こっちを先に書き終えて投稿するべきだったかな……?
血統表は某サイトに準えて「右に行くほど遡る」って形にしたかったけど、ハーメルンの仕様的に無理っぽいので逆方向でいきます。読みにくいかもですが、どうかお許しください。
-追記 2022/7/7-
伯琳さんの技術提供により、元ネタサイト通りの並べ方に出来ました!ご協力ありがとうございました!!
信じられない事にその瞬間、私は父に抱き着いていた。
「勝った!勝ったよお父さん!!」
幼稚園児の頃以来、力一杯抱き締めて。飛び跳ねて。
「クロスクロウが、勝ったよ──!!」
「ああ、そうだ。クロスが……!」
そしてあの頃みたいに、お父さんは私を抱き上げて。手摺より高いところから、青いターフを見下ろさせてくれた。
白い輝き。赤い日の丸を瞳に輝かせた光の風が眼下にあった。夢だ。私達の夢があそこで、あんなにも熱く輝いてる!
「クロスクロー!!」
思わず叫んだ。すると彼はなんと、こちらに顔を向けてくれた。
気の所為?ううん違う、間違いなく聞こえてる!!
「ありがとー!!!」
思いの丈を叫んだ。伝わってるかな?きっと伝わってる。ほら、お辞儀し返してくれたし。最高……!
「よくやったぞ、生沿君…!!」
ああ、そうだねお父さん。彼への感謝も忘れちゃいけない。彼がいたから、クロスはここまで来れたんだから。
実況が叫んでる。ワールドレコード。今この瞬間、彼らが世界の誰よりも燃え滾っていた証。
「父さん、やったよ俺……」
「え?」
「なんでもないさ」
お父さんの父さん?お爺ちゃんの事?分かんない、私何も知らない。
でもそうだなぁ。私的に思うとするなら。
「お母さんも……」
一緒に、と。
そう言おうとして、心に急ブレーキが掛かった。
(あれ?)
何で止まったんだろ、私。
そう考えた次の瞬間。
「カチコミやオルァ!!」
「「あっ、臼井(さん)。どうも」」
「……もうちょっとこう、驚いて欲しかったかなぁ」
「ドアは乱暴に開ける物じゃないぞ」
「嬢ちゃんはともかくお前に真っ当に突っ込まれると腹立つ……って、そう言う話をしに来たんやなくて」
コホン、とひとつ咳払い。それを皮切りに、再び臼井さんは剣呑気味な空気を纏った。何?えっ、何?
「やってくれたのう宮崎ぃ……!」
「…流石に身に覚えが無い」
「今目の前で見たやろがい!!」
臼井さんが指差したのは、何やら顔を近づけ合っているクロスとスペシャルちゃんの方向。ああそっか、臼井さんは確か……
「よくもウチのスペシャルを破ってくれたなぁ」
「……クロスクロウも管理馬だろう?」
「そやけど!そやけどもな!!」
どうにも悔しさが収まらないらしく、その場で地団駄を踏む彼はどこか愛らしかった。これが…おっさん萌え……!*1
「クロスクロウは俺の馬というよりお前の馬やろが!?いや馬主やから当たり前ではあるんやけど、それでもこう……俺の功績やない感が半端ないねん!ええいチクショウ!ジャパンC優勝おめでとう!!(?)」
「あっ、祝いに来てくれたんですね。ありがとうございます」
「そらあんな素晴らしいモンを見せられてもうたらなぁ!あの時引き受けて良かったとか、でも宮崎の掌の上で踊らされてるのが嫌やとかそんなんが溢れ出してな!クソがぁ!!」
あー!と頭を掻きむしる臼井さん。そんな彼にかける言葉を迷う私。
すると。
「いや、これは貴方の功績だろう」
お父さんが。
「貴方が受け入れ、貴方が育てた。俺はただ見つけただけだ」
「ふぁ」
「臼井がいなければ、クロスはここまで来れなかった」
あの見るからに犬猿の仲だった、臼井さんを。
「クロスクロウは立派な臼井厩舎の馬だ。そしてそのジャパンCの栄達もまた、貴方の物だ」
褒め称えた。
場がフリーズする。理解し切れない状況に、お父さん以外の誰もが動けない……とは言っても、私と臼井さんだけだけど。
そしてやがて、臼井さんが無言で壁に頭突きし始めた。
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っっっ!!」
「って臼井さんンンン!?」
「大丈夫か臼井!気でも狂ったのか!!!」
「やかましゃあ!ええい、そんなとこだけ
お前にだけは絆される訳にゃイカンのじゃあああ!と叫ぶ臼井さんの頭突きは更に加速。なんて高速ヘドバン、私じゃなきゃ見逃しちゃうね。……じゃなくて、止めなきゃ!
