また君と、今度はずっと   作:スターク(元:はぎほぎ)

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仕事に慣れるので精一杯で執筆活動進んでおりません
多分近い内にまた隔日投稿期間終わる。ユルシテ


渦中で、君は

『スペさん、中庭に早く来て!』

 

キングちゃんからのLANEと、私がスレを出たのはほぼ同時だった。

内容は分かってる。クロちゃんを巡って、グラスちゃんとシンボリの名を持つ誰かが喧嘩してるんだ。

 

(シリウス先輩、一体何を……!)

 

クロちゃんがシリウス先輩と懇意なのは知っていた。あんまり良い噂の無い彼女だけど、クロちゃんが信じる以上は必ず良い所があるんだと信じて静観をしていた。

けど、悪い方に転がってしまうなんて……!

 

急いで階段を降りて、見えたのは人集り。その向こうにグラスと、そしてクロの気配を感じた。

 

「ごめんなさい、ちょっとどいて!」

「わわっ!?」

 

申し訳ないながらも人混みを強引に掻き分ければ、中心部が視界に収まった。

案の定、シリウス先輩。彼女に捕まったまま、状況を把握しようとしているのかグルングルンと首を回しているクロ。そしてシリウス先輩とは逆側からクロちゃんの手を掴んでいるルドルフ先輩。

そんな3人──正確には両端の2人を、グラスちゃんは飛ぶ鳥も殺せるぐらい冷たい目で睨んでた。それを、セイちゃんとキングちゃんが必死で止めていた。

 

「クロちゃん、グラスちゃん!」

 

呼びかけると、振り向く2人。1人は激怒に沈んだ蒼紺、もう1人は戸惑いに揺れる紅蓮の瞳。2つとも、私の姿を見て微かな希望の光が灯る。

私の助けを、必要としていた。

 

だから、私は。

 

「クロから離れて下さいっ!!」

「えっ」

 

勢い良く躍り出たんです。

クロとシリウス先輩の間へ、挟まるように。

 

「またクロを変な道に誘おうとしたんですね?もう我慢の限界です!!」

 

恐らく、いつも通りに先輩はクロに悪いことを教えようとしたんだろう。そしてそれを目撃したグラスちゃんにとって、きっととても耐え難い内容だったんだ。生徒の自主性を重んじる会長(ルドルフ)さんですら止めに入るほどに。

 

「もうクロには触れさせません!あなたにクロはあげませんから!!」

 

宣言するように立ちはだかれば、意外にもシリウス先輩は動揺した様子を見せた。両目が見開かれ私を探るようにジロジロと見つめてくる。

あれ?こんなに揺れ易いウマ娘(ヒト)だったっけ?

 

「あのぉ、スペちゃん」

「何?セイちゃん」

 

そんな私に、耳打ちするように囁いてきたのは親友の1人。物事の大局を見るのが上手い彼女は、何故かグラスちゃんの制止をやめてこちらに来ている。

そうまでして、私に伝えなきゃいけない事があるの?

 

「実はですね、喝破する相手を間違えてると言いますか」

「へ??」

「いやその本当の“敵”はどっちかと言うと後r」

 

 

 

「では行こうか、クロスクロウ」

 

瞬間、私はやっと理解した。

背後で膨れ上がった気配に、理解を()()されてしまったんです。

 

「あのー、ルドルフ先輩」

「何だい?」

「手が痛いっす」

「それはすまない、だがこうしなければ君は逃げるだろう?補習を2度も欠席した件は見過ごせないよ」

「嘘だっ!*1

「嘘にせよ本当にせよ、いずれにしても私は一度君と話がしてみたいんだ。さぁ生徒会室に来てくれたまえ」

「ヒエッ……」

 

違った。

グラスちゃんが対峙していたのはシリウス先輩じゃなかった。

シリウス先輩が相対していたのはクロじゃなかった。

クロを最初に引き摺り込もうとしたのは……!

