また君と、今度はずっと   作:スターク(元:はぎほぎ)

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病みワンダーは良いぞ


【Ep.3】約束!

なぁなぁティーヌさんってどれぐらい付きっきりで世話してくれたん?え?四六時中?HAHAHA、流石にそれは言い過g…え、マジ?そんなレベルまでやってたん?他の馬の世話が疎かになるレベル?やり過ぎィ!私がママになってやるよ良いよ来いよってか、母は強し……!

 

『ちょっとうるさいです……』

『ゴメン』

 

いやー、目の前にメインヒーローが現れちゃ冷静保つのも一苦労だ。でも推しに迷惑かけちゃいけない、自制自制。

今の状況としては、スペが来て1週間ってところ。アメリと接触する機会が少なくなっちゃったから、その分スペに関わる時間が増えている。

……いや放置してる訳じゃないよ?というか、したくてしてる訳じゃないよ?ずっと呼び掛けるのもウザいだろうから、朝と夜に「話しよう」って壁越しに呼びかけ続けてるよ?でも応答が無ぇんだよ……。

 

『…お腹すいたなぁ』

『あっ、じゃあコレ要る?』

 

ぐ〜、という音を聞きつけて飼葉の入ったバケツを差し出す。俺もうお腹いっぱいだし。

 

『良いの?』

『おk』

『……ありがとう、ございます』

 

うわ素直。引っ込み思案可愛い。スペちゃんは食べてナンボなんだから食え食え!コロコロまぁるいスペちゃんも可愛いぞ。でも太り気味は勘弁な!

 

 

 

殺気。

 

 

 

『…アメリ!?』

『ッ───!!』

 

これは!と振り向いても時既に遅し。タッチの差で、アメリは顔を引っ込めてしまった。

おーい!もう顔合わせなくなって何日目だよー!?

ちなみにその日の夜はスペからお返しの人参をもらいました。推しからの供給(物理)に心からの感謝を……。

 

 

 

▼▲▼▲▼▲▼

 

 

 

ボクはクロが好きデス。

生まれたバショと何モカモがチガウこの地に連れて来らレテ、ボクはトモダチを作ルことも出来ずニ、ずッとサビシイおもいヲしてマシタ。

そこニあらわレタのが、クロ。彼はボクに、ジャパンの色んなコトヲおしえてクレテ、ボクをタスケテくれた。彼が言ッタように、サイゴのチョクセンまで足をタメルと、速クなるコトヲ教えてくれマシタ。

……コレカラも、ズッとそうだト、思ってたのに。

 

ハナレタ方がイイ?イミが分からナイ。分かりたくナイ。

彼ハ分かッテナイ。クロのオカゲで、ボクがどれほど助けラレタか。悪影響(Adverse effect)なんてナイ。それニ、クロはスゴイのに。ここに来てまもナイのに、ボクが追いこすのにツカレるなんて。なのに、クロは、自分ガただのジャマモノなんだと思いコンデル。

ソレがどーしてモ受け入れラレなくて……じきニ、ボクは、許せなくナッタ。それがアノ日、バクハツした。

 

 

ソシテ次の日、()()()が来マシタ。

ボクがイジをハって空いたバショに、ヘイキなカオで入り込ミマシタ。

クロがアイツに笑いカケル。ヤメて。ソレは、ボクだけノなのに。

 

ナンデ。

ナンデ。

ドウシテ。

ドウシテドウシテドウシテドウシテドウシテ!

