それさえ無理そうだったら月曜昼までに活動報告に書きます
【第20話】暴走!
「うぉァらァァァァァッ!!!」
前方から爆走してくる土煙。その進路の邪魔にならないよう、そっと脇に避ける。
「精が出るねぇ」
応援してみると帰ってきた声は聞き覚えのあるもの。おお、成程お前か。すんごいやる気だなぁ。
なんて思ってる間に通り過ぎたクロスクロウは、俺をその後塵に呑み込んで行ってしまった。おわっ、鼻に砂が!はァぁっくしゅ!!
「く、ろ、ぉ……うげぇ」
「健一君じゃないか。大丈夫か?」
「西崎さん……ちょっと…休憩を……」
「ほれ水」
「ども………」
その後ろから見るからによれよれの状態で追い縋り、しかしパタリと倒れてしまった後輩の姿。担当ウマ娘の疾走に生身で追従しようだなんて無茶に決まってるだろうに。
しかし…
「へ?」
「何すっとぼけてるんだ。ちゃんと彼女を“競争ウマ娘”に仕立て上げたんだろ?」
以前、俺はクロスクロウを“勝利を途中で投げ出す程度のエゴ”と評した。けど今の彼女はどうだ、凄まじい程の執念で勝利を、その為の実力アップを目指してる。この短期間でこれほどの意識改革を施すだなんて、さすが我が弟弟子と褒めてやりたいところだぜ!!
「1年目でこれとは見上げたモンだ!
「俺はまだ何もしてやれてないっすよ」
「謙遜しちゃって~……っつーワケでもなさそうだな、その様子だと」
がしかし、後輩が真剣な面持ちのままでいるのを目の当たりにすれな茶化してはいられない。踏み込んで聞いてみるに、どうにも。
「西崎さんとハナ先輩が指摘した点は全く変わってないっす。クロの情熱は今確かに走りに向いてくれてますが、その気になれば一瞬でベクトルを変更するでしょう。一般のウマ娘、というか一般人の思考を“慣性移動する戦闘機”に例えるなら、クロの挙動はジグザグ軌道を描くUFOのそれっすね」
「うおっ、それは操縦者が死ねる……」
「だからこそ
息も絶え絶えになりながらそう言える君も大概だよ、という言葉を飲み込みながら共に彼方の土煙を見遣る。依然君は、彼女を止める気は無いようだな。
「もっと……追い付いていかないと……!」
「おう。倒れないよう気を付けてな」
運命を共にする。かつて宣言したその言葉のままに彼はクロスクロウと走り続けるのだろう。その道が報われるまでずっと。
先輩としては止めるべきか応援すべきか……俺は一瞬の逡巡の末、後者を選択したのだった。
「ところで健一君。今の時間帯ってさ」
「はい。本来授業中っすね」
「……これも全肯定しちゃう感じ?」
「いえ流石に思う所があるので……出なくて大丈夫?と聞くためにも追いかけてる状況っす」
「そうだったっかぁ」
「んじゃ行ってきまーす」
応援して良かったのかなぁ?不安になって来たぞ俺。
「シービーの奴を思い出すよ……」
「過去の女に未練タラタラじゃ良い男とは呼べねーぞっ」
「ぅゎゴルシお前も脱走しギャッ」
「……あれは」
「会長、どうし…む、クロスクロウですか!」
とっくの昔に教育課程を終えた身としては、日中はもっぱら講義ではなく生徒会室で執務に当たるのが私の常。この学園での生活をより良いものとする為、そして外の世界を変えていく足掛かりを得る為、余念なく書類と向き合っていく。
その最中、窓から見えた土煙が目に留まった。土手を突き抜けていくそれに無性に惹かれ、そしてエアグルーヴが言い当てたその正体に納得を得た。
「粉骨砕身、精が出るな……と言いたいところだが、彼女のクラスは今数学の授業中では?」
「完全にすっぽかしていますね。実は一昨日にも似た事例を起こし、厳重注意したのですが……」
「再犯か」
「そうなります。申し訳ありません、もっと言っておくべきでした」
「君が責任を感じる事ではないよ。しかし……」
クロスクロウ。シリウスが目を付けている編入生。そして巷で噂される黄金世代、その中でも秀でたスペシャルウィーク率いる幕府の牙城を揺るがし得る逸材。
かの大企業“宮崎コーポレーション”の令嬢でもある──にしては些か粗野なところも目立つが、それもまた不思議と愛嬌として受け入れられる不思議なウマ娘だ。
そして何より…あの走りは。個人的に目を見張るものがある。
「そうか。クロスクロウは
「会長?」
「いやなに、可愛いじゃないか。ウマ娘たるもの疾走が本領、それに忠実な姿は感孚風動だ。応援してあげたいものだね」
「しかしウマ娘であると同時に学生です。彼女は編入したばかり、勉学をこなせているとはとても……」
「ああ。分かっている」
リギルの選抜レース以来、私は彼女と接点を持てていない。シリウスの牽制が予想以上に分厚く、慎重を期す他ない状況だった。
……が、しかし。クロスクロウ自身に“隙”があるというのなら?
