また君と、今度はずっと   作:スターク(元:はぎほぎ)

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これはクロスクロウの勝負服を考えたけど女の子要素皆無になって頭抱えた図

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競走馬編-生きて寄り添って
【Ep.29】逃追!


栗東に戻って少し経った。

あれからスペと走って。

時々キングと走って。

スペとまた走って。

稀にキングと走って。

そんなこんなでスタミナを鍛えてると……ってああ、うん。スタミナ重視って事はやっぱり菊花向けのトレーニングですね間違いない。

 

『つ゛か゛れ゛ま゛し゛た゛〜〜!』

 

おうおう、スペがすんごい声出しながら馬房に寝転んだ。まぁ俺の方は声出す余裕すら無いんだけどな!!

あと最近あった事といえば……そうそう、キング!キングがキングコールを受け入れてくれるようになったんだよ!

今までは俺が衝動的にコールしたら「やめろぉおぉ!!!」って止めて来たんだけど、この頃は「ま、まぁ?そんなに俺を持ち上げたいっていうなら、乗ってあげても良いけど??」って言ってくれてさ。いやぁ、付き合わせてスマン!つーか、付き合ってくれてありがとう!!

流石キング、度量が大きい!王の器!キーンーグ、キーンーグ!!

 

『クロは元気ですねぇ』

『あっ待って止めないで。今現実に引き戻されたら疲れを自覚しちゃキュウ』

『クロー!?』

 

だ、ダメだ……こんなんじゃ3000mも持久力が保つ気がせんぞ。クリーク〜!ライス〜!オラに円弧(パワー)を分けてくりぇ〜………。

 

『クリーク?何ですかその喧嘩でも好きそうな名前は』

『……ヘルシングって知ってる?』

『辛そうな名前ですね。美味しそう』

『知らない事だけはよく分かった』

 

ビックリしたぁ、てっきりスペも人間からの転生者かと……あれ?なんか前にもこんな経験無かった?

まぁ良いや、何にせよ今日この後は休みなんだ。ストレッチだけパパッとやって寝ちまおうそうしよう。

 

『ですね。僕も今回ばかりは……ふわぁ……』

『おやすみ〜』

 

あーダメだ、寝ると決めた瞬間に睡魔が。秋天出走要望を馬主に表明する手段とか色々考えなきゃいけないのに、今は流石に無理だわ。

さぁ、寝る寝る寝る寝……

 

 

ん?ちょっと待てクロスクロウ。大事なこと忘れてない?

何だこの違和感、無視しちゃいけないパターンの奴じゃん。どこに覚えたのか。自分のさっきまでの思考を遡りしtあー!?!!?

ヤバイ!ヤバイヤバイヤバイ、これは不味い!!“寄り道”どころの話じゃねぇ、普通に大問題過ぎだ!

菊花と秋天って、()()()()n()Zzz………

 

 

 

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\__ <久しぶり

<         

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『zzZ……ぁふぁっ!?』

 

屋内とは思えないぐらい風を感じて飛び起きる。すると目の前に広がったのは、いつか見た草原でした。

あー、これはつまり……あのニンゲンの姿をした栗毛の馬さんがいる所?でもどうして……

 

「おはよう」

「わっ!?……あ、こんにちは栗毛さん」

「うん。気持ちよさそうに眠ってたね、黒鹿毛君」

 

そう微笑まれちゃ、たはは……と苦笑するしか出来ない。でも、なんで馬房(いえ)にいるのにまた会えたのかな?

 

「今ユタカさんは私に乗ってるもの。前の時は君がユタカさんに乗られてたでしょ?」

「という事は、僕達のどっちかがユタカさんに乗られてたら夢で会えるみたいですね」

「そうなるね」

 

不思議な話だなぁ。ユタカさんの縁って凄いなぁ(仔馬並感)。

……あっ、そうだ。

 

「あの、栗毛さん。相談なんですけど」

「何?」

「サレn……いやそれに限る必要も無いか……逃げ馬に負けない為にはどうしたら良いんですかね?」

「えっ」

 

ユタカさんの呼吸をあんなに理解してる馬さんなんだもの、途轍も無い名馬に決まってる。そんな彼を前にして、質問しないなんて選択肢は無いから。

 

「僕達、もうすぐ強い逃げ馬と戦う事になるんです。それに勝つ為にはどうしたら良いか、栗毛さんなら知ってるかなって」

「……一つ聞いて良い?黒鹿毛君の次に出るレースは何ていう名前?」

「菊花賞です」

「ホッ…ああごめん。私も逃げ馬だから、どこまで話して良いのか分からなくて」

 

えっ!それはすみません……無理に教えてくれなくても大丈夫です。

 

「ううん、私と君の縁だもの。それに私は菊花賞には出ないし、大丈夫だよ」

「良いんですか!?」

「ええ。まぁ、私もそんなに教えられる事は無いんだけれど……」

 

うわぁ、ありがたいや!栗毛さんありがとう!

じゃあ、早速質問なんですけど……

 

「という訳で、走りましょうか」

「ゑっ」

 

うぇ?

 

「よーい、どん」

 

バビューン

 

 

 

……ちょ!?

 

「待ってくださいよー!?!!?」

 

瞬く間に遠くなっちゃった背中を、数拍遅れて追いかけた。大丈夫、僕は後ろから行くのが得意だから充分追いつけ……

 

えっ、速!?

