乗るしか無いこのビッグウェーブに(乗る方法があるとは言ってない)
【追記】
間違って投稿予約を明日にしてました!待たせてしまいすみません
「冷えるな」
「ですね」
息が白く澱む早朝。白み始めた空へ昇っていく煙に、昔はこれが雲になるんだとか思ってたなぁ、と笑う。
「こうも寒いと流石に防寒必須だ。風が無いのが救いだけど」
「あら、脱がないんですか?」
「言わんでくれ。あの時はマジで頭
いつぞやの脱衣事件を論い、隣でグラスが笑った。二人、吐く息が宙に交じり合っていく。
栗東寮と美浦寮のちょうど中間位置にある高台。そこで待ち合わせた俺達は、夜の帳から解放されていく街並みを見ていた。静かに、年初めの朝焼けが大地を包んでいく。
「……綺麗」
お前が言うか?なんて口説き文句は言わない。センス無いしキモイし、何よりそんなことはもう言うまでも無い当たり前の事実だったからだ。
蒼を纏う。その一文にあらゆる意味を込めて語る以外ない、着物姿でグラスは現れた。紺の空を逆に呑み込むぐらい鮮やかでありながら、それを静謐に押し込める佇まいで。その中で、白い肌が薄っすら光さえ浴びてるみたい。
勿論めっちゃ見惚れさせられたわ、気合い入れ過ぎだろ。こっちは手持ちの服ほぼ無いから普段着にコート羽織って来ちまったんだぞドドドドどーすんの*1。
そんなグラスの瞳を、世界が照らす。白く染まってゆく世界に、彼女は瞼を瞬かせて続けた。
「クロさんみたいですね」
「どこが?」
「芦毛は銀に染まっていくんでしょう?あの光を放つ空も同じで、更にいずれは真紅の珠が現れるんです。白銀の中に赤目、それってもう、未来の貴方じゃないですか」
「……朝焼けに例えられたのは初めてだよ」
白に赤丸って、俺以前に日本国旗じゃね?と思いながらも感慨に耽る。俺は俺の事を、どっちかというと夕焼けみたいに思ってたから。
沈むまでのリミットを課せられた余裕の無い赤、それを自覚出来てたつもり。肌寒くなるその時間帯は昔から苦手で、でも逆に“間に合うよう熱く燃え盛れる”という風に解釈を改めたのがついこの前。有馬記念のあの日、スペを勧誘したあの土手での事だ。
それに比べて、朝焼けか。
これから消える運命の夕陽と比べたら……なんだか縁起良くて、嬉しいな。
「と、するとだ」
「?」
これから輝く日の出に
周囲を見回すまでも無ぇや。
「夜。と、月。だな」
「何がですか?」
「何って、グラスの事だよ。着物の青がまるで夜空みたいで、んで月みたいに輝いて見えたんだ」
この空の深い紺色を呑み込むような蒼の着物、って最初に言い出したのは俺じゃんか。その中でしっかり存在を主張するグラス自身は月。星のように瞬くでもなく、太陽みたいに灼くでもなく、静かにそこにある月なんだ。
……三日月か満月かは時と場合による。レース中の鋭さは三日月のそれ。多分。
「な、なーんてな!あー恥ずい、脳内ポエムまみr「ふふっ」ぅぉ」
また悪癖が出た、と思った瞬間の微笑。だからやめてくれって急に、そんな女神の顔されたら勘違いしちまうだろうが。思春期中学生の自意識過剰っぷりを無礼るなよ。
そんな俺の内心なんて知らないまま、グラスは喜色を露に両手を広げ空を仰いだ。微笑みから、快哉へ。
「あ、はっ!じゃあこの
「!?」
「赤白がクロ、黒青がボク!!凄い、そう思えた瞬間に違って見える!
「ちょ、
手を取られるやいなや、引っ張られるままに
視界には廻る世界、それを背景に彼女。俺達二人だけ、それ以外の森羅万象から独立したみたいに。
その愉しさから脱する気も起きないまま、着物姿のグラスとコートの俺で、暫くの公転軌道は続いたのだった。
───やがてそれも、終わる。
「…あっ!」
「お!」
回る視界、その中でとうとう光が地平線から顔を出したからだ。流石に回り続けてはいられないので、お互いの袖を掴み合って静止。着物の肩を崩さないよう、俺の方は出来る限り手加減するのを忘れなく。
たたらを踏むこと数歩、ようやく落ち着いて認めた日の出。それもただの日の出じゃない。今年初の日の出……初日の出だ。
じゃ。せーっの!
「あけましておめでとう、グラス!!」
「今年もよろしくお願いします、クロ!!」
新年は、これ言わなきゃ始まんないもんな!
