また君と、今度はずっと   作:スターク(元:はぎほぎ)

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男装スカイがヤバ過ぎる、性癖

-追記 2022/3/27 10:50-

アンケートですが、投稿してから“ファイナルアンサー”という競走馬が実在すると分かり
「アカン直球のイメ損や!!」
となったので、アンケートをやり直しました。投票して下さった方々、誠に申し訳ありません
やり直す前にスクショで票数は撮ったので、それも踏まえて再集計させて頂きます


【Ep.22】雄馬!

……終わった。

 

俺のダービーが、終わった。

もう、周りに馬はいないな。うん。

ああ。

 

 

(……キツい)

「っ、クロス!?」

 

地下場道に入って、ウイニングランをしてるスペの姿が見えなくなったところで……限界がきた。付き添いのきゅーむいんさんがいない方向、左によれて壁に体重をあずけた。なにかを察していた奥分さんが、あらかじめ降りててくれたおかげで、なにも気にせず寄りかかれたのが幸いかな?

あつい。体があつくてしかたがない。血が、からだの中で煮えてるみてぇだや。あんまり上手くいったもんだから、走りすぎたのかも。

あんまりだ。

 

「この症状、まさか熱中症……!奥分さん、クロス号を寝かせて!誰か、水!水道に繋いだホースの用意を!!」

「そんな……今まで隠してたのか!?なんで我慢したんだ、クロス!!!」

 

なんでって、そりゃ心配かけたくないからだよ。スペの晴れぶたいをじゃましたくなかったし、むねはって帰りたかったんだ。こんなんじゃ、台なしだけどさ。

 

「いい、いいんだクロス!無理に首を上げるな!おい、水はまだか!?」

「今引いてきました!!」

 

あっ、つめたい。打ちつけられる水が、ねつをうばっていく。

きもちいい……。

 

「体温は?」

「触診ではマシになったかも……でも、念の為水を掛け続けましょう。奥にはまだ熱が篭っていますから」

「……すみません。騎手である私の落ち度です」

「それを言うなら、付き添っていた厩務員である私の責任ですよ。それに自己弁護するわけじゃありませんけど、直前まで素振りを全く見せてませんでしたし……」

 

なんでか、目まいや耳なりすら通りこして、かんかくがするどくなって。なのに意しきは遠ざかっていくから、こわくてしかたがなかった。でも、今はもうマシ。まだ立てないけど。

 

あれっ。なんか聴きなれた足音だ。だれ?

 

「宮崎さん……臼井さん」

「大変な事になっとるようやな。容態は?」

「熱中症ですが、徐々に回復してはいます。先程よりも反応は良好です」

 

ああ、そのおふたかたかぁ。じゃ、ねてる訳にもいかんね。

 

「クロス……!?」

 

奥分さん、いーの。ちょっと、どいてて。

足がくずれそうになるけど、がまんだ。まだ俺はいけるって、見せなきゃ。

ふるえてでも、立ちあがらなきゃ。

 

「……ご苦労だったな。クロスクロウ」

 

よお、馬主のおっさん。ごめんな、三冠とれなかったよ。

でもまだだ。俺はまだはしりたい。スペにリベンジしたいし、グラスとのやくそくだって残ってるんだ。

俺はまだいけるから。たのむから、まだはしらせてくれよ。チャンスをくれよ、なぁ。

 

じっと、おっさんを見つめた。つたわって欲しい。たのむ。

 

「……」

 

てつめんぴ、だったっけ。おっさんのかおから、いつも通り内心はよめないとおもった。

おもって、いた。

 

「……これからも、頼むぞ」

 

え?

今、わらった?

でもそれを確認するまえに、おっさんは背をむけて歩いていってしまって。きんちょうが切れた俺は、ヘナヘナとその場にすわり込んでしまった。

えぇと……OK、なのかな?

 

「臼井さん、宮崎さんは……」

「さっきちょっと色々あったんや。今はとにかくクロスの処置やな」

「は、はい!」

「……すみません」

「ええんや奥分さん。アンタはようやってくれた」

 

訳がわからん。でも、ひとまずチャンスをもらえたようで。

報いなきゃなと、そうおもった。

 

 

 

 


 

 

 

スペシャルが、勇鷹がクロスを打ち破った時。俺は関係者席で、あらん限りの快哉を叫んだ。

 

「っしゃオルァ!!!」

「臼井さん、自重!自重!!隣に宮崎さんいます!」

 

あぁ?知るかいなンなモン。今喜ばず、いつ喜ぶっていうんや?

