また君と、今度はずっと   作:スターク(元:はぎほぎ)

171 / 205
【第8話】既視

「今日は私、なんか行ける気がするんだー!」

「ウララちゃんも?お揃いだね!」

「って事はツルちゃんもそうなんだー。負けないよ!!」

「私だって!ルドルフ先輩にいいとこ見せるんだ……!」

 

さぁて、諸々想定外はあったけど色々レース開始直前だ。ストレッチは済ませたしコンディションも無問題———と言いたいところだけど、一つだけ。

 

「どうしよう……勝てるかな…」

「やるしかないんだ、たとえ勝てなくとも……!」

「これはダービー、これはダービー、エルコンドルがいるダービー…!!」

「スカイちゃんに惑わされるな。自分を貫け自分を貫け自分を貫け………」

()っっっも!!!)

 

悲壮感がヤバい。ゲート入り前から既に漂ってた絶望の空気が、鉄格子に入れられた事で更に濃縮されとるがなコレ。引っ張られて俺も無自覚に鬱ってたりしねぇだろうな、状況が状況過ぎて不安になってきたぞオイ!?

そんな呟きが左右から耳に入って来て、集中を保ち辛いのが一番の問題だ。ちゃんと()ってくれよ俺の精神力、変に出遅れてゲート難の癖が付いたりしたらヤだぞ!?

 

(ええい、いっそ耳を塞ぐか!?)

 

大真面目に最終手段を講じるけれど、それでスタートの瞬間を聞き逃したら本末転倒もいいとこだ。却下!頑張るしかぬぇー!!

 

「———ケホッ」

 

開き直った、直るしかない俺の耳は。勿論、微かなその音も拾っていた。

その時は気にもしなかった。

 

 


 

 

()()でも前期の選抜レースより余程マシ。両の手でギリギリ数えきれない出走者たちを横目に見ながら私はそう想った。

いやだって。スぺちゃんとグラスちゃんの時は、ねぇ?

 

(二人っきりの併走になっちゃったもんなぁ)

 

出走の話が事前に漏れちゃったのが不味かったのか、いやそれそも公表される時点で隠せる物じゃなかったのが災いした。幕府と呼ばれる私たち、その中でもトップクラスで抜きんでた二人との競合を皆恐れちゃったんだよねぇ。

問題は———皆のその恐怖を、懸念を、彼女達がその身で実証してしまった事にもある。レースとは到底呼べない単走×2で終わる筈だったそれを、スぺちゃんとグラスちゃんは自身の激走とお互いの牽制の応酬で高レベルな競り合いに仕立ててしまった。

それ以来だよ、同学年の子達が私達との競争を避けるようになっちゃったのは。私達(特に私、騙し騙しやってるセイウンスカイ)は所詮知識と経験の“前借り”で、いずれストックが尽きたら容易く追いつかれかねない砂の城だっていうのに、皆はもう不沈艦みたいに捉えちゃってる。まぁ衝突無く日常を過ごせるのは良いし、私以外の皆はレースで手加減できるようなタチじゃないから仕方ないんだけどさぁ。色々遠慮されて優先されちゃう身って、割と重荷だったり?

 

(でも、クロが来てから変わった)

 

正確にはグラスちゃんとの体力測定から。何の変哲も無いポッと出の新人が、“鬼人”と呼ばれた駿速に追い縋る様を皆が見てから。

予想外の出来事は噂になる。噂は憶測を伴って大きくなる。今回はその果てに、“希望”になった。私達に勝ちうる、その可能性があるという希望に。だから今回の選抜レースは辞退者が少なかったんだ。あの子が近づけれるんなら私も、ってね。

 

(だから、残念だよ)

 

本当に、残念だ。なんでって?

 

(いつもと違って、()()手加減できないから)

 

だってクロスさんとのレースだ。ずっと、ずぅっと、お預けにされ続けてきた垂涎の代物だ。エルちゃんの下に舞い降りた機会(それ)に、お裾分けの余地があるときた。

………逃せる訳無いだろ。

 

(全力だ。それしか無い…!)

