また君と、今度はずっと   作:スターク(元:はぎほぎ)

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【第28話】王威!

「ジハよいよい」

「凄い距離感」

「愛嬌は最強。この10年強で板に付いた処世術なモンで」

 

テヘペロフェイスで目と鼻の先まで寄ってきたのは、生来*1の宿敵ことクロスクロウ。その人懐っこい笑みでグラスを誑かしたのか、このッこのッ。

 

「小突くなし。折角俺の方から“聖戦”の申し込みに来たんだから」

「!!──君が?どういう風の吹き回しだ」

「あ、ちなみにだけど勝ったとしてもグラスの予定はちゃんと伺ってくれよ?俺に出来る譲歩は、俺の予定を別件で埋める所までだからな」

「それはそれで良いけど」

 

グラスとの時間を賭けて催されてきた決闘(聖戦)。これまではアタシの方から吹っ掛けて、クロスクロウが渋々引き受けるっていうのがいつもの流れだったのに……ちなみに今のところ全戦全敗。そろそろ勝ちたい*2

 

「いやさ。俺達いよいよジュニア期に突入した訳じゃん?」

「だな。デビューを決めた子達は本格的なトレーニングが始めてる」

「俺もお前もそうじゃん?」

「……そうだな」

「戦ろうぜ」

 

……いよいよ、走りで勝ちたいとは、今ちょうど思った所だったけど。

こんなに都合の良い事ある?

 

「あー……クロス。確かにアタシ達が本腰入れた特訓に入った時期は互角だ。でもそれ以前に、入学から下積みを重ねてきたアタシと編入からそう経ってない君じゃ、その分の差がある」

「だろうな」

「選抜レースで調子に乗った?」

「いんにゃ。エル達に敵わない現実を見た」

 

うん成程。大体わかった、クロスの言いたいことは。

 

()()()()()?」

「ああ。勝ちの目を見易いお前の方から、経験差を埋めていきてぇ」

「ふざけんなッ」

 

そう言いながらも、怒ってる()()である自覚は否めない。クロスと競いたかったのは、他ならないアタシだってそうだったんだから!!

喜悦を隠せず吊り上がる口角。それそのままに立ち上がり、距離5㎝の間合いでガンを飛ばし合った。

 

「OKだこの野郎!幕府入りしたつもりだろうけど、その鼻っ面ヘシ折ってやるッ」

「上等だぜ、五体投地でひれ伏させてやらァ!」

「切磋琢磨はいいけれど、ガラの悪い喧嘩腰はやめなさいよお互いに」

「「すんません」」

 

途中キングの覇気で鎮圧されちゃったけれど、胸に灯された熱情がそんな事で収まる訳が無く。鋭い瞳を横に向ければ、通じ合ったように不敵な笑みが返ってくる。

 

(やっとだ。やっとお前に、今度こそ、勝つ!)

 

ウマ娘たる本領で。

その時からずっと併走の事を考えてた。作戦を練り、走法を学び直し、体調を管理。猶予は1日だけだったけど、その中で出来る準備を最大限に。

 

そして当日。条件はウッドチップ・左回り・1000m、天気は快晴絶好調。トレーナー同士で決めて貰った時間に集まり、立ち合いに立候補してくれたキングの号令の下、スタート地点に並んで、迫る激闘に身を震わせて、

 

スタートを切った。

 

勝った。

 

 

「……えっ」

「ぐえーやられた」

「クロさん?」

 

 

えっ。

 

「まぁこんなモンだよな。クロスクロウのタイム的にはどうなんだ?」

「担当始めてからの記録内ではベスト更新してるっす。胸をお借りしました、先輩」

 

えっ?

何この圧勝。3馬身差つけて、アタシ息上がってないんだけど。

お互いのトレーナーはまるで結果が見えてたみたいに平然としてる。なんで?

キングですら困惑してるよ??なんで???

 

「一応聞くけどクロさん。遊んでた訳ではないのよね?」

「本気。全力。苦しい」

「嘘だッ!!」

「「「ジハード!?」」」

「あばーっ?!」

 

嘘つけ!こんな余力たっぷりのままあっさり圧勝出来て堪るか!!グラスに追い縋ったお前は、スカイとエルに肉薄した時のお前はこんなものじゃなかっただろ!?

ええい離して下さいトレーナー、ソイツ揺さぶれない!

 

「落ち着け!彼女は編入して1ヶ月弱、基礎を積み終えてないのは承知してただろう?こんなモノなんだよっ」

「んな訳あるかー!本気出せー!!」

「……本気だったんすよね?」

「──ップハー。代わる代わるに聞くなぃ、冗談抜きで全力だったよ心配しなくとも。何なら俺が一番ショックだよ、こんなに糞ザコだとは思わんかった」

 

そんな馬鹿な。でも目を逸らすクロスの態度からは、アタシへの申し訳なさと自分への失望が垣間見えて真実味を感じてしまう。いや、でも、じゃあアタシを魅了したあの走りは何だったの?!

 

「そんな事言わないで。過度な自己卑下と謙遜は、貴女を選んだ行末さんに対する冒涜に他ならないわ」

「……そうだな。悪いキング、血迷った」

「どうやら選抜レースとかで見せた末脚は意図して出せる状況じゃないみたいなんすよ。発動条件を探していかなきゃっすね」

 

兎にも角にも、今回の聖戦の決着はついた。アタシの完全勝利だ。

第三者が見ていても文句は出ないだろう。アタシはグラスと一緒の時を過ごすチャンスを手に入れて、クロスは自分の実力の位置を知れた。これでWin-Win、蟠りなく終了。解散!

