また君と、今度はずっと   作:スターク(元:はぎほぎ)

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【Ep.43】旭光!!

はてさて。

威勢よく「獲るぞー!」と一頭&1人で啖呵切ったは良いものの。

 

『どーする生沿君』

「どうするも何も……」

 

周囲からエッグい視線を受けながら入ったゲート。高揚と同時に妙な居心地の悪さを受けながら、今か今かと開始の時を待って。いざスタートしたら。

 

 

『ロングスパートは文字通り長く緩い加速だ』

 

前の馬さんの言葉である。

 

『必然的に順位も早めに上がっていく、上げなければならない』

 

右横の馬さんの言葉である。

 

『だが注目度がさほど高くない我々と違い、お前は研究され尽くした』

 

左横の馬さん。

 

『馬群ニ囲マレルノヲ厭ウノハ、デビュー直後ノ数戦デ分カッテル……ト、ニンゲン達ハ判断シテルラシイ』

 

後ろの馬さん。

 

『さぁ…』

 

誰かの呟きが皮切りだった。

 

『『『『この状況でどう抜け出すつもりだ?クロスクロウ!!!!』』』』

 

 

……まぁ、なんだ。要するにだ。

 

『囲まれちった…』

「囲まれちゃったなぁ…」

 

うへぇ、包囲網だ。受けてみろ、半径20mのエメラルドスプラッシュをッーー!!ってか。何言ってんだ俺?

あーうるさい。足音が、気配が、心拍音が、もう前後左右からてんやわんやだよ。視界もグチャグチャやで。

 

「呼吸音まで聞こえてきそうだ、クロス、大丈夫か?」

『今の所は不思議と落ち着いてる。生沿君は?』

「割と絶望してるけどまぁ……ヤケにはなってないよ」

『良きかな良きかな』

 

安心しろ、俺も絶望してっから!つか何ですかこの状況、俺悪い事した!?世紀末はまだ2年も先ですよ!!そもそも俺は覇王レベルで暴れちゃいねぇ、花京院の魂を賭けても良いぜ!

 

『そもそもそういう談合って良いの?もしオーケーなら今後俺もスペとやってくから、後学の為に聞いておきたい』

「やーどうだろ。俺は新米でそういうのに詳しくないから」

『じゃ馬側(こっち)で聞いてみるわ。おーいトキオなんちゃらさん、この4頭でどう示し合わせたの?』

『は?俺は俺一頭だが』

 

……ん?

 

『シルクさんシルクさんや、アンタはどうなの?』

『どーなのも糞も……お前を止める為にニンゲンと()o()n()()で作戦練ってたが』

 

……ほほう?つまりだ。マツリダ。

 

『皆様4頭はどんな集まりで?』

『『『『いや、誰だコイツら』』』』

 

ファー!!!これ別に談合とかじゃねぇわ、皆が偶然にも完全に同じ作戦選んだだけだ!なるほど、2000年のオペ包囲網もこうやって完成しちまったんだな?

良かった生沿君、俺達イジメられてる訳じゃないみたい!

 

「あー確かに。よく見たら騎手同士もお互いを訝しみ合ってるなぁ……とは言っても、このままじゃ勇鷹さんには到底届かないぞ?」

『デスヨネー』

 

問題はそこである。このまんまじゃスパート仕掛けようにもすぐに前の馬体の壁にぶつかっちゃうし、後ろに行こうにも下手に下がったら後続の進路妨害になっちまうかも。ううん、困った困った。

チラと前に目を向ければ、そこにはライバル達の背中。悠々と走る、スペとエルの姿。アイツらは……心配する必要は無さそうだな。問題は本当に俺だけみたいだ。

 

《そしてクロスクロウはここ!チーフベアハートに最後尾を譲り、後方2番手につけました。怒涛の捲りを、この晴れ舞台で披露するのか?!》

《少し不安になる位置取りですね。抜け出せるでしょうか》

 

ええい言うな実況!分かってんだよんな事は!

しかしホント……何なのこの注目度。実況も観客もマジで俺達ばっかり見てるじゃん。プレッシャー……

 

『うわぁ。分かる、生沿君?』

「あぁ、最高だな」

『つっよ』

『お前だってそうだろ?』

 

生沿君も覚悟ガンギマっちゃって、あーあー。成長したねぇホント。

……うん、そうだよ。最高だ。

皆が俺に期待してくれてる。皆が俺の勝利を願ってくれてる。

応えたい。喜ばせたい。無様晒して失望させたくないし、他の奴らをヒールにもしたくない。

勝ちたい理由ばかりが積み重なって、俺達の背を押していた。

 

 

………自業自得では、あるんだけどさ。

 

『重いなぁ』

 

重責だ。これからの判断次第で、皆が口から出すのが歓声か溜息に分岐する。場合によっちゃ、エルもスペもエアグル先輩もステイゴールドにも“拍子抜け”と言われちまうだろう。

一頭(ひとり)で背負うのは、ちとキツいよ。

 

だから、さ。

 

『生沿君』

「なんだいクロス」

『二つお願い』

 

一緒に。

 

『呼び捨てにして良いか?』

 

共に。

 

『“クロ”って、呼んでくれねぇか?』

 

背負ってくれ。

相棒。

 

 

『……あぁ。クロ』

 

 

………ははっ。

すげぇな、これだけでやる気湧いてきた。俺ってば単純!

