また君と、今度はずっと   作:スターク(元:はぎほぎ)

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拙作時空のワンダーアゲインは1996生まれです(唐突な史実乖離)


【Ep.25】静鈴!

『アーッ、アー!デンゴン、デンゴン!!』

『イェアアアア鳥が喋ったアアアア!!?』

『あっビンボ』

『イイカゲンニシロ!ヨウムノマンボー!!』

 

グラスペと3頭で過ごしていたある日の事。インコのマンボ君にビビり散らしたスペの絶叫で、その1日は始まった。久しぶりー。

 

『アッー。グラスモ、クロスモ、ゲンキソウ。ヨカッタ』

『ご機嫌よう、マンボ君。エルは元気ですか』

『ゲンキゲンキ、エルゲンキ。ヨウケン、ソノデンゴン!』

 

あーそっか、グラスも知ってたなそういや。インコなのに伝書鳩みてぇに頑張ってくれて、こちらとしちゃ感謝の限r……

 

 

え、マンボ?

 

 

『こいつ、マンボなの?』

『?マンボ君ですが』

『サイショカラソーイッテル』

『……エルコンドルパサーとどんな関係?』

『トモダチ!』

 

………。

 

ファー。

 

ファッ!?

 

『エルコンドルパサーのマンボォ!?』

『あの、名前なんてこの際どうでも良いじゃないですか!鳥が僕達の言葉を喋ってるんですよ、そこ気にならないんですか!?』

『それどころじゃねぇんだよスペ!!』

『いやまず気にするべき所そこでしょ?!』

『スペさんがマンボの事を知らないのはともかく、そもそもクロはいつエルの事を……?』

 

えっ、え!!ゑゑゑゑゑ!?!!?マンボって実在したの?ハァ!?!ていうかコンドルどころか鷹ですらねぇじゃねぇか!!!

 

『エル、マヨッテタマンボ、タスケテクレタ!アッタメテクレタカラ、スキ!』

『お、おう』

『ソシテエルカラデンゴン!!!“ツヨイウマ、イタデェス!!”』

『強い馬…あっ、偵察でレースを見てくれてたんですね』

『もう二頭とも鳥と意思疎通できる事に疑問は抱かないんだね……』

 

偵察?とグラスに聞くと『ニンゲン達が慌ただしくなると大きなレースの前兆です。そんな時、エルはマンボ君に頼んで大きなレースを偵察して貰うんです』との事。とんでもねぇ情報屋を味方につけたもんだな美浦……!

 

『アーッ!スゴイウマ!!セカイキュウ!!!』

『『『!!!』』』

 

世界級。この前俺が“世界”を口にした所為もあって、その言葉が出た瞬間に3頭揃って空気が変わる。

世界級。レースにいた誰かが、そう言ったのだろうか?

 

『ローゼンカバリー、ミッドナイトベット、カナワナカッタ‼︎』

『あのお二頭(ふたり)が…!?』

 

……だ……誰だ…!?*1

分からん、美浦の方の馬はマジで黄金世代以外把握してないんだよ!知ってる名前をあともう一つ二つ頼むわマンボ!!

 

『エアグルーヴ、ステイゴールドモトドカナイ!!ツヨイ、ツヨイ!』

『……エアグルーヴさん!?僕、この前併せて貰いましたけど彼女まで……!』

 

と思ったら知ってる名前が出て来て、同時にスペも慄いた。ホいつの間に……だなんて言ってる場合じゃねぇ。

この時期にエアグルーヴが負けるって、お前それは……!

 

『ニゲ、ニゲ、オオニゲ!オイツケナイ!!』

『逃げ……?誰なんですか、それは』

『……カ』

『クロ?』

 

心当たりしか無い。

初夏の大一番、宝塚記念。

そこでエアグルーヴを破った、最速の機能美。

 

サイレンススズカだろ。なぁ、ビンゴ』

『アーッ、ソノトオr……ッテチガウー!ヨウムノマンボー!!』

 

 

 

 


 

 

 

 

あの夢を見てから、ひと月ほど経っただろうか。

あの黒鹿毛の若馬君は、ユタカさんに勝利をあげられたのだろうか。

いや、心配するまでも無い。だってあの後に会ったユタカさんは、とても機嫌が良さそうだったから。

 

だからこそ……残念だなぁ。

 

《しかしサイレンス、サイレンス!外からエアグルーヴ、外からエアグルーヴが差を詰める!!ステイゴールド ステイゴールド!》

 

今日の私は、ユタカさんから勝利を()()()だから。

 

『スズカァーッ!!!』

 

エアグルーヴの声。でも、去年は後ろから聞く事しか出来なかったそれは、今では後ろから響くのみで。

ああ、これだ。

全ての音を置き去りにした景色。

 

 

世界が変わる。今は乗ってないユタカさんの手綱捌きを思い出しながら、朝焼けに染まる草原に降り立った。

走る。走りたいから、走る。

 

地平線に満ちた光の、更にその先へ───!

