今回から感想返信は基本やめます。事情は活動報告をご覧下さい
ご了承の程をよろしくお願いします
「続いてのニュースはこちら。先日行われた競走馬レース“天皇賞・秋”。あわや大事故となりかけたその時、ある一頭の馬がその運命を変えた……と、話題を呼んでいます」
「ゲストとして、当日に実況を務めた汐田アナウンサーと西新一さんを呼んでおります。今日はよろしくお願いします」
「「よろしくお願いします」」
「えー、ではまずレースの概要なんですけれども……昨日11月1日、府中は東京競馬場で行われた秋の天皇賞、1番人気だったサイレンススズカがレース後半に故障。2番人気のクロスクロウ共々競走中止となった訳ですが……西アナウンサー、“クロスがサイレンスを救った”という噂は一体どこから出て来たんですかね?」
「そうですね、まぁ私は実際現地を見てた訳なんですけれども。故障直後のサイレンスに対してクロスクロウがピッタリと、まるで初めからそうするつもりだったように減速して寄り添ったんですよ」
「それって何か変なんですか?」
「変も何も、下手こいたら速度そのままに衝突して大事故ですよ。何より競走馬って、骨折って概念が理解出来ないので、そもそもサイレンスに何が起こったかなんて把握出来なかった筈なんです。なのにクロスは……」
「まるで分かっていたかのように減速を、と」
「そうです。更にこけそうになった瞬間、ずっと左から押して支える姿を観客全員が見た訳ですから、
「その“躓いたサイレンススズカを支えた”という話に関しても、サイレンスに跨った拓勇鷹とクロスクロウに跨っていた生沿健司の両騎手が同じように証言している訳ですが。西さん、これに関して真偽の程は」
「真偽も何も、“拓さん程の男が言うのならまぁ……”としか。実際、サイレンスが転倒せずに済んだのは事実な訳ですから。でも私が取り分け注目したいのは、接触後の事よりもその前の話なんですよ」
「と、言いますと?」
「こちらをご覧下さい。大欅の向こう、サイレンスが故障する直前の各馬の位置を上から示した図です。先頭にポツンといるのがサイレンスですが、見て欲しいのはここ。二番手のクロスクロウの位置取り、変だと思いませんか?」
「……内側からずいぶん離れてますね」
「そうなんですよ。当日の府中は晴れていて芝の状態も良く、インを突かない理由はありませんでした。しかしクロスクロウはそうしなかった」
「生沿騎手の判断ミスという可能性は?」
「無いですね。このタイミングって、汐田さんが“多少よれたか”とクロスクロウの動きに言及した時なんですけど、よく見たら生沿騎手はちゃんと内側に戻そうと指示出してるんですよね。まぁ諦めたのかすぐやめましたが、騎手側はちゃんと状況を把握出来ていた証左と言えるでしょう」
「じゃあクロスクロウの暴走なんじゃないですかね」
「こう言うと正気を疑われるかも知れませんが、そっちよりも生沿君の乱心を疑った方がまだ信じられるんですよ。クロスクロウは一回自分の判断で作戦を変えて皐月賞を勝った実績があるので、今回のレースもそうだったと判断する方が筋が通り易い」
「……仮にクロスクロウがそう判断したとして。彼らの位置取りの、どこに注目すれば良いんでしょうか?」
「はい。内側スレスレからの間隔を見て下さい。馬2頭ぐらいが並んでも悠々と入れる隙間となっています」
「ふむふむ」
「これを後ろから見た騎手はどう判断するでしょうか?」
「内側に入ろうと思いますよね、抜かしたいんですから」
「では、故障したサイレンススズカが
「……あ!」
「外!!」
「そうです。クロスクロウがこの位置に徹する事で、後ろの人馬はより内側に行く事を意識せざるを得ず。それが結果的に、拓さんとサイレンスの安全な待避に繋がった訳ですね」
「あの、コレ!生沿騎手の判断という可能性は」
「彼には悪いけど無いです。さっきも言いましたが生沿君、最初は内に引っ張ってたので」
「えっじゃあ本当に馬が……?」
「……断言は出来ませんが、可能性は高いですね。レジェンド奥分氏も、クロスクロウの賢さには太鼓判押してますし」
「レース前には、サイレンスの左前脚をクロスが気にかける姿も目撃されています。ちょっとこれは、邪推せざるを得ないと言うか」
「うそぉ……」
「あの、ちなみにですが“サイレンスの骨は完全に折れていた、クロスが噛んだら治った”という証言も上がっています。これに関してはどうでしょうか?」
「クロスはヤバいです」
「それ以上の事は何も分かりません」
「えぇ……」
「骨折してなかった説は?」
「骨折音まで記録されてるのにそれは逆に考え難いかと。今後、サイレンスの足とクロスの口腔組織を徹底的に検査しない事には……」
「神か何かがクロスに宿ってた、とかまで言われてますしね。私個人としては、クロスがサイレンスを救った……という認識ですよやっぱり」
「なるほど……」
「ありがとうございました。それでは引き続きクロスクロウに関して、調教師である臼井さんへの生中継インタビューです。荻野さん、聞こえますかー?」
「あっはいこちら荻野です!現在臼井さんと交渉中なんですけれども……」
「いやその、聞かれてもマジで分からへんねん。ごめん、本気でアイツは謎」
「そこをなんとか!クロスクロウ号の賢さに繋がった“かも知れない”育て方を!愛とか曖昧な物で良いですから!」
「いやホンマ、アイツ育てる前の最初からああやったんやって……意味分からん…全然分からん……ジャガーマン並みに分からん………」
はぁ〜〜〜〜!良かったぁ!
