また君と、今度はずっと   作:スターク(元:はぎほぎ)

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「通りすがりのクログラ過激派」さんのコメントを基に、「蜜柑餅」さんが素晴らしい絵を寄稿して下さりました!
感謝……圧倒的感謝……ッ

【挿絵表示】



Lost Wonder

いつもと違う空気。

いつもと違う車の音。

薄暗い部屋の中で、それに揺られて私は佇む。

 

「しかしこんな縁が結ばれるだなんてなぁ」

 

「向こうの馬主さんが、こっちでの有馬で大層スペシャルを気に入ったそうでな。丁重に扱えよ、アメリカのお嬢様だぞ」

「分かってるさ、その旨をちゃんとスタリオンステーション側にも伝達してある」

 

前の方から、聞き慣れない言葉で話すニンゲン達の会話が聞こえた。それに耳を澄ましていると、隣のStabler(厩務員)から首を撫でられる。

 

「アゲイン、落ち着いてるね」

 

こっちも分からない事に変わりは無いけれど、ニュアンスは流石に読み取れた。褒められたんだって。

 

「引退後の初仕事だ。上手くいくと良いな」

 

期待された雰囲気。そう、今日私は走る以外で初めての大仕事をこなす。先輩牝馬さんから教えられた、牝としての重要な事。

……でもなぁ。でもなぁ。

 

『見ず知らずの牡馬相手に、上手くやれるかなぁ』

 

恋だとか愛だとか、そんな幻想は抱いてない。先輩からあらかじめ期待するだけ損だって言われてたし、何よりそんな物自体に興味が無い。私はただ、思うままに走って思うままに生きたいだけだから。

という訳で、本当なら子育てとかも別に絶対やりたい!とかじゃないんだけど……まぁ、お世話してくれるニンゲン達がやって欲しいって言うならね?やってあげても良いっていうか。ね?

 

……とは言っても。最初の相手は流石に国内かと思いきや、まさか遥々海外まで出向く事になるなんて。余程の牡って事なの?

そんな事を考えていると、止まる足場。次いで、開かれる扉。見えた景色はやはり、故郷(アメリカ)とはまるで違っていて。

 

「改めて、日本へようこそ。ワンダーアゲイン御一行様」

 

出迎えたのっぺり顔のニンゲン達が、私を歓迎している事だけは理解出来たのだった。

 

 

 


 

 

 

「ワンダーアゲインは基本的に手が掛かりませんし滅多な事では怒りませんが、一度拗ねると長引きます。飼い葉の量はこれで固定して下さい。あと外が好きなので出してあげて頂ければ幸いです」

「飼い葉は○○g定量、是非放牧をとの事です」

「了解しました。責任持って預からせて頂きます」

 

牡馬達の匂いがする建物に連れて来られると、私はすぐさま馬房(へや)に入れられて待つ事になった。そのすぐ外では、私のStablerがのっぺりニンゲン達と何かを話している。

と、Stablerはそのままどこかへ行ってしまった。他に連れて来られた子の世話に行ったのかな?

 

「さて、じゃあご要望通りに放牧へ出すとするか。交配予定日は明日だったよな?」

「はい。しかしアレですね、見れば見るほどグラスワンダーにそっくりというか」

「全妹だからな。とはいえ、グラスが牝馬染みた端正な風貌なのもあって確かに瓜二つだよ。目を離したら間違えてしまうかもな」

『……グラスワンダー?』

 

グラスワンダー。その言葉だけは聞き取れて、それに無自覚に耳を反応させてしまう。

会った事も無い兄。この日本の地で良い成績を残したと言う先輩の名前。

アナタ達、知ってるの?

 

「ん、内線電話が。ハイもしもs……え!サンデーサイレンスが大暴れして放馬!?今行きます!!」

「僕も行った方が良い案件ですよねソレ!?ワンダーアゲインの世話は誰に任せますか!」

「最近配属されたアイツを呼べ!いくら新人でも一頭を見ておくだけなら間違えようが無いだろ!」

「はい!」

 

そんな私の問い掛けが通じる筈も無く、慌ただしくなったと思いきや去っていってしまうニンゲン達。数分遅れて代わりに来たのは、同じくのっぺりした顔立ちながら、頼りなさを一層増したニンゲンだった。

 

「きゅ、急に308の馬房を任せるって言われても……名前も教えてくれなかったし、何なんだ?」

 

そう呟いたニンゲンは、私を見上げた瞬間にその目を見開いた。え?私の顔に何か付いてた?

