また君と、今度はずっと   作:スターク(元:はぎほぎ)

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だいぶ時間を空けて申し訳ナスビ。明けましておめでとうございます

【あらすじ】
サクラローレルvsナリタブライアン。桜吹雪が餓狼を取り巻く。


【第17話】餓狼!

「うわあーーーー!タイシンタイシンどうしようタイシン、ブライアンが大変だよぉ!!」

「うっさい!」

 

観客席で黒鹿毛が元気に跳ねる。それを厭い小柄な影が一喝する。

共通の親友の妹、その最後の晴れ舞台で展開された窮地に、両者ともに動揺を隠せない。

 

「でも完全に出鼻挫かれちゃったじゃん!このままじゃジリ貧だー!!!」

「……そりゃあ、アンタの言う通りなんだけどさ……!!」

 

彼女らは順に差し・追込に適性を持つ。後方からの仕掛けを要とするからこそ、ナリタブライアンが今置かれている苦境の()()()()を理解できる。

ここからどうする?彼女に何が出来る?自分なら──と思い至ったところで、制するように声が掛けられた。

 

「案ずるな。ここから自己ベストペースの追い上げさえ出来れば充分巻き返せる」

「う、うん。ハヤヒデが言うなら多分そうなんだね、うん」

「いや待ちなよ!?ただでさえ不調のブライアンにここから全盛期を超えろって!!?」

「舐めないでくれないか!」

 

噛み締めるように、堪えるように。その声音は虚勢を張る。

それを自覚した上で、信じ続けていた。

 

「あそこにいるのは──私の妹だぞ」

「「ッっ────」」

 

ビワハヤヒデは見つめる。無力感で嚙み潰した唇から、血が流れようと意にも介さず。

 

血を分けた姉妹の足掻きを。その底力が発揮される瞬間を。

 

 


 

 

───渇く。

 

 

ずっと、渇いている。

 

強者と競えば潤うと、思っていた。

 

(実際()()()()()

 

そうじゃなくなったのはいつからだ?幾ら水を注がれても足りないと、そう感じるようになったのは?

違う。注がれた分は溜まって、波々としていて──それを発露、出来ていない。

 

(吐き出せてない)

 

臆す自分が、その分の水を出せなくしていた。喉元で詰まらせ、出力を阻んでいたのだ。

自分を守る為に、保身の為に。受けた期待を流さず、堰き止めて。

 

不満はそこから。

潤うだけ潤って……渇いていく周囲を潤せない自分が、腹立たしかったのか。

 

(ローレル)

 

きっとお前がその筆頭なんだろう。

私が独占した三冠の栄光。それに焼かれたお前という樹は、私が応え続けなかったせいで枯れていったのか。

 

ごめん。

すまない。

申し訳ない。

悪かった。

許してくれ。

 

 

……。

 

 

謝罪はこれで終わりだ。

 

「──行くか」

 

一歩踏み出した。覆い被さる影の中で。

私を取り巻く影は、バ群は、尚も強く分厚く重い。それだけでは何の打開にも繋がらない程に。

それでも、確かに、一歩。

 

「もう一度」

 

また一歩。未だ影は晴れない。それでも。

今までそうしてきたように。

 

一人、差す。目の前にいたウマ娘を、渾身の力で。

既に勝負所を逸し、でもまだレースは終わっていない。最後まで諦めない。

 

また一人差す。今度はさっきより少し離されていて、だからこそ足にもっと力を込めて。

簡単な話じゃない。でもやるしか無いのなら、やれる。その思いに応えられるだけの才能が自身にあると、私は知っているから。

 

また一人。さっきよりは楽に。でもまだ終わりじゃない。先頭は、ローレルとマヤノは彼方。追い付ける気がしない。

 

苦しいほどに力の実感を得て、楽なほどにその遠さに喘ぐようだった。

 

(縮図だな)

 

まるで、燻り続けた半生そのものみたいだ。不完全燃焼から抜け出そうと積み重ねてきたこれまでのようだ。

 

それでも一歩。一人ずつ。

 

飛び石を渡っていくように、確かに一つずつ。

 

 


 

 

ブライアンさんは猫みたいなウマ娘(ひと)だった。甘え上手と甘え下手を両立して、色んな物を隠しつつもたれかかってくるような、そんな人。変なとこで臆病っていうのかな。

 

でも強くて、気高くて、キラキラしてた。だからマヤは、そんなブライアンさんの輝きを引きずり出したくて、挑むのをやめなかった。

 

だから分かるんだ。

 

(勘違いするには早いよ、ローレルさんっ!!)