 

他の子達には悪いけど、心からゴメンだけど、その希望は出鼻から挫かせてもらうよ。なんでって?

どんなレースだとしても、()()は、クロスクロウに勝たなきゃいけないから!!

 

(絶対に勝つ!絶対に負かす!!絶ッッ対ッ!!!)

 

雪辱を今こそ。記憶を取り戻したその意味は、今この瞬間に。

そう誓った瞬間にゲートが開いた。体は瞬時に反応してくれた。

前へ。前へ!!

 

地固め(下調べ)は済ませてあるからね———!)

 

事前情報は万全だ。芝2000m左回りで天候:雨のち曇り、少しぬかるんだ稍重馬場。クロスさんが出るって聞いた瞬間から、天気ニュースを漁りまくって毎日コースを確認してたから何もかも全部把握出来てる。出走者の戦法だって丸々お手の物だ。

逃げは私を含め2人!先行はエルちゃん含め4人!差しが3人で、クロスさんは———やっぱり、ウララちゃんと一緒に最後尾!追込だ!!

 

()()()!ううん、勝てる!!)

 

つまり今この状況は、私が事前に考えた策がぶっ刺さる事を示してくれている!

だが油断はできない、エルちゃんの動きによっては瓦解する可能性だってもちろんある。そうなる前に先手を打っていきたいところだけど、“仕込み”の為に最初は我慢だ。

まず、先頭は前提として私。けど幾らスタミナに余裕があっても飛ばさず、あくまで私と一緒に逃げてる子に合わせるんだ。他の皆が付いて来れるよう、私に勝てるかもしれないという希望を見せつけるように。

 

「いける、負けない、今日こそ勝つ、勝つ……!」

 

早速逃げの子が術中に嵌まった。ほくそ笑みそうになる表情筋を何とか隠し、私も余力無さそうに努めなきゃ。そうすればほぅら、先行の子達も揃って必死に追い縋r……あーエルちゃんは例外だねうん。やっぱり乱されちゃくれないよねぇ。

ともかく、もう700m通過で中盤に入ってる。そろそろだな。

 

(悪いね、皆さん)

 

絶望してくれ。

 

「……!まだ、まだ!」

 

ギアを上げた。私を追いやってると勘違いして、喜びの気配が後ろから感じられた。

 

「もう、終わりだ……!」

「トドメを…」

 

またギアを上げた。粘ってるけどもう、ね。

 

「後、少し———」

「———あれ?」

「どうして」

 

さよなら。また今度!

 

「「「……そん、な……!!!」」」

 

完全に突き放した。溜め込んだ持久力を爆発させての加速、これが私が仕組んだ“脱出大作戦”!もう逃げと先行の子達は例外を除いて加速力を失い、何よりそれを支える気力をへし折られた。これから彼女達に待つのは急減速の未来、そして差しの子達からすれば集団で垂れてきた彼女たちは差し詰め“壁”に見える事だろう。進路を思いっきり阻まれて、もうゴチャゴチャでグチャグチャな大混乱に陥る筈だ。

そうなれば———一番後ろのクロスさんはもう、抜け出すどころの騒ぎじゃない。

 

……勝った。

勝ったんだ、クロスさんに。やっと。

 

(負かせた、よね?)

 

余りの呆気なさに暫し我を忘れた。いやそりゃあ、相手は編入してきたばかりだから私に余りに有利過ぎるのは自覚してるつもりだ。それでも、この勝負を皮切りに私自身の中の敗北感を払拭したかった。その為に勝利を欲した。

その結果がこれ。夢にまで望んで焦がれた圧勝だ。

……これで、良いのか?

 

「やってくれましたネ」

「ッ……~~~!!!」

 

分かってる。分かってたよ、エルちゃん!

