出来る限りそこの乖離は埋めていければと思いますが、至らなかったら生暖かい視線で見守るか、もしくは……自分で言い出すのは嫌なので、後は各自で察してご自由にお願いしますね(ヘタレ)
『アーッ。クロスクロウ、サイレンススズカ、
『………は?』
菊花賞が近づいていたある日、マンボから伝えられたクロスさんのレース結果はそれで。
走るのをやめた?なんで?
『アーッ。リユウハ、クロスニ
『どうして』
『マネシタラアブナイ、ッテ。アト、マンボモ《アレ》ヲ、ドーセツメイシタライイノカ…』
え?は?ええ?
オレと戦わずにそれ?
わざわざ菊花賞から他のレースに行って、それ?
負けたどころか、走るのをやめた?
は?
『……スカイ。コレハ、マンボノカンガエダケド。クロスノハンダンハ……』
『マンボ君、やめて』
『…ゴメン』
違う。マンボ君を謝らせたかった訳じゃない。これはただの八つ当たりだ。
でも……今はクロスさんを。彼を肯定する言葉、何であろうと聞きたくない。
『オレとのレースよりも、その競走中止ってヤツは価値あるものだったんだ』
アハハ。何だこれ。
ほんと、徹頭徹尾。
『アンタの眼中にオレはいないんだな、クロスさん』
『じゃあスペ、お互いの報告しよか』
『ですね』
まずは、俺から。
『負けたよ』
『……の割にはサッパリしてますね』
『ああ。やる事はきっちりやったから』
嘘は無い、嘘をつく理由も無い。今俺は人生と馬生含め、これ以上ない自己肯定感に満ち溢れている。
で、スペ。お前は?
『負゛け゛ま゛し゛た゛〜!』
『そっかぁ…』
あー、やはりスカイは強かったかぁ。お疲れ様、スペ。
『無茶苦茶速かった……というか嵌められました…く゛や゛し゛い゛で゛す゛!゛』
『……俺も、スカイの奇策を直に見たかったよ』
『じゃあ一緒に叫びましょう』
『だな』
『『悔しい〜〜!!!』』
………。
ふぅ。
『いやマジで悔しいんだが!?』
『うわぁびっくりしたぁ!なんで秋天に負けた事より悔しそうなんですか!?』
『む、無理だぁ!出たかったよ菊花ぁ……!』
うおおおおん!疲労さえ、疲労さえ無ければこんな事には!
つーか臼井さん、思ったより俺消耗してねぇよ!?出してくれても良かったじゃん、なんでだよ!スカイに申し訳なくて夜も眠れないんですけど!?
『……僕の分のにんじん食べます?』
『食べりゅ…』
『うわぁ見た事無い程参ってる』
『結果的に裏切ってんだもの、例えエゴでも自責しないとやってらんねー』
迷惑かけちまうなスペ、と言うと『ううん、クロが弱み見せてくれると嬉しいので』と言ってくれた。ありがてぇ…良い仲間を持ったと常々思う。まぁ俺がこの面倒臭い性分を何とかすれば良いだけの話なんだけどな!
『…スカイとまた、直に話せると良いですね』
『なおマンボコミュニケーション』
『……』
『返事くれにゃい………』
そう、返事してくれない。マンボ越しにいくら呼び掛けても、スカイが応答をくれないのだ。最早こちらからは接触不可能な半絶交状態だった。
せ、せめて謝らせて欲しいのに…それすら許されないのか……!
『グラスも何故か伝言無くなっちゃいましたからねぇ』
『ショボーン』
『ああっ!いよいよ本格的にクロが萎れちゃった!!』
そう、実はグラスとも。あの毎日王冠以来、何が不味かったのか機嫌を損ねてしまったようで。
き、効く!いや効くなんてモンじゃない、普通に鬱!俺何かやらかした?だったらせめて謝らせてくれ頼むから!!
『ぐぉぉぉぉ……腹を切らねば…愚か者に生まれた責任を取らなければ………!』
『落ち着いて!早まらないで!!クロに置いてかれたら、僕どうすれば良いんですか!?』
『それはそうだな』
『うわぁ!いきなり落ち着かないで下さい!』
どっちだよ(哲学)。
いやでもなぁ。スカイはともかく、グラスの方はなんでこうなっちまったかマジで分からん。考えられるとしたら、レース前に「今回、標的認定してるのはグラス達じゃなくてススズだから」と言ったぐらいだけど……あそこでのグラスの怒りは、なんつーかレース内で完結するものであって、こういう風に引き摺る雰囲気じゃなかった筈なのに。
『なら、グラスだけの問題でしょう』
『いや多分確実に俺関連だと思うんだが』
『それでも、何も言わないのなら彼が自分で処理したい感情なんだと思います。そこを尊重してあげて下さい』
……スペ。
『何です?』
『お前のグラスへの理解度高いな』
『まぁそりゃ……ライバルですし?』
いつの間にか実力以外でも抜かされた気分だぁ……なんだろうな、グラスの事に関しちゃ誰にも負けないつもりでいたからちょっぴりジェラシー。流石に強いぜスペグラCP……!
