また君と、今度はずっと   作:スターク(元:はぎほぎ)

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「スピカトレーナー、スペの父親説」を某掲示板で発見してしまったので初投稿です
一瞬血迷って拙作にも採用しようかと思いましたが、後に控えるウマ娘編が(キャラ心情的にも作者の能力的にも)ただただ地獄になるだけで収拾つかなくなるので思い留まった次第。発案者へのリスペクトも欠かしちゃいけないからね

という訳で皆さん、お待たせいたしました
秋天です


【Ep.37】沈黙?

「サイレンススズカの調子は最高潮だ」

 

箸畑調教師の言葉に、僕は無言で頷く事で同意を示した。鞍越しに伝わるスズカの脈動は、ハッキリとそれを証明していたから。

 

「調教タイムも上々、負ける要素を探す方が難しい。あの一頭を除けば」

「勝ちますよ」

 

分かっている。生沿君が、クロスクロウが来る。

それでも、僕は断言してみせた。負ける気がしなかった。

 

「勝てば僕は7週連続重賞勝利、そして何よりスズカの7連勝……ダブルラッキーセブンです」

「マチカネフクキタルじゃないが、待ち兼ねた福でも降りそうだな」

「煮湯を飲まされた相手の名前でよく遊べますね?」

「もう負けないさ、今のコイツなら」

 

そう言って愛馬を撫でる箸畑さんの手付きは優しく。それを感じ取ったスズカもまた、甘えるように顔を彼に寄せる。

 

「やって来てくれ、拓さん。秋の盾をサイレンススズカへ」

「勿論ですよ」

 

次戦はジャパンC。そして、夢は海外へ広がっていく。

緑を纏う、彼と共に。

 

「頑張ろうな、スズカ」

フルルル(はい)ッ!」

 

 

 

 

 

 

 

「始まるぞ、クロス」

「……」

「今度こそ勝とうな」

「………」

「…クロス?」

 

 

 

 


 

 

 

 

始まる。私の大一番。

ユタカさん達が、厩務員さん達が常々言ってた秋の天皇賞が。

 

「「「わあああああ───!!!」」」

『うわっ…!?』

 

芝の上に出た途端、凄い歓声何かあったのかな。ニンゲンさん達が凄く騒めいている。

 

「君を待ってたんだよ、皆」

『私を?』

 

ユタカさんの言葉をニュアンスで感じ取ったけれど、俄には信じられない。そんなに凄いことしたかな、私。

って、それよりも大事な事がある。彼はどこかな。えっと、アレでもないコレでもない……

 

 

あっ。いた。

ステイゴールド君と一緒にいる。見つけた、彼もやっぱり来てくれてた!

 

『クロスクロウ君!』

『あっ、サイレンススズカ先輩。どうも』

 

今気付いたように振り向く芦毛の君。待ってた、君を待ってたんだよ。

君とまた走りたかったんだ!

 

『ゲッ、ペット根性2号じゃんか』

『ステイゴールド君もこんにちは。前から思ってたんだけど、その“ペット”ってどういう意味?』

『教えるかよ。マチカネの奴が1号、お前が2号で女帝サマが3号。そしてそこの芦毛が4号だ。揃いも揃ってバカ野郎が』

 

ええ…(困惑)。

言うだけ言って、彼はそのまま踵を返してしまった。ねぇクロスクロウ君、ステイゴールド君と何話してたの?

 

『“ニンゲンに媚び諂って何になる?他者の為に走って何になる?身を削るお前らはバカだ”と突っ掛かられました』

『いつものステイゴールド君だ……大変だったね。でもユタカさん達が好きなんだからしょうが無いよ』

『…まぁ、一理無くも無いですけどな』

 

えっ?

意外だなぁ、クロスクロウ君はニンゲン好きな方だと思ってた。嫌いなの?

 

『……嫌いではないんですけど。好きというか、半端に理解してるというか』

『?』

『程々に抗って、手を抜いて。それで生を勝ち取るのも存分に()()…って事ですよ』

 

俺はしませんけど。そう付け加えてから、クロスクロウ君は顔を下へ向けた。厳密に言えば、私の左前脚へ。

 

『足、異常無いですか?』

『無いけど』

『体調は?』

『良過ぎるくらい』

『テンションは?』

『最高……って、これ何?クロスクロウ君って医者?』

 

さっきから様子がおかしいよ!クロスクロウ君の方こそ調子悪いの?だったら休んだ方が良いよ!!