 

気が付いたラ、アイツをニラむようニなってイタ。ボクじしんもワケが分からナクテ、オサエられなかッタ。

イカリを走りに向けテ、速くなっタ。デモそれハ、何のナグサメにもならなクテ。

 

「アメリの子、調子いいな。クロと離れても問題無かったみたいだ」

「ピリピリしてますけどそうですね。気が付いたら離れてましたけど、何かあったんでしょうか」

「慮る事は出来ても、究明する事は出来ない。とにかく、また依存し合う前に引き渡しの準備を進めるぞ」

「はい。このままの段取りだと、ここで行う調教は次が最後になりますね」

 

ニンゲンのコトバは分からナイ。ケレドなぜか、ボクが旅立チが近いコトは分かる。

……ダメだ。

ソノ前に、アイツからクロを取リ返サナキャ。

クロは。

 

クロだけは────

 

 

 

そう思ッテいたアル日。ボクと、クロと、アイツが、同じトラックに出サレマシタ。

 

「今日はこの三頭で併せを行う。ここでのアメリフローラの1995の最後の調整だ、気合入れていくぞ」

「「「はい!」」」

 

チャンスだ、と思っタ。コトバは分からズとも、今カラ三頭で、ゼンリョクで走ルのだと。

アイツを。何をするか分からないままタタズンデるアイツを、クロの目のマエで叩きツブス。そのチャンスだ。

 

ニラミつけながらアイツに歩みヨル。そのトチュウでスレチガったクロのツブヤキが、聞こえた。

 

『アメリ…フローラ……?』

 

今サラ気付いたノ?とカラカッテやりたいケド、そんなヨユーはありマセン。もう、クロが好きなのと同じクライ、クロのコトがキライだカラ。ボクよりアイツをエラんだコトが許せないカラ。

ダカラ、そのアイツの(キライな)部分ヲ、コワしてやリマス。

 

『オイ、オマエ』

『な、なんですか。僕に何か用でも?』

 

ボクとチガッて、キレイなジャパンのコトバ。ソレで、クロを。

ユルサナイ。

 

『走りにジシン、ありマスカ?』

『あっ当たり前でしょ!お母ちゃんが褒めてくれた足ですもん!』

 

ボクは、ワラった。

 

 

 

三頭デ、走り出ス。

次のシュンカン、ボクはアイツのすぐウシロに行って、ピッタリとハリ付いた。

 

『えっ…!?』

『走ッテ。ズット、ツイテ行く』

『っ、舐めないで下さい!』

 

チョットあおって、プレッシャー。するとオモシロイぐらいにアイツはアセッた。速くナロウとシタ。

デモ、ずっと。ずゥっとクロと走ッテ来たボクを、つきハナせるワケがナイ。

 

『嘘、でしょ……!』

『ウソじゃナイデス。オマエがヨワイだけ』

『違う!』

『チガイません』

 

ハヤク折れろ、と思ッタ。ダカラ、トドメをさしに行ッタ。

足のカイテンを上ゲル。ホラ、もうならびマシタ。

ホラ、ぬかしマシタ。

 

『オマエは、ヨワイ』

『!!』

『クロに、フサワシくありマセン』

 

カンゼンにカッた、と思いマシタ。だって、もうマエにダレもいなかッタから。

叩きツブセタと、思いマシタ。

 

……ウシロのケハイが消えナイコトに、気付クまでは。

 

『ぐっ、うぅ……』

『…….なんで、』

 

落ちナイ。

そう思った、次のシュンカン。

 

『お前なんかに…負けるもんかぁぁアアアッ!!』

 

気迫。重タイ、タマシイの乗ったサケビ。

ボクは、オソレた。足がスクみマシタ。

コイツは折れナイ。ボクには折れナイのだと、分かッテしまったカラ。

 

 

このトキ、アイツ───スペシャルウィークは、もうゲンカイだったらしい。ダカラ、キョウフしたボクを追いこせなかッタ。デモ、ボクにはそんなコトに気付くヨユーすらナカッタ。

だから……()衝撃(ショウゲキ)が来たトキ。

 

ボクは、本当にオドロいたんだ。

 

 

『グラスワンダァァァァッ!!!』

 

迫ル。

足音。

コエ。

 

ソレをキいたシュンカン。ボクのナマエだと分かりマシタ。

アイツのタメに走って来たンダと、リカイしマシタ。

 