それは兎も角として、言ってる事は最もだな。グラスがその気になってくれるのを待つしか無い、スカイも同様。
『今はキングとエルに任せるしか無いかぁ』
『尊重してあげてと頼んだ身でなんですが、もどかしいですねぇ』
『んだんだ』
スカイには一刻も早く謝らなきゃだし、グラスとも話したいし、ステゴ先輩への宿題にも取り掛からなきゃだし。でも前者二つが解決しない事には、とてもじゃないけど宿題に集中なんて出来ねー。出来る訳あるかぁ!
なぁんて、内心でボヤいていた時の事だった。
「お前はいつも騒いだり落ち着いたり忙しいなぁ」
『あっ厩務員君』
『厩務員さん!聞いて下さいよクロがねクドクドクドクドクドクド』
俺とスペの世話してくれる人じゃん。いつも飼料あんがとね。あとスペはここぞとばかりに甘え倒すのやめなさい、ただでさえ言語の通じない早口でドン引きされとるぞ。
して、何用で?世間話ウェルカムやぞ、こちとら元人間やからな!ついでに寂しがり屋でもあるぞ*1!
「お前のお陰でこっちは上への下への大騒ぎだよ。解剖させろだの唾液検査させろだの、どっから嗅ぎつけたのか秋天と菊花を選ばせた話が部分的に漏れてるっぽいし」
『いやそれ漏れたら不味いやろ。つーかやっぱり研究方面から死亡フラグ盛り盛りになっとるやんけ』
誰のせい?秋天で出しゃばった俺のせいだね!クソが!(自業自得)
ていうか大丈夫だよな?そっち方面から多大な金額とか寄付されたら流されたりしないっすよな?頼みますよ〜臼井陣営の皆様方!
『何ですか何ですか、何の話ですか』
『俺の生死の瀬戸際』
『えぇーっ!?死なないで下さいってさっき言った所じゃないですかー!』
『でぇじょうぶだ、半分は冗談』
『もう半分……』
「そんなお前に、今日はお客様だ」
ほぇ?客?
マスコミって雰囲気ではない、ファンとかアンチとかそういう感じでもない。まぁそういうのは臼井氏や宮崎のおっさんがシャットアウトしてくれてるっぽいから当然っちゃ当然なんだが。
「はい、どうぞー」
ふむふむ誰だ?と思いながら見た先にいたのは、それはそれは可愛らしいお嬢さん。
って、あるぇ?
『宮崎の嬢さんじゃないっすか』
「えーと……改めてこんにちは、クロスクロウ」
ふと思った。クロスクロウに触れてみたいと。
「なんで?」
「触れた事無いので」
「いやまぁそれは分かっとるんやけれども」
分かりやすく眉を八の字にする臼井さんに、どうしようも無く申し訳ない気持ちが湧き上がる。それでも、この気持ちはどうしても否定出来ない。
「よく考えたら、私、クロスクロウとほとんど面識無いなって」
「まぁ直に会ったのが精々2回*2やからな」
「だから乗ってみたいなって」
「うんさり気なく“触れてみたい”から更に踏み込んできたなオイ」
知りたい。あの子の走りを、性格を、その魂を。
だって、生沿さんが前呟いてるのを聞いたから。人馬一体って、馬をよく知る事だって。
叶うなら、私も。
「一度で良いんです。一度だけ……!」
「……ううむ」
「お願いします」
「だぁーっ!分かった!分かったから!!乗ってええから!」
やった、と内心でガッツポーズ。臼井さんの懐の深さに、心から感謝しよう*3。
そして、今。私はクロスクロウの前に立っている。
「
「……すっご」
鼻から噴き出る息が、それを押し出す筋肉がまるで蒸気機関みたい。今か今かと爆発する時を待っている、アイドリング状態のエンジン。
こんなのを操ってたんだ、生沿さん達……!
「よーし、クロスも良い状態だ。乗って良いよ、美鶴ちゃん」
「すすすみません、少しだけ待って下さい」
せがんだ身で不躾だけれど、いざこの巨体を前にすると体が竦んでしまう。芦毛っていうのは換毛するらしく、最初に見た頃からは随分白くなった馬体だけれど、こう見るとまるで白熱しているかのようで。
少しだけ怖いと思った、その時だった、
クロスの背中が、降りてきた。
「え……?」
「……コイツの頭脳はどうなってるんだホント」
屈んだ。まるで、私が乗るのを待ってるかのように。
良いの?ねぇ、良いの?本当に?
