あと、前回を少し改正しました。理由は前回の前書きに書いていますが、これなら多分大丈夫……だよな?
流れ的に変わりは無いので読み直さなくても大丈夫だとは思いますが、気が向いたらどうぞ
まぁ流石にOPに苦戦してる場合じゃなかったので、サクッと勝ちました若葉S。こう、後ろからバビューンと。生沿君も特に強制とかせず好きにさせてくれたので、無茶苦茶有り難かったわー。
皐月賞もこう出来たら良いなぁ!
『ですねぇ。僕もこう、弥生賞みたいにズドーンと!』
『あっオイ待てぃ*1。俺がその後ろから差すゾ』
『えぇ〜?じゃあ僕はその更に後ろから行きますもん!』
追い込みの更に後ろってどこだよ(哲学)。
あっそうだスペ、セイウンスカイって馬とは会ってるよな?どんな馬だったよ、
『あ……周りはそんな気にしてなかったです。最後に灰色の馬と競り合ったなーくらいで』
『お前さぁ〜〜!』
前から思ってたけど、俺以外の馬に興味なさ過ぎぃ!どっちかが先に引退したらどうすんだ。
『将来苦労しないか、お兄ちゃん心配です*2』
『うーん…その時はなんとかしますよ』
変な所で楽観的過ぎる……誰に似たんだ……!
と、未来を懸念していると。「あっ」とスペが何かを思い出した様子で口を開いた。
『そういえば、次のサツキしょう?っていうのは大きいレースみたいだし、きっとグラスも出て来ますよね。楽しみだなぁ、今度こそ勝ちたいなぁ……!』
『えっ?』
『へっ?』
……あー、しまった。スペにその事伝えるの忘れてた。
『スペ。グラスは皐月賞には出られないんだ』
『……出られない?出ないんじゃなくて?』
『ああ。するしないの問題じゃなくて、出来ない』
『え゛ぇー!?!!?』
マル外、外国産馬の宿命……と言えば良いのか、呪いと言えば良いのか。他ならぬスペの祖母──じゃなかった祖父、マルゼンスキーもまた涙を飲んだ道だ。
“古馬に挑む前に内国産馬での世代頂点を決める”ってのはまぁ分からんでもないんだけど、同期に強い奴がいるのに出られない状況ってのは確かにモヤるよなぁ……。
『グラスは外国生まれで、これから俺達が挑む皐月賞・ダービー、あと菊花賞に外国生まれの馬は出られないんだよ。だから、スペがアイツと戦えるのはもっと先になる』
『出られないなんておかしいですよ、チャンスすら無いなんて!』
『でも規則だからなぁ……』
強過ぎるマル外が暴れると、追いやられた内国産馬の需要が低まって生産牧場が困る…って理由もあった筈だし。人間側の事情は馬の俺達にはどうしようも無いよ。
とは言っても、スペは憤懣遣る方ないようで。
『もう怒った!僕は怒りましたよー!!』
外に向かって力一杯嘶くスペに、俺はその気力を調教やレースで発揮するよう諫めたのだった。
───グラスの怪我の件は、まだ言ってない。言っても意味が無いから。
朝日杯の後、痛みに震えていたけれど……あの時に骨折していたのか、それとも更に後に骨折したのかすら定かじゃないんだ。確か発覚したのは年明けから暫く経ってからの筈だったし。
だから、マル外が三冠路線を許可されようとされるまいと、グラスが出られない事をスペは知らない。そんな残酷な事は、知らない方が良いと思った。
あの時に、俺の能力を使えば。使っていればグラスは、骨折からのスランプを味わわずに済んだんじゃないのか?と思う事がある。
神から貰った2回の再生チート。使い方は感覚で分かる、ただ念じれば良い。他者に対しても使えるのかは定かじゃないけど、考えも無い訳じゃない。
でも、使わなかった。あの時はグラスに気圧されたからというのもあるけれど、何より長期的に考えて意味が無いからだ。
(調教師は愚かじゃない。骨折する前と後で、ちゃんと対策を練っている筈)
そしてそれは、実際グラスが2度目の骨折をしなかった結果にも表れている。だがここで俺が下手に治して、グラスの故障を調教師側が認知出来なかったら?
……故障が、繰り返される可能性があったんだ。少なくとも俺はそう判断した。だから使わなかった。
いや、違うな。俺はただ臆しただけだ。
たった2回の起死回生のチャンスを、使う事を躊躇った。その為にグラスの3歳春を犠牲にした。
これで親友?ライバル?
笑わせるなよ。
『………ああ、もう!』
また無意味な自虐に陥りそうになって、頭を壁に打ち付ける。衝撃ってのは本当に良い気つけ薬だ、痛みで頭を冷やしてくれるんだから。
今更悔やんで何になる。もう時計の針は進んでいるんだ、俺も進むしか無いだろ。
だったらせめて、アイツの春に見合うぐらいの成績は残してみせろ。
なぁ。やれるだろ、クロスクロウ…!
〜〜〜
それから数日後。いよいよ皐月賞を翌週に控えた頃合いって時分。
やる気満々満タン状態の俺は、今日はスペとは別の場所で調教されるらしく引き離された。そして連れて来られたのが、ウッドチップのコースな訳だが。
『…へぇ。貴方が俺の今日の相手か』
待ち受けていた、緑のメンコのお馬さん。なんつーか……この時点で気性難の匂いがするのは気のせいかね?