クロが来たンダと、知って。

オドロいて。

安心しタんデス。

 

 

その、力強さニ。

 

 

 

▲▼▲▼▲▼▲

 

 

 

アメリフローラ。

その名を聞いた時。俺は自分の鈍さに辟易し、そして絶望した。

最初の友達が誰であるか、なーんにも分かっちゃいなかったんだから。

 

1995年に、アメリフローラから生まれた子。アメリカから来た期待の競走馬。そんなの、一頭しかいないじゃないか。

 

その彼は今、走っている。俺のせいで、怒りに身を任せている。スペが、無理して張り合っている。

そんなの……ダメだろ。

 

追い縋る足に力が入る。当初の予定からかけ離れたのだろう展開に、騎手が困惑しているのをいいことに、俺は加速を開始した。

いつもお前は差す側だったけど。差される側は初めてだよな、アメリ。いや───

 

『グラスワンダァァァァッッ!!!』

 

裂帛の気合いと共に叫ぶと、グラスとスペが同時に振り向いた。その背は、もう目前。

そして、並ぶ。

 

『よぉグラス!止めに来たぜ!!』

『ク、ロ』

『そんなに怒ってちゃ、何も楽しくないだろ!えぇ!?』

 

怒っている理由が俺なのも分かる。だから、こんな事を言う権利が無い事も分かってる。

けど、止められなきゃ……

 

『ここで止めなきゃ……お前の友達である意味が無ぇんだよッ!!』

『!!!』

『うわっ…!?』

 

無理やり力を振り絞り、前に出て二頭の進路を緩やかに塞いだ。進路を無くし、共に減速する気配。

 

『ぜーっ、ぜーっ!疲れました〜!』

『……ふーーーっ……』

 

あーもう、2人とも限界通り越してるじゃん。デビュー前になんつー無茶してんだ!

えっ俺?あぁ^〜心臓がピョンピョンしてるんじゃ^〜。

 

……なんて茶化しは、置いといて。

 

『グラス』

『…クロ』

『すまなかった!』

『エッ』

 

向かい合って頭を下げる。ケジメはちゃんとつけないと。

 

『アメリで良い、っていう厚意に甘えて、ずっと間違った名前で呼んでてごめんな!』

『えっ、Wait, ソノ……』

『少し考えれば分かる事だった!そりゃ良い気しないよな!?』

 

例えばだ。「荻野」って名字の人がいたとして、ずーっと「萩野」「藤野」と間違えられ続けたとする。何度も何度も、何度訂正しても。

俺はキレる。誰だってそーするかは分からんけど俺ならそーする。

 

『あの時、溜まってたその不満が爆発しちゃったんだな?マジですまなかった、この通りだ!でも俺を蹴るならまだしも、スペに当たるのはやめてやってくれ。アイツはこれからの競走馬なんだよ!!』

 

誠心誠意を込めて、再度謝罪。これで届かなかった俺の首を差し出そう。覚悟は良いか、俺は出来てr

 

ゴンッ

 

『お?』

『全ク……どこまでカンチガイすれば気がスムんデスか』

 

額が合わせられている。グラスは瞑目して、じっと俺に寄り添っていた。

 

『勘違い?』

『グラスワンダー……ソレが、ボクのナマエなんデスね』

『……そうだ』

『…Ah……!』

 

それを聞いてグラスは、これまで見た事も無いような満足を顔に浮かべた。綺麗な栗毛が、一層輝いたように見えた。

 

『スペシャルウィーク、サン。すみませんでデシタ。ヤツ当たりしてシマッテ』

『……良いよ。次は、負けませんから』

『…ヨワイって言ったのも、テイセイしマス。折れないアナタは、ツヨイ』

『……ふん、です』

 

禍根を残さぬよう、二頭の間で彼らなりの決着がつけられる。最後に、騎手達がそれぞれ状況を収拾して、グラスとの最後の併走は幕を下ろしたのだった。

 

