なぁなぁティーヌさんってどれぐらい付きっきりで世話してくれたん?え?四六時中?HAHAHA、流石にそれは言い過g…え、マジ?そんなレベルまでやってたん?他の馬の世話が疎かになるレベル?やり過ぎィ!私がママになってやるよ良いよ来いよってか、母は強し……!
『ちょっとうるさいです……』
『ゴメン』
いやー、目の前にメインヒーローが現れちゃ冷静保つのも一苦労だ。でも推しに迷惑かけちゃいけない、自制自制。
今の状況としては、スペが来て1週間ってところ。アメリと接触する機会が少なくなっちゃったから、その分スペに関わる時間が増えている。
……いや放置してる訳じゃないよ?というか、したくてしてる訳じゃないよ?ずっと呼び掛けるのもウザいだろうから、朝と夜に「話しよう」って壁越しに呼びかけ続けてるよ?でも応答が無ぇんだよ……。
『…お腹すいたなぁ』
『あっ、じゃあコレ要る?』
ぐ〜、という音を聞きつけて飼葉の入ったバケツを差し出す。俺もうお腹いっぱいだし。
『良いの?』
『おk』
『……ありがとう、ございます』
うわ素直。引っ込み思案可愛い。スペちゃんは食べてナンボなんだから食え食え!コロコロまぁるいスペちゃんも可愛いぞ。でも太り気味は勘弁な!
殺気。
『…アメリ!?』
『ッ───!!』
これは!と振り向いても時既に遅し。タッチの差で、アメリは顔を引っ込めてしまった。
おーい!もう顔合わせなくなって何日目だよー!?
ちなみにその日の夜はスペからお返しの人参をもらいました。推しからの供給(物理)に心からの感謝を……。
▼▲▼▲▼▲▼
ボクはクロが好きデス。
生まれたバショと何モカモがチガウこの地に連れて来らレテ、ボクはトモダチを作ルことも出来ずニ、ずッとサビシイおもいヲしてマシタ。
そこニあらわレタのが、クロ。彼はボクに、ジャパンの色んなコトヲおしえてクレテ、ボクをタスケテくれた。彼が言ッタように、サイゴのチョクセンまで足をタメルと、速クなるコトヲ教えてくれマシタ。
……コレカラも、ズッとそうだト、思ってたのに。
ハナレタ方がイイ?イミが分からナイ。分かりたくナイ。
彼ハ分かッテナイ。クロのオカゲで、ボクがどれほど助けラレタか。
ソレがどーしてモ受け入れラレなくて……じきニ、ボクは、許せなくナッタ。それがアノ日、バクハツした。
ソシテ次の日、
ボクがイジをハって空いたバショに、ヘイキなカオで入り込ミマシタ。
クロがアイツに笑いカケル。ヤメて。ソレは、ボクだけノなのに。
ナンデ。
ナンデ。
ドウシテ。
ドウシテドウシテドウシテドウシテドウシテ!
気が付いたラ、アイツをニラむようニなってイタ。ボクじしんもワケが分からナクテ、オサエられなかッタ。
イカリを走りに向けテ、速くなっタ。デモそれハ、何のナグサメにもならなクテ。
「アメリの子、調子いいな。クロと離れても問題無かったみたいだ」
「ピリピリしてますけどそうですね。気が付いたら離れてましたけど、何かあったんでしょうか」
「慮る事は出来ても、究明する事は出来ない。とにかく、また依存し合う前に引き渡しの準備を進めるぞ」
「はい。このままの段取りだと、ここで行う調教は次が最後になりますね」
ニンゲンのコトバは分からナイ。ケレドなぜか、ボクが旅立チが近いコトは分かる。
……ダメだ。
ソノ前に、アイツからクロを取リ返サナキャ。
クロは。
クロだけは────
そう思ッテいたアル日。ボクと、クロと、アイツが、同じトラックに出サレマシタ。
「今日はこの三頭で併せを行う。ここでのアメリフローラの1995の最後の調整だ、気合入れていくぞ」
「「「はい!」」」
チャンスだ、と思っタ。コトバは分からズとも、今カラ三頭で、ゼンリョクで走ルのだと。
アイツを。何をするか分からないままタタズンデるアイツを、クロの目のマエで叩きツブス。そのチャンスだ。
ニラミつけながらアイツに歩みヨル。そのトチュウでスレチガったクロのツブヤキが、聞こえた。
