちゃ、生半可な気持ちでこのレースに挑めるウマ娘なんかウマっ子1人残るまいて。

 

(……半端なザマは見せられないな)

 

今回は会長への忖度だけではなく、心から俺も滾らせられた。奇を衒った一発屋じゃ終われない、トレーナー達の目を刮目させるような走りをしたいって。

そう、思っていた時。

 

「………長くなったが、これで最後だ」

 

幾度目の会長の声。でも今までと違うのは、その視線が俺へと縫い止められていた事。先程までのチラ見とは話が違う、凝視と言って良い。

俺が並んでるのは丁度正面の所だから、他の子達からすれば会長の様子は全然変わらなく見えるんだろうか。もしくは俺の自意識過剰な幻覚か?いやでも……

 

「このレースに全力で挑んで、しかし結果が伴うとは限らない。だがどんな結末になろうとも、君達の道は続いていく。否、始まっていく」

 

確かに、俺に、言ってる。

皇帝の言葉は、俺に向けられている。

 

「どうか折れてくれるな。挫けてくれるな。一意専心、己が大成すると信じ突き進んでくれ。その歩みが、道こそが ───」

 

そう告げて、彼女は一際大きく息を吸った。次に放たれる言葉こそが、最も告げたい物なのだと知らしめるように。

そして。

 

 

「───()()()()に至り、新たな地平を拓く。その一歩となるのだから」

 

 

……門。

門、だって?

 

「………以上、シンボリルドルフからの話は終わりだ。君達の疾走に期待しているよ」

「ありがとうルドルフ。では今回の選抜レースのカリキュラムを発表するぞ。第一レースは短距離1000m、出走者は……」

 

マイクが東条トレーナーに引き継がれたその後も、俺の脳裏には会長──シンボリルドルフ先輩のギラついた微笑みが焼き付いたまま。そして頭蓋に反響する言葉が、鼓膜を揺らして視界すらグラつかせていた。

門って。他の人が言うならともかく、アンタが“門”って。いや考え過ぎか?

 

(シンボリにとっての、門)

 

彼方に聳える、日本ウマ娘の壁。未だ誰も開いた事のない鉄の扉。

そうなのか?

そういう意味、なのか?

 

「ではこれから各人、競走ウマ娘としての抱負……現時点での目標を発表してもらおう。登録番号1番、アークレイズ!」

「はい!私は……」

 

何なんだ。言われたのは本当に俺なのか、それすら定かじゃない未確定情報。

でも本当に、俺の想像通りなら。俺がそれを、望まれているのなら。

 

「4番、エルコンドルパサー!」

「ハイ!エルの目標は……目標、は……」

「どうした?」

「いえ………うん、エルは、“最強”に手を届かせたいデス」

 

やる事は変わらない。為すべき事は最初から何一つ。

俺の存在理由を、意義を、義務を。

 

「次。9番、クロスクロウ!」

「はい!俺の目標は───」

 

依然変わり無く、突き通すだけだ。

 

「───期待を託されるウマ娘に。それに値する存在だと、そう示し続ける事です!」

 

 

 

 

「続いて、14番!セイウンスカイ!」

「特に無いんですけど、強いて言うなら叩き潰したい相手がここ(トレセン)にいるからですねぇ」

「ケ!?何でここにいるデスか!」

「お前確かもうトレーナーいなかったっけ」

「なんでって……理由は前述の通りですが〜?」

 

 

 


 

 

「グラスちゃん、キング、聞こえた?」

「少しだけ……」

「だいぶ熱が入ってたわね」

 

3人揃って訝しみの視線を送る。送り先である生徒会長はそれに気付く様子も無く──もしくは見逃されてるのか──壇上から降りて、自らのトレーナーにマイクを手渡していた。その様子は朗らかで、企み事をしてるようには見えないし思えない。

 

(……けど、クロに注視してた)

 

ただその一点だけがどうにも引っ掛かる。クロと会長に接点なんて無い筈なのに、どうして?

