また君と、今度はずっと   作:スターク(元:はぎほぎ)

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評価を嘆いたらまた上昇してて草。ねぇ愛されてる俺?自信持って良い?(愛されてるのはスタークじゃなくて作品定期。皆様ご贔屓にして下さりありがとうございます)


【Ep.33】王冠!

展開は分かり切っていた。

誰もが、あと数分に迫ったレース模様を未来視していた。

先頭は間違い無く栗毛。

最後方は恐らくだが芦毛。

問題はもう一頭の栗毛、そして黒鹿毛がどう動くか。

近付く対決。否応無く高まる熱。

 

そして。

 

《お互いがお互いを知り尽くしています。小細工無用の真っ向勝負、毎日王冠──スタート!!》

 

 

 


 

 

 

『くっ…!!』

 

久し振りのレースだから、なんて言う訳にはいかない。そんな言い訳に逃げそうになった自分を恥じる。

けれど、忘れていたプレッシャーを前に出遅れてしまった事実は覆せない。

 

(立て直さなければ…っ)

「グラス、落ち着こう」

『窓葉さん…』

 

騎手さん(乗ってくれているヒト)からの手綱に従って、位置取りを調節。後方から皆さんの背中を見る姿勢となった。

その向こうに、緑色の影がすっと抜きん出て。

そして……!?

 

《乾いた西日を浴びて、秋の府中開幕週。そうです、サイレンススズカ当然行く……が、その後に続くのはクロスクロウ!逃げでサイレンスと張り合うのか生沿健司、こうなると一層問題なのはペース!》

 

へぇ、ボクの目の前でそれをしますか。それをやるんですか、クロ!?

思わず掛かってしまいそうになる心を落ち着けて、芦毛の鬣をじっと睨んだ。私は敵ではないと言ったその傲慢、絶対に打ち砕いてみせますから……!

 

《3番手はエルコンドルパサー!手綱はガッシリ持ったまま、海老奈正敏とのコンビ》

『ふたり共待つデェス!』

 

エルはあの位置。先行としては上々、けれど……っ。

 

「ペースが速いな」

 

窓葉さんの焦りが伝わってきた。かくいうボクも、いつもより力を込めて走らざるを得なくなっている。

でも落ち着いて、こういう時こそ深呼吸して。()()()()は必ずある、そこさえ逃さなければ……

 

《グラスワンダー早くも盛り返している。窓葉一との信頼の絆───おおここでクロスクロウ下がった!クロスクロウ下がりました、これはまさか朝日の作戦か!?》

 

……は?

 

「…挑発かな?」

 

へぇ。へぇ。へぇー。

カチンと来ました。ここに来てまだボクを惑わせますか。こっちは貴方に抱いてる感情をまだ整理出来てないというのに。そこから更に煽ってきますか、誘ってきますか。

……もう一回言います。カチンと来ました。

 

「だが()()()()()だ。グラス、構えよう…!」

『はい……!』

 

僥倖です。これはタイミングが測りやすい。

そう、丁度クロがボクの所まで来たタイミングで。

 

『ハッ、バテたなんて言いませんよネ?!』

『さぁてな』

 

エルと彼が擦れ違う。叩かれ合った簡潔な減らず口に思わず笑ってしまいそうになり、我慢。

あと、もう少し。

そろそろ。

 

『クロ』

『グラス』

 

来た。

 

『来ますよね?』

『当たり前だ』

『安心しました』

 

よし。もう憂いは無い。

行きましょう、窓葉さん──!

 

《外からグラスワンダーが早めに出てきた大ケヤキの向こう側!》

 

クロが下がって暫くしてから、競る相手を失いサイレンススズカがペースを落とした気配がありました。大逃げというのも噂ほどでは無く、何よりクロと一緒に対策を積んできた効果があった。

一瞬の油断を突く。差すとはつまりそういう事……!

 

《さぁどうだどうだ、サイレンススズカに詰め寄ってきたのは外のグリーンの帽子!》

 

迫ってきた!いけます、この距離なら詰め切れる!!最終コーナー時点で先頭に立てる!

そこからはクロ、エル、貴方達との真っ向勝負です!油断はしない、絶対に抜かさせない。この距離で2度も負ける訳にはいかないんですよ!

大きい歓声、でも臆さない。あともう少しで勝利への特等席が手に入るんですから、ここで臆す訳にはいかない!

 

《さぁ真っ向勝負!》

 

そこをどけ、サイレンススズカ!もうここはボク達だけの世界なんだ!

 

《サイレンススズカ、リード3馬身!》

 

粘りますね、でも!

 

 

《坂を登る!》

 

くっ、しぶとい。それでも!!

 

 

《サイレンスまだ逃げる!!!》

 

 

 

……あ、れ?