『アメリ…フローラ……?』
今サラ気付いたノ?とカラカッテやりたいケド、そんなヨユーはありマセン。もう、クロが好きなのと同じクライ、クロのコトがキライだカラ。ボクよりアイツをエラんだコトが許せないカラ。
ダカラ、その
『オイ、オマエ』
『な、なんですか。僕に何か用でも?』
ボクとチガッて、キレイなジャパンのコトバ。ソレで、クロを。
ユルサナイ。
『走りにジシン、ありマスカ?』
『あっ当たり前でしょ!お母ちゃんが褒めてくれた足ですもん!』
ボクは、ワラった。
三頭デ、走り出ス。
次のシュンカン、ボクはアイツのすぐウシロに行って、ピッタリとハリ付いた。
『えっ…!?』
『走ッテ。ズット、ツイテ行く』
『っ、舐めないで下さい!』
チョットあおって、プレッシャー。するとオモシロイぐらいにアイツはアセッた。速くナロウとシタ。
デモ、ずっと。ずゥっとクロと走ッテ来たボクを、つきハナせるワケがナイ。
『嘘、でしょ……!』
『ウソじゃナイデス。オマエがヨワイだけ』
『違う!』
『チガイません』
ハヤク折れろ、と思ッタ。ダカラ、トドメをさしに行ッタ。
足のカイテンを上ゲル。ホラ、もうならびマシタ。
ホラ、ぬかしマシタ。
『オマエは、ヨワイ』
『!!』
『クロに、フサワシくありマセン』
カンゼンにカッた、と思いマシタ。だって、もうマエにダレもいなかッタから。
叩きツブセタと、思いマシタ。
……ウシロのケハイが消えナイコトに、気付クまでは。
『ぐっ、うぅ……』
『…….なんで、』
落ちナイ。
そう思った、次のシュンカン。
『お前なんかに…負けるもんかぁぁアアアッ!!』
気迫。重タイ、タマシイの乗ったサケビ。
ボクは、オソレた。足がスクみマシタ。
コイツは折れナイ。ボクには折れナイのだと、分かッテしまったカラ。
このトキ、アイツ───スペシャルウィークは、もうゲンカイだったらしい。ダカラ、キョウフしたボクを追いこせなかッタ。デモ、ボクにはそんなコトに気付くヨユーすらナカッタ。
だから……
ボクは、本当にオドロいたんだ。
『グラスワンダァァァァッ!!!』
迫ル。
足音。
コエ。
ソレをキいたシュンカン。ボクのナマエだと分かりマシタ。
アイツのタメに走って来たンダと、リカイしマシタ。
クロが来たンダと、知って。
オドロいて。
安心しタんデス。
その、力強さニ。
▲▼▲▼▲▼▲
アメリフローラ。
その名を聞いた時。俺は自分の鈍さに辟易し、そして絶望した。
最初の友達が誰であるか、なーんにも分かっちゃいなかったんだから。
1995年に、アメリフローラから生まれた子。アメリカから来た期待の競走馬。そんなの、一頭しかいないじゃないか。
その彼は今、走っている。俺のせいで、怒りに身を任せている。スペが、無理して張り合っている。
そんなの……ダメだろ。
追い縋る足に力が入る。当初の予定からかけ離れたのだろう展開に、騎手が困惑しているのをいいことに、俺は加速を開始した。
いつもお前は差す側だったけど。差される側は初めてだよな、アメリ。いや───
『グラスワンダァァァァッッ!!!』
裂帛の気合いと共に叫ぶと、グラスとスペが同時に振り向いた。その背は、もう目前。
そして、並ぶ。
『よぉグラス!止めに来たぜ!!』
『ク、ロ』
『そんなに怒ってちゃ、何も楽しくないだろ!えぇ!?』
怒っている理由が俺なのも分かる。だから、こんな事を言う権利が無い事も分かってる。
けど、止められなきゃ……
『ここで止めなきゃ……お前の友達である意味が無ぇんだよッ!!』
『!!!』
『うわっ…!?』
無理やり力を振り絞り、前に出て二頭の進路を緩やかに塞いだ。進路を無くし、共に減速する気配。
『ぜーっ、ぜーっ!疲れました〜!』
『……ふーーーっ……』
あーもう、2人とも限界通り越してるじゃん。デビュー前になんつー無茶してんだ!