「目に余るのならば、私が
「いえ、会長の手を煩わせる事では……」
「授業参加は、学生の義務というだけではなく周囲の同調圧力もまた後押ししている物だ。それさえ跳ね除けてこの所業ともなれば、単純な話し合いで和解できるような覚悟ではないのだろう」
建前が出来た。これで一つ、彼女に近づける。
“門”に、一歩。
「は、はぁ」
「さて。どのような心持ちなんだろうね、クロスクロウは」
嗚呼。その日が楽しみだ。
叱られました。まぁ必然の結果でした。
「たづなさん……すげぇ。感動するぐらいクソ速いし」
「やっぱ帽子にウマ耳隠してるんじゃないすか?忌憚の無い意見ってヤツっす」
「そこの詮索は暗黙のルールで禁止と聞いてるけど」
「トレセン学園はルール無用だろ」
有難い*1お説教を正座で聞くこと1時間。反省文の言いつけと共に解放された俺達は、這う這うの体で廊下を歩いていた。
というか、なんで行末まで付き合ったの?やらかしてないお前まで付き合う義理は無いと思うんだけど……
「俺の栄光はお前の物。お前のやらかしは俺の物。これ、トレーナー足る者の規範っすよ」
「とすると、俺は
いや、申し訳も無い上に尊敬しか無い。自分の事だけで精一杯過ぎて、他人の過失まで背負うとか俺には無理だよ。
「すげぇなぁ」
「……俺だって、お前じゃなきゃこんなに頑張れたかどうか」
「いーや、助けられた俺が保証するね。お前は他人の為に頑張れるすげぇ奴だ」
そう伝えると、行末はキョトンとしてから急に笑い出した。な、何だってんだ!俺変な事言ったか?!
「いやだって!それを言ったら
「い、意味分かんねぇ……多分俺を買い被ってる事だけは分かったけど」
「あー笑った笑った。兎にも角にも、クロはもっと自分に自信持つべきっすよ?それが無理だって言うなら、クロが信じた俺を、そして俺が信じたクロを信じて欲しい。それもダメっすか?」
……う~ん。
行末の言葉は暖かく心強い。素直に聞き入れれば、俺自身の精神の飛躍にも繋がる予感がある。そんな気がする。
ただ…なぁ。自分を信じるってのが、生まれてこのかた
言い訳か?言い訳だな、とセルフ論破。でもしっくりこない物は仕方が無い。
「善処してみるよ」
「ま、それならそれで俺はお前の道を応援し続けるだけっす。安心して突き進んでくれ」
「頼まれずとも」
コイツのこのやさしさに甘えて、こつんと拳をぶつけ合った。ああ、確かに俺と行末の相性は抜群なのかも知れない。この心地よさにそう思う。
と、その時の事。
「───クロス。ツラ貸せ」
前方より来訪者。正体は、世界がひっくり返ったって俺の頭が上がらない先輩だ。
「シリウス先輩!すぐ行きますっ」
「良い子だ。じゃ、ついて来な」
「はいっ!!」
「あのー俺は」
「お呼びじゃねぇ、すっこんでろ」
「……行末、スマン」
「オッケーっすよ。じゃ、また放課後な」
妙にピリついた雰囲気の先輩に促され、行末から離脱し追従。彼女のテリトリーへと進んでいく。
あっ、先輩の取り巻きの方々だ。おっす俺クロスクロウです、ちょっと失礼してます。あっ睨まないでください死んでしまいますので。
「シリウスさん、そいつは?」
「皇帝サマのお気に入りだ。丁度いい、お前もついてこい」
「なるほど、人質にして学園奪取に踏み切るんですねとうとう!!」
「誰がんな事するか阿呆」
「すみませんが火種になる気は無いので、ちょっとそこの窓から飛び降りますね……」
「お前も真に受けるな莫迦」
普通に怖くて草。草じゃないが。
いやシリウス先輩にその気が無いっぽいのは分かったからまぁ良いんだけど、しかしここの人達の現体制への敵意っぽいのが中々凄い。皇帝サマ──恐らくルドルフ先輩のこと──が話題に出た瞬間、他の同年代の方々の雰囲気が一気に張り詰めた事からそれが分かった。うぅん、そんなひどい施策してたっけなあのヒト……?
「そう難しく考えんな。私が敵視してるから、此奴らもそれに相乗りしてるだけだよ」
「思考読めるんすね先輩」
「顔に書いてt「アタシ達は本気ですよシリウスさん!トレセンの頂点はアンタこそ相応しいって皆思ってm「やかましい!
一喝、すると一気に鎮まる一帯。俺も同じく、その覇気に気圧されてしまった。
ダービーウマ娘、かぁ。すげぇなぁ。ブライアン先輩も三冠だからダービー獲ってたよな。
俺もいつか、あんな風になれるかなぁ……
「着いたぞ」
「あっ、はい」
想いを馳せてる間に、辿り着いたのは空き教室。先輩が二、三度ノックすれば、おずおずとドアが開かれる。
見えた顔は、推定年下。暗雲垂れ込めた表情の中等部1年生だった。
それが彼女の後ろに1,2,34……5人?