と思った、その時の事だった。
「
「うっさい!」
「あみばッ」
入ってきた助手さん、臼井さんの流れるような頭突きを受けて即KO。見かねた私は急いで抱き起こす。
「無事ですか!?意識ありますか!」
「うぅーん……あっ、天使がいるって事は自分は死んだみたいですね」
「なかなか見る目があるじゃないか」
「またクソ親父って呼ばれたくなかったら黙ってて!」
「_:(´ཀ`」 ∠):」
ウザい所が出てきたお父さんの口を塞いてから、調教助手さんを介抱。暫く対処していると無事正気を取り戻したようで、パッチリ見開いた目で彼は飛び起き、叫んだ。
「申し上げますテキ!速報が入りました!」*2
「何やねんウィナーズサークルに呼ばれる前に早よ落ち着かなアカンのに」
「エクスプログラーの血統についてです!」
臼井さんの動きが止まる。お父さんも。
かくいう私だって、その重大さに体をこわばらせた。それは、クロスクロウの今後に関わる大事な話だったから。
サラブレッドの仕事は走ることだけじゃない。寧ろ引退してからこそが本番。
血を繋ぐ、それこそが畜産動物である彼らの宿命だから。
特に普通の家畜と違い、競走馬は個体の血が非常に重く見られる傾向にある強い馬から強い馬が生まれやすい以上は仕方が無いし、それが競馬が「ブラッドスポーツ」と呼ばれる所以でもある。
だがクロスクロウは……母親が、エクスプログラーがどうやって生まれたのか、これまで誰にも分からなかった。誰が父親なのか、母親なのか、祖父が祖母が誰なのか。その情報が、牧場の不備と過去の所有者の失踪などで、完全に途絶えてしまっていたのである。
それはサラブレッドにとって、本来致命的な欠落である筈だった。なんせ、そもそもサラブレッドなのかが分からない。仮にサラブレッドだったとして、牝馬とセッ……交配する時、どうする?
サラブレッドの交配においては色々な要素が複雑に絡み合うと聞いた。父方の血筋のスピードとか、母方のスタミナとか、そういうのを全部計算して希望に沿うような馬を生み出す。だが、もしクロスに当てがわれた牝馬がクロスの親族だったら?
人間で言えば近親相姦だ。馬だと「インブリード」と呼ぶらしいけど。ある程度の近さなら許容されるらしいけれど、それでも厭われる。
クロスの母親の血統が分からないと、それがいつ起こるか分からない……っ。
でも。
「解決するの!?」
その問題が!
期待を込めた私の問い掛けに、助手さんは首を振った。方向は、縦!
お父さんと一緒に、思わず両手を振り上げて万歳ポーズ。やったぁ、
「ひぇえ〜〜っ……安心したわぁ」
「JRAの方からめちゃくちゃ突き上げ食らってましたからね。一刻も早く突き止めろって」
「全くや。あのクソ牧場が隠蔽体質なばかりに刑事事件とかまでいって大変やったんやから……で」
先程までの発狂ぶりはどこへやら、今ではしっかり立派な大人に戻った臼井さん。彼は表情に険しさを戻して、助手さんに何かを催促した。
いや。何をと求めたかなんて隠すまでもない。私もお父さんも、他ならない助手さんも分かっている。
差し出されたのは、一枚の紙だった。
「血統表か」
お父さんの言葉。
そう。ここに全てがある。クロスの母馬、エクスプログラーの血の、辿ってきた歴史が。
全員で顔を見合わせ───そして、それは開かれた。
・
・
・
「……ここにおる奴らに提案なんやけど」
「何です?」
「奥分には内緒でいかへん?」
「「ダメです」」
「というか無理です」
「そうよなぁ……」
なんだかんだで30年弱、ここまで騎手としてやってきた。
どれ程持て囃されようと、伝説と崇められようと、所詮はただの人。馬に乗って、乗られて、ここまで連れて来て貰ったに過ぎない。
本当に、色んな馬に世話になった。
『ルドルフ……』
彼はその筆頭で。
しかしどれだけ特別でも、その内の一頭でしかなくて。
それだけ、僕は助けられてここまで来た。
『ああ』
秘蔵の酒を飲む。きっと死ぬまで開ける事は無いだろうと思っていた一本、でも今この時だけは。
彼らが、伝説を築き上げた今日この日だけは。
そうだ。本当にいろんな馬と会った。
さまざまな人と会った。
別れてきた。
その中でも、鮮烈に焼き付いた記憶があった。
「初の重賞……っ」
嬉しかったなぁ。
そんな君は、老雄すら惑わせてみせていたね。
……ああ、そうだ。
ルドルフも、彼に連なっていたっけ。
「世界は広いのか、狭いのか」
クックッ、と思わず笑いながら酒を一杯。二杯。ダメだな、止まりそうも無い。
縁が繋がる。繋がり過ぎてる、出来過ぎている。
あの三冠競走は思い出深いんだよ。なんでだろうか。
「皐月もダービーも、菊花も……あっ」
ああ、そうか。そうだった。
皆がいた。
皆と見に行ったんだ。
福延。
柴畑。
伊東。
策多。
拓。
行ける皆で。
だから覚えてるんだ。
「楽しかったなぁ」
本当に。本当に、楽しかった。
彼に惹かれたのは、あの頃を思い出したからだったのだろうか?
