【Ep.45】再青!
勝ったどー。万歳万歳。
『いぇーい。見たかスペェ』
『…』
何だ何だだんまりかぁ?古馬G1を制した俺に恐れを為したかぁ。
『今のところ俺が頂点だぞぉ』
多分な!暫定でな!有馬記念でも連勝予定だしな!
待ってろグラウンス、二頭ともブチ抜いてやっかんな~?
『……』
って、おーい。あの、ジト目だけでなく言葉で反応くれると嬉しいんだが。そろそろ寂しい。死ぬ。嫌いになったのならいっそそう言ってくれよぉ…。
『…あのさぁ、クロ』
と思ってたら返答来た!何!?なになに何でも言って!!
『そんな寝藁の上で融けてる状態で調子に乗られても…反応に困るよ』
『言うなァ!!』
ぐぅおおおおお!!くそっそれだけはダメェ!目をそらしてたのにぃ…!
なんかジャパンカップ後に戻って気が抜けた瞬間、体に思うように力入らなくなっちまってさぁ。いや故障とかでも燃え尽きたとかでもないし最初よか回復してる実感もあるんだが、兎にも角にも最低限の運動だけしたら馬房で即ゴロンしないとやってられん。小物ムーヴ演じて現実逃避しないと暇潰しすら不可能。とてもじゃないが調教どころじゃねぇんだわ。
……調教どころじゃないという事はつまり、レースどころじゃないという訳で。
『アリマ、ダメそうですね』
『出れらぁ!!』
『いや無理ですよねその有様で!?』
『ぐぬぬぬぬぬ……!』
そう。今のところ、年末最後のグランプリへの出走への見通しが立たな『見通し云々以前にウスイさんに「この調子じゃ有馬は無理やな、諦めるか」って言われてたじゃないですか。それも面と向かって』言わないでスぺぇぇぇぇ!!
『グ、グラスにもっと嫌われる…スカイには今度こそ殺される……!』
『いや殺されるとかは流石に……まぁ、僕も出られないらしいので
そんなスぺもまた、言葉の切れ端に悔しさを滲ませている。お前もなんだか調子悪そうだもんなぁ。まぁ菊花から連戦なんだ、当然っちゃ当然だわな。
でもグラスとの再戦から遠ざかっちまってる事実は変わらんし…ううむ。
…む?
『アーッ。キタゾー』
『あっ、マンボ!こんにちは!』
『おっすおっす、お久』
良いところに来てくれたなぁ、元気にしてたか?見たところは羽根艶は良さそうじゃが。
『マンボ、ゲンキ!クロスモスペシャルモ、ゲンキデナニヨr…ゲンキジャナイ!?ダイジョブカ?!』
『大丈夫だ、問題ない』
『いや全然やばいでしょう…僕たち二頭ともアリマは無理そうです』
『ソッカー。オキノドクニ』
ホいつの間にそんな言葉を…マンボも成長してんなぁと、こういう時にしみじみとする。
で、本題は何ゾ?誰かから伝言あった感じ?
『エルト、キングカラ1
『…グラスとスカイ関係の話ですかね?』
『ダナ。マズ、エルカラ。《グラス、
お?グラス復調したのか、安心したぁ!
理由が分からないのが引っかかるけど、ひとまず安堵の一言に尽きる。まぁ俺が何やらかしたのか不明な以上、復縁の見通しが立ってないけど……追加で有馬出走辞退の件もあるし。
辛いなぁ。また話してぇなぁ。
『ツギ、キングカラ。《スカイガフッキレタ。ケド
ってオイ!?へこんでる場合じゃねぇ、スカイが燃え尽き症候群だと!!?
こうしちゃおれん、さっそく支援しに出かける。後に続け、スぺ!
『っ、はい!』
『マテマテマテマテ!!ドコ
そりゃお前、美浦トレセンに決まってんダルルォ!グラスの件はともかくスカイの不調の原因は明らかに俺なんだ、なんとかするのが“責任”ってヤツだろが!