 

「え、なんでコイツ(グラスワンダー)が牝馬専用馬房に!?先輩、まさか間違えたのか!?」

『なんか慌ててばっかり。この国のニンゲンって皆そうなの?』

「えぇ、確か今の時間帯って……うんそうだ、本当ならスペシャルウィークと一緒に外に出してる時間だ。先輩何やってるんすかぁ……!」

 

グチグチ言うと、そのニンゲンは馬房を開いて私を連れ出した。向かうは外、緑が生い茂る平野。ああやった、外に出してくれるんだ!

でも何だろう、このニンゲンの手付きがちょっと素人臭いというか。もうちょっと丁寧に手綱を引けないの?なんというか、今の所この場所に良い印象無いんだけど。

だってほら、空気はじっとりしてるし風は無いし。心無しか虫も多くて、なんだかヤになっちゃうもの。それでニンゲン達の仕事も雑なんじゃ、出るやる気も出ないっていうかさぁ。

 

「ホラ、いつもの場所だ。すぐに相方を連れて来てやるから待っててくれな」

 

柵の内に私を入れると、そのニンゲンもすぐさま離れていってしまう。ここから私の自由時間って事かな。

芝は悪くない、寧ろ良い。走る分には問題無さそうかな。なぁんだ、良い所あるじゃんここも。

あっお隣さんだ。短い付き合いになるだろうけど挨拶だけはしとこうかな。Hello(こんにちは)

 

『は……?栗毛の新入りじゃねえかよ。そっちから話しかけてくるたぁ驚きだな、気でも触れたか?』

『あっ、しまった。こっちの言葉が通じない……Sorry、英馬語分かります?』

(ども)ってんのか、それともおちょくってんのか……いい加減にしろよ。腹立つんだよテメェ』

 

あ、あれ……?なんか私怒られてない?

相手の馬の気迫が膨れ上がってるんだけど。えっ。えっ?

 

『私、何かしちゃいましたか?もしそうだったらすみまs』

『今更申し訳無さそうなフリしたって遅ぇんだわバカが!次期大将に擦り寄っていいご身分だなァ……!』

『うぁっ………!?』

 

バァンッ!と蹴散らされたのは相手の足元の土。なんで?何で私、牡馬から威嚇されてるの?

ワケわかんないよ。帰りたいよ。

 

『そもそも大将が大将だ、1年ポッキリの新入りに座を明け渡して隠居だなんて情け無ぇ……お前みてぇな女々しい奴と戯れる性倒錯者風情によォ!』

 

やだ。怖い。

 

怖いよ。

 

助けて。

 

誰か。

 

 

 

『何をしてるの?』

 

 

その声は、私の心の悲鳴に応えるように投げ掛けられた。

振り返る。するとそこにいたのは、黒鹿毛の馬。

私の柵に、彼はいた。

 

『何を、してるの?』

『……あ、いや。その、これは』

『質問に答えろ』

『ッッッ…!!』

 

それが殺気であると分かったのは、正面からそれを受けたのだろう向こうの牡馬さんが目に見えて怯んだから。なのに、隣の私は何も感じない。

とんでもない集中力と、それによる指向性……!

 

『ゴメンネ、遅レチャッテ』

『……え?』

 

ただ呆然とする私に、彼が投げかけたのは、打って変わって優しい声音だった。しかもそれは、私もよく知る言葉遣いで。

知ってるの……?

 

『大丈夫、スグ終ワラセルカラ』

 

そう言って向き直る黒鹿毛さん。その視線に射抜かれた相手は、窮した末に自棄になったように喚き始めた。

それが、最後。

 

『う……うるせぇ!ここに来て高々1年の青二才が出しゃばりやがって!お前みたいな若造がボスになるぐらいなら、俺が、』

『調子なああああぁぁああぁああああッッ!!!』

 

大気が震えた。きっと錯覚じゃなく、それは本当に。

黒鹿毛さんが、怒った……!

 

『うぉ……あ…ひ、ぃ』

 

それを真正面から食らった牡馬さんは腰を抜かしてしまっていた。それを見下ろす彼の視線は、果てしなく冷たい。

 

『柵で分けられてるから安全、とでも思った?』

『ち、違っ……そんなっつもりじゃ』

『もういいよ。でも次は無い──またグラスに手を出したら、君に次は無い

『ヒッ……ぃぃぃぃぃ!!!』

 

とうとう耐え切れず、牡馬さんは逃げ出してしまった。放馬するような勢いで対角線上の柵まで突っ走り、その姿が豆粒のように小さくなる。

……力を奮った訳でもないのに、ここまで圧せられるなんて。

 

(黒鹿毛さん、アナタは……何者なの?)