自分の調教した馬がダービーを制したんやぞ!?

 

「いやそうじゃなくて!宮崎さん、凹んでますから!!」

「はァ〜〜???あんな図太い奴がそう簡単に、」

 

隣を見た。

真っ青。

 

 

……えっ?

 

「お、おい。宮崎、どないしたんや」

「……」

「便秘か?」

「…………」

 

し………死んどる!!*1

 

って何やこの変わりようは!?いつもの分厚い面の皮はどないした、削れ切って骨まで見えそうなぐらい真っ青やんけ!

えっマジか?クラシックGⅠとはいえ、ダービー獲れんかっただけでそないにショック受ける普通?いやショックなのは事実やろうけど死にそうなレベルで?

 

「三冠を目指してるって最初から言ってたじゃないですか!それを阻まれちゃったから……」

「けけけ競馬ってそういうモンやろがい!そら確かにスペシャルの方にこそ期待してたけど、クロスの調教に手は抜いてへんと胸張って言えるし、そもそもスペシャルしか入れるつもり無い所に無理やりねじ込んで来たんは宮崎の方や!ワイは悪うない!悪くあらへん!!」

「最終的に判を押したの誰ですか!?」

 

ぐっ、ぐぐぐっ…!ええいしゃーない、怨敵とはいえ確かにここで何もせんのは流石に後味悪いしな。

 

「なぁ宮崎、悪かったって。飴ちゃんやるから機嫌直して、な?」

「………」

「えっ舐めてます?」

「スマンな、馬はともかく人を慰めるのは経験少ないんや。あー、その、アレや。次があるて、菊花賞!」

「嘘だろ……こんな人が上司なのかよ……しかも奥分さんがクロスの適性距離は中距離までって言ってたじゃないですか、忘れたんですか!?」

「ええい黙っとれ!頼むから!!」

 

「……自信が、あった」

 

そんな中、ポツリと溢れた声。発生源は、宮崎。

カッサカサになった唇から漏れたそれに、今までの不遜な重厚さは微塵もあらへん。

 

「栄光を手に入れ、市井に名を馳せると……クロスクロウにはそれだけの力があると、思っていた」

「それは……果たされとるやろ。今じゃ勝っても負けても大ニュースやぞ、アイツ」

「だが、家族からの反応は無い」

 

家族。そうか、コイツがクロスを買った理由は確か……。

 

「クロスクロウが名を馳せれば。妻が、娘が、もう一度私を見つけてくれると。信じていた」

「それ、は」

「でも……朝刊に載るようになってからでさえ、音沙汰が無い」

 

話してる最中にも、どんどん血の気が失せていく顔。以前羅生だと思っていたそれは、今では骸のように。

嘘やろ。お前、そんなモン賭けとったんか。

 

「それで三冠を逃したのなら……もう、ダメだ。クロスクロウでは、取り戻せない」

「ま、まだそうと決まった訳ちゃうやろ!ここで投げ出す気か!?」

 

席を立って、出口に向かって歩き出そうとした宮崎の前に立ちはだかる。やけど、奴は意に介さず横を素通りして行った。

こ、コイツ……!

 

「ここまで巻き込んどいて、それは無いやろ!」

「貴方にはスペシャルウィークがいるだろう」

「ふざけんな!確かにスペシャルの方が好きやけど、今となってはクロスにも惹かれてしもうとるんやお前の所為で!!」

 

本音や。誓って嘘やない。クロスの力を認めてるからこそ、コイツの走り方を日夜研究したし、それに合わせたトレーニングを課してきた。自分で言うのもなんやけど、今日のレース前の馬体の充実にもそれが現れてたと思うとる。

そこまでさせといて、今更降りるなんて許さへんぞ…!

