また君と、今度はずっと   作:スターク(元:はぎほぎ)

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大変長らくお待たせしました。久し振りの更新です


【Ep.44】伝説!

金切り音と共に引き裂いた先には、暁が待っていた。

虚空に浮かぶ太陽。暑く、暑く肌を焼く熱線。

触れたら灼かれる、その程度の危機感はある。何だったっけな、空に焦がれ過ぎて翼を失った……そんな伝説を思い出させるなぁ。

 

触れたら。

 

どうなるのか。

 

墜ちるのか。

 

 

 

墜ちる代わりに──どこまでいけるんだ?

 

 

 

「今はやめとこう」

 

 

俺の口から出た言葉。

 

 

『そうだな』

 

 

自分で答えた。きっと、今じゃなくて良い。今する理由が無い。必要が無い。

だって、触れなくても。

俺達が、俺である限りは───

 

 

 

 

『クロ〜!!!』

「生沿君!!」

「『!?』」

 

その呼びかけで、急に現実に引き戻された。景色が消える。視界に広がったのは、いつも通りの芝と。

そして。

 

「「「わああぁぁぁ………っッ!!!」」」

『ヒェッ…』

 

なんだこの歓声は!?たまげたなぁ……えっ、何?皆俺の方向いてるよ。俺何かやっちゃいましたか?

おいスペ!コイツは一体どういう状況なんだ!!

 

『ぜぇ、ぜぇ……やっと止まったと思ったらそれ………?』

「大偉業を為して、放心状態になってたみたいだね」

「『す、スマン(すみません)。なんつーか、トリップというか()()()()というか』」

『そっかぁ。じゃ、()()()見て下さいよ』

 

板?競馬場で板っつったら、そりゃ掲示板の事だろうけど。一体何があるって……

 

 

 

10R確定
10
 6 1
 7 4
 2 8
11 7

 

 

 

………あ?

なんだこれ?

10って……ああうん、俺の番号だよな

6はエルだ。間違いない。問題はそれ以降だ。

俺とエアグルーヴ先輩の間にある、1+4。つまりは5。

俺とスペの間にある、1+4+8。つまりは13。

 

「『………???』」

 

いや、おかしいだろ。俺の認識が間違ってなければ──いや多分確実に間違ってるんだが──スペ(勇鷹さん)相手に13馬身付けた事になるぞ俺。おかしいだろ流石に。

 

《大記録達成です!!》

 

鳴り響く実況も、どこか他人事ならぬ他馬事に感じられて。何だ?俺は今、何の喧騒の中にいる?

何が、起こった?

 

「やれやれ、全力を振り絞って負けちゃったってのに」

『負かした相手がその有様じゃ、締まりマセンネェ』

 

エル。海老奈さん。

 

『いい加減、Wake upしてくれないと困るデスよ。ホラちゃんと見て』

 

そう促されたのは、俺をガン見してくる他の人馬の方向。俺へと熱狂を注ぐ観客の人々。次いで、もう一度掲示板。

 

《ジャパンカップ!芦毛のヒーロー!刻む爪痕はオグリキャップの敵討ちかッ!!》

 

『──あぁ』

 

 

ああ、そっか。

 

「あぁ………!!」

 

 

ああ…そうなのか!

 

やった!

やった!!

やったんだ!!!

 

「『よっッしゃあああぁァアアアアッッッ!!』」

 

グラス、見てるか!やったぞ俺は!!

ああ、最高だ!お前がここにいてくれりゃもっと最高なんだがなぁ!!

だから届け!届くぐらいに叫べ!!!

 

《クロスクロウ咆哮ォ!!生沿ガッツポォーズ!!!沈黙を超えた勇姿を焼き付けるは、永遠に語り継がれる()()()()()() ───!!!》

「クーロース!クーロース!!クーロース!!!」

 

ははっ!やったやった、やっちまったぁ!!こんな声援受けんの初めてだ!俺、皆の期待に応えられたんだよな!?

うわっ、コール恥っず!キングがドン引く訳だよ、ごめんな。でも後悔はしてねぇ!まじで気持ちいい!!勢い余って馬っけ出しちまいそうな程にな!!!

発散しねぇと!走るぞ()、じゃなかった()沿()!!

 

「だな!ウイニングランだ、クロ…!!」

 

《いやぁ、4()()()*11()9()()1()()()()()が!()()G()1()で!()()()()()()()()ですよ、この意味分かりますか!?》

《分からない訳無いでしょう?!改めて考えたら訳分かりませんけど!!》

《芝2400mの世界記録とG1最年少制覇を同時達成。それも片やホーリックス以来、片や成人もしてない19歳とは……!》

《レコードというのはいつかは超えられるものですが、生沿健司の記録はもう今後暫くは無理でしょうね……現状考え得る最短ルートですし》

 

なぁなぁなぁ、これ良い事だよな!皆喜んでくれてるよな!?母さんも認めてくれるかなぁ!?!!?