 

とても強い牡。私の知らない、今まで知らなかった世界の存在。

目の前でそれを見せつけられしまった事で、否応無く好奇心が刺激されてしまった。知りたい。アナタの事を、知りたい……!

 

『……クロなら、もっと上手く出来ただろうなぁ』

『あ、あのっ!』

『サテ、ト』

 

なーんて、思ってたら。

はむっ。と。

 

『んむんむ』

『ゑ』

『ペロペロ』

『えっ?』

 

何?

ちょっと待って。

今、私ってば。

 

(初対面の牡にグルーミング……されてるぅぅぅ!?)

 

しかも明らかにこの場所のボス馬さんに!先にグルーミングされちゃったよー!!えっ、そういうのって普通ヒエラルキー下位の馬からやるのが通例だよね?

うわあああ丹念に鬣舐められちゃってる……あっでもやり方優しい……丁寧…そこ痒かった所………ってそうじゃなくて。

うわ体近いって……凄い、牝馬とは違う筋肉だ。薄い皮膚の下に、堅くて、重くて、熱くて。うわぁ、うわぁ……ってそうでもなくて!

ああああ落ち着いてワンダーアゲイン!グルーミングされたら!し返すのが礼儀!パニクってる場合じゃないでしょ!!

……あっ。

 

『ウン、整ッタ。コレデ良シ』

 

グルーミング、終わっちゃった。名残惜し……じゃなくて、私は何も出来ないまま。

 

『今日ハ良イ天気ダシ、走ル?ソレトモ日向ボッコ?』

『あっ、well(えっと)、じゃあ……走る方で』

 

これでもほんの数ヶ月前まで走っていた身。脚にはまだ自信があるし、並大抵の牡にだって負けはしない。

だから、この脚で。

 

『オーケー。ジャ、コノ柵ヲ2周シヨウカ』

 

アナタを、もっと知りたい。

どれ程の牡なのか。既に惹かれている自覚はある、だから後は本能の問題だ。“速く強い牡にこそ従いたい”という(牝馬)の本能。

 

『ヨーイ……』

 

だから、どうか。

 

『ドンッ!!』

 

(()()()()()()()()よッ……!)

 

合図と共に駆け出すと、スッと前に出てくる焦茶色の馬体。逃げ?先行?前目の位置につける牡馬さんなんだろうか、彼は。

走りはその風貌に違わず力強くて、思わず見惚れてしまいそう──なのは山々だけれど、一番大切なのは最後に勝てるかどうか。私、手抜きなんてしませんからね!?

 

Let's roll(行きますよ)……!!』

『っ、ヘェ…?』

 

ついてく、ついてく、どこまでもついて行く。マークは現役時代からずっと得意だったし、このペースならスタミナだって充分だ。このまま最後に抜かして……

 

 

あれ?

 

『えっ、どこ───』

 

 

 

 

『ココダ、ヨ』

 

気が付くと見えなくなっていた背中。そして次の瞬間、背後で膨れ上がる気配。それに思わずペースを崩すと、その隙は見逃される事も無く。

流星が、私の走りを突き破って。

駆け抜けた。

 

『ッ、フゥ。コンナ物カナ』

 

先にゴールした牡馬さん。息を荒げもせず、淡々と整える姿はまさしく強者のそれで。

 

『ドウカナ?()()()()()()ンダ、下手ダケド』

 

でも、それよりも。

 

『……すごい』

『ヘ?』

『すごい………すごいすごい凄い!!』

 

私の知らない走り。未知の力、未知の領域。

“Wonder”だなんて呼ばれてる私だけど、だったら彼の走る姿は“Wonderful”そのものだったから!!

 

『ねぇ、名前なんて言うんですか!?是非教えてください、というかアナタの子供が欲しいです!アナタなら良いです、お願いします!!』

『エッ、ハ……ええ?ええっ!?子供……コドモ?!』

 

あれ?興奮のあまり何かヤバい事言っちゃった気がする、でもまぁ良いや!この出会いを逃したくない、アナタとの思い出を作りたい!

私、アナタとの絆が欲しいの!!