 

そう睨みつけても尚、届かない。

 

「今すぐ決めるわけじゃないさ…ただ、そうだな。ちょっと……考える時間を、くれ」

「………っ」

 

アカン。止められへん。

出口のドアに手をかける。一度でてしまえば、アイツは二度と帰って来ぉへんやろな。この関係者席にも、トレセンの事務室にも、それどころか競馬関係の場所そのものに。

前までは喜ばしかったそれを、俺は今では止めるべきやと思うとるなんて。皮肉が過ぎるやろ、オイ。

 

「宮ざ……!」

 

肩へと手を伸ばした、その瞬間。

 

 

「あの、すみません。お客さんです」

 

開くドア。やったのは宮崎やない。

外側から手を掛けた、ペーペーの生沿やった。

 

「あ、宮崎さん。その…どうも」

「……生沿君か。クロスクロウについてだが……」

「おい新人、ちょうどええとこに来た」

「えっ何ですか?」

 

これは渡りに船や。宮崎が見染めたもう1人の存在であるお前なら……!

 

「宮崎は馬主稼業から退くつもりや。説得するぞ」

「ファッ!?ええっ、じゃあ僕の主戦契約はどうなるんですか!今必死で勝ち数稼いでる所なんすよぉ?!」

「……まぁ、追々考えるよ」

「そんなんで済むかいな。まだ不利益はあるぞ、この場で話し合わんとどうにもならんわ」

 

よーしこの調子や。ひとまず押し留めて、交渉のテーブルに物理的につかせるぞ。

 

「……後日で良いだろう」

「ちょちょちょええええええ」

 

ってアカーン!生沿を無理に押し退けてでも出て行こうとしよる!?

待てやこのバk…うおっ、引っ張ってもビクともせん!何やコイツ、スーツの下にどういう筋肉隠しとるんや!

 

「う、臼井さん!俺も手伝います!!」

「判断が30秒は遅いんじゃワレ!生沿も気合入れろォ!」

「もう限界っすぅぅぅ!?」

 

助手が加勢しての3人がかりでも引き摺られてく!たった1人に負ける訳無いやろええ加減にせぇ!!

え、負けんの?マジで?

 

そんな進撃の宮崎*2が唐突に終わりを迎えたんは、ある一声によってやった。

 

 

「何ですか、今の話は」

 

 

野郎どものきったない声とはかけ離れた、鈴みたいに幼げなそれは、混沌とした関係者室に鳴り渡る。それを聞いた瞬間、宮崎は動くのをやめる。

 

「ちょっ、美鶴さん!少し待ってて、今見ての通り立て込んでるので」

「……みつる、だと?」

「誰やそれは」

「さっき言ってた“お客様”っs、ちょわぁ!?」

 

何やら紹介しようとした生沿を押し除け、その背後から姿を現したのは……なんや、中坊のガキ?

せやけどその時、宮崎の雰囲気が変わったのが背中越しに感じ取れた。知り合い、なんか…?

 

「馬主やめるって……そんな事したら、クロスクロウはどうなるの」

「美鶴、お前、お前……!」

「このっ……クソ親父ぃ!!」

 

そう言ってガキから飛び出したのは、グー。

 

 

……えっ、グー!?

 

「へぶう!」

「「どわーっ!?」」

 

さっきの重厚な戦車ムーヴはどこへやら、呆気なく吹っ飛ばされた宮崎の五体に巻き込まれて俺と助手は下敷き。ど、どけ!呼吸止まるわ!!重っ!?

しかしそんな俺らに構う事無く、小娘は尚も捲し立てよった。

 

「折角、勇気振り絞ってお祖父ちゃん達も説得して来たのに!私達を散々振り回した挙句、今度は馬!?使い捨てるのはそんなに気持ちがいい?ねぇ教えてよ!!」

「あばばばば」

「うげぇ」

 

それだけやない、なんと俺らの上にのし掛かったままの宮崎にさらに馬乗りになって、首根っこをガクガク揺さぶっとる!おま、今も苦しんどる俺らは度外視か?!

オイ生沿!見てないで助けぇ!!

 

(いやぁ無理っす。美鶴ちゃんの覇王色の覇気でとてもじゃないけど接近出来ないっす)

(ええいトーシロはこれだから使い物にならん!)

