『アーッ、アー!デンゴン、デンゴン!!』
『イェアアアア鳥が喋ったアアアア!!?』
『あっビンボ』
『イイカゲンニシロ!ヨウムノマンボー!!』
グラスペと3頭で過ごしていたある日の事。インコのマンボ君にビビり散らしたスペの絶叫で、その1日は始まった。久しぶりー。
『アッー。グラスモ、クロスモ、ゲンキソウ。ヨカッタ』
『ご機嫌よう、マンボ君。エルは元気ですか』
『ゲンキゲンキ、エルゲンキ。ヨウケン、ソノデンゴン!』
あーそっか、グラスも知ってたなそういや。インコなのに伝書鳩みてぇに頑張ってくれて、こちらとしちゃ感謝の限r……
え、マンボ?
『こいつ、マンボなの?』
『?マンボ君ですが』
『サイショカラソーイッテル』
『……エルコンドルパサーとどんな関係?』
『トモダチ!』
………。
ファー。
ファッ!?
『エルコンドルパサーのマンボォ!?』
『あの、名前なんてこの際どうでも良いじゃないですか!鳥が僕達の言葉を喋ってるんですよ、そこ気にならないんですか!?』
『それどころじゃねぇんだよスペ!!』
『いやまず気にするべき所そこでしょ?!』
『スペさんがマンボの事を知らないのはともかく、そもそもクロはいつエルの事を……?』
えっ、え!!ゑゑゑゑゑ!?!!?マンボって実在したの?ハァ!?!ていうかコンドルどころか鷹ですらねぇじゃねぇか!!!
『エル、マヨッテタマンボ、タスケテクレタ!アッタメテクレタカラ、スキ!』
『お、おう』
『ソシテエルカラデンゴン!!!“ツヨイウマ、イタデェス!!”』
『強い馬…あっ、偵察でレースを見てくれてたんですね』
『もう二頭とも鳥と意思疎通できる事に疑問は抱かないんだね……』
偵察?とグラスに聞くと『ニンゲン達が慌ただしくなると大きなレースの前兆です。そんな時、エルはマンボ君に頼んで大きなレースを偵察して貰うんです』との事。とんでもねぇ情報屋を味方につけたもんだな美浦……!
『アーッ!スゴイウマ!!セカイキュウ!!!』
『『『!!!』』』
世界級。この前俺が“世界”を口にした所為もあって、その言葉が出た瞬間に3頭揃って空気が変わる。
世界級。レースにいた誰かが、そう言ったのだろうか?
『ローゼンカバリー、ミッドナイトベット、カナワナカッタ‼︎』
『あのお
……だ……誰だ…!?*1
分からん、美浦の方の馬はマジで黄金世代以外把握してないんだよ!知ってる名前をあともう一つ二つ頼むわマンボ!!
『エアグルーヴ、ステイゴールドモトドカナイ!!ツヨイ、ツヨイ!』
『……エアグルーヴさん!?僕、この前併せて貰いましたけど彼女まで……!』
と思ったら知ってる名前が出て来て、同時にスペも慄いた。ホいつの間に……だなんて言ってる場合じゃねぇ。
この時期にエアグルーヴが負けるって、お前それは……!
『ニゲ、ニゲ、オオニゲ!オイツケナイ!!』
『逃げ……?誰なんですか、それは』
『……カ』
『クロ?』
心当たりしか無い。
初夏の大一番、宝塚記念。
そこでエアグルーヴを破った、最速の機能美。
『サイレンススズカだろ。なぁ、ビンゴ』
『アーッ、ソノトオr……ッテチガウー!ヨウムノマンボー!!』
あの夢を見てから、ひと月ほど経っただろうか。
あの黒鹿毛の若馬君は、ユタカさんに勝利をあげられたのだろうか。
いや、心配するまでも無い。だってあの後に会ったユタカさんは、とても機嫌が良さそうだったから。
だからこそ……残念だなぁ。
《しかしサイレンス、サイレンス!外からエアグルーヴ、外からエアグルーヴが差を詰める!!ステイゴールド ステイゴールド!》
今日の私は、ユタカさんから勝利を
『スズカァーッ!!!』
エアグルーヴの声。でも、去年は後ろから聞く事しか出来なかったそれは、今では後ろから響くのみで。
ああ、これだ。
全ての音を置き去りにした景色。
世界が変わる。今は乗ってないユタカさんの手綱捌きを思い出しながら、朝焼けに染まる草原に降り立った。
走る。走りたいから、走る。
地平線に満ちた光の、更にその先へ───!