サイレンススズカ助けたぁー!!!
「お疲れ様、クロス」
『そっちこそご苦労様、生沿君!さっきはありがとな!』
いやぁ、あそこで生沿君が勇鷹さんをスムーズに引っ張ってくれたお陰でマジで楽に出来た。スズカの負担を減らせて、安全に出来て何よりだよ。
これで沈黙の日曜日回避!マジで悲劇だったからなアレ、潰せて良かった良かった。上手くいけばアヤベさんも新馬戦で降着せずに済むでコレ*1!
「……なぁ、クロス」
『何ゾ?』
「お前、どこまで分かってたんだ?」
どこまでと言われると……まぁ秋天に関しては全部としか……。
いや前世知識初めて役立った気がするわ。転生者の面目躍如、ってね*2。
「……お前は、全部お見通しなんだろうな」
『あっ通じてない』
やっぱあの相互理解期間は、お互いの気分や緊張が最大限に高揚してる時に限られるみたいね。ホントマジで、考えてる事を読まれた時ビビり散らしたからな!?
-出走前、馬道にて-
「
(そりゃあお前……)
サイレンススズカがこのままだと……ん?なんかおかしいぞ。
俺、さっきから喋ってなくね?
『ゑ?』
「へ?」
いや、へ?じゃねぇよ。サラッと読心すんなし、いつの間にニュータイプに覚醒し……
いや待て。もっとおかしい事がある。
えっ待って。え゛っ!?
『なんで馬語理解出来てんだ生沿君!?』
「なんでクロスの言う事を理解出来てんだ俺!?」
ファー!?やべぇぞ異種間コミュニケーションが成立しちまった、人類史こわれる!
何でだ、何があった?さっきまで分かんなかったよな!?
「えっ俺もしかして凄い?人馬一体ってこういう事?勇鷹さんもこの次元に到達してたりするのか」
『うせやろ?ジョッキーってイタコか何かだったの?』
「俺自身が一番ビックリしてる。っていうか無茶苦茶饒舌だなクロス!?」
そりゃあまぁ……ってお前もお前で順応早過ぎるわ。
「お前とももう半年以上の付き合いだからな。大抵の事には驚かない……つもりだった……」
『まぁなぁ。俺もかれこれ20年以上生きてきたけどこれはビビリ散らすわ』
「………それはそれとしてだけど。サイレンススズカがどうなっちゃうんだ?もしかして、勇鷹さんに何か起こるのか…?」
………ああ、そうだな。時間も無いし、まずはそっちから取り掛かるべきか。
生沿君、落ち着いて聞いてくれ。このレースで、サイレンススズカは高確率で故障する。
「……そんな……」
『疑わないのか?所詮馬の予想だぞ』
「お前の確信が伝わってくるんだ。信じるよ」
『……ありがとな』
「でも、じゃあどうすれば良いんだ?ここから防ぐ方法なんて限られてるし、正直言っても信じてもらえる気がしない」
『限られてるっつうか、無い。だから俺達にまず出来るのは、ススズと勇鷹さんを後続から無事に守り抜く事だけだ』
その時になったら自分から動く。だから俺に合わせてくれると嬉しい。
ススズは俺が何とかするから、生沿君は勇鷹さんを。頼めるか?
「……任せてくれ。毎日王冠でのコンビネーションを見せてやろう」
『せやな』
あの時の走りは自分でも凄かったと思う。こんなに息合う!?ってぐらい生沿君と波長が合致して、これまでに無い程スムーズに足を運べた。あの時サイレンススズカに追随出来たのは間違いなく生沿君のお陰だわ。
『第3コーナーあたりで2番手につける必要がある。早仕掛けで頼むぞ』
「頼まれた!」
思い掛けない意思疎通も済ませて、準備万端120%。よーしやるぜ、俺はやるぜ俺達はやるぜー!