 

「ま、待って下さい会長さん!クロちゃんを離して下さい!!」

「どうしてだい?私には彼女を連れて行く理由がある」

「私達にも理由が…理由、が……」

 

しまった。無い。

私は会長さんに信頼を置いてる。だからこそ現状を受け入れ切れてないし、そもそも会長さんからクロを取り戻そうとしたのも勘由来であって理屈は無い。

そんな状態じゃ、会長さんを説き伏せれない…!

 

「君はこの状況を見て、私ではなくシリウスをクロスクロウから引き離そうとした。つまり私を味方だと思ってくれている筈だが、違うのかい?」

「いえ、その、あの……」

「大丈夫だ、クロスクロウ君には何も変な事はしないよ。ただ本当に話すだけだ。本当に、それだけ………」

 

 

「そうでない事は、他ならない貴女自身がよく知っているのでは?」

 

押し潰すような空気を切り裂いたのは、グラスちゃんの詰問だった。

それは本当に、視界が物理的に切り裂かれたようだった。

 

「……“領域”にも似たその気迫。日常で繰り出す技量は見上げたものだが…それだけに感心しないな、グラスワンダー」

「私にとって、今この状況はレースと同じくらい重要という事です」

 

凛とした薙刀の切っ先のような言葉が、会長さんの首筋に当てられていた。彼女の行く手を阻むように立ち塞がった、グラスちゃんによる物だった。

 

「オイオイ、私も忘れてもらっちゃ困るぞ」

「君は十分クロスクロウ君と遊んだだろう。ちゃんと返すから、今は下がってくれないか」

「ハッ、酷い扱いだ。そんなご乱心な暴君様に舎弟はやれねぇな」

「誰であろうと、クロに危害は加えさせません。貴女達に彼女は渡さない」

「折角共同戦線張ってやろうってのに、気の利かない女」

 

「「「………っ!!!」」」

「えっ何これ。スタンドバトル?」

 

私達の緊張が高まったのは、グラスちゃんに呼応して会長さんとシリウス先輩からも同種の気迫が迸ったから。このまま放っておけば、彼女達三人は何か致命的な状況に突入してしまいかねないだろう。それも、状況に追いつけてないクロを巻き込んで。

 

(不味い不味い不味い、不味いやらかした!私の所為だ!)

 

私が最初に間違えなければ。問答無用で、クロをシリウス先輩だけでなく会長さんからも引き離していれば、こんな事にはならなかったのに。私が初手でしくじった所為で。

どうする、どうする、どうする?

私も参戦する?それで何が解決する。

助けを呼ぶ?誰に。そもそも私がその助けになる筈だったんだ。

自然解決を待つ?無理でしょう。楽観するな、スペシャルウィーク。

 

「ここは私がっ」

「じゃあ役割分担ね、副会長(ブライアン)さんを呼んでくるから!」

「!待っ、」

 

 

下手な刺激をするべきじゃない、とか。お願い、とすらも言えないどっち付かず。

そんな中途半端な私自身に心底嫌気が刺した、その時の事だった。

 

 

「レースで決めません?」

 

他ならない、クロの声。

 

「ほら、オレらってウマ娘ですし。走りで決めるのが一番だと思うんすよね」

「……」

「だから今日の放課後あたりに、ルドルフ先輩もシリウスの姉貴も一緒に。それじゃダメですか?」

 

当然の事を聞くように、不思議そうな雰囲気を漂わせて問う彼女はいつも通りで。

 

「あっそうか各人の予定とかも考えたら難しい?いやでも手っ取り早く解決するにはこれが……ルドルフ先輩の走りを間近に見るチャンスだしなぁ」

「……いや、いい」

「へ?」

「すまないな、迷惑をかけた」

 

すると何を思ったのか、憑き物が取れたようにクロから手を離した会長さん。そのまま彼女は踵を返し、スタスタと歩き去ってしまう。

何が何だか分からないまま、私達は残されて。

 

「クロス」

「へい?」

「これからは迂闊にルドルフの前に出んな」

 

そう言って、一拍遅れて彼女の背を追うシリウス先輩。それを皮切りに、ようやく私達は動き出せたのだった。

 

