おばアサマみたいにシンボリ家を統制する立場とかそういうのではなさそうですが、はてさて。もしや実装来る?
っぱ先行策が最強だと思うんすよね。
考えてもみろよ、逃げ馬の後ろについて体力温存して最後にかっ飛ばすんだぞ。そら速ぇよ強ぇよ、俺だってそうしたい。そうするつもりだった。
(いやまぁ出遅れたんですけどね)
誰に言うでもないパニクった言葉が、頭蓋骨内で延々と反響している。だってしょうがねぇだろ目の前のウマ娘達で作られた壁見たらよぉ。どう抜け出せってんだこのあんぽんたん、のろま、愚図愚図愚図!
ええい、こうなった以上はハイリスキーな追込だよもう。せめて差しぐらいは格好よく決めたかったのに、そう上手くはいかねぇかぁ。
(とにかく情報整理だっ)
「む~り~!!」
(いやウララちゃん自信満々だった割に遅くね?)
ずっと最後尾でいる訳にゃいかん。いつか必ず機は巡ってくると信じて、それを見逃さないようにバ群を注視だ、幸いにも
……明らかに色んな物を使い切って後ろに消えていったウララちゃんは、流石に意識から除外するとして。
(スカイは逃げでエルが追走、先行勢がさらにそれに続いてるな)
差しと思われる子と合わせてザッと6人。スカイ達に追いつくにゃまず彼女達を抜かさなきゃいけない訳で、でも脚の残り具合的にはそこまで難しくなさそうだ。馬場も内側が若干荒れてて皆避けてるから、そこを突けば多分いけるかも。
ほら、今この瞬間にもどんどん近づいてくる。代わりにスカイが加速してるから、リード稼がれないよう詰めとかないと、って思ってたらもっと集団の背中が近づいて来た。
……早い?!
「ちょまっ!?」
やべぇぞ脚が残る残らないの問題じゃない、コイツら総崩れになって垂れウマになってんのか!俺の進路が!!
(えぇい巻き込まれてたまるか、俺は一足先に離脱させてもrあああああッ!!!)
今更回避しようにも時既に遅し。躙り寄る肉の壁になす術なく飲み込まれ、敢えなく俺も垂れウマの仲間入りと相なっちまった!うわぁ勝ちを狙う以前にスカイ達と競るどころの話ですらねぇ、このまま脱出口見つけられなかったらマジで見せ場無しのまま終わっちまうぞ!?というか、っていうかさ!!
「もうダメだぁおしまいだぁ」
案の定だ。こういう人混みは昔から大の苦手なんだ、情報過多で頭がこんがらがる!さっきみたいに後ろ一方から全体を捉えてる状態ならまだしも、渦中に巻き込まれるとホントにキツいんだよ俺……──
──けど、向き不向きの差異こそあれど皆条件と状況は同じなんだ。弱音を吐いた奴からダメになる、その前提は忘れちゃいけない。
一瞬だ。一瞬だけ目を閉じろ。耳から入ってくる音に聞こえなかったフリをしろ。
今入ってくる情報が使い物にならないなら、せめてその寸前までかき集めてた分を有効活用だ。結論、ともかくこの集団から脱すれば良いんだ。問題は出口があるかどうか。
よし。目を開けよう。
すぐ前のウマ娘に追突しかけてた。あっぶねぇ!!