 

 

《さぁ先頭はサイレンス!サイレンススズカ!サイレンススズカ逃げ切ったーーー!!》

 

 

ああ、終わっちゃった。もっと走っていたかったのに。

 

『……くっ。見違えたな、スズカ』

『去年のお返しだよ。でも良いね、この感覚』

『言うようになって……だが実際、良いだろう』

 

うん、凄く良い。ニンゲン達の、声が。

 

「「「わぁぁああああ──!!」」」

 

地面も揺れてしまうかのような大歓声。今までは五月蝿いとしか思わなかったのに……今ではこんなにも、心地いいだなんて。

 

「いやぁ、やられましたよ。まさか中盤に溜めてくるとは」

「すみませんね。ススズのGⅠ初勝利、貰っちゃいました」

「言わないで下さいよ、かなり悔しいんですから………でも、良かったなぁスズカ」

 

頭上でユタカさん達が話してると、微笑みかけられた。ありがとうユタカさん。次はきっと、あなたを乗せてあの景色とこの歓声を……

 

……ん?どうしたのエアグルーヴ、私の顔をじっと見つめて。

 

『いや…暫く見ない間に、本当に精悍な顔付きになったなと』

『……そんな事無いと思うけど。大丈夫?目をニンゲンに治してもらったら?』

『お前さては調子に乗ってるな……!?』

 

あはは、ごめん。どうにもこの興奮は冷めなくて、行き場を失ってるんだもの。

そんな風に落ち着きの無い私に呆れたのか、エアグルーヴは目を逸らして溜息。でも妙に居心地悪そうにしてる理由は分からない。顔も若干赤く見えるけど、熱……?

 

『全く。ひと回り大きくなったかと思えば、やはりお前は変わらんな』

『ううん、変わってるよ。前よりも絶対に強くなってるもの』

『だったらまた私に勝ってみせるが良い。そうすれば()も付くだろうさ』

『ハク?』

『いずれ知る事になる……では、また』

『う、うん。またね、エアグルーヴ』

 

そう言って彼女は背を向ける。でもその去り際、もう一度振り返って一言だけ。

 

『勝てよスズカ。お前が()()というのなら、私は……』

『え?』

『……なんでもない』

 

それが、本当に最後の会話。なんだか妙に寂しく感じて、呼び止めようとして──ギリギリの所で押し止める。

なんにも怖がる事なんて無い筈だ。だって、私もエアグルーヴもまだ走れるんだから。走れる限り、絶対にまた会えるんだから。

 

 

 

その筈なのに。

この不安は、何?

 

 

 


 

 

 

そうだよ。今は1998年じゃないか。

サイレンススズカが覚醒した年だって、なんで今まで気付かなかった?俺のバカが。頭悪過ぎんだろ、このバカ。

 

『クロさん?』

 

腹が立つ、腹が立つ、腹が立つ。

何が腹立たしいって、自分の事しか考えてなかった事を今更自覚したから。本当に自分勝手だな、俺!

 

『クロー?』

 

転生?記憶保持?寿命?

それどころじゃねぇだろ。

 

() () () () だ ろ う が ! !

 

くそっ、考えろ。遅いかも知れない、手遅れかも知れない、でも思考を止めるな!それが人間の知能を持ったまま馬になった俺の、唯一の取り柄だろうが!

秋天まであと何日だ?菊花賞とか考えてる場合じゃねぇ、頼みのチート能力だってまだ未使用な以上は確証も糞も無い。そんな現状で出来る事を……!

 

『クロスクロー?アー、ドシター』

『えーと。グラス、マンボ。ちょっと首引っ込めて』

『あっはい』

 

つってもどうすりゃ良いんだ。史実じゃ、ススズ陣営にも拓騎手にも原因が分からなかったんだぞ。大逃げの負担ってのは予想付くけどそれも確定じゃないし。

どうする、どうする、どうする。そもそも俺とスズカに接触の機会があるかも分からないのに、どうすれば───

 

 

バシャァッ

 

 

『ちょっ!?』

『アーッ!』

 

……はぇ?

頭にぶっかけられた冷たい何か。水?一体どこから……

 

『落ち着きましたか、クロ?』

『……スペ。お前か?』

『見たら分かるでしょう』

 

隣を見ると、飲み水の入ったバケツを食んでこっちを見るスペの顔。えっ、その……

 

いや、助かった。

 

『すまんな、一人で熱くなってた』

『クロってそういう所あるよねぇ。一人で考え込んじゃってさ。ね、グラス』

『えっ。そうなんですか?』

『……!やったぁ、グラスにクロの事で勝った!』

『ぐぬぬぬぬ……不覚です』

 

二頭の仲が良いのは喜ばしいけど、今考えるべきはそこじゃない。今俺は、俺の手には余る問題に直面してて、それを前に独りで手をこまねいている状態だった。

このままじゃドン詰まり。単独じゃ多分、ここから先の結論は出ない……

 

………頼って、みるか。

 

 

『なぁ、スペ。グラス。頼み事がある』

『っ、何ですか!?』

『わぁい頼ってくれた!それを待ってたんだよ!!』

『ぅゎ食い気味』

 

でもそれも今はありがたいや。頼もしい友に恵まれたな、俺は…!

 

『サイレンススズカに負けない為の、追い縋る為の特訓をしたい。力を貸してくれ!』

『『はい!!』』

『アーッ!カヤノソト!!』

 

 

天皇賞・秋まで、長く見積もっても4ヶ月。俺たちはここで、出来る限りのベストを尽くす。

いつか誰かが俺に言ってくれた、“後悔を残すような選択”をしない為に。

*1
ウマ娘ニワカ故の限界

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