 

まだブライアンさんは、()()()()って!

 

《サクラローレル上がってきた、マーベラスサンデーに並ぶ!マヤノトップガン粘るがどうかッ》

 

だからまず、もうブライアンさんを殺し切った気になってる先輩を叩く。私の事なんか忘れて勝った気分でいるなら、その頭上、マヤが悠々と飛び越しちゃうもんっ!

 

「アハハーっ☆マァーーベラァァスッ!!☆★」

「!!」

 

マベちんだってそれが分かってるからギアを上げてきた。私とローレル先輩へのプレッシャーが一段と強まり……いや分かってるのかなこれ。別の事でマーベラスしてない?マヤ分かんないや、今は自分に都合よく考えよっ。マベちんもきっと分かってる、うん!!

 

「ローレルさんだってホントはそうでしょ!?」

「何が……!!」

「私達は、一人じゃ強くなれない!!!」

 

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ひらめき☆ランディング

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共に走る仲間がいるからこそ、追いかける目標がいるからこそ、追いかけてくるライバルがいるからこそ、私達は私達でいられるの。それを一方的に切り捨てるなんておかしい、間違ってる、絶対!

 

(どんなに衰えたって、どんなに弱くたって……このターフに立つ限り…っ)

 

私達はここにいる。その事実を、否定なんかさせないから!!

 

 


 

 

マヤノの気配が強まった。阪神大賞典(いつぞや)を思い出す。

またお前は、私の先で、私を煽ってくれるんだな。

 

──知らず、また足に込める力が強まった。限界を一つ越えた。攻めあぐねていた一人を、差した。

 

その瞬間だった。今度は、()()()()押される感覚。

 

(……アマさん!)

 

 


 

 

アタシはナリタブライアンの影だった。ネガティブな意味は無く、単純に事実としてそう受け止めている。アイツの強さを一番近くで見てきたのはアタシだからだ。

同じチームで、同世代のライバルとして、ずっと。

 

(初めからアンタが強者だなんて──)

 

抱える弱さ、だって。

 

(思っちゃいないさ!!)

 

確かにハナから一線を画しちゃいなかった、けどそれだけだ。そこから積み上げてきた物をアタシは見てる、アタシは知ってる。

アンタの示した到達点が、決して手の届かない高みじゃないって事も……

 

「何が“あの頃のアンタにもう会えない”だッ。何が“魅せておくれ”だ!!」

「アマさん……!?」

 

……その高みへ、手を伸ばし続けてる事も。

レース中に叫ぶなど愚の骨頂、ただの体力の浪費。それでも、腑抜けていた自分への怒りが突き動かした。口を突いて迸った咆哮だ。

 

「魅せられるのはアンタで…

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タイマン!デッドヒート!

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魅せるのはアタシだァァァァッ!!!」

「……フッ!」

 

ブライアンは最初からここ(ターフ)にいる。アタシはただ目の前にいる奴から目を逸らしてただけだ。その事に今更気付かされた、絶望的な状況に追い込まれても諦めないその背中を見て。

 

ああそうさ、魅せられちまったんだ!だからこそ、もう、魅せられ続けてたまるかッ!!

 

《後ろからヒシアマゾン、ナリタブライアンに並ぶ!女傑が有終の美を目指すか、内から刺客も迫る!》

 

 


 

 

やはり私の隣に来るのはアマさんだ。彼女が並んできた時が一番ヒリヒリ肌を焼かれる、最も潤わされる。

そんな彼女の存在にどれ程救われてきたか。その事にどれだけ、私は報いてこれただろうか

 

「行け行け行け行けえっ」

「逃げ切れー!!」

「差せッ!!!」

「ローレル〜〜!!」

「……ッ」

 

ああ、そうだ。支えてくれたのはアマさんだけじゃない。

そうだよな。

 

 


 

 

「……そうよ。それよアマゾン、ブライアンッ……」

 

