また君と、今度はずっと   作:スターク(元:はぎほぎ)

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俺は描きたいシーンを描く為にやってるので
整合性とか現実にそぐわない流れはその……ごめんちゃい


競走馬編-始まりのトライアングル
【Ep.1】多難!


『すまんの。お主は死んでしまった』

 

なんか後光を受けたデッケェ影が語りかけてくる。

 

『自転車の運転中にウマ娘をやるなんていうバカな事をやっていて周りを注意しなかった所為で、ワシが選ばれし者を転生させようと発生させたトラック事故に巻き込まれてしまったのじゃ』

 

どことなく貶されてる気がするのは気の所為じゃないよな?まぁ実際貶されて当然な行為をしていた自覚はあるから反論しねぇけど。他人撥ねるより前に撥ねられといて、寧ろ良かったまであるし。

 

『という訳で本命の方には敵の攻撃を全部無効化し味方も守るチートを授けて無事予定通りの世界に送ったんじゃが、巻き添えを食ったお主を放っとくのもアレじゃからな。折角じゃし、本命ほどではなくともチートを与えて好きな世界に送ってやろうと思ったのじゃ』

 

……ちな、チートの内容は?

 

『二回だけ、どんな傷でも再生出来る』

 

本命と比べると結構ケチだな!まぁ余り物だから期待はしてなかったけどさ。

 

『そういうとこじゃぞ』

 

知ってる。自分のそういう所が俺は大っ嫌いだ。

 

『……すまんな。人の身からすれば信じられない話だとは思うが、神たるこの身にも実は限界が存在するのじゃ。本命に相応しいチートを与えた後では、お主に授けられる力のその程度しか残っておらなんだ』

 

謝る事じゃねーですよ。これでも身の程は分かってるつもりだし。

……ただ、さ。

 

『なんじゃ?』

 

 

 

「なんでウマ娘じゃなくて馬に転生して、そしてそれを伝えるのが転生から2年以上経った今なんだよぉぉぉ!?」

 

こちとら気付いたら胎の中!真っ暗闇で不安、1年かけて生まれてみれば母親は馬!人間の経験が全く通用しない環境に唐突に放り出されたんだぞ俺は!?今の叫びだって、外から聞いたら「ヒヒィン」としか聞こえねぇんだ!

死んだ理由も別に良い、転生モノにしちゃチートが割と小規模なのだってもはや誤差範囲だ!けどさ、けど説明だけは事前にして欲しかったんだよチクショウ!!

 

『いやぁスマン。転生処置だけやって後は本当に頭からすっぽ抜けてたのじゃ。あとウマ娘転生じゃないのは三女神の方との連絡手段忘れてたが故の応急処置じゃ』

『そういうとこだぞ』

『そうじゃな。つまりお互い様という事で、頑張ってくれ!』

『あっちょっ』

 

待て、待て!待てぇぇぇ!馬運車の中で急に語り始めて来たと思ったら勝手に去る気か!自分勝手!分からず屋!

 

『あっそうそう。言い忘れておったが、頑張って天寿を全うすれば記憶を持ったままウマ娘に再転生出来るぞい。お主を送り出した後、三女神に必死こいて頼み込んだ余に感謝するのじゃな』

『えっ普通に嬉しい。ありがとう』

『じゃあの』

 

 

それを境に声は消え去る。後に残ったのは、馬運車を揺らすガタゴトという音のみ。

 

 

(……寿命まで生きれば記憶持ち越し転生、ねぇ)

 

まぁ、ウマ娘ってよく考えたら実在の馬という基盤があって初めて成立する世界だ。そこに馬としての実績も積まずに一足飛びに行こうだなんて、そっちの方が無茶な要求ではあったな。条件付きとはいえ、チートと記憶保証を貰えただけでも感謝しなければ。かしこみかしこみ。

 

(問題は……生き残れるかどうか)

 

出産は上手くいった。胎は思ったより心地良く、下手に焦る事もなく成熟して生まれる事が出来た。離乳もすんなり出来た。本能から湧き上がる寂しさは強敵だったけれど、そこは持ち前のヒトソウルで抑え込めた。