えっ俺?あぁ^〜心臓がピョンピョンしてるんじゃ^〜。
……なんて茶化しは、置いといて。
『グラス』
『…クロ』
『すまなかった!』
『エッ』
向かい合って頭を下げる。ケジメはちゃんとつけないと。
『アメリで良い、っていう厚意に甘えて、ずっと間違った名前で呼んでてごめんな!』
『えっ、Wait, ソノ……』
『少し考えれば分かる事だった!そりゃ良い気しないよな!?』
例えばだ。「荻野」って名字の人がいたとして、ずーっと「萩野」「藤野」と間違えられ続けたとする。何度も何度も、何度訂正しても。
俺はキレる。誰だってそーするかは分からんけど俺ならそーする。
『あの時、溜まってたその不満が爆発しちゃったんだな?マジですまなかった、この通りだ!でも俺を蹴るならまだしも、スペに当たるのはやめてやってくれ。アイツはこれからの競走馬なんだよ!!』
誠心誠意を込めて、再度謝罪。これで届かなかった俺の首を差し出そう。覚悟は良いか、俺は出来てr
ゴンッ
『お?』
『全ク……どこまでカンチガイすれば気がスムんデスか』
額が合わせられている。グラスは瞑目して、じっと俺に寄り添っていた。
『勘違い?』
『グラスワンダー……ソレが、ボクのナマエなんデスね』
『……そうだ』
『…Ah……!』
それを聞いてグラスは、これまで見た事も無いような満足を顔に浮かべた。綺麗な栗毛が、一層輝いたように見えた。
『スペシャルウィーク、サン。すみませんでデシタ。ヤツ当たりしてシマッテ』
『……良いよ。次は、負けませんから』
『…ヨワイって言ったのも、テイセイしマス。折れないアナタは、ツヨイ』
『……ふん、です』
禍根を残さぬよう、二頭の間で彼らなりの決着がつけられる。最後に、騎手達がそれぞれ状況を収拾して、グラスとの最後の併走は幕を下ろしたのだった。
───────
清々しいような、それでいて何だか気まずいような雰囲気。それに邪魔されて、馬房に帰っても俺たちは会話を交わさない。
やがて日が暮れ、夜になる。人は灯を消し、他の馬達すらも寝静まった時刻。
眠れなかった俺は、馬房の壁を叩かれて飛びついた。
鳴き声で返した。
『起きてるよ』
『クロ。ボクは多分、もうココにはいられマセン』
『ああ。今日が最後の併走だって言ってたよ』
『ヤッパリそうでしたカ』
落胆の色が濃い声音。けれど、それだけではなくて。
『なんか嬉しそうだな?』
『サイゴのサイゴに、イイモノ見れマシタから』
『何だよそれは』
『かっこいいクロ、デス』
『俺?』
俺が格好良い?冗談だろ?
そんな疑問を感じ取られたのか、グラスはそのまま言葉を繋げた。
『今日ノ走り、スゴカッタじゃないデスか』
『我武者羅でほぼ覚えてないけどな』
『デモ、ボク達を軽々と抜かした』
……事実は、流石に否定できない。
これまでは増長しそうになる自分が怖くて認められなかったけど。もしかして俺、強いのか?
『ほら、スゴイでしょ?クロは』
『……らしいなぁ』
『ハイ。だからジシン、持ってクダサイ。アナタとイッショに走れたの、ウレシイので』
自分が貰ったのは良い影響だけだから、とグラスは言う。そのむず痒い救いの言葉に、俺の気持ちはどこか軽くなっていく。
そっか。俺の存在は、ちゃんと他者の助けになっていたのか。
『……俺も、お前と走れて良かった』
『ボクも…と言いたいデスが、ここでオワリにはシマセン。したくありマセン』
『当然だ』
グラスワンダーはこれから、苦難に満ちた道を行く。
無敗でジュニア王者に挑み、骨折に悩み、異次元を前に挫折し。それでも、立ち上がる。
俺がいなければ、1人で。
『《止めなきゃ、友達でいる意味が無い》……そう、言いマシタよね?』
彼の言いたい事は、分かる。分かってる。
覚悟も、出来てる。
『止めてやるさ。何度でも、お前の前に立ちはだかって』
『ええ、来てクダサイ。ナンドでも、何回でも……!』
『
次の日。俺とスペだけが調教に出され、帰って来た時には隣の馬房は空になっていた。
初めての友達は、初めての新天地に向けて駆け出して行ったのだった。
『…クロさん』
『何?』
スペの視線はこちらを向いているが、見ているのは俺じゃない。その向こうの、グラスの場所だった馬房。
『僕、初めて勝てないって思っちゃったんです』
『あのグラス、鬼気迫ってたもんな』
『……だからこそ、もう、あんな思いはしたくありません』
強い瞳に射抜かれ、でも俺も臆さない。燃えている炎は同種のそれだ。
『教えてくれませんか、クロ。僕は、強くなってみせる!』
『こちらこそ、だ。やってやろうぜ、スペシャルウィーク!』
『はい!』
『ところで前から思ってたんですけど、“スペシャルウィーク”って何ですか?アメリフローラの1995にも同じように変な名前付けてましたよね』
『変な名前ってお前……将来のお前らの名前やぞ』
『なんで未来の名前をクロが知って……』
『……知ってるもんは知ってるとしか……』
『じゃあクロの未来の名前は何です?』
『…………』
『分からないんじゃないですか!どうせ勘でしょう!?』
『違うもん!勘じゃないもん!!』
「おーおー、アメリの子が旅立って早々元気だ。お前ら二頭、相性良いかもな」
次回は掲示板回です。