歓声の中を進む愛バ達へと贈れる言葉は無い。それが可能なフェーズはとうの昔に過ぎ、今出来る事はただ眺めて待つ事だけだ。この観客席で、彼女らのトレーナーとして。

 

今ちょうど先頭集団は最終コーナーを過ぎ去り、最後の直線に入った瞬間。ブライアン達は中団から進出を試み、仕掛け済みで速度に乗ったアマゾンの方はしっかりと勝ちの目を狙えるだろう。

 

一方でブライアンは、サクラローレルに抑え込まれた影響で今やっと加速し始めたばかり。順当に考えれば届かない、間に合わない。入賞出来るかどうか……というのがセオリー通りの見立てだ。

 

………伝説の幕引きはそれで良いのか?

 

「良い訳無いでしょう」

 

高松宮の後、何があって有マを選んだかは知らない。

ラストアンサーと何があったのか、ライスシャワーと何を話したか、私は踏み込んで聞くことはしなかった。それが元来からの私と彼女の距離感。

不調だから、スランプだからと言って、変わりはしない。

 

「進め──抱えた全てを、力に変えて!」

 

それを出来る逸材だと見抜いたからこそ、私はお前を選んだのだから!

だから私は、ここで視線を送り続けるのみだ。お前が望んだように、人事を尽くしてふんぞり返って……!

 


 

おハナさんの視線。確かに感じたそれが、ベクトルとなって手足を伝わる。私を突き動かす。

前からマヤノに引っ張られ、後ろからアマさんに押されて。前中後で、私の身体は前へと駆り出されていく。心が逸る。

この爆発はきっと、ローレルが抑え付けてくれたからこその反動か。

 

「……今───」

 

───行く。

待っていろ、お前達。

 

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Shadow Break

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《……!ブライアンここで進出!!手応えが良い、良いぞ!?》

 

錆びついていた筈だった。そうに決まってると、それだけ長い間久方ぶりの領域(ゾーン)だった。

にも関わらず、この力強さは何だ?

私の体を通して出る奔流、その根源は何だ?

 

《今度こそ怪物が蘇る!信じられない加速で差し、差し、先頭争いに躍り出た!マヤノトップガンとマーベラスサンデーなおも粘る、サクラローレルはどうか!?》

「ブライアァァァン!!」

「今度こそ勝て!勝てぇ!!」

「負けないでェェェッ!!」

 

(……私に向けられてるのか?この声は)

 

今知った。近くで競ってきた相手だけでなく、遠くからの呼び声すら自身を潤していた事なんて。

 

これ以上注がれたら、私は。

 

…クソッ───!!

 

「ぅぉぉぉおおおおおおおおッ!!!」

 

とうとう水が(あふ)れた。もう止まらない。止める気も無い!

前へ………

 

「勝つのは私だァァァァッ!!」

 

ただ……前へ!!

 

 


 

(……今更)

 

()()()()で、このレースを制したのはサクラローレルだった。

復活せんと奮起したブライアンを封じ、脱されてもなお突き放し、食らいつかれても振り切った。かねての望み通り、世代に輝いた星をその手で終わらせ、有終の美を飾った。

 

(今更…ッ)

 

彼も嬉しかったのだ。その日ブライアンが放った光は全盛期にも劣らず、ローレルの心に(しか)と突き立った。他のライバルたちがそれに当てられたように、ローレルもまた少なからず──過少表現はよそう。彼こそ、この有馬記念において最も喜びを抱いた馬だったのだ。

そしてそれは“彼女”、つまりウマ娘として生まれた今世でも変わりはない───

 

「今さっらァァァァ!!!」

 

───にも、関わらず。

それが前面に出ないのは偏に。

 

「…ッ」

「ローレルさんっ?!」

「もう遅いんだよ、ブライアンちゃんッ!!」

 

それ以上の()()故に他ならないだろう。

 

何故そのままでいてくれなかった。

輝けるのならどうして翳った。

 

(嬉しいのに)

 

祝福したいというのに。

 

(喜びたいのにッ!!)

 

……ならば。

これまでの鬱屈は何だったというのか。

それに陥った自分は、道化か?