……それにしても、だ。
「意地悪が過ぎないかい?」
運命ってヤツは。
「こうなるって知ってたら、手放さなかったよ」
いや。
「……逆か」
これで寧ろ良かったのか。
「未練が積もる前に離れられたから」
だから、彼は生沿君と出逢えた。
これで───
「──良い訳あるかッ!!」
投げた盃が、透き通るような音を立てて砕け散る。と同時に、僕の喉からは引き攣るような笑いが迸った。
「ははっ、はっ、ハハハハハァッ……!!!」
愉快と憤怒が止まらない。
なんだかんだで30年弱、ここまで騎手としてやってきた。でもこんなの初めてだ。
「トウさん、君ってば……!」
君はかつて、ルドルフの存在を予言してみせたね。パーソロンという嵐の雨粒が、比良野調教師に降り掛かると。
そんな君の事だ。クロスクロウの事も予知してたんじゃないか?
教えてくれたって、良かったじゃあないか。
「嗚呼、ままならないなぁ…!!」
こんな事を言っちゃいけないけれど。
クロスクロウ。
彼が、雄馬君ではなく。
君の所有馬だったら。
『命を懸けてしがみついたのになぁ……!』
もっと必死になれたのに。
命を削ってでも、彼に合わせに行けたのに。
君との約束を、果たせたのに。
「くそっ、くそぉ………!!」
だが、もう何も叶わない。
老兵の願いを、時代は置いて行った。
今は、若い力が輝く時だ。
「クロスクロウ……!」
君は、どこまで僕を惑わせれば気が済むんだ。
なぁ、白雪色の恋人よ。
僕を初めて高みに連れて行った君の血は、とうとう僕を置いて行ってしまったよ。
敬愛する皇帝陛下。
この国に、もう彼に敵う者はいない。
……そうだ、ルドルフ。
「彼らは、世界に飛び出すぞ」
その先に待つのは、きっと門。
君は辿り着けず、シリウスも跳ね返された門。
そして。
「老雄の系譜と共に、行くぞ」
恋を叶えた魂を乗せて、行ってしまうぞ。
「折れるなよ、生沿君……!」
2年目の新人が海外遠征など聞いた事が無い。だが雄馬君は躊躇無くやるだろう。
そして君に拒否権は無い。クロスクロウがいる以上、必ず自分から投げ捨てる。
ならば、僕から送るべきは祝福だけ。
「存分に輝いて来い……青二才!!」
若き魂よ。
僕達の──俺達の無念を乗せて。
どこまでも。
| アザミストラトス (1988) | アーチペラーゴ (1981) | ホライゾンシンボリ (1973) | スピードシンボリ |
| スイートフラッグ | |||
| ヒロジョーカー (1970) | ニホンピローエース | ||
| ヒロヨシ | |||
| アザミ (1978) | ドラグーンクリス (1971) | リュウファーロス | |
| オトシゴタロー | |||
| イバラ (1973) | イントロ | ||
| バラ | |||
| エクスブラウザー (1990) | ファイアウインドウ (1984) | アップルジョブ (1980) | ステイブ |
| パヰン | |||
| ファイアヴィクセン (1980) | キュウビオー | ||
| フレアリング | |||
| エクススノー (1982) | イクシード (1973) | テイトオー | |
| カグヤノタカラブネ | |||
| レッドアイスノー (1978) | アカネテンリュウ | ||
| ハクセツ |
「乾杯っ!!!」
雄馬君から送られて来た、エクスプログラーの血統書。それを天に掲げ、僕は力一杯の快哉を叫んだのだった。
まぁ色々ツッコミどころはあるでしょうが、一先ずはこれで
スタークの体力はともかくとして、本作の毎日投稿は
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ペース早すぎ、追いつけない
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早くて読者側に損は無い