 

「不満だったかな!?」

「ええ。クロ-サン封じにばかり躍起になって、エルに対して全然無警戒なとこが…!!」

「ああそうですかい!」

 

自覚してたよ、この策がクロスさんはともかくエルちゃんに対しては何ら有効打を持ち得ない事は!それでもクロスさんに執着して集中した、自分でも思うけど本当に悪い所だよ私のっ!!

 

(直さなきゃいけないとは、思ってるんですけどねぇっ……!!)

 

垂れ集団が壁になる前に鮮やかに抜け出たエルちゃん、もうどんどん距離を詰めてきてすぐ後ろだ。最終コーナーも視界に入ってもう中盤も終わり、これ以上の小細工は出来ない!分の悪い地力勝負となれば、エルちゃんに対して残されてる勝ち筋なんてあるのか?分かんない、けどもう踏ん張るしか無いや儘ならないなぁ!!

 

(とにかく、邪魔者はいないんだ!)

 

最後に、エルちゃん以外の相手が出てこないか、その確認だけするべく後ろを見た。不確定要素を出来るだけ思考から排したかった。

そう思って、見た結果。

 

「……はぃ?」

 

真逆。

最大の不確定要素。

 

混雑を極めたバ群。人が通れる隙間なんてある訳が無いのに。

 

 

「———そいやっ」

 

 

僅かに聞こえたその声が。

()()()が。

一番封じたくて、試行錯誤の末にようやく押し込めたアイツが。

 

ヌルリと出てきた。

 

 

「はぁ?」

 

 

やっと出した声に、オレは、何の意味も持たせられない。

それぐらい意味不明だったから。

 

 


 

 

セイちゃんがクローサンを追いやった事自体に異論はありマセン。斯く言うエルだって、クロ-サンを最大限意識して封じようとしてましたカラ。

でも、クローサンだけしか見てないのは流石に違うデショ、と。このエルの打倒を度外視してたのは流石に頂けないな、と。

……いえ、多分自分で思うよりも、エルは怒ってないんデショウネ。だってエルは、クローサンと望みを()()()()側のウマ娘デスから。そしてセイちゃんは、()()()()()()()側の子。彼女がエルの苦しみを知らないように、エルもまたセイちゃんがどれ程クローサンを待ち望んでいたか知る由もありマセン。だから今、エルはそこまで怒りを燃やせないし燃やす気も起きない。

けど、負ける訳にはいかないなと。せめて後悔はさせなきゃ、って。

 

そう思った瞬間、心よりも体が反応していた。何故振り向いたのか、自分の行動に意味が分からなかった。

 

———多分。前世の私の魂が、叫んでたんだと思いマス。“舐めるな”、って。

クロ-サンがこの程度で終わる訳無いだろ、って。

 

「———そいやっ」

 

その瞬間だった。彼女が、エル達の戦場に躍り出てきたのは。

信じられない手段で、舞い戻って。

 

Dive(ヘッドスライディング)——!?」

 

走り幅跳び。バ群の中から。

空中捻り。前列の隙間を縫って。

着地。前転で勢いを殺さず。

 

……レース中に。

あろう事か、脱出直後に()()()()()()()()()()()()()()()!!

 

「はぁ?……へっ、えぇッ!?!!?」

 

セイちゃんが面食らうのも無理はない、エルも開いた口が塞がらない。目の前で抜かされた子達なんか、目を丸くして走るのを忘れてるんじゃないかって始末デェス!?

 

「まだまだ、ここからっ!」

「ヒュッ……!!」

 

驚いてる場合じゃない、クローサンの加速が来る。あの追撃が、どんどん迫ってくる!

なんで一回前転したのにすぐ立ち上がれたんデスかとか、なんで立ち上がって即トップスピードに戻せたんデスかとか、そんなの疑問に出来ない!だって事実、すぐそこに近付いて来てマスから!