 

視線で会話して、救助は来ないと判断。その間にも、宮崎の娘(仮定)は宮崎に口撃を続けとったようで。

 

「責任ぐらい最後まで取ってよ!手放すな!!手放されて寂しかったから、クロスクロウを使ってまで私を()()()()()んでしょ!!!」

「……!」

 

頭の上で、宮崎が瞠目した気配。なんだか知らんが、今の言葉がよっぽど効いたらしい。

と同時に、小娘の方もようやく現状を把握したらしく。

 

「………あ。す、すみません!押し潰されてる……調教師さん?父がご迷惑を………」

 

うん。今迷惑かけたん君やけどな。なんなら俺より、俺の更に下敷きになってた助手の方が虫の息やけどな。

でもまぁ……ええわ。今ので宮崎の雰囲気が変わったから。

 

「娘さんの言う通りや。一度手ェ出したんなら、終わりまで見届けぇや」

「臼井、」

()()()()なら、そうしたで」

「!」

 

トドメの1発。奥分騎手との対談の折、お前があの人を引き合いに出されたら弱いのは分かっとるんやでこちとら。

 

「……そう、か。最後まで、か」

 

宮崎の全身から力が抜ける。よし、勝った。

……って待てや!どけ!力抜いたから余計重い!!死ぬ!!!

 

 

急報が飛び込んできたのは、そんな折。

 

 

「臼井調教師!おられますか?」

「おるよ」

「どこですか!?」

「馬主の下やぁ」

「はぁ?!プロレスしてる場合ですか、クロスクロウ号が大変です!!」

「何やと!!?」

「………!」

 

駆け込んで来た東京競馬場(ここ)の役員の言葉に、その場の全員がピシリと凍りつく。一番最初に動きだしたんは俺。

そして2番手は、意外にも。

 

「……っ、美鶴!少し待っててくれ!!」

「えっ…」

「なっ、宮崎!?ええい生沿、嬢さんを頼むわ!」

「僕も行きたいんすけど!?」

「さっき救出を諦めたツケや!今払え!!」

 

そうして駆け出した俺は、先を走る宮崎の背を見つめた。先ほどまでと違い、活力を湛えたその背中が秘める内心に、思案を馳せながら。

 

 

 

 

 

 

 

「ってのが、さっき起こった事や」

「だから太り気味だった腹が凹んでるんですね」

「圧縮ダイエットやなガハハ、ってやかましいわ!死ぬかと思ったんやぞ冗談抜きに!!」

『草。本場の大阪人のノリツッコミ面白過ぎ問題』

「お前いま笑ったな?その心笑っとるな?」

『何で分かったし……しかし宮崎のおっさん、そういう事情があったんね。こりゃ頑張ってやらにゃなりませんな、うむうむ』

「快復した側からまた変に気負って……クロス号の前で言うべきじゃなかったかもなぁ」

「……大丈夫だろうか」

『奥分さん?』

「ああいや、良いんだクロス。レース結果はともかく、概ね私の望む通りになった……と、思うから」

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

彼は、立っていた。

やせ我慢であるのは傍目から見ても明らかだった。なのにクロスクロウは、私が近付いた瞬間に立ち上がったのだ。

黒い毛の下で熱せられた体が、水を浴びて湯気を立たせる。白い気を纏い仁王立ちする姿は、まるで修羅のそれで。

「俺はまだやれる」と。睨む瞳が、そう告げているような気がした。

 

実の事を言うと。美鶴が来てくれた時点で、目的は達せられたのだ。だから必然、寧ろクロスを走らせる意味は今の俺にはないと言えた。

だが、思い出されるのは他ならぬ美鶴の言葉。責任を最後まで取れという、警句。

ああ、そうだな。

お前には恩がある。今度は私が返そう。

 

 

気の済むまで走れ。走り切ってくれ、クロスクロウ。

宮崎雄馬を。私を、この道に引き摺り戻した名馬よ。

*1
死んでない

*2
逆ゥ!




クロが「ぴょいっと♪はれるや!」でソロパート貰うとしたらどこになるのかな
妄想は出来るけど、配信が禁止されてるから該当する歌詞部分を書けないでござるよ!(悲嘆)

読んでみたい短編は(やり直し)

  • ノイジースズカとママグルーヴ
  • ワンダーアゲインの初恋。そして失恋
  • ラストアンサー、それは無意味な駄馬

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