と伝えたら、彼はこう問い返してきた。

 

『先輩が今日走るのをやめるなら、休みます』

『えっ、それは無理』

 

ユタカさんも厩務員さんも、今日来てくれたニンゲンさん達皆がこのレースを楽しみにしてくれてるんだもの。無下に出来ないよ。

何より。

 

『こんな大歓声の中、先頭で走れたら凄い景色が見れそうなんだ』

 

逃したくない。こんな好機、二度とあるか分からないから。

クロスクロウ君と戦えないのはちょっと……いやかなり残念だけど。でも多分、また次も走れるよね?

 

『……どうかな』

『違うの?』

『それは、今日次第です』

 

そう言って、彼はまた顔を上げる。その目を再び見て、私は思わず笑った。

だって、そこにはちゃんと熱い闘争心(モノ)が宿ってたから……!

 

『逃げ切ってみせろよ、先輩。これからも走りたいなら』

『当然だよ!誰も私には追い付けない、君でさえ……!!』

 

それで、終わり。

勇鷹さんに促されて、私はゲートへ向かう。クロスクロウの視線を背後に感じながら、その熱を私自身の闘志へ焚べながら。

さぁエアグルーヴ。待ってて。“箔”ってきっと、こういう大きいレースに勝てば貰えるんだよね?

だったら私、勝つから。そしてまた、貴女と走る。

クロスクロウ君に勝って、その先へ。その先で。ユタカさんと、一緒に。

 

 

 

『ああ、逃げろ逃げろ。頼むから逃げ切ってくれよ』

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「いよいよだね、生沿君」

「どうも、勇鷹さん」

「僕達はもちろん大逃げだけど、君達はどの作戦で来るのかな?逃げか、逃げ差しか。クロスクロウなら大逃げで張り合ってくるのも不可能じゃn「追い込みです」……ほう?」

「はい。追い込みで行きます」

「……間に合うと思うかい?最後方から、スズカの背に」

「さぁ。でも、きっとクロスと考えは同じなので」

「……へぇ…!」

 

 

 


 

 

 

『いよいよだね』

『なんか変な気分』

『来いよ、出遅れ癖なんて捨てて掛かって来い』

『怖いのか?』

『野郎ぶっ差してやらぁ!』

『……ふーっ』

『どいつもこいつもバカばっかりだ……』

 

ワイワイガヤガヤ。ニンゲン達に負けず劣らず、ゲートの中も馬同士で賑わう。そんな中で、私は自分でも驚く程に集中出来ていた。

全ては、ユタカさんと一緒にライバルに勝つ。今はただその為に。

 

《スタート前から指名手配を受けた栗毛の静かなる逃亡者に対して、追跡者達の秘策はあるんでしょうか?特に芦毛に十字を刻む追撃者!》

《二頭が織りなす“異次元”にも期待ですよ…!》

 

精神が極まる。何か、私の根幹があやふやな、でも確かに強い物を纏う感覚。

いける。

見たかった景色の、さらに先さえ見える確信がある。

 

《モヤの向こうのスタート地点……ッ》

 

さぁ、見てて。ニンゲンの皆さん、ライバルの皆さん。エアグルーヴ、クロスクロウ、そして黒鹿毛君。

これが私の……

 

 

 

《ゲートが開きましたッッ!!》

 

 

 

SilenceSuzuka SilenceSuzuka SilenceSuzuka SilenceSuzuka SilenceSuzuka SilenceSuzuka SilenceSuzuka SilenceSuzuka SilenceSuzuka SilenceSuzuka

SilenceSuzuka SilenceSuzuka SilenceSuzuka SilenceSuzuka SilenceSuzuka SilenceSuzuka SilenceSuzuka SilenceSuzuka SilenceSuzuka SilenceSuzuka

先頭の景色は譲らない…!

          Lv.6

SilenceSuzuka SilenceSuzuka SilenceSuzuka SilenceSuzuka SilenceSuzuka SilenceSuzuka SilenceSuzuka SilenceSuzuka SilenceSuzuka SilenceSuzuka

SilenceSuzuka SilenceSuzuka SilenceSuzuka SilenceSuzuka SilenceSuzuka SilenceSuzuka SilenceSuzuka SilenceSuzuka SilenceSuzuka SilenceSuzuka

 

 

………あれっ?!