『なんだお前。失礼な事考えてるだろ』
『何の事かサッパリどすえ』
『そういうとこだよ!あんまり舐めた真似してると後悔するぞ、なんたって俺は……』
「おーい、そろそろ始めるぞー」
『あっ待て!まだ話さなきゃいけない事があるんだよ、離せぇっ!!』
あちゃー、こりゃ難儀しますよ騎手さんも。俺らは見習わないようにしような、生沿君!
「お前さぁ……」
『えっ何?』
「……いいや」
なんか呆れられた。解せぬ。
「よし行きまーす」
「ぁーい」
気の抜けたような、でもそれを皮切りに切り替わる空気。前の馬君が走り出し、俺も次いで。
ザクザクと地面を蹴り上げながら、進んでいく。
(……うーん?)
そんな中、後ろから眺めてて気付いた点が幾つか。前の馬君、まずポテンシャル自体はかなりの物だ。なんというか、走る時の筋肉の動き方が他の馬とは一線を画している。上手くやればGⅠ取れそう。
…でも、なぁ。
「あのっ、頼むから……」
『やだねっ!俺はこのやり方を貫くんだ!!』
気付いた点、2つ目。馬君、頭を下げない。
……いやあのさぁ。それじゃ折角の素質活かせんって!人間でも走る時には上体傾けるのに、馬で
そして、3つ目。これが……ああ、もう仕掛けなきゃいかん頃合いか。また後で。
『んじゃ生沿君、いっくよー』
「っ……。分かったよ、クロス」
ほな、かっ飛ばしますかぁ!
足の回転を一気に上げる。コレよコレ、視界に収めてた物をブチ抜くこの感覚よ!あぁ^〜クセになるんじゃ^〜!
……クセにはなるんだ、が。
『なっ……貴方、もう!?』
『お前さ』
あぁ、なんとなく分かったよグラス。お前が俺にキレた理由。
……勿体無くて、
だから、悪役になってみる事にした。グラスが俺にしてくれたように。
『そんなんじゃ、
抜かす。早めに、彼の前に出る。
次の瞬間、背後で怒気が膨れ上がった。
『ッ──舐めるな!!』
ゾッとするような気配だった、本当に。一瞬で差し返されそうになって、でも俺も意地だ。演じた役のつもりとはいえ、あんな大口叩いといて「はいそうですか」と抜かされちゃ沽券に関わる。必死で、並んだ。
そのまま、ゴール。
『はぁーっ、はあーっ……クソッ』
『ふひぃーー……いや、最後見違えたな』
『うるさい…結局、勝てなかった』
『どうだか。俺は全力じゃなかったし…君も、振り絞れたとは言えないでしょ』
『は?どういう意味だ』
俺はこんなに息が上がってるのに、って言いたげだな。まぁ分かるよ、俺が先行策してた時も同じ感じだったから。
今回、俺は後方から強引かつ早めに前に行った。つまりは中途半端な追い込みで、力を100%発揮できる状況とは言い難かった。そしてコレは、君にも同じ事が言えると思うんだわ。
『君、後ろから瞬発力を活かした方が性に合ってんじゃね?』
『……は?』
いやだって、途中で君の方が逆に後ろに控える展開になった瞬間、爆発したじゃん。多分差し型だよ君、それも俺みたいに極端じゃなくてもっと応用効くパターン。
『まぁ俺も所詮ニワカだから自分でも信用無いんだけど、後ろから追われる怖さってのはよく分かってるつもりなんで。一瞬で詰めてくる君は、怖かったよ』
『……』
『あと、首はもう少し下げた方が……』
『それはやだ』
『即答ゥ!』
力強い返答に思わず困惑。いやぁ、首上げに対する並々ならぬ情熱…俺じゃなきゃ汲み取れないね。まぁ今も分かってないけど。
『だって……頭が高い方が、広く見渡せて良いじゃないか』
『お、おう』
『それに、頭下げたら負けた気になって……やる気出ない』
……うーん。
う〜〜〜ん。
うぅぅぅぅぅん………
す ご く 分 か る っ !
あああ、ダメだぁ!いまのに共感し過ぎて説得する気が失せちまった!!
分かるよ、分かるよその気持ち!俺だって奥分さんの制止振り切って追い込みしたクチだからな。だから困った、これ以上忠告する権利その物が俺には無い!
でも、それはそれとして。
『その所為で負ける事になっても、後悔は…』
『無いよ。だってそれが俺の実力って事でしょ』
迷いの無い返答。瞳が、燃えているのが見えた。
『頭を下げないのが俺の走りだから。この走り方で、頂点を獲ってみせる。それで、証明するんだ』
この身に掛けられた期待が、血の価値が、正しいという事を。
そう言って、馬君は去っていく。その背を見送ってから、俺もまた帰路へと進んだ。
(……自分の走り、か)
俺の走りって何だろうか。
追い込みが一番適してるのは間違いない。けれど、なんだか本筋はそこじゃない気がする。先行の時に発揮出来なくて、追い込みだからこそ発揮出来た“何か”。それが、グラスに対する逆転の糸口になったんだ。
そこを外さなければ、なんなら追い込みでなくとも良い。常時発動できるようになれば、それこそ先行策でだって走れるだろう。奥分さんはその為に、俺を先行策に慣れさせようとしていたんだから。
考えろ。俺の走りを、その真髄を。
だから俺は、思考を止めない。それが人から転生した俺の、一番使うべき強みだから。
「何か教えてたのか、クロス」
『まぁ素人なりの意見を伝えてあげた感じやね』
「しかし、我が儘同士で波長が合ったのかな。キングヘイローとも仲良く出来そうで何よりだよ」
『それなら俺としても嬉しいなぁ……
………え??キングヘイロー???』