また君と、今度はずっと   作:スターク(元:はぎほぎ)

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菊花です。間に合えばEp.39の前に投稿出来る筈だった
何故無理だったかって?また投稿時間ミスだよクソッタレ!(自業自得)


【Ep.39−1】菊花!

《全国の競馬ファンの皆さん、京都競馬場馬菊の舞台です!快晴、馬場コンディション・良。17頭が今、世代最後の戦いに集結しました》

《スペシャルウィーク、セイウンスカイ、キングヘイローの三強が出揃ったこのレース。クロスクロウは秋天に進んだ為にいませんが、その分も頑張ってほしいですね》

《特にセイウンスカイ陣営はクロスクロウへのリベンジに燃えてましたから。その内心は計り知れない分、このレースにぶつけて貰いたい所です》

 

ニンゲンの声が聞こえる。でも、僕たちはそれどころじゃない。

 

『……ねぇ、キング』

『すまない。これが限界だった……』

 

二頭(ふたり)で見つめた先にいたのは、スカイ。でも彼は、夏前に見た時からはあまりにかけ離れてしまっていた。

 

『本当に……あれは、スカイなの?』

『…マンボの危惧していた通りだ。俺にはどうする事も出来なかった』

 

唯一話し合えた身だったのに、くそッ!

 

そう自責するキングだけれど、僕はとても責めれなかった。

どうにか出来るわけ無いよ。あんなの。

 

『………、あー』

 

化け物を、心に飼ってるもん。

 

 

『どうしたんですかねぇ、お二方』

『『っっ!!!!』』

 

話しかけられただけで、コレ。臆しちゃいけないのは分かってるけど…!

 

『じーっとこっちを見てさぁ。何か付いてます?』

『う、ううん。なんでも、ないよ』

『スカイ。お前の気持ちh

『その話はしないで』

っ………!』

 

無理だ。スカイへの恐怖が湧き上がる。クロへの拒絶の心が伝わってくる。

踏み込めない…!

 

『…にゃは。そう緊張しないでよ、オレも本当ならゆるりと行きたいからさ。お互い程々に頑張りましょ』

 

去る。去ってしまう。

ダメだ。

 

 

…………ダメだ!!!

 

 

『スカイ!』

 

スカイの足が止まる。そうだ、弱音なんて吐いてる場合じゃない。無理だとか言ってる場合じゃない。ここで放っておいたら、スカイは2度と心を開いてくれない。

だから、臆してる場合じゃない!!

 

『僕はダービー馬だ!』

 

そうだ。クロが教えてくれた、世代の頂点だ。

 

『菊花への挑戦は、クロが僕に託してくれたんだ!!』

 

自意識過剰かも知れない。実際自惚れだと思う。

だけど、秋天から帰ってきたクロはとても清々しそうだった。皆と走れない事をあんなに気に病んでたクロが。

それはスカイ、君への負い目を上回る程に、きっと僕を信頼してくれていたから。僕はそう信じている。信じたい。

 

『だから……クロに代わって!僕が君を倒す!!』

 

最初から最後まで、全部が自分勝手な妄想に基づいた宣言。言っててこっちが恥ずかしくなるけれど、それでも僕は胸を張る。

スカイ。今、君の敵は目の前にいるんだぞ……!!

 

『……ふーん』

 

来る。

耐えろ。

迎え撃て、スペシャルウィーク……!

 

『分かってるんだよなぁ、そんな事はさ……ッ!』

『だったら、もっと分からせてやるさ…!!』

 

 

 

 

 

 

《さっ、気合が入ります17頭……スタートしました!》

 

始まった!スカイは内側からスッと先頭、そりゃ当たり前だよね。僕は落ち着いて中団に……

………っ、早っ…!

 

《少し各馬かかり気味でしょうか、全体的にハイペースといったところ》

《序盤にしても飛ばしますね。後半スタミナを残せるでしょうか》

 

スカイがどんどん前に出る。正気か?そのペースで保つのか!?

何にせよ、ついて行かないと……っ。

 

『置いてかれるな…!』

『キング!!』

『スペ、先行ってる!ついて来れるな!?』

 

今回は乗ってるニンゲンとも上手くやれてるようで、飛ばしながらも落ち着いていた。僕達も気張らなきゃね、ユタカさん。

 

「スペシャル、ちょっと抑えよう」

『あれーっ!?』

 

と思ってたら手綱を引っ張られた!なんで!?

 

「あのペースでセイウンスカイが先頭を守れる筈が無い。縦峰君が何を企んでるのかは分からないけれど……ここは様子見だ」

 

ううん、ダメだ。何言ってるか分かんない。ダービーの時みたいに、ジンバイッタイ?になれればニュアンスぐらいなら分かるんだけどなぁ。まだ上手く行かないや。

でもユタカさんが抑えるのならそれが正しいのかな。分かんない、正直不安だ。

 

『飛ばして行きますよッ!?』

 

だって、今もスカイは。

 

《リードが4馬身とやや広がりました、セイウンスカイなおも前を行きます》

『ユタカさん、本当に大丈夫なの?』

「ううん、縦峰君正気か…?」

『フクノベ、抑えるな!あのスカイを自由にすると不味い!!』

「落ち着けキング!3000mだぞ、下手に体力使ったら…!」

 

まだ止まらない。緩めない。本当に落ちてくるの!?