『ナラナンデ、スペシャルヲツレテク!?』
『へ?』
『…あっ』
言われてみりゃそらそうだ。俺一頭で行けば良い話なのに、いつも一緒にいる所為でナチュラルに連れて行きそうになったわ。スマンなスぺ、巻き込んで。
『いえ行く気満々だったんですけど僕』
『トユーカ、
『関東と関西だろ?覚悟は出来てるぜ』
『
『案内して♡』
『スグバレル。ムリ』
『グボァハアッ』
う~んだめかぁ!*1流石に無謀が過ぎたかなぁ。でもなぁ、こうなったら直接目を合わせんと収集付かんと思うのよ?菊花に出る出る言っといてすっぽかしちゃったの俺なんだしさぁ。
はぁ、どーするか。いっそ今度こそ臼井さんに筆談で美浦行き希望を伝えちまうか。解剖の危険性出るけど飲み込むしかないとして、他に策と言えるものも…
『マンボノ
…ほえ?
どういうこったバンバ君。
『アーッ、ヨウムノマンボー!…キングガ
『マ?』
『マジ、マジ!』
なら希望が見えてくるぞオイ!じゃあさマンボ、アイツら二頭にこう頼むわ!!
『オーケー!ドントコイ!!』
『サンキュー!!じゃあまずは……次にグラスにも……』
あーあ。空からフラワー姉が降ってきたりしないかなぁ。なんて突拍子もない事を考えていた。
走りに身が入らないんだからしょうがない。緩やかな絶望の中で、足掻く事も出来ずに揺蕩ってる気分だ。
…あーあ。
『いよいよオレも救いようが無くなってきたなぁ』
人間たちも不思議がってる。オレが急にやる気なくなって、迷惑掛けてるんだろうなってのも困惑から伝わってくる。
でも、ダメなんだ。体に力が入らないんだ。
『クロスさんはさぁ』
ほうら。気を抜けばすぐ
よくこんなザマで皆に勝とうと思ったよな、ホント。同じ舞台に立つ事すら烏滸がましいのに。
『…はぁあ……』
『キブンワルイノカ』
…マンボ君かぁ。誰かから伝言?やっぱりキングかな。ずっとオレを気にかけてくれてたもんなぁ。無駄な事させちゃったなぁ……
『クロスカラ、デンゴン』
…
え?
『クロスさんから?』
ビックリした。だって、あまりにも久しぶりだったから。
『イヤ、ダッテスカイ、
『ぐっ…で、でも。途中からパッタリと音沙汰無くなったじゃん』
『マンボトキングガ、ヤメトケッテ
うう、そっかぁ。クロスさんはずっとオレと……
…何だよ。やっぱり意地張ってるオレがバカみたいじゃん。
『こんなとこでも格の差を見せてきますねぇ』
『…キクカ?デンゴン』
『ぜひ~』
今となっては、もう拒絶する理由すらない。というか最初から無い。俺が無意味な自尊心を無意味に守ろうとしてた、ただそれだけのことだし。
でも、なんでマンボはわざわざ止めてたことを今になって伝えに来たのかな。もしかしてクロスさん、俺にとうとう愛想を尽かして絶縁宣言?正直そっちの方がありがたいや。
もう、こんなオレに構ってないでさ。先に行ってくれよクロスさん。頼むよ。
『ジャ、イクゾー』
トドメの一言がマンボの口から出てくるのを望んだ。待った。
そして、出てきたのは。
よう、スカイ。俺だ。クロスクロウだ。
こっちとしては初手土下座したいところだが、直接会えない以上は意味ないし、される側のお前だって迷惑だろう。つー事でこの際、謝罪はもう無しにしておく。今更どうこうしたところで、菊花賞は戻って来ないし。
…けど。
お前とはまだ決着がついてない。皐月はグリーンベルトっていう外的要因が大き過ぎたし、ダービーはスぺが持って行った。まだ本当の意味で白黒ついちゃいねぇんだよ、俺達は。
だからさ、スカイ
エルの真似事みたいだけどさ。
賭けようぜ。
次に出会った時、勝つのがどっちか。
俺はお前との勝負を蔑ろに思ってるつもりなんて無い。この提案はその言質と思ってくれ。
俺が負けたら、お前の言う事を何でも聞いてやる。本当に何でも。
一生ニンジン食うな、と言われたら絶対食わない。死ぬまで瞼を開くなと言われたらその通りにする。次のお前とのレースで、俺はそれだけの物を賭ける。
これで、俺は全力を出さざるを得なくなるって訳だ。お前にとっても良い話、だと思うが?