-レース後-
で、やったのがさっき。
いやぁ、改めて言うけどホント良かったね。ススズが死んだら損失とかそういうレベルじゃねぇからな、俺みてぇな塵芥が屠殺されるどころの話じゃねぇから!
「……でも、臼井さんに怒られちまうなぁ。レース捨てちゃった訳だし」
『あー…それはごめんな』
宮崎のおっさんにも申し訳ない。俺に一番期待してくれてたであろう人の想いを無碍にしてしまった。
そして──スカイやキングも怒るだろうな。勝負すっぽかした俺が、別の場所でも勝負投げ捨てたなんて知ったら。
『謝らないといけない相手が多い……』
「……でも、後悔は無い」
だな。
「教えてくれてありがとな、クロス。次はいつ心を通わせれるか分かんないけど」
こちらこそ。お前が乗ってくれて良かったよ。
……って、やっぱ通じないよなぁ。変にアドレナリンが溢れてるせいか、波長が微妙に合ってない感じあるし。あの相互読心状態は、俺達がマジでシンクロしないと発現しないんだろうな。
でも。お前となら、またきっと。
「次こそ勝とうな、クロス」
『ああ。次こそ
本気で勝ちに行く。生沿君と一緒に。
やっと、憂い無く。
「ところでだけどクロス。お前、レース中に一回俺の事を呼び捨てにしたよな?」
『あースマンスマン。焦り過ぎて…』
「……その、何だ。俺もお前を“クロ”って略称で呼んで良いか」
『えっマジ?天下の生沿健司から愛称呼び捨て?嬉し過ぎるんですけお!』
「…なんて。今は通じてないもんな。クロス、忘れてくれ」
『うわーん肝心な時に通じてねぇ!良いんだよォ!好きに呼べよぉ!!』
『オイ』
『うわぁビックリした』
何でい急に、と振り向くとそこにいたのは真っ黒い馬。えーと……あっそうだアンタは!
『ステイゴールド先輩じゃないっすか。オッスオッス』
『舐めてんのか殺すぞ』
こっわ。オウゴンリョテイこっわ。最後まで人に気を許さなかった気性難の代名詞、って事?現在進行形で厩務員さんの引っ張りに全く応じてないし、流石というか何というか。
なんてのは置いといて、何のご用件で?
『お前、何した』
『何って……』
『サイレンススズカに何した』
……これ、どこまで言ってええんじゃろか。つーか何言ってもキレられる未来しか見えないんだけど。
『まぁ……裏技というか』
『舐めてんのか?とぼけてんじゃねぇよ』
『……俺は、彼がまた走れるようにしただけですよ』
嘘じゃない。サイレンススズカの足から異常は消えた、これで起こる不都合は無い……筈だ。
……けど、そうじゃなかったようで。
『ハッ。餓鬼が』
『て…手厳しい』
『優しくする理由が無ぇんだ当たり前だろが』
えー。何がそんなに気に入らないんすか。見たところ、サイレンススズカを憎悪してるって訳でもなさそうだし。
と思っていると、彼は口を開いてこう言った。
『これ以上、走らせ続けて何になるんだ』
……?
『アレが“結果”なら……それがアイツの走りの“答え”って事だろうが』
『つまり……どういう意味で?』
『分かれよ!クソッ、俺自身遠回しになってるのは自覚してんだよ…!』
待って待って、蹴らないで蹴らないで!自分で自分をイライラさせないでくれ、普通に健康に悪いぞ!?
大丈夫?!相談乗ろうか?いや今相談してるんだったわそうだった……。
『やかましい!』
『アッハイ』
『もういい、帰る……オラッ早くしろニンゲン!置いてくぞ!!』
「どっち行くのぉぉぉぉぉ」
最初から最後まで何が気に食わないのか分からないまま、去っていってしまう馬体。俺はそれを、唖然として見送るしか出来なくて。
『なんで、削られ続ける未来を……』
微かに聞こえたその恨み言の意味さえ、分からないままだった。
「………ステイゴールドに目をつけられたのかい」
『そうみたいだ』
生沿君はどう思う?だなんて、通じる訳がない。というか、通じないで欲しい。
多分これは、俺だけが受け止めて、咀嚼するべき事だろうから。
走らせ続けて何になる、か。
削られる未来、か。
人間。
ペット。
バカ。
……もしかして。
嗚呼──そういう事なのか、ステイゴールド。
『宿題が出来ちまった』
「どうした、クロス?」
『帰ろう、生沿君。皆が待ってる』
「っとと……そうだな。帰ろう、皆の所へ」
スペが待ってる。宮崎のおっさん達が待ってる。
何より……課題には、早く取り掛からなきゃだしな!