 

《さあ期待に応えて拓勇鷹とサイレンススズカ早くも先頭!6番オフサイドトラップ・7番サイレントハンターが二番手、そして堂々最後方にわざと出遅れたか生沿健司とクロスクロウ!これもまた期待通り、今日は純度100%の追い込みだ!》

 

えっ待って!なんかもう景色見えてる!?えっ凄い足が回る!速い!楽しい!楽し過ぎて逆に怖い!!

でも、嬉しい!!!気持ちが良い!

 

「飛ばしてやろう、スズカッ」

『はいっ!!』

 

勇鷹さんと最初から鼓動が重なったんだ、息が合ったんだ。うん、やっぱり調子が良いんだ、私!

行こう!言われた通り、飛ばして千切りましょう!!

 

「えっ嘘だろ拓さん!?」

『はっや…』

『むりぃ〜!』

「マジかよオイ……!」

 

人馬の戸惑いが遥か後ろ、景色の外から聞こえてくるよう。でも()は動じてないよね?一番遠い場所にいる君だけは。いずれこの景色にも入ってくるよね

だから、私はもっと加速した。君でさえ追い付けない景色へ、更に潜り込むように。

 

《早くも9馬身程の差をつけて、サイレンススズカと拓勇鷹が行く!これだけ引いても後ろが見えない!?》

「まだだ!」

『まだ!』

「『もっといける!!』」

 

勇鷹さんと一層深く同調する。人馬一体が、更に深まるのを感じる。

景色が一層鮮やかに、光を帯びる!

………っ!?

 

『待てよ、先輩…!』

 

来たね、クロスクロウ君……!!

 

《!?ここでクロスクロウスパートだ、上がって来た、まだ半分も過ぎてないぞ!しかし生沿落ち着いている、掛かってない、折り合いは欠いてない!!》

 

凄いよ。本当に凄い。まだこんなに離れてるのに、景色の欠片を君が踏み砕いたのを感じた。微かに入って来た、それが分かったんだから。

さてと。ここからは、私と君だけの時間だね!

 

『来て、クロ君!』

 

《かなり縦長の展開。クロスクロウはもう中団を超えたが間も無く1000のコーナー手前、標識はどのぐらいのタイムで通過するのか。今通過───56秒台!56秒台です、これは伝説的なタイムだサイレンススズカッ!!》

 

『う……オオォオオオオっ!!』

 

ほぅらやっぱり!

君は来てくれるんだね!!入って来れるんだね、この景色に!

 

《後続の各馬は大丈夫なのか……いや!大丈夫だ!コイツだけは絶対に大丈夫だ!クロスクロウがサイレントハンターを躱して二番手来たッ!!多少よれたか!?》

 

ははっ。あはははっ。

ハハハハハハッ!!

 

(楽しいかい、スズカ?!)

(楽しい、楽しいよユタカさん!)

(良かった、僕もだ!)

 

これ以上無いくらい輝きを増した景色の中で、ユタカさんと心が通じ合う。なんで声にも出してないのに分かるのか、自分でも分からない。でもひたすらに心地がいい。

上にユタカさん、後ろにクロ君!最高だ、最高過ぎる!!

 

(さぁ、もっと!もっと世界を!)

 

心臓が加速する。体が全体が拍動する。これなら、これなら──

 

(景色を、“重ね掛け”だって出来る!)

 

最初から入ってる領域へ、更に踏み込めば。

今見ている風景だって、もっと素晴らしくなるはずだから。

 

(いける?いける。いける!!)

 

自問自答は済ませた。ユタカさんの肯定が、手綱を通しもせずに直に感じ取れた。

やった!

