この話を書いてて、昔読んだのを思い出しました。名作ですので是非ご一読を
「始めるっすよ!チキチキ本格トレーニング!!」
「イエーイ!!!」
パンパカ鳴りまくるクラッカー、飛び散る紙吹雪。時間にして5秒くらい。
その後に残ったのは沈黙だった。
「……なにこれ」
「記念すべき門出だから何かしたいなって」
「それもそうだな。イエーイ!!」
「わぶっ」
納得したので、さっき両手に持ち切れなかった分のクラッカーも発射。また紙吹雪が舞った。幾つか行末の顔面に直撃した、スマソ。
でだ、我がトレーナーよい。早速何すんだ?本格トレーニングとは言うものの、今すぐ走るって雰囲気じゃないようだが。
「まずは今後の方針から決めてくっす。芝・マイル以上の距離が適性なのは既に分かってるから、どのレースを狙っていく?っつー話っすね」
「
「まぁ西崎さんやハナ先輩に話を聞いて、ルート候補を幾つか取りまとめてみたんすけど……クロとしては、狙ってたり拘ってたりするレースはあるっすか?」
そう言って開帳されたのは重賞レース一覧表だった。
デビュー1年目、才ある者は既に周囲との差を魅せ付けるジュニア級。
2年目であり、華のクラシック競走が待ち構え夢吹雪を散らすクラシック級。
そして3年目。成熟を迎え、意地と執念が熾烈にぶつかり合うシニア級。
それぞれが
「トゥインクルシリーズは基本的に3年間。俺達が挑んでるのは、その中で“どの時期に
「
「そうそう。常時強く在れたらそれに越した事も無いんすけどねぇ……おっ、早速?」
「応」
駒を手に取り、まず置いたのは6月。ここが最速のデビュー戦だから。
「そこでデビューって事は……まず狙うのは朝日FSか」
「当ったり」
続く12月前半。朝日フューチュリティステークス杯。
ここで存在を主張した蕾は、次なるクラシック級でも存分に咲き誇るだろう。これはそういうG1だ。
そんで次が、12月
「なるほど……まずはマイル、となれば次に狙うは桜花?いや中距離に飛躍して皐月?いずれにせよ年明けから休養を挟んでステップレースを「ホープフル」ごめん今なんて???」
いやだから、ホープフルだよホープフル。もう一個のGⅠだよ。中山競馬場の芝
え?中11日?なんとかなるやろ頑張れば。
「うーん……?一応登録は出来る、か?不可能ではないけど、えぇ……」
「ほな次」
「待って?」
待たん!4/16、皐月。
「あ、三冠路線に行くんすね。了解、じゃあハナ先輩から教わったプランSが役立t」
5/7のNHKマイル!
「ん?」
適性内だからな。そんでお待ちかねのダービーだ、5/28!!
「マツクニローテ!?!!?────マツクニって誰っすかね*1」
「まだ終わらんよ」
「お前の身体が終わりかねないんすよ!」
知るかー!とダイスを振り続けて幾巡目。我が三年間を彩る予定表がこの机に爆誕する。
①メイクデビュー。ジュニア6月目途。
練習。
後述レースの出走条件クリアの為の云々。
練習。
②朝日FS杯。ジュニア12月前半。
③ホープフルステークス。ジュニア12月後半。
練習。
④皐月賞。クラシック4月前半。
⑤NHKマイルカップ。クラシック5月前半
⑥日本ダービー。クラシック5月後半
練習。
合宿。
練習。
⑦菊花賞。クラシック10月後半。
⑧ジャパンカップ。クラシック11月後半。
⑨有馬記念。クラシック12月後半。
練習。
⑩大阪杯。シニア3月後半。
⑪天皇賞・春。シニア4月後半。
練習。
⑫安田記念。シニア6月前半。
⑬宝塚記念。シニア6月後半。
~~フランス遠征~~
練習。
練習。
練習。
⑭凱旋門賞。シニア10月前半!
~~~帰国~~~
天皇賞・秋。シニア10月後半。
⑮ジャパンカップ。シニア11月後半。
⑯有馬記念。シニア12月後半。
練習。
練習。
⑰URAファイナルズ。
「完璧なプランだぜ!」
「俺もお前も死ぬって事を除けばな!」
休む気無いんすか!?と問われたので「無い!」と胸張って答えた。休養不要、この肉体さえあればヨシ!