これだ!思いだした、クロ-サンの怖いのはこういう所だ!どんなに突き放そうと、どんなに押し込めようと、その場その場で絶対に打開してくる!!そういうアナタが、アナタだから、エルは!!

 

(ずっと、会いたかったんデスッ!!!)

 

 


 

 

そうだった!そうでしたよねぇ君は、いつもいつも()()()()()だった!!!

オレが必死こいて、足掻いて積み重ねた布石を!策を!!お前はいつだって、土壇場のその場しのぎで全部ぶっ壊す!お前のそんなところが、大っ嫌いなんだよ!!

だから倒す!お前を絶対に倒すって決めたんだ、菊花ごと捨てられたあの日から!見透かしたように焚き付けられたあの日から、お前だけにずっと!!

 

(会いたかったんだよ!!)

 

()()()()()()()()()を、待ってたんだ!

 

 


 

 

セイちゃんの脚が復活しマシタ。どころかこれは、多分本人も自覚してないケド自己ベストペース。

エル自身も、今までにない程体が軽い。胸のつっかえが全部取れたみたいに、心臓が強く心地よく跳ねてる!

後ろからクローサンが迫って来てる、たったその事実だけで!!

もっと、もっと欲しい。クローサンと一緒に、どこまでも。そうだ、加減なんてしてられマスか!

エルの全力!きっとついて来れる、ついて来い!クローサン、アナタなら出来る!

 

さぁ—————!

 

 

ElCondorPasa ElCondorPasa ElCondorPasa ElCondorPasa ElCondorPasa ElCondorPasa ElCondorPasa ElCondorPasa ElCondorPasa ElCondorPasa

ElCondorPasa ElCondorPasa ElCondorPasa ElCondorPasa ElCondorPasa ElCondorPasa ElCondorPasa ElCondorPasa ElCondorPasa ElCondorPasa

プランチャ・ガナドール!

          Lv.1

ElCondorPasa ElCondorPasa ElCondorPasa ElCondorPasa ElCondorPasa ElCondorPasa ElCondorPasa ElCondorPasa ElCondorPasa ElCondorPasa

ElCondorPasa ElCondorPasa ElCondorPasa ElCondorPasa ElCondorPasa ElCondorPasa ElCondorPasa ElCondorPasa ElCondorPasa ElCondorPasa

 

「うやぁぁァァァアアアアッッッ!!!」

 

久し振りの領域。背から翼が生えたような、そんな足取りでセイちゃんを抜かした。ゴールの白線を突き破った。

どうだ。クローサン、エルは。エルの走りはどうデシタか!?

 

「クロ-サ———」

 

勝敗はこの際どうでも良い。楽しかったって。汗だくの笑顔で笑い合いたかった。だから、その姿を探して見回した。

 

 

 

 

 

見えたのは、佇むセイちゃんだけ。

 

「……ケ?」

 

いや、正確には他の出走者の子達も。エル達に続いて続々とゴールしてくる、疲れ果てた5人のウマ娘。

 

 

………ゲート入りした時は、10人立てだったのに。

 

「エル、ちゃん」

 

立ち尽くしていたセイちゃんの声が聞こえた。

その指先は、遥か後方を差してマシタ。

 

「アレ、って」

 

震えるその先には。

何かを叫ぶウララちゃんと、そして。

 

 

「クロぉぉぉ!!」

 

「ツヨシっ!!!」

 

 

呼び声で、やっと理解する。

倒れてる二人のウマ娘が、誰なのかを。

 

「……何?」

 

何が起こった。

それすら分からないまま、私は膝をついた。

重なっていた。あの日の記憶。忌まわしく悍ましい光景。

 

倒れたあの日のクローサンの影が、今この瞬間の彼女に被った。

 

動けなかった。

 

「なん、で」

 

どうして。

 

そんな言葉しか吐けなかった。

 

 

エルはどこまでも役立たずだった。今も昔も、変わらない。




(多分皆さんが思ってるほど酷い事態では)ないです
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。