【Ep.18】文鳥!
朝日杯を勝ち。
皐月賞を獲り。
晴れてGⅠ2勝と相成ったクロスクロウ号。
しかし2度に渡る自分本位の走り、その代償は大きかった───。
【悲報】クロスクロウ、友達を失う【ぼっち】
うわーん!スペが話してくれなくなったよ〜!!くそっ、誰の所為だ?誰の仕業だ!?俺やな!閉廷!
「やかましいわ」
ごめん臼井氏。でもキツいんだよ、話し相手がいないのって。
どうしても、って頼み込んだらスペは応じてくれるだろうけどさぁ、アイツはアイツなりの覚悟があってこうしてる訳じゃん?邪魔したらイカンと、浅慮ながら思う訳ですよ。
という訳で、ちょっと付き合ってくださいまし。何話しても良いよ、なんせこっちは馬故に言いふらしようが無ぇんだからな!*1
「……お前の事、嫌いではなくなったんやけど。好きって訳でもないんよなぁ」
ガビーン!ちょ、今までの事は謝るから!謝るから1人にしないでクレメンス!*2
あああああん待ってぇぇぇぇぇ……
……行っちゃったぁ。独りだぁ。
『……しゃーね。イメトレしとこ』
暇が過ぎてヒマ娘になりそうな時はこれに限る。次のダービーに向けての物だから、距離は
もう流石に無くなってるだろうけど、まずはグリーンベルトがある場合を想定して逃げで行く。ゲートもスタートダッシュも全員失敗しない前提で設定。枠に入って321、ハイ。
『アーッアッ。クロスクロウ、クロスクロウ』
全員が好調に地を蹴った。さぁ、俺とスカイでハナの競り合い……いや、譲り合いか?多分ここでスカイなら譲ってくるだろうな。俺にとっての
東京競馬場、芝コースの第一コーナーから第二コーナーを回る。
向こう正面に差し掛かって……
『アーッ。クロスクロウ。デンゴン、デンゴン』
けど──抵抗する余裕は既に無かった。スタミナが、もう。
沈む。喧騒と情報の濁流に、飲まれる。
『オアッー?キケ、キケ。キケ!』
揉みくちゃにされ、擦り潰されていく。そして最終盤。後ろで、気配が炸裂した。
あぁ、スペ。
ダメだ。
こんな背中は見せられない。
こんな負け方。
あぁ───
『キケ、クロスクロウ‼︎キケーッ‼‼︎︎』
『やかましゃーっ!!!』
何だ何ださっきから喚きやがって!?良いところだったのに、いや良くはないか……いやでもあともう少しでイメージダービーを完走したってのに!
そんなイメトレを邪魔したお前はどこの馬の骨だってんだ?ツラ見せてみぃ、ドタマぶち抜いたるぞオイ!!
『ココ!ココ‼︎』
『ほほう、この期に及んで挑発たぁ生意気な…!』
どこだ!どこにいる!
『ココダッテバ!』
だからどこって聞いてんだよ!?どこ見回してもネズミ1匹いな……訂正、鳥が窓際に1羽しかいねぇじゃんか!
えっマジでどこ…?声は聞こえど姿は見えず。一周回ってその隠密技術に感心すらしてんだけど。
『カクレテナイ!ミエテル、ミエテル!』
『嘘乙、どこにも見えないゾ』
『アーッ!フシアナ!!』
コレもしや孤独が祟った幻聴じゃね?俺もとうとう気が狂ったか……
……や、待てよ。
オイまさか。
『ヤットワカッタ』
……お前?
『ウン』
1羽の、インコ。
えっ……マ!?
『やっぱ気が狂ったかぁ』
『デンゴン、デンゴン』
『ガボゴボゲボグボ』
『アエ!?シヌナ!シヌナ!』
頭を冷やすべく、水の入ったバケツに首を突っ込んだ。うーん、まだ聞こえてくるって事はどうやら現実らしいぞコレ。おい頭を
いやしかし……マジで何なんだコイツ。インコって馬語喋れたの?人間の言葉を再現できるとは聞いた事あるけど、馬の声帯までトレース出来るとはたまげたなぁ……。
『インコ、チガウ!ヨウム!ヨウムノマンボー!』
『何よりびっくりなのは反復じゃなくて普通に会話成立させてくる所なんだけど……うんうんはいはい、何の用だねオームドバンボー君』
『ヨウムノマンボ!グラスカラデンゴン、デンゴン!』
はぇー、伝言たぁ小器用な真似を。種類違うけど伝書鳩みてぇ。
って、え?グラス??