距離が、縮まらな───

 

『……見えた』

 

声がかすかに、聞こえた。

 

『これが、

SilenceSuzuka SilenceSuzuka SilenceSuzuka SilenceSuzuka SilenceSuzuka SilenceSuzuka SilenceSuzuka SilenceSuzuka SilenceSuzuka SilenceSuzuka

SilenceSuzuka SilenceSuzuka SilenceSuzuka SilenceSuzuka SilenceSuzuka SilenceSuzuka SilenceSuzuka SilenceSuzuka SilenceSuzuka SilenceSuzuka

先頭の景色は譲らない…!

          Lv.5

SilenceSuzuka SilenceSuzuka SilenceSuzuka SilenceSuzuka SilenceSuzuka SilenceSuzuka SilenceSuzuka SilenceSuzuka SilenceSuzuka SilenceSuzuka

SilenceSuzuka SilenceSuzuka SilenceSuzuka SilenceSuzuka SilenceSuzuka SilenceSuzuka SilenceSuzuka SilenceSuzuka SilenceSuzuka SilenceSuzuka

私だけの景色』

 

 

『え?』

 

離された。

ボクより速い速度で。

ボクより強い加速で。

 

『えっ?』

 

おかしい。

道理に適ってない。

ボクの方が後ろで足を溜めてたのに。

サイレンススズカはずっと前で消耗してたのに。

なんで。

ボクより速く。

 

あり得ない。

 

『あり得て堪るか──ッッ!』

『待つ、デェェェス!!』

 

遅れて出て来たエルと共に追う。追うのに、追ってるのに全く近寄れない。それどころか離されていく!

しかも、それだけじゃなくて。

 

『グラス、追いマスよ!何してるんデスか!?』

 

後から来た、エルにすら。

足が回らない。これ以上加速出来ない。

 

(ここが、限界…?)

 

前の冬の時は、こんな物じゃなかった。

衰えてる自覚はあった。けど取り戻せた筈だった。我慢を、褒めてすら貰えた。

なんで……!

 

(こんなんじゃ……)

 

値しない。

()()が無い。

ヤダ。

見ないで。

こんなボクを見ないで……

 

『っ、グラス』

 

そんなボクの願いが、叶う筈なんてありはしなくて。

ああ、見られた。貴方にだけは見られたくなかった。

 

『先に、行ってる』

 

クロ。

 

 

 

《少しよれながらエルコンドルパサー!グラスワンダーは伸びが苦しい!クロスクロウは……来た!来ましたクロスクロウ迫る!逃亡者へ迫る!エルコンドルパサーと並んだ、手応えが良いぞ生沿健司!200を通過!》

 

「ダメか、グラス…!」

 

《サイレンススズカだサイレンススズカ!だが!クロスクロウ、エルコンドルパサー懸命に追う!クロスクロウ辛うじて抜け出たか?!グラスワンダーは4番手も厳しい!!》

 

『なんデスか、その走り…!?』

 

「勇鷹さんッ!」

「やるじゃないか、だが……!」

 

 

《“逃亡者”対“追跡者”!だが!だが今回は!少なくとも今回は!

グランプリホースの貫禄ッッッ!!

 

 

───そして、終わった。終わってしまった。

何だこれは。

なんだ、このザマは?

 

《どこまで行っても逃げてやる!どこまで行こうと追ってやる!!》

 

ニンゲンの声が鳴り響く。きっとそれは、クロとサイレンススズカを讃える言葉で。

 

《エルコンドルパサーは3着!しかし見劣りなど全くしない、素晴らしい走りでした!》

 

エルも。

でもボクには、何も無い。

何一つ誇れる所が無い。

なんで、ここにいるんだろう。

 

ふと顔を上げた。

吐きそうになった。

クロが、サイレンススズカと話してた。ボク以外の栗毛と、面と向かって話してた。

気持ちが悪い。

気分が悪い。

 

『……グラス?』

 

やめて。

来ないで。

こんな情け無いボクを自覚させないで。

お願いだから、やめて。

 

 

 

 

気付けば、逃げるように芝を背にしていた。暗くて景色の見えない馬道。いつもは好きになれなかったその閉塞感が、世界から遮断してくれてるようで今だけはありがたかった。

でも拭えない痛みは、まだ胸の中にあって。

ああそうだ。クロの敵は私達じゃなかったんだ。

彼は舐めてなんていなかった。

舐めていたのはボク達の方だった。

挑むべき相手を、彼はちゃんと分かっていたんだ。

それが不満なら、彼のターゲットに足る存在で在れるようより努力するべきだったのに。ボクは。

 

How stupid(無様が過ぎる)…』

 

ボクは。

 

「……泣いているのか、グラス」

 

ごめんなさい。

ごめんなさい窓葉さん。

ごめんなさい、クロ。

 

まるで寂しさに耐えかねたあの日に戻ったかのように、ボクはメソメソと泣く事しか出来なかった。

勇鷹はアヤベさんの新馬戦で

  • やらかす(ジャパンCでのスペ鞍上は奥分)
  • やらかさない(スペ鞍上続行)

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