(二度とレース中に目なんか閉じられねぇなこりゃッ)
改めて考えれば、今俺がしてたのって時速50キロ以上の居眠り・よそ見運転そのものだ!そら危ないわな繰り返せんわ、交通法万歳!けどそのお陰で方針だけは定まったのが喜ばしいやら悲しいやら。
ともかく、あと動かすべきなのは脳ではない目と身体だけ。わずかな隙間を、それが存在する微かな時間を見落とさないように努めよう。
努めて、探して、見分けて……うーん。
これで良い?いや狭いよな流石に。無理だよな。
でもやるしか無ぇよな。他空きそうに無いし。
会長は「勝つ為以外の奇策を禁ずる」って言った。つまり勝つ為の奇策なら、奇行なら許されるって事だ。いや本当は違うんだろうけど、もうこの際拡大解釈する事にした。
という訳で。次の一瞬が、勝負。
今だ。
ぐっと、体を縮めた。
息を止め、跳んだ。
頭が隙間に入る。隣のウマ娘の振るう腕が額を掠めた。無問題。
肩。首ごと捻って捩じ込む。ギリセーフ。
腰。余裕あり。
膝。もう通り過ぎた。
目前に地面が迫る。手を突く。前転着地で衝撃緩和、減速を最低限に。
グルリと一回転して、脚がまた地面についた。
勢いのまま、立った。
蹴り出した。
「ふぁい?」
「何?」
後ろからそんな声が聞こえた。
………出来ちゃったぁ。
(いやこんな上手くいくか普通!?)
そうはならんやろ!なっとるやろがい!!自分がやった事に自分でもドン引きなんだが、だがそれでも道は開けた。スカイの姿が、エルの背中がはっきり見える位置まで来れたから!!
「はぁ?……!?!」
「Dive──!?」
刹那だけ見えた2人の瞳。驚愕の色濃いそれに、誤魔化しきれない喜悦が俺の口元に顕われる。お前達の
けどここからこそが本題だ、より加速を強めるであろう彼女達にどう追いつく?グラスを相手にした時は結局追いつけなかったんだから、今回はそれ以上の出力を叩き出さなきゃ話にならない。どうする?言うまでも無いね、死力だね!!
「まだまだ、ここからァッ!!」
ドクンと心臓が波打った。熱い波動が、体のど真ん中から四肢に伝播する。そしたらまた同じように拍動。
次々にテンポが速くなる。全身に火がついたみたいになって、このまま───!
「───カヒュ」
あっ?
後ろから微かな喘鳴。
気のせいか?
「コ、……カッ!!」
違う。
現実だ。
嘘みたいに熱が消える、頭が冷える。まるでさっきまでの
最終コーナー直前。荒れた内側を避けて皆外に寄ってる。そのスペースへ、前方向へ費やす筈だった推進力を。幸運にも、俺の図体はスッポリ収まった。
そこで急ブレーキ。後続はいない、さっき追い抜かした奴らが今度は俺を横目に過ぎ去っていく。本腰入れた加速を始める前だった事もあって、減速は思いの外素直に完遂できた。
そうしてやっと視界に入る、要救助者の姿。
「ヒュウ…ケプフ……!」
「ツルッ!!」
口から涎、いや違う泡だ!泡吹いて呼吸困難になってる、差し詰め唾を誤嚥してパニクってたらそのまま泡立っちまったってか!?
いずれにせよ顔色真っ青で限界が近いのは間違いない、足取りも覚束なくて転倒まっしぐらだな。かといって自力でスピード制御できるような様子でもない、なら!!
(
思うと同時に体が動く。両手を広げてツルの進路に躍り出、行手を塞いだ。
無論、待っているのは激突。
「げふっ?!」
接触の瞬間に後ろに跳んだとはいえ、衝撃は予想以上。せめてツルにダメージが行かないよう胸で受け止めたけど、俺の身体は貧相だからどこまで緩和出来たやら。そこに関してはあまり期待出来そうも無ぇや、諦めてくれツルぼん。
んで本題はここからだ。現状俺もツルも足が地面から離れてアンコントロール、迫り来る着地をこなさなきゃ2人揃ってゲームオーバー!もちろんツルを下敷きに出来る訳が無いので、俺の方から接地するのは前提だけど、そうしたら今度はこっちが色々へし折れかねん問題。
となれば…初撃は甘受するとして、すぐさま転がって緩和する!
(なんとかなれぇぇぇ!!)
接地!背骨から肋骨に伝わるインパクト、一瞬吹っ飛ぶ思考!気合いで取り戻す!!