ついて行かなくて良いの、ユタカさん?!

 

「っ、まだだ!溜めよう!」

 

……、分かった!信じる!

ユタカさんが僕にジンバイッタイを教えてくれたんだもの、それでクロに勝てたんだもの!今回だって同じだ、彼を信じる!!信じて走る!!

キングはどうするかな?

 

『離せぇぇぇぇ!!!』

『ダメェェェェ!!!』

 

……うん!頑張って!

今は自分の事に集中だ、どれだけ離されてもチャンスを待つ。僕とユタカさんはそれを選ぶ…!

 

『っ、ふぅー……』

《2コーナーから向こう正面に入ろうという所でありますが、リードは3馬身から4馬身で快調に逃げております》

 

……ん?若干遅くなった?

そうか、スタミナ切れの兆候か!よーしこの調子だ。

 

「まだだ、まだだぞ」

『分かってるよ…!』

 

ユタカさんの意図を手綱で理解する。そうだ、抜かすのは今じゃなくて良い。最後の直線でスッと差せば、後は千切るだけだから。

まだ溜めて良い、何ならもっと溜めても良い。どうせ落ちてくるなら、他の馬との末脚勝負になる。スカイは伸びないなら。

 

 

 

(本当に伸びないと思う?)

 

 

誰?

いや、問うまでもなかった。

 

(スカイが、ここで終わると思う?)

 

僕だ。僕自身の不安だ。それが声になって、頭の中に響いてるんだ。

でも答えは決まってる。

 

『ユタカさんを信じる…!』

 

そう、決めたんだ。

 

 

《3コーナーを前にしてセイウンスカイのリードは約8馬身ほど!ダイワスペリヤール以下2番手が懸命に追いますが、》

「『ここか!』」

《ここで上がってきましたスペシャルウィーク!いよいよ先頭をロックオン、2冠目に向けての跳躍か!!》

 

ひとつ、ふたつ、みっつと順位を上げていく。未だ苦闘中のキングも抜かして、後もう少しで。

そう、もう少しで。

 

『ユタカさん!』

「ああ、いけるぞスペシャル!」

 

曖昧だけど意図が分かる。薄らと、僕の視界に星が降るような感覚。

“領域”に、僕達は入りかけてるんだ!

その向こうにスカイが見える!捉えた!!いける!!!

 

「『いけ────

 

 

 

 

 

「『いけると思いました?』」

 

 

えっ?

 

 

「『───残念でした!!』」

 

 

 

 

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アングリング×スキーミング

          Lv.1

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夢を見た。

どこまでも広く、果てしない(水溜まり)。何故か妙に塩の香りがするその中を、俺は揺蕩(たゆた)う。

無意味。

無意義。

そんな空白の時間の中で、俺は。

 

『───見つけた』

 

宝物を、眼前の紺碧の中に見つけた。

 

『釣り上げろ……ッ──!!!』

 

 

 

《第4コーナーをカーブ!セイウンスカイが先頭だ、セイウンスカイ逃げる逃げる!!》

「行くぞスカイ、見せてやろうぜ!」

『勿論だよタテミネさん……!!!』

 

タテミネさんの言葉に、俺は心の中で頷きを返した。そうだ、見せつけてやるんだ。俺を見くびったアイツに届くように……!

 

《エモシオンが突っ込んできた!スペシャルウィークは大外に入って来た!だがなおも先頭はセイウンスカイ譲らない!!》

 

今なら分かる。スペさんは、ダービーでこの世界に入ったんだ。勝てない訳だよ、当たり前じゃん。

でも。今回は俺がその立場だから。

 

 

「悔しいもんなぁ」

 

『悔しいですからねぇ』

 

「安心させてやろう」

 

『後悔させてあげましょう』

 

「菊花に出ずに済んだ事を」

 

『菊花でこれを直接見れなかった事を』

 

 

「『全員諸共に釣り上げた、この光景を!!』」

 

 

《セイウンスカイだコレは決まった!皐月の屈辱とダービーの無念、それを切り裂き晴れ渡れ!!》

 

 

あーあ!残念でしたねぇ皆さん!!乗せられちゃいましたねぇ!!!オレの勝ちですねぇ!!!!

ついて来いよ!追い付いてみせろよ!?オレが勝ってしまいますよ、悔しくないんですか!!?

 

 

 

 

……くそっ。

 

くそっ、くそっ!くそぉっ!!

 

アイツがいれば!アイツさえここにいれば!

何だよ!何で秋天何だよ!逃げるなよ!そんな所まで俺のお株を奪うなよ!!

逃げたなら負けるなよ!走るのを何故やめた!そんなに俺との勝負に価値は無かったのか!サイレンススズカと仲良しこよしでレースやめるよりもか!?ふざけるな!!