( や ら か し た )
数刻前の自分のはしたなさを思い返す度、その場で蹲りたくなる衝動に駆られました。普通に叫びたいぐらいですが、そうもいきません。だって日中の往来ですもの。
それも、厳かな神社です。日本の宝です。神様の前です。そして、クロの隣です。
これ以上の不躾は無理です。
「うわ何だコレ。ラーメンバーガー?はぇーそんな物がこの世に」
改めてグラスワンダー、ここから先は大和撫子。憧れたその姿を体現しましょう。いくら嬉しかろうが、先刻の愚かで無様な自分とはおさらば。もう“ボク”だなんて一人称は漏らしません。
平常心平常心、私の心に平常心。クロと一緒でいくら嬉しくても、心にいつも平常心。
「おお、こりゃ新鮮!大将もういっちょ」
いくら浮かれようとも、興奮に値する光景を目にしたとしても、静謐に淑やかに。食べ物なんかに現を抜かさず凛を忘れず、さすれば異国生まれでも大和魂を宿せると信じて───
「グラス〜、一緒に食おうぜ!」
「い°た°だ°ま°す°っ°……!°」
「なんかあった?」
「自分との戦いですッ」
───脳内天使&理性vs悪魔、初戦から悪魔圧勝。クロさんの誘いには敵いませんでしたよ……そう嘆きながら共に
奇跡が重なって取り付けた初詣デートですが、まさか合流直後の初手からあんな口説き文句を叩き付けられるとは思わず、私は一気に有頂天になってしまったようです。我ながら非常に情けないですが、興奮してしまったものは仕方ありません。大和撫子からは程遠い姿勢ですが、開き直っていくとしましょう。
そんな私達は現在、大國魂神社に訪れていました。
ウマ娘たちにとっても非常に縁深く、トレセン在学生の多くが厄除けや大願成就を祈りにここへ来ます。私はと言えば……トレセン入学を控え再来日した折、スペさんとここで再会を果たしたのが1番の思い出でしょうか。
「良いよな出店。美味を求めて食うというより、雰囲気を食ってる感じ」
「この盛況の中だと、味も変わってくる気がしますね。アメリカで言えばバーベキューに近いかも知れません」
「良いねぇ異文化。でも外で食う飯ってのは万人が惹かれる何かがあるんだろうな」
「間違いないです」
すみません、スペさん。思い出が完全に更新されちゃいました。
というか、なんでスペさんは今日来なかったんでしょうか?あまりに抜け駆けすると悪い気がしたのでクロさんと一緒に誘ったのに、「用事がある」の一点張りとは。あの時の彼女、前世の時と同じ
「うわーい!わたあめわたあめヤッター!!」
「こらッノイジー!人混みの中で走り回るなーッ!!」
「すみません、ちょっと通して下さいっ」
「……グラス。ちょっと良いか」
「気持ちは同じですよ、クロさん」
しかしここで、前列にてちょっとした騒ぎ。何やら子供が人々の足元を爆走し、両親が必死に追いかけているようで。
ここはクロさん、やはりいち早く気付く。ええ分かっていましたとも、そういう異常を逃さず掬い取ってきたのが貴方ですもの。昔からよく知っていますとも。
なので今回は、貴方が動くまでも無く、私が。
「はい。ここまでですよ〜」
「うわゃ!?」
「ナイスキャーッチ。嬢ちゃん、怪我は無ぇかい」
微かに聞こえる足音と人混みの動きから、コースを予測し通せんぼ。胸元に飛び込んできた小さなウマ娘の影を、総身で受け止める事に無事成功しました。
「ご、ごめんなしゃい。あたしはダイジョーブだよ。おねーちゃんは?」
「優しい子ですね。私も大丈夫ですが、その心配を走り出す前に出来るようになりましょう」
「むむ……ノイジー、わかったよ」
聞き分けも悪くなく、素直に頭を下げられる可愛い子。それにパッと見たところ身のこなしも良く、将来有望にも思えてクロ共々微笑んでしまいます。
そしてここで、両親がやって来ました。
問題はここからでした。
「ノイジー!すみません、ご迷惑を……って、なにッ」
「「エアグルーヴ先輩??」」
最初に人ごみを掻き分けて出て来たのは、生徒会副会長。同じチームリギル所属の先輩の顔でした。
そんな彼女を見た、ノイジーと呼ばれた子供はにっこり笑います。
「ママ!」
「誰がママだ!!全くお前は、自分の可愛さと才能にかまけて自由過ぎるだろう!!」
「ゑゑ!?エアグルーヴ先輩って子持ちだったんですか?!」
「副会長が出産は……こう……不味いのではないでしょうか……?」
「お前達も落ち着け!」
え?先輩に子供?いつの間に、というかお相手は?まさか生徒会長??
……ここにスペさんがいればすぐに事情を把握し取り成せたのでしょうけれど、生憎の不在。そうしてまごついている内に、とうとう彼女が来てしまいました。
エアグルーヴ先輩の後ろ。私より明るい栗色の毛が一房見えた瞬間、全身が固まりました。
「やっと追いついた……あっ」
「───ッ」
「貴女は確か……」
「パパだー!」
「だから私とアイツはそういう関係ではなくて…!」
クロも気付き、ノイジーちゃんが快哉を上げ、先輩が待っていたぞと安堵の息を吐く。
その対象である彼女は、私の顔を見て数拍空いてから……覚悟を決めたように口を開いた。
「あけましておめでとう。グラスさん、クロスさん」
「こちらこそ。あけましておめでとうございます、スズカ先輩」
分かっている。これは私の勝手な感情。彼女は何一つ悪くなく、何にも呵責を負う義務など無い。
けれどどうしても……私は、このヒトが苦手でした。そしてきっと、これからもずっと苦手なのでしょう。
三つ子の魂百まで。私のような莫迦者は、一度の生を経てなお変わり切れませんでした。
次回は金曜昼!