馴致もこなした。これも人の頃の経験で服と同じだと思い込んでなんとかした。

問題は…そう。結局のところ、俺の力がどこまで通用するかだ。

競馬は厳しい世界だ。時にGⅠ馬ですら唐突に登録を抹消されて歴史の闇に消える。安泰な予後を過ごしたと思われていても、気付いたら食卓に並べられてる可能性だって0じゃない。

その中でも特にクラシック路線は魔境の一言だろう。同世代の馬達がこぞって一回限りの栄光を勝ち取りに来る蠱毒、引きずり込まれようモノなら堪ったモンじゃァねぇ。

なら逃げて別路線に行けば良い?出来たら既にそうしてるんだなァこれが!

 

(くそー!なんつー奴に競り落とされちまったんだ俺はー!!)

 

売られた時に聞こえた言葉がもう不穏でしかなかった!何だよ「コイツなら三冠いける、そして家族を連れ戻す」って!俺に何を見たんだよ!?そんな博打野郎だから捨てられたんだよ!!分かれよ!馬主になれるぐらい稼げるんだから馬に頼るな!

あっ、でも頼られないと俺はもれなく肉にされてたんでしたね……。他に買ってくれそうな人いなかったし。

 

「なんかいつになく騒がしいっすね、クロ」

「コイツなりになんか感じ取ってるのかもな。ほら、賢さだけはあるから」

 

聞こえてんだよなぁ厩務員さん方よぉ。俺をここまで育ててくれた事には感謝してんだがよぉ。

ちなみにクロって呼ばれてる理由は単純、体が真っ黒だからである。以上。

 

「しかし買われたのが奇跡っすよね。そりゃ今まで世話して来たんだから食肉処分だけはやめて欲しいと思ってたっすけど」

「あんな成金に買われた事が、コイツにとって幸せなのかどうか…そもそもクロは、生い立ちからして普通じゃない」

「悪い意味で、っすねぇ」

 

……ダメだぁ。ため息が出る話題しか無い。

俺に責は無い筈なのに、なんでこんなに暗い気分にならなきゃいけないんだ?

 

「“間違った種付けで生まれた予定外のSS産駒”、だもんなぁ」

「あの取り違え、酷かったっすもんねぇ」

 

オカンぇ……本来種付けされる予定だった牝馬の厩務員ェ……。

 

 

 

 

暫くして車から下ろされたのは、結構広い牧場。うわぁ、実に馬の育成専門って感じだね(小並感)。

 

「緒方さん、こちらエクスプログラーの1995です」

 

俺の事である。

 

「ああ、この子が……」

 

うわ、誰だか知らんが複雑そうな顔しやがって。さては馬主となんか悪縁があるな?

何を隠そう、なんと俺のオカンは血統不明だ!そんな牝馬が手違いで産んだSS産駒とかいう、文字通り何処の馬の骨か分からん奴を、こんなドでかい牧場が容易く受け入れる訳が無ぇもんな!金だけはあるっぽい馬主にゴリ押されたな!?大変だなアンタ!

 

と、思っていたら、なんだか見開かれる緒方氏の目。え、なに?何か付いてる?

 

「……これは……」

「もしかして何か光るモノでもありましたか?コイツに」

「…いえ、多分気の所為ですね」

 

ズコー、とこける俺と厩務員×2。なんだかんだ1年以上の付き合い、こういう所は気が合う。

 

「だ、大丈夫か!?思いっきり躓いたが」

「あぁすみません。コイツ、俺達の持ちネタを真似するようになっちまってまして」

「…分かってるならやるものじゃないですよ?」

「……ぐうの音も出ません」

 

えー。俺好きだけど、コイツらのノリ。

 

「まぁ、既に事は運んでるんだ。私に働きかけたという事は、臼井君にも話を持って行ってると聞くし、私達は私達で最善を尽くすまでだね」

 

……え、臼井?臼井って言った?あの「臼井最強!」の臼井!?そんな人に調教してもらえんの!?