《さぁ先頭はサイレンス!サイレンススズカ!サイレンススズカ逃げ切ったーーー!!》
ああ、終わっちゃった。もっと走っていたかったのに。
『……くっ。見違えたな、スズカ』
『去年のお返しだよ。でも良いね、この感覚』
『言うようになって……だが実際、良いだろう』
うん、凄く良い。ニンゲン達の、声が。
「「「わぁぁああああ──!!」」」
地面も揺れてしまうかのような大歓声。今までは五月蝿いとしか思わなかったのに……今ではこんなにも、心地いいだなんて。
「いやぁ、やられましたよ。まさか中盤に溜めてくるとは」
「すみませんね。ススズのGⅠ初勝利、貰っちゃいました」
「言わないで下さいよ、かなり悔しいんですから………でも、良かったなぁスズカ」
頭上でユタカさん達が話してると、微笑みかけられた。ありがとうユタカさん。次はきっと、あなたを乗せてあの景色とこの歓声を……
……ん?どうしたのエアグルーヴ、私の顔をじっと見つめて。
『いや…暫く見ない間に、本当に精悍な顔付きになったなと』
『……そんな事無いと思うけど。大丈夫?目をニンゲンに治してもらったら?』
『お前さては調子に乗ってるな……!?』
あはは、ごめん。どうにもこの興奮は冷めなくて、行き場を失ってるんだもの。
そんな風に落ち着きの無い私に呆れたのか、エアグルーヴは目を逸らして溜息。でも妙に居心地悪そうにしてる理由は分からない。顔も若干赤く見えるけど、熱……?
『全く。ひと回り大きくなったかと思えば、やはりお前は変わらんな』
『ううん、変わってるよ。前よりも絶対に強くなってるもの』
『だったらまた私に勝ってみせるが良い。そうすれば
『ハク?』
『いずれ知る事になる……では、また』
『う、うん。またね、エアグルーヴ』
そう言って彼女は背を向ける。でもその去り際、もう一度振り返って一言だけ。
『勝てよスズカ。お前が
『え?』
『……なんでもない』
それが、本当に最後の会話。なんだか妙に寂しく感じて、呼び止めようとして──ギリギリの所で押し止める。
なんにも怖がる事なんて無い筈だ。だって、私もエアグルーヴもまだ走れるんだから。走れる限り、絶対にまた会えるんだから。
その筈なのに。
この不安は、何?
そうだよ。今は1998年じゃないか。
サイレンススズカが覚醒した年だって、なんで今まで気付かなかった?俺のバカが。頭悪過ぎんだろ、このバカ。
『クロさん?』
腹が立つ、腹が立つ、腹が立つ。
何が腹立たしいって、自分の事しか考えてなかった事を今更自覚したから。本当に自分勝手だな、俺!
『クロー?』
転生?記憶保持?寿命?
それどころじゃねぇだろ。
くそっ、考えろ。遅いかも知れない、手遅れかも知れない、でも思考を止めるな!それが人間の知能を持ったまま馬になった俺の、唯一の取り柄だろうが!
秋天まであと何日だ?菊花賞とか考えてる場合じゃねぇ、頼みのチート能力だってまだ未使用な以上は確証も糞も無い。そんな現状で出来る事を……!
『クロスクロー?アー、ドシター』
『えーと。グラス、マンボ。ちょっと首引っ込めて』
『あっはい』
つってもどうすりゃ良いんだ。史実じゃ、ススズ陣営にも拓騎手にも原因が分からなかったんだぞ。大逃げの負担ってのは予想付くけどそれも確定じゃないし。
どうする、どうする、どうする。そもそも俺とスズカに接触の機会があるかも分からないのに、どうすれば───
バシャァッ
『ちょっ!?』
『アーッ!』
……はぇ?
頭にぶっかけられた冷たい何か。水?一体どこから……
『落ち着きましたか、クロ?』
『……スペ。お前か?』
『見たら分かるでしょう』
隣を見ると、飲み水の入ったバケツを食んでこっちを見るスペの顔。えっ、その……
いや、助かった。
『すまんな、一人で熱くなってた』
『クロってそういう所あるよねぇ。一人で考え込んじゃってさ。ね、グラス』
『えっ。そうなんですか?』
『……!やったぁ、グラスにクロの事で勝った!』
『ぐぬぬぬぬ……不覚です』
二頭の仲が良いのは喜ばしいけど、今考えるべきはそこじゃない。今俺は、俺の手には余る問題に直面してて、それを前に独りで手をこまねいている状態だった。
このままじゃドン詰まり。単独じゃ多分、ここから先の結論は出ない……
………頼って、みるか。
『なぁ、スペ。グラス。頼み事がある』
『っ、何ですか!?』
『わぁい頼ってくれた!それを待ってたんだよ!!』
『ぅゎ食い気味』
でもそれも今はありがたいや。頼もしい友に恵まれたな、俺は…!
『サイレンススズカに負けない為の、追い縋る為の特訓をしたい。力を貸してくれ!』
『『はい!!』』
『アーッ!カヤノソト!!』
天皇賞・秋まで、長く見積もっても4ヶ月。俺たちはここで、出来る限りのベストを尽くす。
いつか誰かが俺に言ってくれた、“後悔を残すような選択”をしない為に。