慣性を肩に集中させて軸捻り!スムーズに転がれ転がれ転がれ、出来たっ!!
回転中も胸中のツルを包み込むように保護!全身の至る所が擦れるけど、その摩擦が運動エネルギーの減衰を伝えてくれる。
時間にして何秒か。きっと3秒にも満たない、その中でも接地まではきっと一瞬。
けどあまりにも濃密なその時間で、それを経てやっと、俺達は静止という結果を手にした。物理法則に対する、ひとまずの勝利だった。
(んな黄昏てる場合じゃねぇだろクロスクロウッ)
「クロちゃん、ツヨシちゃん!大丈夫、痛くない!?」
「俺達の事は気にすんな!!お前まで失格になっちまうぞ?!」
「こんなんじゃ放っておけないもん!」
「……だったら東条トレーナーに、ツルが喉詰まって酸欠だって伝えてくれ!」
「うん!トレーナーさーん、キングちゃーん!ツヨシちゃんがー!!!」
急いで跳ね起き、ウララちゃんに指示してからツルを抱き起こした。未だ溢れる泡をなんとかしようと歯で噛んでいるが、それでどうにか出来る容態じゃない。問題は口というより……
(気管か!)
喉の更に奥、食道から肺へと分岐する管。ツルの胸に耳を当てた時、くぐもったような音が聞こえてくた。泡の出所がここなら、対処法はある。
「ツルぼん。ちょっと我慢してくれな」
「クオ、ア、」
虚な瞳を目まぐるしく動かして情報を得ようとするツルにそう言って、俺は彼女を背後から抱き止めた。右手を握り、それを左手で包み、臍と鳩尾の間へ位置付ける。
恨むなよ。多分割とキツいからな……!
「ふんッ!!」
「──おぇ゛ァっ!?」
不安がらせないよう平静に努めながら、意を決して瞬時に引き上げた。横隔膜を腹部ごと圧迫して、強引に収縮させた呼吸器から異物を押し出す応急処置。
頼むから効いてくれという願いが通じたのか、およそ女の子が出してはいけない苦悶の声と共に、一際大きな泡塊がツルの口から飛び出た。痰混じりのそれを見て、これが事態の発端である事はすぐに理解できた。
「げぇっ、うぇ、おえっ!!ケホケホっ……!」
………まだ辛そうだな。
「よしもっかいやるぞ!!」
「待……ぃき、もぅ」
「せーのっ」
「待てっ!!!」
「待って!!!」
「うおふぁっ!?」
もう一回突き上げようとしたら、ツルとの間に割り込んでくる人影。そして引っ張られる肩。驚いて見上げれば、息を荒げて見下ろしてくるスペがそこにいた。
「クロ、大丈夫!?ツルちゃんと一緒に倒れたよね、怪我ない?!?」
「俺はあっても擦り傷ぐらいだ、ツルも多分外傷は無ぇ。ただ唾と痰で咽せたらしくてな」
「え!じゃあなんでツルちゃんにプロレス技みたいなの掛けてたの」
「応急処置じゃいっ!!」
「ツヨシ、無事か?意識はあるか!?」
「ルドルフ、さ、ごめん、なさ、」
「分かった、無理して返事しなくて良い。瞬きで充分だ───担架!」
「今着きました!ツヨシさんを此方へ!!」
人聞きの悪い誤解をされてたので解いてたら、同時に鹿毛の誰かがツルぼんを抱いてるのが目に入る。恐らくそれは先程割って入って来た人影の正体で、それは何を隠そう生徒会長。さすが皇帝というべきか、その俊足で事故現場にいち早く駆けつけてくれたらしい。
そのまま手際よく寝かされ、運ばれていく同級生を見送る。大事に至らなくて良かったと思いながらも、これが後に引かないか改めて心配になった。
………さて。
「クロちゃん、スぺちゃん」
振り返ればグラス。その後ろにはエルとキングと、最後にスカイが続いている。ゴール板の所からここまで来てくれたみたいで、そして同時に俺は自身の失態に気付いた。レース結果が全然分からん!