 

『オオオ落チ着イテ!ソリャ、ソノ、嬉しいけど……僕達ハ子供作レナイデショ!?』

『何言ってるんです?アナタ牡馬(male)、私牝馬(female)!何の問題があるって言うんです?』

『ンェ、牝馬ァ!?ダメダ、多分暑サデ参ッチャッテル!!』

 

さっきから何を言ってるんだろう。出てくるのは拒絶の言葉、でもその裏には隠しきれない喜びが感じ取れている。それを受けて、私の体も一層熱を帯びていった。

でもどうしよう、このままじゃ埒が開かない。いっそ押し倒そうかな?良いよね、だって私は牡馬と交わりに来たんだし。

 

 

 

 

なんて事を、悠長に考えていた。その瞬間までは。

 

 

『スペさん』

 

私の声だと、そう思った。それは、私達の背後から投げ掛けられた。

スペさんの動きが止まる。私の背中の方向へ視線を向け、そこから微動だにしない。

振り向くと、そこには。

 

『誰ですか、そこの牝馬は』

 

“私”が、いた。

 

栗毛。額の流星。自分で言うのもなんだけど端正な顔立ち。そっくりな、声。

唯一、瞳の色だけが───私は赤で向こうは青───差異を見せる。

 

 

………まさか。

 

 

『アレ?エ?』

「は?ぁ?」

 

答え合わせは牡馬さんと、そしてその馬を連れて来たニンゲンの言葉。

 

()()()が、二頭(ふたり)?』

 

 

──ああ。

 

───あぁ。

そういう事か。

この瞬間、私は全てを理解した。

そして次の瞬間、途轍も無い絶望に陥った。

 

『……僕はいつもひとりだよ、スペさん』

『ゴゴゴゴメンゴメン!ッテ、コッチガ()()()()()()ゥ!?ドウイウ事?!』

『僕の故郷に、妹がいると言う話を聞いた事があります。きっとその()です』

『アァ、道理デ……英語シカ話サナイトハ思ッテタケド、ナルホド』

 

優しい瞳。私に向けられていたそれを、独占するもう1人の私。

あぁ。最初から、私の物じゃなかったんだ。

 

『……ワンダーアゲイン、だっけ』

『…はい』

『ママは元気?』

はい(Yeah)……』

『そっか。良かった』

『………』

 

そう言ってそっぽを向くアナタ。でも気付いてる?そんなアナタの背に注がれる、牡馬──スペさんの視線を。

見惚れてるかのような、恋するかのような。気付いてくれるのを待っているような、切なげな視線を。

 

(私じゃ)

 

気付いたのは、たった一つの単純な答えだった。

 

(私じゃ、なかったんだ)

 

彼の愛が、向けられていたのは。

そしてこれから、向けられていくのは。

 

 

 


 

 

 

ねぇ、()よ。

アナタは私が嫌いなの?

 

 

あの後、戻ってきたニンゲン達が、集まった私達三頭を見て大騒ぎ。私を連れてきたニンゲン君は私達の目の前で大目玉を喰らい、そして他のニンゲン達がまたも慌ただしく私を引き離していく。

スペさんが私を呼んだ。私は振り向かなかった。アナタの姿を、これ以上記憶に残したくなかった。

 

「馬体検査の結果は?」

「えぇと、多少運動したようですが交尾とかはしてないようです。監視カメラの映像でも確認出来てます」

「良かった……元からスペシャルと交配予定だったとはいえ、兎に角良かった」

「とはいえ向こうさんカンカン案件では?」

「土下座しかあるまい。俺は腹を切るぞ」

「迷惑なだけかと……交配本番は?」

「ワンダーアゲインに問題が無いなら予定通り明日だ」

 

なんて酷い話だろう。私の恋は始まった瞬間に、始まる前に終わっていたなんて。神に呪われていたのかと思ってしまうほどに、残酷で、虚しい。

だって。あの目に勝てる気がしない。あの視線を勝ち取るなんて不可能だもの。

苦渋があった。嗚咽があった。叫びがあった。その全てが、あの愛おしげな視線に内包されていて。会ったばかりの私には、到底突け入れない強固な絆なんだと、すぐに分かってしまったもの。

だから、この物語はここでおしまい。

私とスペさんの話は、これで終わり。

近い内、私にはきっと他の牡馬が割り当てられるだろう。その血を貰って、子を儲けて、それで終了だ。この地(日本)の思い出は、全て。

 

………そう思っていたのに。

 

 

 

『こ……コンニチハ。スペシャルウィーク、デス』

『………!』

 

翌日、現れたのは他ならないアナタ。あの時の威圧感が嘘のように所在無げに苦笑して、でもあの時の柔らかい雰囲気の微笑みで。

ねぇ、神様。どうして?