勝ったな、温泉入ってくる。

 

「臼井さんの方はなんだか難航してると聞きましたけど」

「……まぁ、その時はその時だ」

 

負けたな、温泉出る。

行き場を無くした競走馬ほど末路が悲惨なものは無いぜ…こりゃ最悪の場合、この牧場での記憶が最後の楽しい思い出になるかもなぁ。

 

……うん、吹っ切れた。ヤケクソから来るハイテンションももう収まった。落ち着いて、今ある平穏を楽しもう。

 

「急に大人しくなった……」

「コイツ結構頻繁にこうなるんですよ」

 

馬体検査と洗浄を経て、用意された馬房へ。はぇー前の住まいより心無しか綺麗だ事。俺ここにいて良いの?自分で言うのもなんだけど、場違いな気がして来たゾ……。

 

「じゃあ、自分達の出番はここまでということで」

「元気でなー、クロー」

 

おう、そっちこそ元気でなー。軽く嘶き、それを聞いた厩務員×2は満足そうに手を振って去って行った。そうしている間に、別の人間が緒方氏とやらに連れてこられる。

 

「臼井君、この子の担当を頼む」

「えっあっはい」

 

ん?この若いのが最強の臼井?…いや、なんか違うっぽいな。息子とか甥とかだ、多分。

臼井さんが俺を受け入れるかどうかは分からんけど、それまでよろしく頼むなー。

 

「うおっと……え、もしかして今のって会釈ですか。引継ぎ資料にもありましたし」

「私にもそう見えたが、流石に気の所為だろう。あの牧場は管理体制がこう…かなりアレだし。ともかく、この子の行く末が定まるまでは」

「はい、頑張ります」

 

邪険にされていくぅ〜!

くそぅ、ぜってぇ見返してやっからな!……なんて根性は俺には無い。いやホントすみません、ウチの馬主がご迷惑を……。

という訳で、理不尽を飲み込むために不貞寝を決め込む事にした。まぁ馬って睡眠時間クソ短いから何の足しにもならんのだけど、それでもスッキリする物はスッキリするんだから不思議なモンだよ。

 

ふむふむ、一回感じた寝藁の心地は良きかな。全体的な環境も清潔、水もしっかりある。滞在中は良い思い出になりそうだ、うん。

 

 

「……グスッ……」

 

 

おや?何だか隣の馬房から変な声が聞こえて来ますねぇ。

まぁ俺には関係無ぇや。カウンセラーじゃねぇんだから出来る事無いし。

 

 

「ウゥ…ウエェェン」

 

 

あらぁ、本格的に泣き出しちゃったよ。抑えてるつもりなんだろうけど、地獄耳な馬イヤーはバッチリ拾っちゃう訳で。

 

 

『マァマァァァァ…!!』

 

 

……あー、もう!

 

 

『おーい、隣の坊や!なんかあったのか?厩務員呼ぶか!?』

『What!? Something sounds from neighbor! There shouldn't be anybody!』

『英語ォ!?』

 

 

堪らず枠から身を乗り出して話し掛けると、返って来たのは驚愕の声音に乗せられた理解不能言語。なんてこった、いよいよもって俺が手を出せる領域じゃなかった…!

 

『ア…すみマセン。そこニはダレもイナイとおもッてて……』

『あ、一応日本語喋れるんだ…どうも、今日から越して来たクロっていうんだ。短い付き合いになるだろうけどよろしく』

『う、うン…』

 

そう言ってヒョッコリ顔を出して来たのは、栗毛の若馬。あ、ノリで坊やって言ったけど普通にほぼ同い年だわコレ。ごめんね。

 

『で、何で泣いてたの?見たところ外国から来たみたいだし、やっぱり故郷が恋しくなった感じ?』

『それモそうデスが……空気が、ソノ』

『空気が?』

『ずっとジメッとシてて…ユウウツ……あとセマイ』

 

あー……分かる。英語圏から来たようだけど、そこの出身者には日本の湿度は慣れるまで時間が掛かりそうだ。イギリスはまだ似通った気候だけど肌寒いし、文脈的に多分アメリカ生まれか。

流石にこのレベルの不調が慢性的に続いてたなら、もっと厩務員が頻繁に見に来て心配するだろうし……それを鑑みるに、時を経るに連れて緩和されていったホームシックが、同時に蓄積された気候への不満で今この瞬間にぶり返した、って感じになるのかな?