それによ行末。死ぬ死ぬっつったって、一回マジで死ぬ気でやってみ?死なんから*2。
「何を見てヨシ!って言ったんですかって案件になりかねないんすけど」
「まぁ無謀を超えた無謀だって自覚はあるよ」
「……あったんすか」
「うn」
家の本で無駄に知識を得てきてるんだ、自分の言ってる事がどれだけ常識外れなのかは流石に分かる。こんな“出れるGⅠとりあえず全部出ました”的な案、もし他人が言ってたら善意で止めるか悪意で嘲るか真剣にキレるかの三択を選ぶだろう。悪意が択に上がる俺って何なんだよ*3。
でも……なぁ。
「勝って、名を上げたいんだ」
「……名声を得たらなんかあるんすか?
「勿論それもある。というかトレセン編入の主目的はそっち」
“グラス達との約束を除けば”という前提でこそあるものの、宮崎家は俺の半生の大部分を占める見過ごせないファクターだ。
まず拾ってくれた恩があるし。育ててくれた恩があるし、優しく接してくれた恩があるし、金かけてくれた恩が……いや改めて考えると恩貰い過ぎだわ俺。いやマジで暖かくて接して貰ってきたから、じゃあ、ウマ娘なりに家に栄光で報いたいなって思う訳よ。切実にな。
「斗真さんとかめっちゃウマ娘競争好きだし。美鷺姉さんも派手に喜んでくれると思うんだよな~」
「あぁ、あの影の17こと斗真氏っすか」
「……何それ?」
「花の15期生と謳われる名トレーナー、その幻の17人目って事っすよ。レース界隈のベテラン方で彼の世話になってない人はまず居ないんで、尊敬の念を込めて裏でそう呼ばれてるっす」
「…………」
「?」
……日本経済界においてもレース業界においても、彼が偉大なのはその通りではあるんだけども。
「本人には伝わらないようにしてくれ。多分恥ずか死しちゃうから」
「偉人の死因にはなりたくないっすね。了解っすわ」
「頼むで、それと……」
まぁともかく、俺がGⅠ勝ちまくりたい理由その壱はつまりそういう事だ。宮崎家万歳、宮崎グループに
俺は素面でこれを叫べる、なんなら今すぐトレセン校舎の時計塔に昇って絶叫できる。見ててくれよ悠真のおやっさん!
そして、理由はそれに留まらない。その弐もあるんだなコレが。
「探したいヒトがいるんだ」
「ウマ娘っすか?」
「うん。母さん」
「えっ」
「あっ」
と、ここで少し不味った。気安さが祟って、俺が実母不在のかなりデリケートな立場だって事をお漏らししちまった。
ええい、そんな「地雷踏んだ」みたいな顔すんな!お前と重苦しい雰囲気にはなりたくねぇんだよ俺。
「コホン。忘れろ」
「1…2の…ポカン。忘れたっす」
「助かる。本題に戻るけど、俺が有名になれば彼女も見つかるかなって」
……俺の母さんを通じて、三女神像前の夢で見た芦毛さんの消息も掴みたいし、な。
(血縁が無い訳無いだろってレベルで似てた。母さんなら何か知ってるだろ……多分)
「GⅠウマ娘ともなればニュースで大々的に報じられるっすから、確かに効果的かも──でもそれだけじゃないっすよね?」
そう言って行末が指さしたのは⑭。確かに、俺が享受するにゃ些か過剰な栄光だわなそりゃ。
ロンシャン競馬場、諸説こそあれど世界の頂点。こんな全方位舐め腐ったスケジュール表で挑もうだなんて一周回って不敬罪を適用されそうだ。
ここで、その参。
「
「……お前にとって、約束ってホントに大事なんすね」
「それを守れない奴は失格でしょ色々と」
海外の壁に挑んで跳ね返された、夢の中のウマ娘。その道に続くって、靄のヒトに誓ったから。三冠以外の他のレースは譲ってもこれだけは譲れない、逃がさない、離さないし渡さない。
トレーナー1年目から海外行きだなんて、そっちからすりゃホント酷な話だよな。分かってる。
「それでも頼む。やらなきゃいけないんだ」
「……────」
席から立ちあがって頭を下げた。今俺がこの身一つで出来る最大限一歩手前の誠意だ。これ以上は土下座しか出来ないし、行末が要求したなら即座に行うつもりでいた。
対する彼は無言。俺の行動に反応を返さず、押し黙ってしまう。
(まぁ、無理難題だもんな)
幾ら俺を見初めてくれたからって、俺を全肯定するかと言われればそれは別の話だ。これは俺の甘えであって行末の痂疲じゃない。