 

『っしゃ、やろうぜ生沿!』

『勿論だ!』

 

ここらでいっちょ、離れたグラスにも聞こえるぐらいの栄光を打ち立ててやるとしますかねぇ!いよいよ中盤、追込みの俺達にゃ仕掛けどころだしな!

 

『どうするつもりだ?』

『四方を塞がれてんだぞお前は!』

 

ヤダなぁ先輩方。壁ってのは壊すに限るでしょ。

 

『力尽くでなァ!!』

『おまっ!?』

 

ぐっ、と重心を右へ。右隣にいたゴーイングさんは、体当たりに備えて踏ん張ろうとする。

ハイ、()()()()

 

『なんてね』

『なッ──!?』

 

生沿が体重移動で慣性を打ち消して、タックルキャンセル。身構えが空振りに終わった先輩が体勢を崩し、僅かな穴が生まれた。

ここだ。

 

『させるか!』

『いやするよ?』

『その手は食わん!』

 

後ろのチーフさんが急遽スパートを掛けて穴を塞ぎに来る。俺はもう一回体当たりの姿勢を見せても、彼は躊躇無く進軍。

ブラフだと思った?その通り。

 

『でも残念でした!』

『っ、しまっ──』

 

ガラ空きなんだよ、後ろが───()()()()()()が!!

 

「やれるか!!」

『応!!!』

 

一瞬下がってからいよいよ地面を蹴り出す。前には壁、でも左右にもう邪魔は無い。

 

「右」

 

手綱からの指示。命令ではなく提案。

 

「敢えてまっすぐ」

 

一頭抜かす。

 

「次、左」

 

一頭躱す。

 

「一拍置いて、外」

 

一頭、差す。

残り一頭。ここまで来ると、最早意識するまでも無い。壁とは呼べなくなったから。

見えた。先頭集団までの道のり。

 

《さぁ大欅を超えて……ッ!エルコンドルパサー入れ替わるように1番手に躍り出た!続いてエアグルーヴもサイレントハンターを躱す!!スペシャルウィーク!!!クロスクロウはまだ来ない!前が詰まっているのか?!》

 

あっ、もうこんな所(第3コーナー)?早いな、つーか俺が遅かったのか。大欅といえばスズカ先輩を救ったのももう1ヶ月前か。

エルもスペもエアグル先輩も速いなぁ。追い付けるかなぁ。

 

『オイ』

『うわぁビックリした』

 

ステゴ先輩じゃないっすか、ホいつの間に……じゃねぇわ俺が順位上げて並んだだけだったわ。

して、何用で?

 

『こっからどうするつもりだ。何を俺に見せるつもりなんだ』

 

ああ、そういう事っすか。見ててくれって言ってたもんね、俺。

まーまー、そう心配なさらず。

 

『は?心配なんかしてないんだが?さっきまで口論してた奴が惨敗してたら居た堪れないだけだが?』

『ですから、居た堪れなくなる懸念は不要ですよ』

 

ここからなので。そう言って、俺は更にスピードを上げた。

もう最終コーナー。最後の直線は近いけれど、先頭のエルはもうそこに入ってしまっている。

けど、さ。

 

『ひっくり返すぞ、生沿』

「だな、クロ」

 

負ける気がしねぇんだわ。不思議と。コイツと一緒なら。

 

抜かす、抜かす、抜かす。一つずつ、自分でもおかしいんじゃねぇかってテンポで順位を上げていく。前にいた海外馬さんを抜かせば、ホラ直線。

……あっ。

 

『くそ……っ』

 

えっ。オイ。

 

『くそ……!』

 

なんで。

 

『くそぉぉぉ……ッ!!』

「スペシャル…!」

「勇鷹さん?」

「!」

 

星が、墜ちてきてる?

……いや、考えてみりゃ当たり前か。スペは菊花で3000mを走ってる。その疲れが、2週間で取り切れた訳じゃない。本馬に自覚は無かったようだけれど。

こんな状態のスペ相手に「あの日の仇を取る」だなんて、情けないのも良い所だな、俺。

でもこれは──

 

(悔しいよぅ……!)

 

ああ、分かるよスペ。お前が何を考えるのか、表情を見るまでもなく伝わってくるよ。

そらそうだ。でも、よく疲労を言い訳にしなかったな。

すげぇよお前、その状態でよくここまでやったよ。あのエルコンドルパサーとエアグルーヴにここまで追走したんだから。

………なぁ、スペ。勇鷹さん。

 

()く、ろ(…生沿君)()

 

嗚呼、分かってる。

お前(あなた)の願いなら、何だって。

 

『おねがい……!』

「頼んだよ……!」

 

あなた(お前)の分まで。

 

《………いや!いや違う、まだだ!!まだ彼がいる!対空砲火、対マル外砲火の彼がいる!!!》

 

 

 

 

任せろ(任せてくれ)スペシャルウィーク(拓勇鷹)…!!!』

 

 

 

 

クロスストライク

          Lv.6

 

 

 

《クロスクロウがここにいるッ───!!!》

 

()()()。その自覚があった、というかせざるを得なかった。

これか、スズカ。

これがアンタの言う“景色”って奴なのか?