なんたって、勝てば憎いアンチクショウを好き勝手にできるんだぜ。俺なら乗る、誰だってそーする。お前はどうする?
…無理に乗れ、だなんて言わない。そもそも既読無視でも構わないし、縁切りでも文句言わん。俺はそういう事をした。
……けど。けど、そうでないのなら。もしチャンスをくれるのなら。
頼む。セイウンスカイ。
は?
何だよ、コレ。
『マンボ、これ何?』
『クロスナリノ、
…はぁああ?
『ふざけてる』
本当に、ふざけてる。
侮られてる。
『アイツ、オレを何だと思ってるんだ』
癇癪を起こした仔馬か?
機嫌を損ねた
群れで怯える配下か?
『舐めてる…ッ』
ああ、分かってるさ。
今の今までオレは、そういう庇護対象にされてもおかしくない幼稚さだった。その通りだった。
でも。
だからって。
『アンタには対等に見て欲しかったなぁ…!』
…そうだ。
そうだよ。これだよ。
これがオレの本音なんだ……!!
『オレは格下なんかじゃない…!!』
守られる相手じゃない。気遣われる相手でもない!!
オレはオレだ!クロスクロウと同じレースで競い合った同格の同世代、セイウンスカイなんだ!!
『乗ってやるさ!!圧勝して、尊厳もプライドもグチャグチャに磨り潰すような命令してやる!!忘れるなよ!?』
『…エート。イマノ、ドレクライ、オブラートニツツム?』
『包み隠さず!!』
『エェ……?』
にゃはは、乗せられちゃった。きっとこうやって奮起する事こそが、クロスさんの狙い。だって優しいもんねクロスさん。皐月賞の時だって、オレの演技を見透かして気遣ってくる程度にはさ。
だから今回も、凹んでるオレの尻を叩いたつもりなんでしょ。
『そういうところが!本当に腹立つ!!』
ホント、ものの見事に見透かしてきちゃってさぁ!?お陰で釣り上げる側の俺が逆にこの有様だよ、見事に釣られたよ!どんだけ屈辱与えてくれば気が済むのさ?!
ああそうだ、これを
オレが負けたら?良いよ、部下にでもなんでもなってやるよ。オレの全部をアンタにやっても構わないさ、じゃないと公平じゃないもんね!
『どれほど覚悟しても足りないぐらい辱めてやるからなぁぁぁ!!』
『ヒエッ……』
『ッテ、ナッタ』
『……元気が出たならヨシ!』
『何一つよくありませんっ!?』
『トリアエズ、グラスニハ、コノ
『それが良いと思います』
『ダナ』
『なぁ、なんでそこでグラスが出てくるの?後なんで当事者である俺を差し置いてお前ら
『『こういう時のクロの判断はバグりまくるし』』
『ひっでぇ!』
『ところでですけど、クロが勝ったらどうするつもりなんです?命令とか考えてるんですか』
『いや全然』
『えっ』
『だってそもそもオレが不義理したのが発端の賭けだし…実際俺は《スカイが勝ったらどうするか》は言ったけど《俺が勝ったらどうするか》に関しちゃ一言も言及して無いだろ?』
『
『うわぁ…スカイもっと怒りそう』
『そうかぁ?命令されたらちゃんと従うつもりだぞ……まぁ実は負ける気なんてさらさら無ぇんだ、“勝利への全力”を確約するための賭けだしな。スカイと本気でぶつかり合って、そして勝って。その後はその時に決めるよ』
『ホントそういうとこですよ?……
……でも、凄いなぁ…なのに僕は……』
『何だ?』
『何でもないよ』
今話のクロを見て「お前さぁ……」と思った人
作者もそう思ってるのでご安心下さい(何も安心出来ない)