くそぉ!くそっ、くそが!!!

今お前が後ろにいたなら、オレは───

 

『まだだ!!』

SpecialWeek SpecialWeek SpecialWeek SpecialWeek SpecialWeek SpecialWeek SpecialWeek SpecialWeek SpecialWeek SpecialWeek

SpecialWeek SpecialWeek SpecialWeek SpecialWeek SpecialWeek SpecialWeek SpecialWeek SpecialWeek SpecialWeek SpecialWeek

シューティングスター

          Lv.1

SpecialWeek SpecialWeek SpecialWeek SpecialWeek SpecialWeek SpecialWeek SpecialWeek SpecialWeek SpecialWeek SpecialWeek

SpecialWeek SpecialWeek SpecialWeek SpecialWeek SpecialWeek SpecialWeek SpecialWeek SpecialWeek SpecialWeek SpecialWeek

 

 

──っ。

まさか。

 

『まだ僕がここにいるぞ、スカイ───!!!』

 

嘘だろスペさん!あの位置からかっ飛んできたの!?

ダメだ、気を抜けない!まだ勝負はついてなかった!

“世界”に入るタイミングの差の分の余裕はあるけど、猶予は無い。粘れぇ!!

 

《いやまだだ、スペシャルウィークだ2番手きた、差を詰める!縦峰凌げるか!?》

『うおおおおおおお!!』

『うわああああああ!!』

『俺を忘れるなああ!!』

 

 

怖い、怖い、怖い!何だよこの気迫!キングまで来た!!

でもな、でもな!!オレの怒りだってこんなものじゃないんだ!許せるか!!!

その怒りを足にこめて……燃やせェ!!

 

『逃げた逃げた逃げた!!38年ぶりの逃げ切りだ!!セイウンスカイ、1着でゴールインッ!』

 

最後の一瞬は、まるで永遠のようだった。

3000mの道中よりも、長かった。

 

《レコード勝利!!まさに今日の京都競馬場上空と同じ!青空ッッ!!!》

「やった……やったぞスカイ!」

『……ははっ』

 

そうか。勝ったんだ。

…勝ったんですよね?

 

「世界の誰よりも速かったってさ!それこそクロスクロウにだって無理だ、これは!!」

『本当ですかぁ?』

 

息が上がる。流石に苦しい。でも、頭の中に変な物(アドレナリン)が溢れてるみたいでそれどころじゃない。

なのに、今にも爆発しそうなのに。

だというのに、その興奮に身を任せられない自分がいた。

 

……空虚だ。

 

『クッソォォォォ!!!』

 

スペさん。

 

『悔しい、悔しい、悔しい!凄いよスカイ!負けたよぉ!!』

 

何ですか、あなたは。

何なんだよ、お前は。

なんで、そんなに。

 

『でも……負けっ放しは、嫌だ!』

 

真っ直ぐ見てくるんだよ、君って奴は。

 

『次は、負けない!!』

 

 

……バカみたい。

 

『ふん』

「スカイ?」

 

バカみたいじゃないですか。

本当にアホくさい。バカなんじゃないですか?

 

『ああ、もう……』

 

スペさんは、オレ目指して突っ込んで来てくれたのに。

これじゃ。

こんなんじゃ。

 

『バカみたいじゃないですか』

 

俺が。

クロスクロウに囚われ続けてる、オレが。

 

『ゼヒュ、コヒュッ、ゲホ!また負けた、チクショウ!』

『待って、キング』

『ん?どうしたスペシャル』

 

ああ。

羨ましいよ。

そして申し訳ないよ。

スペもキングも、こんなに真剣にレースと向き合ってたのに。

何してたんだよ、俺。

 

ああ、もう。

全部お前のせいだ。

 

八つ当たりである事は今自覚した。

だからこれが最後だ。

最後くらい怒らせろ。

 

『お前の所為だ…!』

 

お前がいれば良かったのに。

お前がいれば向き合えたのに。

お前に勝てれば、後腐れ無く誇れたのに。

 

『お前の所為だ……ッ!!』

 

お前さえいなければ。

お前さえいたなら───!

 

 

『クロスッ……クロォォォォ!!!』

 

 

 

菊花賞【G1】 1998/11/8
着順馬番馬名タイム着差
セイウンスカイ3:03.1(R) 
17スペシャルウィーク 3:03.41
キングヘイロー3:03.92.1/2
15エモシオン3:03.9アタマ
11メジロランバート3:03.9ハナ

 

 

《セイウンスカイ、スペシャルウィークを撃破!見たかクロスクロウと言わんばかりの、圧巻の逃げ切りワールドレコードでした!》

《序盤に突き放したかに思えば道中、足を溜めていたとは……この私の目を以てしても読めませんでしたね》

《縦峰典人の魔術、ここに大成といった形……おや?》

《嘶きましたね。何かあったのでしょうか》

《えー……人馬共に異常は無さそうです》

《クロスクロウに怒ったんじゃないんですか?》

《ははは。しかし、それがあり得なくも無いのがこの世代の恐ろしい所……!》


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