 

「クロさんが何か問題を起こしてルドルフ先輩に目を付けられてる……なんて情報、入ってなかったわよね」

「学園に入ってそれなりに情報網を広げてきたつもりですが、クロがそんな事をやらかしたなんて聞いた事ありません」

「……まぁ、会長ほどのウマ娘だからクロの素質を見抜けた、って所じゃないの?」

 

判断を下すには情報が足りな過ぎる今、私は割と楽観的に物事を捉えていた。私達の誇りであるクロが7冠を擁する皇帝に注目されているというその事実に、心なしか気を良くしてしまっていたからだろうか。

それに会長ことシンボリルドルフ先輩は、品行方正で悪い噂なんか聞いた事が無い。フジ先輩から聞く限りでもかなり頼れる人物だし、彼女とクロが関わる事にデメリットなんて無いように思える。

 

「一応同感ね。生徒会がクロさんのバックアップに回ってくれるなら寧ろ僥倖……グラスさんはどう思うかしら?」

「私は……」

 

キングは賛成してくれて、でもグラスは依然何か思う所がある様子。問題はその言語化に難あるようで、私達の論議はそこでストップしてしまった。仕方が無い、エルとスカイが戻って来るまで一旦中断しよっか。

というか。スカイはなんでもうトレーナーがいるのにあそこにいるの?

 

「さぁ………規則を見返してみたけど、トレーナー持ちのウマ娘が選抜レースに出てはいけない、なんてルールは一応無かったわ。一応」

「普通出ませんからね。出る必要無いですからね」

「来年度からルール追加されそうだね……」

 

奇策士の思惑は今も昔も分からない、それ故に変わらない。過ぎ去った過去の日の手強さを、私達は今なお彼女から感じ続けている。

 

だからこそ、楽しみなんだ。

 

「クロは勝てると思う?」

「難しいと思います」

「スカイさんの動きにもよるけれど……エルさんにはまだ勝てないと思うわ」

 

2人の見解は厳しいもの。かく言う私も似たような物で、クロはまだ発展途上だ。

……けど、そこで終わらないのが彼女だから。終わらなかったのが、彼だから。

 

「でもきっと、()()()くれる──そう思わない?」

「当たり前じゃない」

「当然でしょう?だって彼は、」

 

クロスクロウなんですから。

そう告げたグラスちゃんに、僕とキングは全力で頷いた。

 

 

 


 

 

 

「………む」

「あら、どうかした?」

「スペシャルを見つけた」

「わぁお!噂をすれば影、ってね」

 

知り合いに誘われて見に来た選抜レースで、私はその視界に“恩人”を捉えた。彼女自身の友人2人と並んでコースを見下ろしていた、元気そうで何よりだ。

 

「グラスちゃんと一緒ねぇ。声、掛ける?」

「後で良い。彼女達の時間を邪魔したくない」

「確かにそうね。それに……」

 

誘ってきた連れ添い──マルゼンスキーが見下ろした先では、各々で準備運動をするウマ娘達。その中の1人、芦毛。私と同じ。

編入生だと言う。そこも、私と同じ。

 

「……少し、親近感を感じる」

「それだけでも見に来た価値があったかもね」

 

私達は、彼女を見に来たんだ。

 

「スペちゃんが目を掛けてる子よ。楽しみね」

「そうだなモグモグ」

「あれま美味しそうなオヤツ」

「欲しいか?」

「私今ダイエット中なのよねぇ、パスよん」

「そうか」

 

雑談をしてる間に、準備は終わったようだった。各自ゲートに入ってスタート姿勢。

見逃せない。

 

「始まるわ、オグリちゃん」

「ああ」

 

私達が呟いた、その目の前で。リギルのサブトレーナーが旗を掲げ。

そして、振り下ろされた。




オグリの口調ってこれで良いんだろうか
「〜なんだ」「〜だが?」を語尾に付ければそれっぽくはなるけど、それしかレパートリー無いと一辺倒になるしムズカシイ
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