「あー……ごめん。誰が勝った?」
「ッ」
「……エル、デス。セイちゃんが2着、デシタ」
「…そっか」
なんて言えば良いんだろ。そもそも何か言う資格があるのか?悔しがる権利を持つのは勝負を挑んだ敗者だけ、俺はそれですらない。かと言って、勝者へ喝采を送る観客、として振舞うには当事者過ぎた。俺はこのレースにおいて、何物にもなれなかった。なる道を打ち捨てた。
じゃあ謝るか?———それはきっと、一番
(反省はともかく、後悔をする気にはなれねぇからなぁ……)
同じ事になった時、俺は同じ過ちを性懲りも無く繰り返すだろう。それが分かってるのに謝るなんて、逆に不誠実でしかなくね?
となると……まっず、ホントにやれる事が無ぇや。もうダメだぁ!!
「———クロスクロウッ!!」
冷や汗ダラダラ垂れ流すままに、内心でヤケっぱちとなった俺。それを正気へと引き戻すように、手首をガシリと掴まれた。
スカイが、歯を食いしばって此方を睨みつけていた。
ふざけるな。
胸に去来した感情はただ一つ。
(オレとのレースを蔑ろにしたのか)
またかよと。この期に及んでどれだけお預けさせる気だ、と。
俺はベストを尽くしたんだぞ。お前から今度こそ勝利をもぎ取るんだって、らしくも無く全力出したんだぞ?なのにお前はその後ろで、まるでそれがどうでも良い事みたいにレースを投げ捨ててたんだ。
———お前が、お前の事情でやめてたのなら良かった。オレに追いつくのを諦めたとか、次の対戦時を見越して策を温存したとか、そんな理由なら。オレはお前に先着した事を誇れて、そして1着になれなかったことを悔しがれた。
現実は違う。お前が足を止めたのはツルちゃんの為。人命救助という尊い理由、否定しがたい善の行動故だ。その為に自らの身すら擲って。
なら……俺達は何だ?ツルちゃんに気付かず、放って、一心不乱にゴールしか見てなかったオレ達は。
まるで、バカだったみたいじゃないか。
「———クロスクロウッ!!」
手が出たのは衝動。視界の隅で身構える皆の姿。分かってる、暴力なんか振るわないって。その程度の分別はちゃんと持ってるよ。
でもね。でも、ねぇ!!
「あんな……あんな無茶、二度とするなッ!!」
お前が無事じゃなきゃ意味が無いんだ。
健在なお前じゃなきゃ、勝っても意味が無いんだ。
お前の走りは、それを繰り出す脚は、身体は!オレに倒される為にあるんだ!!それを、お前……!
「変な事に、費やすなよ……!!」
救うのは勝手にしろよ。でもそれでお前が削れるなよ。やるならもっと、上手くやってくれよ。
オレのこの身勝手な願いを、受け取ってくれよ。オレの、私の、仇敵。
「————ごめん」
……分かってる。今このクロスの返答は、決して“もうしません”って意味じゃない事は。
むしろ逆。オレに対する
「そうかよ」
手を離して、笑った。返答は分かり切ってたから、傷付きはしなかった。
そうだよな。お
……それを正直に伝える、そんなお前の誠実さこそが癪に障る。
「この野郎め」
悔し紛れに引き攣った口角でそう言った。それがどう見えたのか、もしかすると笑ってるように思えたのかも知れない。
眉根に山脈をこさえて、申し訳なさそうに、クロスさんは微笑んでいたから。
腹部突き上げ法は要救助者の内臓にダメージを与える可能性があるので、やるにしても適切な手法をちゃんと勉強してからにしましょう
今回のクロのやり方は完全な正解とは呼べない物なので、鵜呑みにはしないで下さい