また君と、今度はずっと   作:スターク(元:はぎほぎ)

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【第18話】点火!

「すごい!凄いよブライアンさん!」

「全く、アンタって奴は……ッ!」

「マーベラス!全然予想できなかったなぁ~☆」

 

「………」

 

何が駄目だったんだろう。大騒ぎに包まれるターフで一人、ペタンと座って考えていた。

何かが足りてなかった……というか、何か()()()()を仕掛けたような。微かに痛む足がそれを証明していて、私が過ちを犯しかけていたという確信に至っている。

 

でも果たして、それを犯していなければ勝てただろうか?

 

むしろ半端にやめるのではなく、一貫して踏み込んでいれば?

 

というかそもそも、やめたというより()()()()()()()感じが………

 

(…ううん。今すべきはそれじゃない)

 

顔を上げて、皆に祝福されるブライアンちゃんを視界に入れた。自然と体が強張って、それでも無理くり立ち上がる。

二歩、三歩と足を進めて…そこで彼女がこっちを見た。

見て、くれた。

 

「ローレル、アンタ……」

「アマさん。少し良いか」

 

一瞬の警戒と、次いで足元を見ての憂慮。そんなヒシアマちゃんを下がらせて歩み寄ってくる。

ありがたい。この状況から憐れまれるなんてもう御免だ。

そうして一歩、また一歩と互いに距離を縮めて───

 

「「……」」

 

───息が交じり合うぐらいの距離になってから、私は口に出す言葉を決めてない自分に気付いた。周囲2mだけ、沈黙が歓声を押し退けた。

あれ、どうしよう。私はブライアンちゃんに何か言いたくてここまで来たんだよね。でも肝心の内容は?

 

感謝?確かに戻ってきてくれたのは嬉しい、今日のブライアンちゃんは確かに私の憧れたあの日のブライアンちゃんだったから。走りを以てその証明をしてくれて、どんなに嬉しかったか……でも、それを伝えるにはあまりにも複雑な感情がここにある。

 

怨恨?悪感情が無いとは言えない。ブライアンちゃんが燻った所為で、私は空回りして迷走して、醜態を晒す羽目になった。

勿論完全な自業自得だ、その事を自覚できてるし今はもう流石に吞み込めてる。けどその悪性が裡に眠っている事実を、今更否定したってしょうがない。

……それでも、今言いたいことはそんな憎まれ口じゃない。喉元で滾るこの熱はそんな汚い物じゃない。

 

謝罪?一番可能性が高いかな、だって私は酷い事を言い続けてきちゃったから。勝手に失望して勝手に見下して、これが不義理でなくてなんと言うのだろう。

うん、謝ろう。誠心誠意謝罪しよう。許されるかどうかは置いといて、それがサクラローレルがまず最初にするべき義務だ。

 

「ローレル」

 

葛藤の末にようやく開いた口は、けれどブライアンちゃんに先んじられた。

 

「泣くな」

 

(……え?)

 

言われて、目元に当てて、熱く零れる感覚で初めて知った。

 

()()が台無しだろ」

 

「え…へ……?!」

 

次いで口元を手で覆い、上がっていた口角を初めて知った。

ああ、なんだ。そういう事だったんだ。

 

今私が言いたいのは、ブライアンちゃんに伝えたいのは──!

 

「あははははっ!ブライアンちゃんっ」

「なんだ」

()()()()()……っ!!」

 

嬉しさ、悔しさ、それを包括した“敬意”。それで私は、ブライアンちゃんを包み込んであげたかったんだ。それだけの事だったんだ!

その思いのままに抱き着いて抱き締めて、力の限りに伝えた。

もうそれに応えてくれない、燻っていたブライアンちゃんはいない。目の前にいるのは、燃え滾るシャドーロールの怪物だ。

 

「ああ。ありがとう、ローレル………!」

 

ギュウと包み返してくれる力強さ。満たされ、その上でもっと欲しい。

 

きっと私はこれからも、ずっと、ブライアンちゃんの熱に飢えながら生きていくんだろうな。

 

 


 

 

「あ。言い忘れていたが、トゥインクルシリーズはこのレースで引退する」

「この流れで勝ち逃げ宣言するの!?」

「そうだよズルいよブライアンさーんッ!ヒシアマさんローレルさん、三人で引退会見にジェットストリームアタックを仕掛けるよ!!」

「……と、このままだとアタシはともかく他二人は殴り込みしかねないワケだg「マーベラスもそれは聞き逃せないな~☆」ぅゎ増えた。ともかく、いつぞやみたいに大人しく終わるつもりじゃないんだろ?」

「よく分かってるじゃないか、アマさん」

 

さぁウイニングラン、とする前に一言。それで三人ほど勘違いさせてしまったようで流石に申し訳なくなった。

安心しろ、これ以上“逃げ”はしないさ。お前達からも、自分からも。

 

D(ドリーム)T(トロフィー)の方に移籍するんだ。トゥインクルシリーズだと自分のペースで調整しにくいからな」

「……なるほど。勝負勘は今回大丈夫だと示せたから、後は戻り切ったとは言えない体の調子を長いスパンで取り戻すって腹積りなんだね」

 

ローレルの推測に肯定で応じる。今回の勝利は色々な偶然が奇跡的に嚙み合った産物に過ぎず、だが全盛期の私ならもっと上手く立ち回れていた筈だ。この場の強者を軽んじるつもりは無いが、私の本来の強さは私自身が良く知っている。

それを取り戻す、いや()()()()()場としては……D(ドリーム)T(トロフィー)R(リーグ)の方が合ってるだろう。

 

そう。今度は私が待つ手番という事だ。

 

「私は今度こそ最強であり続けてみせる。だから、お前達は…」

「追いかけて来い、って事?上等だよッ!!」

 

お前なら発奮してくれると思ったよ、マヤノ。その小柄な体からにじみ出る闘志で、後押しされた気分になる。

そうだ、今度こそ渇くのも、渇かせるのも御免なんだ。私は全力で往く、だからお前達も全力で来い!