 

「エクスプログラーの事か?ああ、きっと…!」

 

サンキュー生沿!優しさが心に染み渡るぜ!!

あー!歓声を独り占めするのは気持ちええんじゃ^〜〜!!グラスにも見て欲しかったなぁ、この光景!自分で言うのもなんだけど今の俺、最ッ大級に輝いてるだろうしさぁ!

 

「間違い無いよ。お前は──」

 

お?何ぞ??

 

「──世界で最高の、名馬なんだから」

 

………言うねぇ。言ってくれるねぇ。

けど残念!ここに来て見解の相違ってヤツだな、初めての!

 

「えっ」

 

えっ、も何も無いっての。良いか。最高なのは俺じゃない。

俺は。いや、俺()こそが。

 

『世界最高の相棒(タッグ)だって事だよ!!』

 

お前が俺を導いてくれる。

俺がお前を乗せていく。

どこまでも。

俺達なら。

 

「………だな!!」

『ああ!!!』

 

 

喝采という名の、祝福の花吹雪。

その中を俺達は、いつまでも駆け続けたのだった。

 

 

 

 


 

 

 

 

『……行っちゃいマシたネェ』

『………』

『くそっ、くそっ…クソッ!!勝ちたかったデェス!グラス持ってかれちゃいましたヨォ!!!』

『………』

『デモこのままじゃ終わりマセン!どこまでも追っかけて、地の果てまで追っかけて次こそ勝ちマァス。その時まで、グラスの視線は預けて置くデェス!!!』

『………』

『…で。どしたんデス、さっきから黙りこくっちゃって?グラスをクロスに持ってかれたのがそんなにショックでしたか』

『ううん。そっちじゃなくて…色々、考えなきゃなぁって』

『まぁ課題だらけなのはお互い様デスからネェ。お互い頑張りマショー!!』

『……うん』

 

 

 


 

 

 

後ろから見ていた。見てろって言ってたから、その通りにやってやった。

結論?くだらねェ、の一言に尽きる。やっぱり人間共の都合で身を擦り減らしただけじゃんかよ。何を見せたかったんだお前。バカか?

 

『見事にやられたな。我々二頭とも』

『誰かと思えば、数字通りに3着になった3号か。傷を慰めたいなら他の奴を当たりやがれ』

 

そんな苛つきを分かりやすく表していた筈なのに、考え無しに寄ってきたのはペット3号(エアグルーヴ)

いや、コイツの事だ。何か思惑でもあんのか?まさか負けた身で煽りに来ただけとも思えねェし。

 

『そうか?傷の舐め合いをするなら、今この場ではお前が最善だと思ったんだがな』

『はァ?気持ち悪ィ事言うな』

 

何だ何だ、慰め合いを肯定するだなんて女帝らしくもねぇ。皮肉だよな?

仮に皮肉だとして……俺が最善?はァ?

それ以上何も言うな。

 

『無自覚か?それこそ“らしくない”ぞ』

『何を──』

 

言うな。

 

『我々に人間のような“手”は無い。故に頬に掌を当てて確かめる事は出来ないが……お前ほどの者ならば、落ち着けば分かる筈だろう』

 

言うんじゃねェ。

 

『自分が今、』

 

言うな……

 

『どんなに悔しそうな顔をしているか』

『言うなァ!!!』

 

気付けば、エアグルーヴを跳ね除けて走り出していた。方向は、4号(クロスクロウ)の真逆。もうそちらを向く訳にはいかなかった。

 

『……そうだろう、ステイゴールド。私もまた同じ気持ちだ』

 

ああ、そうだよ。ああそうだよ。クソが。

俺は後ろから見ていたんじゃない。見ている事しか出来なかったんだ。

走らされる事を下らないと思っていたし、今も思っている。それは人間が心底嫌いだったからだし、でもそれだけじゃなくて、この持論は“本気で走れば負けはしない”という余裕があって初めて成り立っていた。

 

それが今日、初めて打ち崩された。

本気で走っていたとしても、その想像上の俺をアイツ(クロス)は悠々と抜かしていきやがった!