 

───────

 

 

清々しいような、それでいて何だか気まずいような雰囲気。それに邪魔されて、馬房に帰っても俺たちは会話を交わさない。

やがて日が暮れ、夜になる。人は灯を消し、他の馬達すらも寝静まった時刻。

 

眠れなかった俺は、馬房の壁を叩かれて飛びついた。

鳴き声で返した。

 

『起きてるよ』

『クロ。ボクは多分、もうココにはいられマセン』

『ああ。今日が最後の併走だって言ってたよ』

『ヤッパリそうでしたカ』

 

落胆の色が濃い声音。けれど、それだけではなくて。

 

『なんか嬉しそうだな?』

『サイゴのサイゴに、イイモノ見れマシタから』

『何だよそれは』

『かっこいいクロ、デス』

『俺?』

 

俺が格好良い?冗談だろ?

そんな疑問を感じ取られたのか、グラスはそのまま言葉を繋げた。

 

『今日ノ走り、スゴカッタじゃないデスか』

『我武者羅でほぼ覚えてないけどな』

『デモ、ボク達を軽々と抜かした』

 

……事実は、流石に否定できない。

これまでは増長しそうになる自分が怖くて認められなかったけど。もしかして俺、強いのか?

 

『ほら、スゴイでしょ?クロは』

『……らしいなぁ』

『ハイ。だからジシン、持ってクダサイ。アナタとイッショに走れたの、ウレシイので』

 

自分が貰ったのは良い影響だけだから、とグラスは言う。そのむず痒い救いの言葉に、俺の気持ちはどこか軽くなっていく。

そっか。俺の存在は、ちゃんと他者の助けになっていたのか。

 

『……俺も、お前と走れて良かった』

『ボクも…と言いたいデスが、ここでオワリにはシマセン。したくありマセン』

『当然だ』

 

グラスワンダーはこれから、苦難に満ちた道を行く。

無敗でジュニア王者に挑み、骨折に悩み、異次元を前に挫折し。それでも、立ち上がる。

俺がいなければ、1人で。

 

『《止めなきゃ、友達でいる意味が無い》……そう、言いマシタよね?』

 

彼の言いたい事は、分かる。分かってる。

覚悟も、出来てる。

 

 

『止めてやるさ。何度でも、お前の前に立ちはだかって』

 

『ええ、来てクダサイ。ナンドでも、何回でも……!』

 

お前(アナタ)に、勝つ!』

 

 

 

 

 

次の日。俺とスペだけが調教に出され、帰って来た時には隣の馬房は空になっていた。

初めての友達は、初めての新天地に向けて駆け出して行ったのだった。

 

『…クロさん』

『何?』

 

スペの視線はこちらを向いているが、見ているのは俺じゃない。その向こうの、グラスの場所だった馬房。

 

『僕、初めて勝てないって思っちゃったんです』

『あのグラス、鬼気迫ってたもんな』

『……だからこそ、もう、あんな思いはしたくありません』

 

強い瞳に射抜かれ、でも俺も臆さない。燃えている炎は同種のそれだ。

 

『教えてくれませんか、クロ。僕は、強くなってみせる!』

『こちらこそ、だ。やってやろうぜ、スペシャルウィーク!』

『はい!』

 

 

 

『ところで前から思ってたんですけど、“スペシャルウィーク”って何ですか?アメリフローラの1995にも同じように変な名前付けてましたよね』

『変な名前ってお前……将来のお前らの名前やぞ』

『なんで未来の名前をクロが知って……』

『……知ってるもんは知ってるとしか……』

『じゃあクロの未来の名前は何です?』

『…………』

『分からないんじゃないですか!どうせ勘でしょう!?』

『違うもん!勘じゃないもん!!』

 

 

 

 

 

「おーおー、アメリの子が旅立って早々元気だ。お前ら二頭、相性良いかもな」




次回は掲示板回です。

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