「分かんのか?」
「やだなぁ、当てずっぽうの勘ですよ」
「当たってるんだが」
「……たまたまです。偶然です。多分、きっと、Maybe」
「へぇ?」
どうやら勉強会か何かしてたようで、応対に出てきた一人以外は皆一つの机を中心に向かい合ってる構図。でもライトに照らされてるのはその机くらいなもので、他は真っ暗。まっくろくろすけがそこら中に敷き詰められてんじゃねぇかってぐらい真っ暗。
近眼になっても知らねぇぞ……ごめん知らん顔はやっぱ無理だわ。心残りになるから明るくして。
「あの……シリウスさん、そちらの方は?」
と、考えを巡らせるのに夢中で挨拶をしてない事にようやく気付いた。そうだよ挨拶は大事だ、古事記に倣って丁寧に───
「お前らの面倒を見る奴だ。仲良くしろよ」
「えっ」
「あ?」
へ?????
「………いやいやいやいや!待って下さい初耳も良いとこですが!?」
「今言ったからな」
「いや無茶ぶりでしょ!!編入生ですよ俺?!学園所属歴で言えば彼女たちの方が長いくらいなんですがっ!」
「学園外で養護施設のガキどもと戯れてたろうが。似たようにやれば良いだろ、そうらッ!」
あれよあれよという間に押し込まれ、扉を閉められてしまった。沈黙と困惑に見舞われ、場が暫し澱む。
えー……どうしろって言うんですか、マジで。
「…あの」
「ああごめん。ええと、
とりあえず、シリウス先輩が俺に期待したことがコレだってんなら、まぁやるしか無い。選択肢は残されてないし、喜んで立ち向かうのが俺の義務って奴だろう。
何より、彼女たちの陰鬱っぷりは見てられない。視界に入らなかったならそこまでだったけど、一度でも目にした以上は何かしなきゃ夜も眠れなくなっちまう。
……っつーワケで、だ。
「何やってんの?俺も混ぜてくれよ」
朱に交わって、赤く染まるとしますかね。
クロスの動きが活発になった。
それ自体は良いが、問題はルドルフの手が届き易くなったって所だ。今まではなんとか遠回しに遠ざけてきたが、これ以上目立ち始めると何を取っ掛かりにして絡まれるか分からない。だからその前に手を打った。
私の群れに取り込んで囲い込む事で、表の存在であるルドルフの手から隔離する。これはクロスの件で元から計画していた事で、ただ時期を早めただけに過ぎない。
本当の目的は、クロスの奴に“
(入学早々に落ちこぼれて、私の所に転がり込んできた中等部初年度の一団。アイツが“頼られる”にはお誂え向きだ)
養護施設の子供達と同じくほぼ年下で、しかしまだ曖昧な夢しか持たない彼女たちと違い明確に未来を求める者達だ。ならば必然、クロスも彼女らを“守る”だけでなく“導く”──即ち、先述の通りリーダーとしての才を磨く必要に駆られるだろう。
もちろん要所要所で補助はするつもりだ。クロスもその配下となった下級生達も潰れさせるつもりは無い、だが易々と頼られて貰っては困る。ここからの舵取りが肝心だなと、私もまた気を引き締めた。
───ここで、想定していた
「う~~~ん……」
「……?」
ふと立ち寄ったコピー機前、稼働するそれと対峙し
(スペシャルウィークか)
彼女、および彼女率いる“幕府”はかなり厄介だ。四六時中かなりの確率でクロスの側に就き、周囲に目を光らせているから迂闊に近付けない。今日クロスの勧誘に成功したのは、どういう訳か
そしてそれを差し引いても、単純に強い。
カリスマも。実力も。
(技術も求心力も既に私に近いレベルだ。あと一年もして肉体練度が高まったとすれば……正直考えたくないな)
走れば圧倒、話せば掌握、そんな彼女がいったい何を印刷しているのか。その何に悩んでいるのか。
無性に気になり、不躾を承知で後ろから覗き込もうとした、がしかし。
「うわっ!?……
「ああ悪いな。何かあったか?」
「いえいえ。コピー機に並んでたんですか?」
「まぁそんなとこだ」
なんだ、ときたか。この私が後ろに立ってたのに微塵も臆していない、見上げた豪胆だよ。
しかし……ふむ?
「じゃあ私の分は終わったので。次どうぞ」
それっきり、そそくさと立ち去ってしまう。それを会釈で送りながら私は思いを馳せた。
あの紙……PC画面の印刷か?
(インターネットに入り浸るようなタチには見えなかったんだがな……)
はて。
「うぅ〜。皆の資料を作ったは良いものの、理解を得られる自信がしねぇべ……」
【実績を解放しました!】
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次回は2/7(金)の17:20頃です