 

『そりゃあ難儀だな。でも気候は変えられないから、自分を変えた方が早いかも知れん』

『じぶんヲ?』

『良い所を探すって事。例えばホラ、冬の寒い時期で湿った空気と乾いた空気があったとする。どっちを吸いたい?』

『…分かンない』

『俺は湿ってる方を吸いたい。だって渇いた寒気って、鼻の奥を鋭く突き刺してくるような感覚あって痛いじゃん』

 

そう告げると、坊や(名前まだ知らんので便宜上呼称)はハッとした表情で俺を見た。よし、共感は得られたみたいだ。

 

『そんな風に、ジメッとしてるのも悪い事ばかりじゃないって事。見方を変えれば敵は仲間に、短所は長所になる。そこを上手く立ち回っていこうや』

『……夏もジメッとシテたら、さすがニ良いところナイ』

『あー、夏のジメッとは…景色!景色とか楽しめるから!!』

 

真っ青な空、立ち上る入道雲!結構圧巻だし、そういう季節の移り変わりを楽しむのも割とありだと思うんだ。

そう伝えると、坊やは黙って建物の外に目を向けて──暫くしてから、納得したように1人──いや一匹というべきか?──頷いた。

 

『……!そウいえば、サムイときニきたけど、今ハもうハナとかサキはじめてマス』

『そそ。そゆことそゆこと』

 

日本の四季って世界的にはかなり特徴的な部類らしいからね。それを楽しむ懐を持ってこそ、日本で生きる価値があるって話よ。まぁ俺、そういう文化的な側面全然分からんけどな!

 

『まぁ日本に来て日も浅いんだろ?気楽にゆっくり慣れてきゃ良い、もしくは慣れないなりの新鮮さを楽しむぐらいで良い。それが“知っていく過程”の醍醐味って奴だし』

『ダイゴミ?』

『……ごめん、俺も意味よく分かんないまま使ってたわ……』

 

イカンイカン、調子に乗った反動がこんな所で……ってオイ!笑うな!

 

『Hahaha…!ソーリー、アナタにも分かンないコトがあるんだナってオモッタら、ナンだかオカシくて………アハ、ひさしブリにわらえマシタ』

『お、おう。なら何より』

 

笑わせたのか笑われたのか微妙な所だけど、復調したならヨシ!

 

『アノ……もし良けレバ、ジャパンのコト、もっとオシエてくれマセンか?』

『オッケー。俺で良いなら』

 

か、勘違いしないでよね!隣で泣かれ続けたら安眠妨害だから仕方なくよ!……とは言わない。だってこの文化、アメリカどころかこの時代の日本にも多分無いから。

しかしコレって……友達、って事で良いんだよな?やったぁ初めての馬の友達だぁ!泣いてくれてありがとう!(?)

 

『!!…トモ、ダチ?』

『え、違った?ごめん』

『Yes! …No? チガウ、ボクも嬉しイ…!』

『ホッ』

 

向こうも同じ気持ちで何より。よーし、なんだか俄然やる気が出て来たぞ…!

これから一緒に頑張ろうな、坊や!

 

『うん、クロ!』

 

 

 

 

『ところでだけど、坊やの名前って何?聞き忘れてたわ』

『ボク?Ameriflora's nineteen ninety-five』

『ごめん今なんて?』

『えーと…Ameriflora's 1995』

『……分からん!アメリで良いか?』

『そレはママのだケド、イイよ』

『サンキュー!』




クロが生まれた生産牧場に元ネタとかはありません。母親にも元ネタはありません(鋼の意志)

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