 

──んなワケあるか!

 

「もう一回だ!」

「え゛っ」

「トレーナー、今日この後はスピードトレーニングの予定でしょ?じゃあアタシとコイツの合同特訓で良いですよね、実戦形式の!!」

「お前は良いけど行末君側の事情もあるだろ。どうなんだい?」

「こっちとしては寧ろ願ったりっす。良いんすか?」

「まぁジハードのやる気が超絶好調にも見えるし……」

「ッシャオルァ!やるぞー!!」

「いや助かるけど待って引き摺らないでくれアイタタタタ」

 

強引に取り付けて聖戦続行!もう有無は言わせない、あの末脚が出るまでしごいてやる。出るまで一緒に探してやるから覚悟しろ!あっこら抵抗するな!

 

 

……と。騒ぐ私達を、ただ黙って見つめる一人。

キングが何か憂うように思慮してる事を、アタシは自然に意識から外していた。

 

 


 

 

私に何が出来るだろう。

 

クロさんが伸び悩み、スカイさんが荒れて、エルさんは落ち込んでいる。スカイさんに関しては理由も原因も分かっているけれど、残り二人に関しては確証が持てない。

 

けれど()は王だ。そう在ろうと自負している者が、友人が迷っている時に手を差し伸べられなくて、一体何に成れるというのか。ただ二の足踏んで指を咥えて眺めてるだけでは、そんな目標などちゃんちゃらおかしい。

 

だから見る。この目でしかと見極めて、答えを示せ。

それが、このキングヘイローにとって、今すぐ出来る事だから。

 

 


 

 

反省会と休憩を挟みつつ5戦目!惨敗!!これで堂々たる連戦無勝と相成りました。

 

「ちくしょおおおチクショオオオオオオオオ!!!」

「なんでお前が悔しがるんだよ!叫びたいのは負けてる俺だよ!!」

「知るか!完全体に……お前が完全体になりさえすれば……!」

「誰がCV.若本じゃい」

 

この状況にストレスを溜めてるのは、俺だけでなくジハードも同じらしい。彼女の期待に応えられない現実を突き付けられて、心底自分が嫌になる。

一体何が足りないのか。さっきから手を変え品を変えて走法を試し、行末やジハードのトレーナーに教えを乞うてるけどまるで効果が無ぇ!

 

「くっそ~……これじゃ俺がトレーナーになった意味が……」

「先輩T(トレーナー)としてもちょっと顔が立たんな。実際に彼女が限界を超えた姿を覚えてるというのに、それを発揮させてあげられないとは」

「気にしないで下さーい。ロクに力を出せない俺が悪いんでー」

「こら!キングに叱られたばっかりだろう、卑下するなっ」

「ああ。スマン」

 

悪癖を咎められたところで再度耽るは思慮。“急いては事を仕損じる”とは言うものの“善は急げ”という諺もある、こんだけ応援して貰ってるんだから結果は早めに出したい。時間というコストを甘受する事は、ノンビリ過ごす免罪符にはならないんだから。

かと言ってヒントも浮かんでこない現状、果たしてどうすれば良いやら……と思っていた折、助け船は柵の外から来た。

 

「クロさん、ジハードさん。次は私も混ぜて貰って良いかしら?」

「キング……」

「良いの?今日は休み貰ってるんでしょ」

「こうなるかもと思って、既に私自身のを含む各トレーナーに話を通してるわ。その為のこの格好よ」

 

そう告げてジャージの裾を引き締める姿は、やっぱりカッコいいの一言。なんかもう一生掛かっても追い付けなさそうな気品を前に、目が眩んじまいそうだ。

……この輝きの前で、無様はもう晒したくねぇなぁ。

 

(覚悟を決めよう)

 

某呪術漫画に倣って、自分を縛る事にした。ここを死地と思って総力を絞り出す。もちろん、現実的な効果は無いので精神的な話に過ぎない。

でも俺に出来るのはそれだけだから。力が無いなら、せめて心だけでも他者を上回って──っとぉ?

 

「なに独りで煮詰まってるの。ここにいるのはクロスさんだけじゃない」

「……っ」

「ウジウジしてる姿はそこまで似合わないのなんて貴女ぐらいなのよ?もっとしっかりなさい、然もないと──」

 

額を突く指。叱咤するように押し込まれ、見上げさせられた先にキングに瞳があった。どこまでもまっすぐに、俺を見下ろして。

 

「その性根ごと叩き潰すわよ?」

「……!」

 

「言ってくれるな。キングこそ吠え面掻くなよッ」

「分かってるわジハードさん。貴女もまたライバルなんだから、スカイさん達に次いでね?」

「なんだとーっ!?」

 

暫く意識が飛んでた。記憶はあるけど、体を動かす電気信号が止まってたみたいだった。

絶望や恐怖じゃない。これは……もっと澄んだ感情だ。

 

「──そうだな。そうだよな」

 

さっきまでの鬱蒼とした悩みを吹き飛ばしてくれた感謝。見下ろして、見守ってくれる安心感。強者として()であり続けてくれるという保証。

それに対する反骨心が沸々と、透き通る感情を底から茹らせてくる。この熱さが、俺の原動力なんだと思い出させて。

 

「待ってろキング。精々抗わせてもらうぜ……!」

 

後腐れの無い()()に、火を点けた。

*1
なお出会ってから二ヶ月弱

*2
普通に勝ってる時もあるしクロスも度々負けを認めているのだが、大体ケチの付く勝ち方な所為でジハードが受け入れられないというのが真相。実際のところはクロ優勢寄りの五分五分である。

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