 

『行きましょう、ユタカさんっ!!!』

「ああ、どこまでも……!」

 

あの大木を超えたその先。新しい景色の、向こうへ───

 

 

 

SilenceSuzuka SilenceSuzuka SilenceSuzuka SilenceSuzuka SilenceSuzuka SilenceSuzuka SilenceSuzuka SilenceSuzuka SilenceSuzuka SilenceSuzuka

SilenceSuzuka SilenceSuzuka SilenceSuzuka SilenceSuzuka SilenceSuzuka SilenceSuzuka SilenceSuzuka SilenceSuzuka SilenceSuzuka SilenceSuzuka

先頭の景色のその先縺ク

          Lv. 繧、繝

Silence Silence Silence Silence Silence Silence Silence Silence Silence Silence

Silence Silence Silence Silence Silence Silence Silence Silence Silence Silence

 

 

 

 

ボギャッ

 

 

 

 

 

 

─────………。

 

 

 

え。

 

 

『い゛ッ………!?』

 

いた、ぃっ、痛い!痛い痛い痛い!!

あ、しが!左っあし、が…っ!

 

「スズカ?……スズカっ!?」

《大(けやき)の向こうを越えてサイレンススズカ、ああっとここで手応えはどうなんd……っ!サイレンススズカ!サイレンススズカに故障発生です!!》

 

痛い!痛いよ、痛いよユタカさん!

走れない、踏み出せない!!苦しい苦しい苦しい!!!

 

「スズカ、落ち着……こんな事って!」

『いたいよ、いき、できなっ』

 

呼吸、くる、し…!体が、固くなる!

ダメだ!ダメ!ここで止まったらダメ!転んじゃダメだ!!

後ろから来る!よけなきゃ!!!

踏み出せ、ふみ出せ──っうぅ!

 

『けしき、どこ。くらい、よ』

「スズカ、しっかり!」

 

さっきまで見えてたのに。いっしゅんで、暗いもやが。

私に、まとわりついて。うしろから。

 

だめ。ユタカさんも、のってる、のに……!

 

《なんという事だ!第四コーナーを回る事無く、レースを終えた拓勇鷹!》

 

たすけて。もう、なにもわからない。

どこ見ても、くらいの。

いたいだけ。いたい事しかわからないの。

だれか。

きゅうむいんさん。

エアグルーヴ。

ちょうきょうしさん。

フクキタル。

くろかげくん。

だれ、か。

 

あっ。

 

ひだり。

引っかかっ。

 

まずい。

 

たおれる。

 

 

くろい、ぬま。

 

わらってる。

 

 

《沈黙の───》

 

 

いきたくないよ。

 

 

 

たすけて。

 

 

 

 

 

 

『逝かせるかァァァァアアッッッ!!!』

 

 

……。

ひ、かり?

 

 

『しっかりしろ!おい、サイレンススズカ!』

 

わたしと、ぬまに、わって入って。

モヤを、ふみくだいて。

 

『死なせねぇ、絶対死なせねぇ!意地でも死なせるもんか!!お前が死んだらどれだけの人が悲しむと思ってんだ!!!』

 

……そっか。

クロ君に支えられてるんだ、私。

 

『──痛ッ──!』

『先輩!?』

『クロ君…!』

 

意識がハッキリした!でもその分痛みが!

……それでも!!

 

『もう、大丈夫…!!』

『大丈夫なもんか!俺に出来る事あるか!?』

『そんなの……』

 

ただでさえ左を支えてもらってるのに、これ以上は……あっ!

 

『ユタカ、さんを』

『ユタカさんを?!』

『降ろして…!!』

 

お願い、伝わって……。

 

『ッ………!生沿ィィイイイ!!』

「ああ分かった! ──勇鷹さん!!」

「……すまない!」

 

その瞬間、背中から気配が消えた。ああ、良かった。

あとは、お願い。

軽くなった。止まれる。やっと。

 

あぁ───疲れた。

 

 

 

 

 

「スズカァ!」

 

ユタカさんがクロ君から降りて、座り込んだ私に駆け寄って来た。良かった。無事に終われたんだね。

 

……痛い。まだ、痛い。

痛いよ。私、どうなっちゃったの?

 

「そんな……異常なんてなかった筈なのに、どうして…!」

 

あんなに理解し合えてたのに、今じゃもう貴方の言葉が分からないの。心が分からないの。

私、どうなっちゃうの?

 

「……助からない。骨折が深過ぎる……」

 

クロ君に乗ってた人が何かを言うけれど、それも理解出来ない。でも何か、落胆も悲しみだけは伝わって。

 

そっか。

 

私、死ぬんだ。

 

そっ、か。

 

 

 

 

 

 

やだ。

嫌だ。

 

嫌だ!