「
「……!えいっ!」
意を決して、跨いだ。乗った。
──熱っ…!?
「うわ、ぁ……!!」
凄い、凄い!鞍越しなのに、股下から茹だってるみたい!
血液の脈動が伝わる、筋肉が波打ってる。これが競走馬なんだ……!
「美鶴ちゃーん、どうー?」
「降りたくなったら言いやー」
「」カシャカシャカシャカシャカシャ
「無言連写やめーや」
「」カシャカシャカシャカシャカシャ
「……し、死んどる!*4」
雑音が煩わしい。そう思えるぐらい、没頭したいと思えた。
ねぇ、クロスクロウ。
ねぇ、聞いて。
「あなたは、応えてくれる?」
「
……ありがとう。
「いっ……けぇー!」
「
「「「ええええええええ!?!!?」」」
手綱を扱いたら走り出した!やっぱり速い!スタートしたばかりなのに、もう風になったみたい!!
こんな風の中で、あなた達は……!
「もっと、もっと!お願い!」
『ええっ、良いの?ちょ、良いのホント?!臼井さん達パニクってますが!?』
「止めるんやぁぁぁぁ!!」
「どどどどうやって!」
「スペシャル連れて来いはよ!!!」
「……っ!!」
「待てや宮崎追い付く訳無いやるるぉぉおおお!?」
後ろなんて気にしない、気にしてる余裕なんか無い!しがみつくので精一杯だもの。
でも、不思議と止める気だけは起きなくて。
ねぇ、クロスクロウ。
「もっと速くしたら私、あなたの気持ち分かるかな!」
知りたいの。どんな思いで走ってるのか。
何を考えて、他のお馬さん達と競ってるのか。
何を見据えて、秋の天皇賞に臨んだのか。
何を知って、サイレンススズカを助けに行ったのか。
「私、あなたを知りたいの!!」
あなたに寄り添いたいの。馬主として、夢を貰った一人として───!
───あれ?
「どうしたの?クロスクロウ」
『ここまでだ、お嬢ちゃん』
ねぇ、今なんて言ったの?その嘶きはどういう意味なの?
それが知りたいから、一緒に走りたいんだよ。ねぇ、走ってよ。
『まだそのレベルじゃない。危ないよ』
「お願い、お願い」
『ダメだ』
「まだ欲しいよ、お願い」
『ダメだッ!!!』
「!!!」
突然の叫び。それに驚いて硬直すると、クロスクロウは減速を終えて立ち止まってしまった。
……ごめん、なさい。
「ごめん……ごめんね、クロスクロウ…!」
『こっちこそごめんなぁ。でもこのスピードの世界は、嬢ちゃんには早過ぎたんだ』
怖くて、ワガママを通そうとした自分が申し訳無くて、でも伝わってくる熱は暖かくて。なんだか矛盾した感覚に、思わずポロポロと涙が溢れた。
なんだろ、コレ。なんなんだろ?
「美鶴ーっ!!」
おとうさん。
『おっ、宮崎のおっさんだ。ホラ、帰んな』
クロス。ごめん。
ありがとう。
『……こっちこそな』
「美鶴、大丈夫か!怪我は無いか!?」
「お父さん……」
竦然としたまま降ろされて、抱き止められる。あんなに憎かった筈の腕に抱かれて、嫌で嫌で堪らない筈なのに。
どこか安心するのは、なんでだろう。
速いのが怖かったから?
クロスと似た温もりを感じるから?
「怪我は無いか……良かった、本当に良かった」
力一杯抱き締めたいのを我慢して、優しくしてるのが伝わるから?
(ああ、そっか)
私が泣いちゃったのは。
(お父さんって、こういう事なんだ)
間違った時に止めてくれる人。
危ない時に抱き締めてくれる人。
欠けていたそれが、今埋まったから。
「どうした!?どこが痛いのか?!!」
「……うるさい」
認めたくない。だから認めない。少なくとも、今は。
目を逸らして、私は涙を流した。濡れた頬を、お父さんの胸に擦り付けながら。
あーあー、危なかった。最初こそ思わず従っちまったけど、やっぱ良くねえよ。パニクる癖もいい加減にしたいモンだね、我ながら。
──でも。
宿題は、解けそうだ。
自分のやりたい事、やるべき事。それが見定まったから。
菊花はまた近いうちに必ず描写します。絶対描きます。ただ今はちょっと無理です
ご容赦を