「クロちゃん、大丈夫ですか!?」

「手首痛かったでしょ!」

「包帯持ってるわよ!!」

「……っ」

「近い近い多い多いうぶぉへえ」

 

私が肩を、セイちゃんが手を取り、キングちゃんが包帯を巻いて最後にグラスちゃんが袖を握る。四人がかりで殺到されたクロちゃんからささやかな悲鳴が上がって、それで私達は我に返った。

 

「あっ、ごめ……っ!」

「いーのいーの助かったし。来てくれてありがとな、皆」

「でもなんで会長さんはあんな強要するような真似をしたのか……クロちゃんの方に心当たりはありますかね?」

「赤点補習のすっぽかし…練習コースの使用時間超過……門限破り………」

「多過ぎよ。とはいえ、それを加味しても会長さんらしくない所作だったわね」

 

聞き出した所によれば、どうやら校内を散歩してたら会長さんに見つかったようで。でもあの鬼気の迫りようは、キングちゃんの言う通り、いつもの会長さんとは思えなかった。

彼女は……クロちゃんに何を見たの?

 

「いずれにせよ、シンボリのウマ娘さんとはこれからはあんまり関わらないで下さい」

「えっシリウスの姐貴とも?それは無理」

「ダメなものはダメです!会わせませんッ」

「私もスペちゃんに賛成かなー。厄ネタ過ぎるよ、クロちゃんにとってシンボリはさ。ツヨシちゃんは流石に大丈夫だろうけど──そういえばツヨシちゃんは?」

「彼女ならさっき、テイオーさんと一緒に会長さんの消えた方へ走るのを見かけたわ。まぁ何にせよ、シンボリのウマ娘と会うなら私達の同伴が前提よ」

「なぁ、オレたちって同い年だよな?何で同世代に介護されてんだオレ……」

 

心を鬼にして、クロちゃんの反論を却下。今後は彼女の警備を徹底しなきゃいけませんね……。

 

 

……そういえば。さっきからゴールドシップさんの姿が見えないけれど、どこにいるんでしょうか?

グラスちゃんがシンボリの方達と一触即発なことを最初に教えてくれたのは彼女ですし、何より転生者スレに来たって事はゴールドシップさんも前世の記憶があるのかも知れない。感謝を伝えて、協力を申し込まなきゃ。

っと、その前に。

 

「おーい、グラス。シリウス姐さんの事はともかくとして、離れてくんね?」

「………」

 

そのグラスちゃん。さっきからずっと、クロちゃんの胸に額を擦り付けて黙りこくったまま。

あーあ、これもう動きませんよ。クロちゃんに抱きつくなんて、うらやまけしからんべ。

 

「諦めてください。それが今回のクロちゃんへの罰です」

「だねぇ。私はここいらで昼寝でもしながら、その様子を眺めさせて貰いますかな」

「じゃ、私はエルさんの所に行っておくから……」

「こ、この薄情者どもー!!」

「クロさん」

「ハイ」

 

全く、あなたってヒト(ウマ娘)は。

前世でも今世でも変わらず、いつの間に。

私たちの知らない所で、誰をタラシこんでいるのやら。

 

 

 

 

「お?何だ何だこの喧騒、隕石でも落ちてワームが湧いたかぁ?」

「そんな訳無いでしょう?シップが素直にゲート入りするでもあるまいし……あっ、あれは!怪物オグリキャップさん!!芦毛が今日も美しい、しかも隣にはタマモクロスさんまで!?嗚呼眼福、眼福。是即極楽也」

「お前芦毛なら誰でも良いんだろ」

「違うんですよシップ聞いて下さい!」

「なーんてな。ところでだけど。ジャスはこの人だかりの原因って分かるか?」

「うーん……今チラッと聞こえましたが、会長さんとスペシャルさんに何やらあったようです。シップに心当たりは?」

「無ぇなぁ」

*1
レナ並の感想




スズカ「嘘でしょ…エアグルーヴを呼んで来たのに全部終わってる……」

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