 

《全てが覆る!!レースが壊れる!!!》

「「「オオォオオオオッ!!!」」」

 

実況音声が遠い。あんなに歓声が喧しいのに静か。

代わりに満ち溢れているのは、光だった。

 

『何だこれ?』

「さぁ?でもやる事は決まってる」

 

同じ場所にいた生沿も良くは知らんみたい。が、その通りだな。

光が集う。二つに束なる。

目の前で、交錯(クロス)する。

さぁ、あの光の中へ。

 

『「突っ込むぞ!!」』

 

 

 

 


 

 

 

誰が来たかはすぐに分かった。

気配と、エルの武者震い。

 

『エビナ-サン!』

 

「分かってる!」

 

あの時と同じだ。毎日王冠の時と…いや。

比べ物にならない。

 

「なぁ勇鷹」

 

お前、なんて化け物を育てたんだ。

 

 

 


 

 

 

中山の直線は短いぞ。

でもここは東京競馬場だ。

そうだな。

充分だ。

 

『来たか、青二才!』

「あそこから上がってきたのか…!?」

 

どうも、エアグルーヴ先輩。

どうも、縦峰先輩。

胸、()()()()()()ね。

 

『言ってくれr……!!!』

「オイオイ、まじか!」

 

俺達が。

ん?“達”?

なんか変だな。

言い直すか。

 

()が最強だ』

 

そして。

俺以外なら、お前らも。

 

 

 


 

 

 

並ばれタ!やはりここまで来マシタ!

 

『待ってマシタよ、クロォスッ!!』

 

危なかッタ!()()()()()()()()()、モウ力尽きてたカモ。

でも、もうその心配は必要無シ!してる余裕も無シ!

 

「覚悟は良いか、エルコンドルパサー!?」

 

勿論デス!快勝出来なくとも!圧勝出来なくとも!

優勝、するのは!!

 

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プランチャ・ガナドール!

          Lv.3

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『このエルコンドルパサーッデェェェス!!!』

 

 


 

 

《エルコンドルパサーとクロスクロウが並ぶ!いやエルコン粘る!クロス食らいつく!最強だ!!紛う事なく日本最強馬が今決する!!最初にその座に就くのはどちらだ!?》

「差せぇーっ!!」

「逃げ切れェーッ!!」

 

 


 

 

エルが再スパートしやがった!

2段加速!?

狼狽えんな。俺達もすりゃ良いじゃん。

それはそうだな。

いけるか?

勿論。

本当に?

(お前)が全てを受け入れたなら。

オーケー。

やろうか。

 

 

───ああ、また光だ。

 

紫電深緑空色紅蓮。そして紺碧

 

両手に集まる。

 

目の前には黒い壁。

 

高くて分厚い鉄の扉。

 

さぁ、手を掛けて。

 

 

「『こじ開けろォッッ!!!!』」

 

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EXTREME(エクストリーム)-()CLAWS(クローズ)

          Lv.6

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───その日。

東京競馬場に集まった人々は、光を見た。

紅の魂をその身に宿した、白銀の陽の出を見た。

 

《……!?何だ!伸びた!!クロスクロウ抜け出した、差した!!》

 

そしてその果てに、未来を見た。

 

『クロスクロウ止まらない、誰にも止められない!もう誰もあなたを止められない!!』

 

幻想だ。だが、事実でもあった。

門が開かれる未来を。

彼なら(ひら)けると。

 

《死神を撥ね付け、怪鳥を落とし!世に刻み込むは存在証明ッッ!!!》

 

その(朝焼け)の未来を、確かに見た気がしたのだ。

 

 

 

何故なら、この瞬間。

 

 

彼らは、確かに。

 

 

《クロスクロウ1着ゥゥウウウ!!!!》

 

 

 

世界へと、手が届いていたのだから。

 

 

 

ジャパンカップ【G1】 1998/11/29
着順馬番馬名タイム着差
10クロスクロウ2:21.9(WR) 
エルコンドルパサー2:22.11
エアグルーヴ2:23.04
スペシャルウィーク 2:24.68
11チーフベアハート2:26.17




※タイムは最早ヤケクソ。徹夜で頭がバカになった


で、本作についてですが。今話で一応、競走馬編の第一部完って感じっす
もちろん終わりではないですが、今度こそストックが完全に燃え尽きたぜ…真っ白にな……という状況になり。なおかつ、このジャパンカップがクロスクロウという馬の一つの集大成であるため。作者の中ではそういう扱いになっております
という訳でこれから、作者は自分の生活を整えながらストックを貯めるターンに入らせて頂く事になります。具体的に言うと投稿ペースは週1回、上手くいけば2回を目指す所存

ここから凱旋門に至るまでの要素は、これまでの話で出揃いました。少し気の長い話になりますが、どうかクロの末路まで見届けて頂ければ幸いです

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