 

「正直な話、アタシはもうアンタ以外眼中に無いんだ。トゥインクルシリーズに未練もないし、このままDT直行で追いかけさせてもらうよッ!」

「良いのかアマさん、もっと実績積んでからでも誰も文句言わんぞ」

「舐めんな!名声なんかどうでもいい、誰よりアンタを見続けてきたのはアタシだってことを忘れて貰っちゃ困るのさ!」

「マヤもマヤも!……と言いたいとこだけど、まだ決着つけ損ねた相手いるから。ね、マベちん!」

「うんうん☆ちゃんと自分のレースを走り切らないと、ねっローレル☆☆」

「……そうだね。私も()()()思いついたし」

 

それぞれの道筋も定まったようで、いよいよ私は背を向ける。別れの挨拶など要らない、どうせ彼女たちはすぐ追い付いてくるだろうから。

 

……と、背中に衝撃。

 

「……アタシらとの再戦より、まずは()()()()()()だ。とっとと済ませてきな」

「アマさん……!」

「その為のウイニングランだろ?そぅら───!」

 

 

行ってきな、と押し出される背中。その勢いに任せて芝を蹴る。

 

更に湧き上がる歓声、流れて行く風、迎えてくる熱気交じりのターフの匂い。全ての恐れを押し流し、(わずら)いからの解放をこの身に促した。

長年の相棒だった絆創膏(シャドーロール)を、高揚に任せて捨て去れば。目に映る世界が広がった気がして。

 

その視界の中、観客席に見つけた。本当に長かった、待たせてしまった。

だがやっと……追い付いたぞ。

 

「……来い、ブライアン!!」

「姉貴、勝負だッ!!!」

 

\\\ブライアン!ブライアン!!ブライアンッ!!!///

《場内、コールが鳴りやみません!いや鳴りやむ必要がありません、どうか執着から解き放たれた怪物へ万雷の喝采を──!!》

 

「やったよお姉さま…私、やったよ……」

 


 

 

 

スペシャルウィークは言葉を忘れていた。

グラスワンダーも言葉を失っていた。

キングヘイローは言葉も無く口を覆っていた。

エルコンドルパサーは言葉に出来ない激情に駆られていた。

 

「ローレル先輩……ナリタブライアン……!!」

 

行末健一も呆気に取られ、フレアカルマも声を出さない。それだけ圧倒的な一幕で、どれだけ圧巻の攻防だったから。幼いウマ娘達もそれを感じ取ったのか、興奮冷めやらぬままターフを見つめている。

そんな中、最初に口を開いたのは。

 

「なんで、ああもう…!!」

 

セイウンスカイ。

彼女(かれ)が抱いた感情の名は、()()

 

「おめでとうだよ、ローレル先輩ッ──!!!」

 

妬ましい。羨ましくて仕方が無い!

 

何故なら彼女の同室にしてある意味の同志であるローレルが、その無念から解放される瞬間を見てしまったのだ。叶わない筈の、敗れた筈の夢を叶えてしまうその時を目撃してしまったから。

 

目の前で()()()した友人を心から素直に称えられるほど、彼女の性根は真っ直ぐには出来ていない。成熟を経た馬の頃ならまだしも、今はもう10代の若き乙女なのだから尚更───おめでとうと言えただけ上等ですらある。

そんな状態で5文字の祝福を絞り出してから、感極まったようにスカイは俯いた。決して目頭から熱い物が溢れそうになったのを隠したからではない。

 

(……良いなぁ)

 

幾秒ほどそうしていただろうか。

 

(オレも、いつか………ッ!!)

 

羨望は燃料となり、熱意へ着火。燃えたぎる炎となって瞳に宿り、隣に控える標的へと向けられる。

展望は定まった。ローレルとブライアンのように、オレもクロスさん相手にいつか、きっと───!!!

 

「───あれ?」

 

と、熱い念を込めたスカイのギラつく視線は空振った。

辛うじて捉えたのは、微かに靡く後ろ髪だけ。

 

「……クロさん?」

「どこ行くの、クロちゃん」

「…わりぃ。スペ、グラス」

 

一拍遅れて、何故かその場を立ち去ろうとするクロスに気付いたグラス。続いてスペも呼び止めるが、彼女の応答は要領を得ないまま。

 

()()できそうもねぇや──」

 

その歩みを、歓声に沸く人混みの中へ向けた。

一同が事態を理解したのは一拍遅れての事だった。

 

「ちょ──おーい!?何してるんすかクロー!!」

「待っ…うわっ人の壁ッ」

「どこ行く気なのよー?!」

「あ〜…こうなったクロ姉は止まんないねー」

 

止めようにも此方は子連れ、ただでさえ身動きが取りにくい状態だ。そしてそれを差し引いても、まるで岩礫をすり抜けていく流水のようにクロスは止まらない。

模擬選抜レースでも見せたバ群突破能力をこれでもかと発揮して、彼女の姿は完全に観客達の中へ消えてしまったのだった。

 

 

 

「ハッ!」

「どうしたのイキゾイ!じゃなくて行末トレーナー!!」

「ふと閃いたっす!今のクロの動きはレースに活かせるかも」

「子供達、行末さんをオモチャにしといて」

「いいの!?」

「ヤッター!」

バ




次回、ブライアン編最終回
明後日昼頃に更新予定
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