忘れたかったのに、これじゃ無理じゃない。

 

『……ハ、ハ。ニンゲン達ハ、僕達デ、ソノ……子供ヲ作ッテ欲シイミタイダネ。アハハ』

 

照れ隠しに見えて、その実、私への思いやりに満ちた言葉。私の緊張を解こうと、その緩和に徹してくれている。

でも、隠せてないですよ。()()

だから私は。

 

『来て下さい』

『………ぇ……』

『分かっているでしょう』

 

やる事なんて、一つだから。

嬉しさと悔しさで視界が滲む。それを隠す為にスペさんから背を向けて、尻を見せた。あとは本当に、スペさん次第。

 

『デ、デモ……』

 

それでも彼は惑う。考えている事は分かりますよ、ええ。私がアナタなら、同じ気持ちになりますもん。

でもそれじゃ……アナタは、いつ報われるんですか。

私は、どうすれば良いんですか。

 

だから。私も、覚悟を決めた。

言った。

 

『グラスワンダー』

『!』

『私を、グラスワンダーだと思って下さい』

 

これなら、顔は見えないから。

見えたとしても──私なら、彼の代わりになれるから。

スペさんと、交われるから。

 

『……無理だよ』

 

震える声音は、それでも誠実で。

だからだろうか。日本の言葉だったのに、その意味はよく分かった。

 

『君は、グラスワンダーじゃないのに』

 

溢れそうになる欲望を抑え、飽くまで私を“ワンダーアゲイン”として接しようとしてくれていた。

嬉しい。そしてそれ以上に悲しい。

私は、アナタの1番になれない。

 

『それでも』

 

だからこそ。

たとえ仮初だとしても。

 

『アナタとの、絆が欲しいんです』

 

アナタの愛が、欲しいんです。

だから、どうか。我慢しないで。

 

『来て、スペさん』

『あ……ぁぁ…』

 

 

 

 

 

 

『うぁぁぁああああぁぁぁぁ………っ!!』

 

 

 

 

 

ねぇ、神よ。

アナタは私が嫌いなの?

どうして彼を呪ったの?

答えてよ。クソ野郎(Fuckin'god)

 

 

 

 

 

 

 

日本。それは私の、忘れられない思い出。消えない痛みの記憶。

きっとこの痛みを、私はずっと抱えて生きていくんだろう。この悲しみが癒える事は無いんだろう。

でも。そこから生まれたのは、決して嘆きだけじゃないから。

 

『マ、マ……?』

 

彼と同じ流星。

私と同じ脚の模様。

彼と私が混じったような毛色の鹿毛。

そして……彼と同じ色の、瞳。

 

こんにちは。私と彼の結晶。

アナタにニンゲン達がどんな名前を付けるか、見当も付かないけれど、

今だけ、私だけは、アナタをこう名付けさせて。

こう、呼ばせて。

 

 

()()()行って、リオ』

 

 

私の後悔を。

あの人の悲嘆を。

お兄ちゃん(グラスワンダー )の想いを。

 

 

特別(スペシャル)過去(きのう)を、超えていく明日へ』

 

 

どうか、その果てでアナタが輝けますように。

 

 

 

『頑張ってね。Superior(スペリオル)




スペリオルワンダー
スペリオルワンダー(英:Superor Wonder)は米国の競走馬・種牡馬である。名前の由来は「スペシャル(Special)を超えてゆけ」から。
父父サンデーサイレンスのダート適性と母父シルバーホークの芝適性を両立し、アファームド以来の27年ぶりの米国三冠を、シアトルスルーから28年ぶりに無敗で達成した。
同年日本で無敗三冠を達成したディープインパクト・ノイジースズカとはよく比較され、特にディープとの凱旋門賞・ジャパンCでの差し返し合いが有名。日本で「ディープのライバルは」と問われれば当馬が挙がり、逆に米国で「スペリオルのラスボスは」と聞けばディープが挙げられる程に両馬・両陣営は激しく意識し合っていたという。
母ワンダーアゲインは、馬主がグラスワンダー達黄金世代の逸話と関係性をいたく気に入ってスペシャルウィークとの配合を提案し成立。日本に送られたのだがその際、手違い*1でスペシャルウィークと同じ放牧地に出されてしまうという珍事不祥事が発生してしまい、馬にしては珍しい“お見合い”をする事と相なった。そこでアゲインはスペシャルを気に入ったらしく、交配の際も積極的に彼に寄っていったと関係者は語っている。



ちなみに当馬、ノイジースズカに一目惚れしていたらしい。そんな所までライバルにならなくて良いから……

*1
容貌がそっくりなグラスワンダーと取り違えられた


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