じゃあどうするかと言われても、俺から譲歩できる要素もほぼ無いのが問題なんだけど。
どうしよう。自発的に土下座しようか。あと自分で売り出せる物ってあったかな、なんて考え始めていた時。
「ひ、費用に関しては気にしないでくれ。俺の方で工面できるから。三冠に関しては
「ロイヤルビタージュース……」
「んぇ?」
行末が口を開いた。
出てきたのは、世界四大珍味に最近組み込まれたヤバい代物の名前だった。
「入手は難しい……けど親父のツテを使えば不可能じゃない。コンディション低下が難点だけどクロ本人のやる気次第だな。連続出走による
「ゆ、ゆくすえ?」
「じゃあ出走条件をどうクリアしていくか。朝日とホープフルで良い成績残せれば後は自動でクリアできそうだけど、問題はその前だ。3戦あれば足りるか?いやジュニア期でサポートの子達との縁も築いておきたい、やっぱり最初はトレーニング重視で……待てよ、俺が駆けずり回ればそれで済むくね?じゃあオッケーか」
「ykseさん??」
俺の声が耳に入ってないようなので、何度か目の前で掌を振る。3往復ほどしたところ、やっと行末は現実に帰ってきたようだった。
「っと、何すかクロ」
「いやぁ修羅ルートを真面目に考察してたから」
「クロが言い出した事っすよ?」
「それは……そうなんだけど……」
正直な話、飽くまで第一案として修正される算段だった。だからこそ無理のある要素を吹っ掛けたんだ、ある程度削られるのも織り込んでな。
三冠と凱旋門だけは死守するつもりだったし、勿論全部のレースに出れるなら出たいけど。それはそれとして、他のレースはある程度妥協できるラインだった筈だ。個人的には。
でもなんか、今の行末はそれ全部丸ごと受け入れるつもりだった、ように見えたというか……?
互いを探る沈黙。破ったのは、行末の吹き出すような笑いだった。
「言ったじゃないっすか、クロ」
「へ?」
「“死んでもお前と共に”、って!」
「────ッ」
…………衝撃だった。
俺が言い出した事なのに、俺自身が信じられなかった。目の前の人物を見誤っていた事、信じれていなかった事実を打ち据えられたから。
(本当に……本当に、俺と運命を一緒にする気なんだ)
ドン引きと同時に嬉しさがこみ上げる。そこまで入れ込んでもらえてる、その事に対する興奮が熱となって胸の内を満たす。
ああ、キング。お前に相談した通りだったよ。
(俺にとって、
一度嵌ったら抜け出せない。もう離れる事の叶わない一蓮托生、それが俺達だ。
俺が好きにするように、行末もまた好きにする。そしてその二つが、示し合わせるまでも無く一致する……うん、間違いない。
「本当に……お前と組めて、良かった」
「引退する時まで取って置いて欲しい言葉っすね」
今度こそ視線を合わせて笑い合った。もう二度とすれ違う事に無いよう、まっすぐに見つめ合って。
コイツとならどこまでも、後悔なく突き進める。そんな確信を秘めながら。
同時に、懸念も。
(俺が死ぬ時、行末も死ぬんだ)
その言葉に嘘偽りがないと知れた。比喩表現だと思っていたそれが真実だと分かった今、“責任”へと形を変えて俺の眼前に座してきている。
俺一人がどうにかなるのは良い。どうとでも出来る。それで何も問題は無かった。
でも、俺の巻き添えになる“他者”がそこに介在するとなれば?
(……迂闊な事は、もう出来ねぇなぁ)
取り敢えず、この無茶なスケジュールは色々譲歩して組み直そう。まずはそこからで……それ以降はどうするべきか。
無茶をしないまま勝てるのか。
目的の為、無茶が必須となった時……俺はそれを出来るのか。目の前の相棒を道連れとしても。
自分に全てを捧げてくれる存在の嬉しさと、その責任の重さをヒシヒシと感じながら。あーでもないこーでもないと、俺は行末と共に目標を打ち立てていく。
まず出来る事はそれだから。
「併走の打診があった」
「私ですね?」
「……なんで分かった?」
自らのトレーナーと、仲間のウマ娘の視線を浴びて彼女は立つ。立って、述べる。
「予め告げられていたもので。本人から」
【スタークのヒミツ】
物語開始当初、ウマ娘編はクライマックスシナリオ準拠で進めていく予定でした。実装時期もタイムリーでしたからね
今回のバカ予定表はその名残