『お前今グラスっつった!?グラスワンダーの事か!?!!?』
『グラス、グラス!アメリトヨバレタ、オモイデ!』
こっ、コイツまじか?マジでグラスからの伝言を持って飛んで来たってのか!?美浦から、下手したらどことも知れぬ療養所から栗東まで!
グラスをアメリって呼んでたのは俺だけ、そしてそれを知ってるのもグラスだけだから、その情報を持ち出して来た以上はグラス本馬から教えられたの確実だし……
『アッ、イウゾーデンゴン』
『待って。心の準備をさせて』
落ち着けしクロスクロウ、これは策士ウンスの罠だ。誰が死せる孔明に走らされる仲達じゃ。このタイミングで来るって事はつまり、俺の伝言に対するアンサーだよな多分。良かった、ちゃんと届いたのか。
あっでも何か変な所が癇に障っちゃったりしてたら?焦るなよって言葉に「焦るな、と?私のレースへの思いを無礼るなよ」とグラスが激おこしてたら?今回の
うわーんごめんなさい!無理して欲しくないだけなんだよぉ!!
『ウルサイ』
『それはごめん』
『アーッ。コンナヘタレノドコガイインダカ』
うぐぐ、何も言い返せん。考え過ぎてどん詰まりになるのは俺の悪い癖だ。
覚悟を決めよう。グラスの言葉を、一言一句聞き漏らさないように……
『ハジメルゾー』
『おう』
コホン、と咳をして。
その鳥は、託された言の葉を紡ぎ出した。
拝啓、クロスクロウ様。
グラスワンダーです。本日はお日柄も良く……いえ、マンボがそちらにいつ頃着くかは分からないので、この使い方は間違いでしょうか?
朝日杯ではありがとうございました。クロに後ろから追われるのは本当にスリリングで、追いつかれまいと死力を振り絞れました。本当に、本当に楽しくて……だからこそ、今のこの状況が歯痒くて仕方がないです。
もう分かっているんですよね、ボクの怪我の事を。あの伝言は、そういう意味でしょう?
マドバさん──ボクに乗ってくれるヒトの事です──曰く、どうやら春は、走れないとの事でした。申し訳ありません、リベンジは先になりそうで、悔しい。
そして、それにボクが歯痒く思ってると先を読んで、あの言伝をセイさん越しに伝えてくれたんですよね?聞いた時の感想を、率直に言いますね。
余計なお世話です。
でも、ありがとうございます。
変ですよね。二つの感情が、ごちゃ混ぜになって渦巻いてるんです。
貴方の優しさが温かくて仕方がない。
ライバルに慈悲を掛けられて惨めで仕方が無い。
嬉しくて、もどかしくて。
だから、一つお願いします。
先に言っておくと、矛盾した願いです。自分勝手な、傲慢な願いです。
ボクなんて、待たないで。
ボクの為に、ボクを待たないで。
見くびらないで。
貴方が待つ必要なんて無い。ボクはボクの力で、先を行く貴方に追い付いてみせるから。そこにクロの手加減なんて要らない、欲しくない。
ボクの分まで、春の景色を走って。それを今度は、ボクの方が後ろから追いかけますから。
もう、負けませんから。クロにも、この怪我にも……!
『アーッ、アー。イジョウ、オワリ!』
『……そっ、か。ありがとな、ゴールドダンボ』
『アッー!!ヨウムノマンボー!』
ああ、よく分かった。こんなにも距離が離れてるのに、その心がすぐ近くにあるみたいに伝わってきた。
グラスは今も戦ってるんだ。ずっと、自分と!
『負けてらんねぇなぁ、オイ!』
『マンボニイワレテモ』
『そう釣れない事言うなよな。あっそうだ、グラスに伝言!“次も俺が勝つ”って頼むわ!』
『リョウカイ!』
『あとスカイにもありがとうって伝えてくれ!!』
『ワカッター!アーッ!!』
そう言って文鳥は羽ばたく。きっとコイツとは長い付き合いになるだろう、俺たちを繋ぐ架け橋の文鳥さんよ。
『またなヴァンド!道中気を付けろよー!』
『アッー、マンボダトイッテル!!クロスモゲンキデナー!』
空の彼方に消える翼。それを見送ってから、俺は瞳を閉じてイメトレを再開した。さっきよりも鮮明なイメージで、芝の景色が脳内に広がっていく。
(グラス、お前が追いかけるに相応しい背中でいてやるからな…!)
その為にも、ダービーを。
世代最強の称号を、この手に!!
『……そうですか。クロは、飽くまでグラスが欲しいんですね』
ちな作者は、クロのテーマ曲を仮面ライダークローズ主題歌の「CROSS」
そして凱旋門賞のライブ曲をまどマギ主題歌の「コネクト(メタルアレンジ)」
と仮定して聞きながら執筆しております