 

背反する怒りと喜びが心を分かつ。このまま終わりにだけは出来ないという思念だけが一致し、その五体を突き動かしていた。

 

ブライアンはどう応えたか。

 

「ロォォレルゥゥゥゥッ!!!」

 

咆哮。追撃。

裂帛の気合を込めた末脚で、とうとう抜け出したバ群。二頭の競り合い、前世で制したのは先述の通りローレルの方だ。

 

が。

今世では、今回では。()()()()()なのか。

 

《ブライアン迫る!どんどん伸びていく、サクラローレル捉えたかっ!!》

「あ…ぁあっ……」

 

勝るはブライアンの加速。

詰める、並ぶ。自身の全盛期ごと追い越すように、声援に背を押されているかのように。これまでの半生、その全てを喰らわんとする怪物を、止められる者など此処にいないとばかりに。

 

「ッ!!!」

「っく……!」

 

交錯する視線は一瞬。吹き荒れる桜吹雪を、金の瞳が射貫く。

 

《残り200m!!》

(やだッ!!)

 

終幕へのカウントダウンを皮切りに、ローレルの中で何かの歯止めが吹き飛んだ。

それは一般的に躊躇と呼ばれる物。ただし意識的な物ではない、肉体が自身を守る為に課している“リミッター”と言った方が近い。いずれにせよ、()()()()()という表現であれば理解に容易いだろうか?

 

「終わりたくない!!」

 

つまり今、サクラローレルは限界を超えた。

その走りが何を齎すのか、吟味もしないまま。

 

「終わらせるもんかぁァァァっ!!!」

 

それは自分が先頭であるこの時間か、待ち侘び切ったブライアンとの至福の時か。どちらであるかは当人にも分からず、そして“ブライアンを終わらせる”と誓っていたこれまでの自分と矛盾している事にも気付く余裕は無い。

桜吹雪が吹き荒れる。その花弁を散らして、燃え盛るように。

散れば散る程にその枚数を減らすのも必然で。

 

「……あっ!!」

 

観客席のエルコンドルパサーが、何かに気付きかけた刹那、その瞬間は訪れた。

 

SakuraLaurel SakuraLaurel SakuraLaurel SakuraLaurel SakuraLaurel SakuraLaurel SakuraLaurel SakuraLaurel SakuraLaurel SakuraLaurel

SakuraLaurel SakuraLaurel SakuraLaurel SakuraLaurel SakuraLaurel SakuraLaurel SakuraLaurel SakuraLaurel SakuraLaurel SakuraLaurel

花開き、世k

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Cancel Connection

          Lv.0

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そしてその瞬間に無に帰した。

途端に空回りする力み。ローレルは意味が分からないまま、唯一返って来た僅かな反動により気勢が揺らぐ。明確な隙として顕れたそれを、しかし近しい限界状態にあるブライアンは見逃しかけた。

だが、観察眼に長けた()()ならば。

 

「今だ!差し切れぇっ!!」

 

それを見逃す筈が無い。

その声をブライアンが聞き逃す筈が無い。

前世ではついぞ会えなかった、けれどずっと共に在る、血を分けた声援を。

 

「姉さんッ!!」

 

NaritaBrian NaritaBrian NaritaBrian NaritaBrian NaritaBrian NaritaBrian NaritaBrian NaritaBrian NaritaBrian NaritaBrian

NaritaBrian NaritaBrian NaritaBrian NaritaBrian NaritaBrian NaritaBrian NaritaBrian NaritaBrian NaritaBrian NaritaBrian

灰色の臨界点

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そして、灰が桜を焦がし尽くした。

 

 

《復活!怪物復活、ナリタブライアン此処に復活ゥゥゥ!!!!》

 

 

燃え足りぬと叫んだ灰が、中山のゴール板で炎を上げた。

 

 

記念【G1】 2016/12/22
着順馬番馬名タイム着差
ナリタブライアン2:33.7 
サクラローレル2:34.03.1/2
12 マーベラスサンデー2:34.21
マイネルブリッジ2:34.34
ヒシアマゾン2:34.93




オルフェの発表とドリジャの実装にはおったまげましたよ
んでもってikzeのお手馬はロングブーツで統一してるという情報も聞きましたので、そこんとこのデザインも再調整しないとっすね


……と、書き留めてたのがもう3/4年前。
いい加減頑張ろうと、そう決めたスタークでした。次は明後日昼頃に更新予定です。
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