 

『生きたい!まだ生きたいよぉ!!』

 

酸欠寸前の体で必死に叫んだ。でも痛みは消えてくれない。

 

『エアグルーヴにまだ会えてないよ!約束があるのに!!』

 

それでも、苦しみは消えてくれない。

 

『こんなの、こんなのってないよ…!』

 

蝕む。夢が蝕まれる。

未来が、消えてしまう……!

 

 

『変えたいか?』

 

そこに投げ掛けられた声は、ただただ冷静だった。

 

『運命を、変えたいか?』

 

縋るには、余りにも頼もし過ぎた。

例え(よこしま)な囁きだったとしても、迷わずその手を頼ったと思える程に。

 

『変えたい』

 

答えは、決まりきっていた。

 

『助けて……!』

『……任せろ』

 

そう言うと、クロ君は私のグニャグニャの左前脚へ顔を近付けて。

 

 

ガリッ、と。

 

 

『痛ッッ………たいいぃぃぃ!!?』

「!??!」

「クロスゥゥゥ?!」

 

あまりの激痛に、視界がチカチカと明滅した程だった。えっ何?未練がましく生に縋るなら、いっそその元を断ち切るとかそういうの!?

嫌だ嫌だ死にたくない!死にたくないって言ってるのに!!

 

『やめてぇ!!』

『へぶぉあっ!』

 

反射的に()()()で顔を蹴り付けてしまった。けど罪悪感より恐怖が上回って、そのまま()()()()()。一刻も早く、彼から離れないと……

 

 

……って、あれ?

 

「「え……??」」

 

ユタカさん達と揃って、素っ頓狂な声をあげてしまう。だってそれは、本来不可能な筈の動きだったから。

 

私……立ってる。

立ててる!?

 

 

《さ…サイレンススズカ、立ち上がりました!故障は大丈夫なのでしょうか、今は元気な姿を見せていますが!》

「何があったの…?」

「明らかに折れてた」

「音聞こえたもん」

「クロクロが何かした?」

「噛んだら立った、としか……」

 

 

先程までしつこい程に訴えていた痛みが、嘘のように黙りこくっていた。まるでそれと比例するかのように静まり返ったニンゲン達の視線が、どうにも居心地が悪い。

 

『粘膜接触で他者を対象に出来るのか。推測当たって良かったぁ』

 

それを破ったのは、やはり彼の声で。

 

『クロ君、君は……』

『いやぁ肩の荷が降りた。特大のお花摘みを済ませた気分だよマジで』

『あの、えっと』

 

謝罪と感謝がいっぱいあった。私を支えてくれた事、レースを止めさせてしまった事、痛みを無くしてくれたのに蹴ってしまった事……

けど、それを言う前に彼はそっぽを向いてしまう。

 

『良いんだ、本当に礼なんか要らないんだ。俺のエゴだし』

『でもっ』

『じゃ、元気に走り続けてくれ!それが1番の俺の願いだから──行くぞikzi!』

「ちょ、急に引き摺るnあばばばば」

「生沿君!?聞きたい事があるんだが!」

「正直俺も深くは分かんないので後でクロスに直に聞いてくれっすー!!」

「そんな無茶苦茶な?!」

 

怒涛の勢いで捲し立てて、帰って行ってしまう。クロ君。でも彼は、一回だけ立ち止まって。

 

『また走ろうぜ、先輩』

 

そう、言ってくれた。

 

『……うん!また…!!』

 

何も分からない。

でも、彼に救われたのは紛れも無い事実で。

 

「大丈夫なのかい、スズカ」

『うん。もう、きっと』

「……借りが出来ちゃったな」

 

ユタカさんと寄り添う。そうだ。ユタカさんを背に乗せて、また彼と。

それがきっと、恩返しになるから。

 

 

『……戻ろう。君を待つ人達の所へ』

『………はい!』

 

 

その為にも、今は帰ろう。

皆が、待っている。




──出走前──

「始まるぞ、クロス」
(始まっちまうなぁ)
「今度こそ勝とうな」
(勝つどころの話じゃねぇんだよなぁ)
「…クロス?」
(何だい生沿君よ)
「それどころじゃないって、どういう事だ?」
(………)




『ゑ?』
「へ?」
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