 

「っ………!」

「す、ご……」

 

既に全力なのに、全然詰められない!でもこれぐらい飛ばしてるならスタミナもいずれ切れt、ってここから再加速したぁ?!

こ、こんなの!追いつける訳無い!!

 

「ぜー!はー!ぜぇぇぇ!!」

「これが、大逃げ」

「お、にげ……」

 

ようやく立ち止まった栗毛さんの所に辿り着く頃には、僕はもうヘトヘトの始末。でもこれでやっと、クロの不安が理解出来たよ。

これが“大逃げ”じゃ……どうにも出来ない。

 

「き、菊花でスカイにこれされちゃ……大変、だぁ」

「えーと、菊花って確か凄く長いレースだよね?流石にこの逃げをそこでしたら持久力尽きちゃうから、そこは心配しなくて良いと思う」

「あっそうなんですか」

 

なら安心……だけど、気を付けるべきはスカイだけじゃない。最近ずっと、クロが考え続けているサイレンススズカこそ、この大逃げの使い手だし。

いやでも、不味いなぁ。勝ち方が分かんないもん、あんなに離された上でスパートまでされちゃ。

 

「そんな無敵な物でもないよ。スタートを失敗して前塞がれたら終わりだし」

「初手で成功されたら為す術無いじゃないですか!やだー!」

 

えっ本当に最初の最初で道塞ぐしか無いの?クロが「斜行は不味い」って言ってたけど、もし無理やり塞ぎに行ったら斜行になったりしない?

つまり……詰んでるじゃん!

 

「菊花賞終わったら大逃げ馬と当たるかも知れないのに……うわぁ不味い、すごく不味いです。どうしましょう!?」

「……そういえば、私も他の大逃げ馬と戦った事は無いなぁ。もし私以外にもいたら、先頭の景色を邪魔されそうだし……どうやって先を行こうかな」

 

栗毛さんと2人で考え込む。大逃げ馬を倒すには、一体どうしたら良いのかなぁ……?

……あ。そうだ。

 

「結構回復したので、もう一回一緒に走ってもらって良いですか?」

「へ?ああ、良いよ」

 

許可を貰って再挑戦。2人並んで、スタート。

栗毛さんは当然の如くスタートダッシュ成功。まぁ失敗(これ)に関しては全く期待してなかったから予想通りだ。

さっきと違うのは、ここから。無理についていかない、離されるがままにする。

どんどん遠ざかっていく栗毛の髪を長め、でも見失わないように睨みつけながら……

 

ここで!

 

「ふんぬぅぅぅぅ!!!」

「えっ───」

 

溜めに溜めた末脚を、一気に爆発!そう、クロが僕に飽きるほど見せてくれた追い込みです!!

さっきは無理について行ったから、最後に足が残ってなかった。でも離されるのを覚悟でマイペースに温存すれば、最後の勝負まで力を保てるんだ!

 

 

 

と、思ってたら。

 

「あのー……」

「……あっれぇ?」

 

栗毛さん。先に、ゴール。

 

「し……しまったぁ!幾ら何でも離され過ぎた!!」

「ま、まぁ狙いは悪くなかったと思うよ?実際さっきよりも詰め寄られたし、私自身ビックリしたし」

「でも負けてちゃ意味ないですよぉ……」

 

うーん、敗因としてはやっぱり僕が追い込みに向いてないってのもあるかなぁ。仕掛けるタイミングが遅過ぎたし、何より思っていた程のスパートが出来なかった。

……でも。

 

「クロなら」

「クロ?」

「僕の親友なら、きっと……!」

 

今回の併走で分かった。大逃げを倒しうるのは追い込みだって。クロの走りこそが、サイレンススズカを破り得る唯一の答えなんだって!

 

「───そう。クロっていう仔が、私の大逃げに(まさ)り得るんだね」

「はい!……っていや、えっと、栗毛さんも強いですよ!?ただ私としてはクロの方を信じてるってだけで、あれコレどっちにしろ失礼?」

「良いよ。そんな強い若馬がいるなら、これから面白くなりそうだもの」

 

そう言いながら、粒子になって消えていく栗毛さんの身体。気が付くと僕の体も、そしてこの草原も同じように消えかけていて、夢の終わりが近付いている事を知らせていた。

 

「頑張ってね、黒鹿毛君。クロ君の事もそうだけど、君との対戦も楽しみにしてるから」

「……!はい!」

 

掛けられた期待に胸が熱くなり、全力で返事をする。次の瞬間、視界は眩い光に包まれて───

 

 

 

 

 

『むんっ!?』

 

目が覚めた。

見回すと馬房、見下ろすと馬体。うん間違い無い、ちゃんと現実に帰って来たみたいだ。

ってこうしちゃいられない!クロに早く伝えてあげないと!

 

『クロ!クロ!大逃げの対処法が分かりましたよ』

『うぐぉぉぉ……やめてくれ臼井さぁん、俺は至って普通の馬ですよぉ………』

『寝てる場合ですか!?追い込みです、クロの追い込みならサイレンススズカに勝てるかもしれないんです!!』

『秋天、秋天に出なきゃならんのだ……頼む、脳を開かないでくれぇ…!』

 

だっ、ダメだ。この寝ぼけ馬、早く何とかしないと……!

 

 

 

結局、魘されるクロに呼びかけ続けて数十分。やっとの事で起きた彼に、僕は追い込みの件をようやく伝えられたのだった。


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