 

『チクショウ!』

 

後ろから見てた、ただ見送るだけだった。躍動する芦毛の馬体を、陽を浴びて輝く銀の背を眺めるしか無かった。

 

眩いそれが。

忌々しい人間共の喝采を浴びて、それを祝福として満たされるアイツの笑顔が。

 

 

()()()()……!』

 

 

俺の馬生は不満の連続だ。どこにいようと何をしようと、人間の用意した“フタ”に頭打ちする日々。それは柵だったり、手綱だったり、乗っかってくる人間そのものだったり。

いつだって、満たされなかった。満たされた事が無かった。

 

なのに、何だ?

何故アイツは。俺と同じく人間に縛られている筈のアイツは、あんなに満足を得ているんだ?

何でそんな幸せそうな顔が出来るんだよ。オイ。

なんで俺は、お前と違って幸せになれないんだよ。

オイ。

 

『ふざけんな!!』

 

何が『見てて下さい』だ。こんな物見せつけやがって。当てつけか?

チクショウ。人間さえいなけりゃ俺だって。俺だって!

 

 

『何を以て“充足”とするかなんだよ、ステイゴールド先輩』

 

 

アイツの言ってた事が嫌に響いていた。知ったようなクチを聞きやがって、あの青二才が。

冗談じゃない。あんな満たされ方、許容なんて出来るか。結局人間も得してんじゃねぇか。

 

 

『………見つけ出してやる』

 

 

探して、探して、掘り起こす。俺が俺にとって、俺を満たせる生き方を。

人間に一泡吹かせて、クロスクロウに『参った』と言わせる満足を。

 

 

『それまで、折れてくれんじゃねェぞ……!!』

 

 

 

 


 

 

 

 

見守っていました。

 

 

『こじ開けろォッッ!!!!』

 

見届けました。

芦毛の馬体が、どこまでも己の生き方を貫いて得た栄光を。

 

《クロスクロウ止まらない、誰にも止められない!もう誰もあなたを止められない!!》

 

聞き届けました。

黒い(たてがみ)が、歓声の風の中で靡く勇姿を。

 

「『よっッしゃあああぁァアアアアッッッ!!』」

 

感じ取りました。

朝日のように輝いた瞳が、魂が、激闘の果てに掴み獲った勝利を。

 

 

エルと()()()()のは、奇跡的な賭けだった。マドバさんを通じて夢で会っていたボク達、でもエルに乗る人が変わってから薄れつつあった感覚。

それでも、クロとエルのぶつかり合いに少しでも近く在りたくて。わざと夢に落ちて、エルと繋がろうとした。

 

 

 

流れ込んできた。

エルの意気が。

彼を取り巻くレースの空気が。

 

そして。

 

 

『俺は信じる。諦めない先輩を、先輩を支え続ける人間達を。だから俺も、俺の道を信じて曲げない!』

 

クロの、心が。

 

 

『皆を喜ばせたらさ、俺さ……すっげー幸せになれるんだ』

 

祈りが。

 

そして。

 

 

『俺の中にグラス(アイツ)がいるの、当たり前なんだよ』

 

 

ボクへの。

 

 

『ずっと、グラスが俺の中を満たしてくれてんだ』

 

 

想いが。

 

 

『……アハッ』

 

何だ。

こんな、簡単な事だったんじゃないですか。

 

『何を悩んでたんでしょう、ボクは』

 

無様を晒した。それが何だ?

クロに醜態を見せた。それが何だ?

 

ボクは、クロを舐めていたんだ。

 

『クロは……クロはボクを絶対に見捨てない…!』

 

あんなにボクを想ってくれる彼が、ボクを捨てるなんて有り得ないじゃないか。

待たずに、でも追い付いてくるって。信じてくれてるに決まってるじゃないか。

 

嬉しい、嬉しい。うれしいうれしいうれしい!

 

『ああ、クロ───!!!』

 

応えたい。

貴方の無償の優しさに報いたい。

皆を喜ばせる貴方を、喜ばせたい。

皆に全てを捧げる貴方にこそ、ボクの全てを捧げて満たしたい!

 

そうと決まれば、やる事は一つだ。難しい事なんて何一つ無い、最初から決まり切ってた。

 

『彼を満たすのは、ボクだ』

 

エルにも。

スカイ君にも。

キングヘイローさんにも。

スペさんにも、その座を渡すものか。

もう二度と、渡して堪るか!

 

 

覚悟は決まった。後はぶつけるのみ。

クロが言っていた、冬の大レース“有馬記念”。夏の別れ際、そこでまた会えると伝えてくれた大一番。

今年かは分からない。来年かも知れない。でもまた会える、戦える可能性があるのなら、そこに全力を注ぐまで。

逃げ道は無い、要らない。不退転の覚悟を決めろ。

 

 

『絶対に、勝つ……!!』

 

 

そうして、いつか。

貴方の(もと)へ。

*1
現代で言えば3歳

1週間以上空いちゃった訳ですが

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